ゲーム開発部に暗号文を送ってから、暫くの時間が経った。十分な準備を行う時間、という訳では無いが、ミレニアムでもトップクラスのエンジニアが複数揃っているだけあったこと、そしてこのエリドゥという施設が、調月リオによって作られた柔軟性の高い場所であることもあり、下層部の準備は出来つつあるようだった。
「そろそろ到着するようですよ。勇者御一行、いえ勇者の『
明星ヒマリがそう言って、エリドゥの入口付近に設置してあるカメラの映像を映す。
『うわー!? おっきな建物ですね? ミレニアムにこんなところがあるなんて、知りませんでした!』
『な、何なのこの建物。会長が一人でこれを……? ノアは知ってた?』
『いえ、私も……少なくともこの場所は民間企業が商用ビルを建築工事中、ということになっていたはずです』
最初に早瀬ユウカと生塩ノア、セミナーの幹部である二人の声をマイクが拾い上げた。生塩ノアがここにいるのは、セミナーを探しに行った黒崎コユキが彼女に見つかったからであり、そして、彼女のように、ゲーム開発部に協力するメンバーがいた。
『こんなものがあるのを知っていたのはウチの部長くらいじゃないのかな?』
『そのはずです。リオ様は、この件を極秘にされていたので』
特異現象捜査部の和泉元エイミと、調月リオの直属で行動していたC&Cの飛鳥馬トキ、彼女達二人は仕掛け人でもあるが、戦力として協力するようにそれぞれの先輩から指示を受けていた。そして、合流したタイミングは暗号が解き終わり、ミレニアムの校舎を出たところだ。
偶然を装った二人の演技は、特別流暢と言える物でも無かったが、少なくともゲーム開発部の生徒たちを誤魔化すには十分なようだった・
『凄いねー……でも、現代版魔王城って感じでちょっとワクワクしちゃうかも!』
『お姉ちゃん、今そんなこと言ってる状況?』
『で、でも……確かに、今後の作品の参考にはなるかも……って! えっと、ここにアリスちゃんたちがいるのかな?』
ゲーム開発部の残りの3人も姿を見せた。
『これ、ミレニアムの極秘施設だとしたら私が来ても本当に良かったの?』
『今更だと思いますけどねぇ……随分な学校見学になってしまいましたが』
嫌なものを見てしまった、と言いたげな、高倉クルミ、そして、テマ……本名は
総勢10名、随分な大所帯になっていた。
『わわっ!? な、何か来たよ!?』
調月リオが用意していた案内用のロボットが彼女たちを出迎え、驚いた才羽モモイが叫んだ。
『何だろう、これ……こっちに来い、って言ってるのかな』
『大丈夫ですか? 罠じゃないですよね!?』
突如現れた機械に、ゲーム開発部の生徒たちは警戒していた。保護者の三人、早瀬ユウカと高倉クルミ、そして生塩ノアの三人は彼女達の様子を見守っているようだった。
『……行ってみよう、皆。ここで立ち止まってても、アリスちゃんとは会えないよ』
そして、最初に足を踏み出したのは花岡ユズだった。
『さっすが、部長だねユズ! 行こう!』
『うん、アリスちゃんがどうしてあの暗号を考えたのかは分からないけど、このロボットがいたってことは、きっとこの先にいるんだよ、ね?』
『ほ、ほんとにいくんですかー!?』
才羽姉妹は、すぐに花岡ユズの後に続いた。ただ、黒崎コユキはまだその勇気が持てないようだった。
『テマはどうする? 行かないなら、私は一緒に残るんだけど?』
『え、行きますよぉ? 罠でもクルミちゃんが守ってくれるんでしょ?』
『……多少は自分の身を守る努力位しなさい』
『あたっ!? 何でチョップするんですかぁ!?』
締まらない様子で、ゲストの二人も入っていく。
『私は付いて行くけど……』
早瀬ユウカが、黒崎コユキの方を気にしながら、先を行く生徒へとついていくように先に進む。その際、彼女は同期の生塩ノアの方を見ていた。
『コユキちゃん、私と一緒に待っていますか?』
その意味を十分に理解した生塩ノアが、黒崎コユキに問いかけた。
『え!? い、行きます。行きますよ! ノア先輩と待ってるのもちょっとあの……』
『あら、どういう意味ですか?』
『いえ、何でもないです! 急いで追いかけますよ~! はっちゃー!』
『あ、いきなり走ったら危ないですよ!』
口を滑らせた黒崎コユキが誤魔化すように走り去っていき、それを追いかける生塩ノアが、一瞬、
『じゃ、私たちも行こっか、トキ』
『はい。追いかけましょう、エイミ』
最後に残った二人が歩み始める、かと思いきや、一歩で踏み出したところで、すぐに止まる。
『あ、でもその前に』
『ああ、そうですね、喧嘩を売っておきましょう』
2人はそういってから、和泉元エイミが舌を出すような仕草をし、飛鳥馬トキが銃を取り出して、一発、カメラに向かって弾を発射した。
「……とっても仲良しで、生意気な子達になってしまったみたいですね♪」
壊されたカメラからの映像が途切れたのを確認し、明星ヒマリが何故か嬉しそうに呟いた。
――
『魔王の迷宮……? 凄いね、なんか遊園地のアトラクションみたい!』
ロボットの案内に従って、ゲーム開発部の生徒たちは白石ウタハが短時間で作り上げた迷路型のステージに到着した。
総勢10名の集団だ。とりあえず天童アリスが無事である、という予測が立っていることもあり、緊迫した空気は少し薄れているように見えた。
『あれ、でもこの扉、どうやったら開くんだろう……』
花岡ユズのつぶやく。その呟きに答えるように、このフロアの仕掛け人である白石ウタハが答える。
『ようこそ、囚われの勇者の仲間たちよ。私は
白石ウタハは、全く聞いたことの無い設定を述べていく。とりあえず私たちは魔王軍、ということになったらしい。
『四天王!? そんなベタな!?』
『っていうか魔王って何なの? いつからそんな設定になったんだっけ』
『というか、何か聞いた事ある声ですね。う~ん』
緊迫感の無い驚きがゲーム開発部に広がる。口上を述べている方にあまり緊張感が無いのが原因だろう。
『そういえば、この辺りの設定は全部こっち側で考えたものだったね。とりあえず、アリスと会いたいなら、この迷宮を抜けなければいけないというのは本当だよ。』
そして、設定を維持することを早々に諦めたらしい白石ウタハは、いつもの口調に戻り、淡々と話し始めた。
『あ! 思い出した! この声、ウタハ先輩だよ!?』
『ええ!? なんでウタハ先輩が魔王軍なんてやってるの!?』
『そんなこと聞かれても知らないよ……どうしてなんですか?』
才羽ミドリが声の主に気付き、姉妹で騒ぎ始める。
『……さて、勇者のところにたどり着く方法だが、ここには3つの……』
白石ウタハはそれに答えることはせず、ルール説明を進めるようだ。
『無視された!? ウタハ先輩、無視したよ!? 酷い!?』
『いや、もういいからちゃんと聞きなさいよあなた達……』
なおも騒ぐ才羽モモイと、呆れた声の高倉クルミの声をマイクが拾う。
『……ともかく、3つの試練がある。そのうち一つがこの迷宮という訳さ。そして、この迷宮を抜けた先に二つの試練に繋がる扉がある。全て突破することで、君たちはアリスの元にたどり着くことが出来る、そういうことになっているのさ』
『何だか本格的にゲームみたいな話になってきましたねぇ……ミレニアムも思ったよりヘンテコな学校ではないですか?』
『テマちゃん。ミレニアムがいつもこんな感じという訳じゃないから、誤解しないでね?』
暢気に呟くテマに、早瀬ユウカが慌てている。
『さあ、それでは扉を開こう。諸君らの健闘を祈っているよ』
『仮にも魔王軍の幹部が
ともあれ、彼女達の脱力しそうな魔王城攻略が、本格的に始まった。