早瀬ユウカとの通話を終えると、ここにいる全員の視線が私に集まっていた。早瀬ユウカと通話をしていることを知られていたらしい。
「どうにかクルミさんとユウカさんの協力を取り付けることは出来ました」
「おお! あの会計も説得できたのか!? やるじゃねえか、先生!」
快哉が上がる。喜ぶのも良いだろうが、これだけは付け加えさせてもらうべきだろう。
「ただし、ここにいる全員後からお説教、とのことです。いえ、『
3年生達の動きが止まり、それぞれが顔を見合わせる。
「やっぱり解散するべきよ、いますぐ」
「いや、あたしとリオはどちらにせよ逃れられねえだろ、もう」
調月リオが青ざめて作戦の中止を提言し、美甘ネルは彼女に首を振った。
「私たち全員に言えることだろうね。何せもう、言ってしまった後なんだし」
白石ウタハはそう言って苦笑いを浮かべている。
「ともかく、
そして明星ヒマリは半ばやけになったような発言をした。彼女たちのスタンスはそれでいいのだろうか。
「……ユウカのお説教ってそんなに怖いんですか?」
そして、どこか妙な様子になってしまった3年生達に、ケイが尋ねる。ネルがリオを嗾けるように肘で突いたが、彼女は答えない。
「まあ、一番怒られていそうな私が答えようか。怖いというよりは、申し訳なくなってくるんだよ。ユウカは、いつも一生懸命で、それからいつも正しいことを話すからね」
結局、代表して白石ウタハが答えた。
「それなのに一番怒られているんですね……」
そしてケイは、何とも言えない表情でそうコメントを残した。
――
「さて、あまり時間もないでしょうから、計画を立てましょうか、まずは……言い出しっぺのケイから、挨拶をお願いしましょうか♪」
「どうして私なんですか!? えーっとえー……で、では、『魔王軍 作戦会議』を始めます!? こ、これで良いんですか?」
脳内の天童アリスと相談しながら発言したのか、やや混乱しながら開始の挨拶をしたケイに、まばらな拍手が送られた。
「うふふ、ありがとうございます。さて、何はまずはともあれ、あの子達にこの場所に来てもらわなければなりませんね。」
それを見て嬉しそうに頷いた明星ヒマリが、議論を進め始め本格的に会議が始まった。
「そうだね。とはいえ、ミレニアム校舎に対して何か仕掛けられるわけでも無いから、この場所を直接教えるしかないんじゃないのかな?」
まずは、どのようにして、ゲーム開発部の生徒たちにエリドゥへと来てもらうか、という問題だった。素直に場所を教えるとすれば解決ではあるが、これをゲームとしたい場合には、ある問題があった。
「それだと、すぐにここに到着してしまいますから、こちらで何かを準備する時間が無くなってしまいますね。」
「前回のゲームを参考にするとすれば……暗号を送る、というのはどうかしら。」
「誰から?」
調月リオと、美甘ネルの発言。無難な内容である。それに、これがゲームであると、ゲーム開発部の生徒たちに気付かせるきっかけにもなるかもしれない。
「暗号を送るとすれば、この、アリスの端末からが良いでしょうね。問題はどんな暗号にするか、ですが」
ケイが、天童アリスの持つスマートフォンを取り出してモモトークの画面を開いた。
「コユキがいることを考えると
「それ、あいつらに気付けるのか?」
「そうですね……、気づけなかったら、ユウカやエイミ、それからトキに誘導してもらいましょうか」
即興で協力を依頼した相手に求めすぎである可能性もあるが、次善策としては妥当な所だろう。
「対案が無さそうであれば、早速文章を考えましょう。とりあえず、アリスが書きそうな文章の方が良いでしょうか」
「それなら、アリスと直接お話をしてもらった方が良いですよね。……はい! アリスの出番ですね!」
ケイが天童アリスと入れ替わる。2人は、すっかり慣れてしまっているようだ。
「普通過ぎる文章では気付かれない可能性もあります。少し違和感があった方が良いのではないですか?」
「はい、違和感ですね! ……?? ちょっと難しいです……」
「たとえば、季節外れの文章を入れるとか、ってことか?」
「そうですね、それも良いでしょう。ただ変な文章になってしまう、というのでは悪戯と思われるかもしれませんが」
「その時はその時、ですね。」
会議は和気藹々としたものになっていった。あまりこういう会議に役に立てないから、と謙遜しながら茶を淹れなおしていた美甘ネルのお陰でもあったかもしれない。
「一つ、思いついたよ。行を単語数毎で区切っていくのはどうだろう。それを並べていくと、この場所の座標になるような形で」
そして、白石ウタハのこの案が決め手となり、単語数だけが決められた天童アリスの言葉で、
「できました!」
「うん、良い感じに可愛らしい文章になったね。アリスは詩や短編小説を書く才能もあるかもしれない」
白石ウタハの言った通り、少女の考えた詩である、という感想がしっくりくる文章が作られており、このタイミングでなければ普通の作品であるかのようにも思えるものだった。。
「本当ですか! モモイのお話をいつも聞いていたおかげです!」
天童アリスが喜び、才羽モモイの功績であると讃えた。
「確認したけれど、単語数も問題ないわ。気付きさえすれば、間違いなくこの場所にたどり着けるでしょう」
そして文章をチェックしていた調月リオから、問題に不備が無いことが確認された。天童アリスが丁寧に文章を打ち込んでいき、
「では、送信! です」
合図とともに、それは、ゲーム開発部のグループチャットへと送信された。
――
「さて、とりあえずあの子達の反応を見てみましょうか」
明星ヒマリが端末を操作し、カメラが、ミレニアムの広い校舎内を探していた才羽モモイを捉えた。
『わわっ!? あ、モモトークかな。……え!? アリスから!? ……ええ?』
スマートフォンを食い入るように見つめる才羽モモイだったが、暫くすると走り出した。恐らく急いで部室へと向かっていったのだろう。
他の部員たちの映像に切り替わったが、どの生徒も同じような行動を取っていた。
「というより、ヒマリは既に自動的にゲーム開発部をカメラで追いかけれるようにまで使いこなしているんだね、リオのシステムを」
「……まあ、昔からリオの制作したソフトはよく使っていましたからね」
「そうね、ヒマリであれば驚くべきことではないわ」
二人の返答は、息の合ったものだった。白石ウタハ、美甘ネル、そして天童アリスまでもが、彼女達に生暖かい視線を送る。
「……別に、ただ事実を言っただけで、他意はありません」
慌てて取り繕う明星ヒマリの姿は、いつもの余裕のある表情と異なり、年相応の者であるように感じられた。
――
『これ、どういうことかな? 突然メッセージで送ってくるなんて、絶対意味があると思うよ!』
ゲーム開発部の部室に集まった生徒たちが、天童アリスからのメッセージについて議論を始めた。
特にヒントを渡したわけでは無いがそこには早瀬ユウカもいるため、いつまでも解けない、ということは恐らくないだろう。
「じゃあ、こっちも準備を始めよう。エリドゥに到着したら、彼女達をもてなさなきゃならないだだろう?」
白石ウタハが立ち上がった。先程、調月リオから何かを聞いていた。思いついたことがあるのだろう。
「そうですね、では、会議を続けましょうか。
「おいおい、本当に惡の幹部みたいな台詞じゃねぇか?」
「あら、そうですか? でもあなたは普段通りでも問題なさそうですね」
「あん? そりゃどういう意味だ?」
どうも、この集団はいつでもどの組み合わせでも妙な言い合いが発生するらしい。それを見て、天童アリスは何故か嬉しそうに笑っていた。
ともあれ、ゲームの仕掛け人となった私たちは、急ピッチで準備を進めはじめるのだった。