白石ウタハによるルール説明が行われる。文章に置き換えると、そのルールは下記のようなものだった。
ゲームの勝利条件 先に相手のアバンギャルド君を破壊すること
ルール
①各ターンにおいて、魔王軍チーム(白石ウタハ)と勇者の仲間チーム(ゲーム開発部)はターンプレイヤーを一人決め、ボタンの前に立つ。
②ボタンは赤色の攻撃ボタン、青色の防御ボタンの2種類があり、それぞれ1から10の数字が書かれているものが存在する。
③ターンプレイヤーはボタンの前に立ってから100秒以内に、攻撃ボタンを1つ、防御ボタンを2つ押す。その間、チームメイトと相談することはできない。
④押した攻撃ボタンが、相手の防御ボタンと違うボタンであれば、攻撃成立。書かれた秒数だけ、相手のアバンギャルド君に攻撃を行う。また、攻撃成立となったボタンは、それ以降使用できなくなる。
⑤攻撃の成立有無に関わらず、③~④の流れが終わった場合、ターンプレイヤーを入れ替えてこれを繰り返す。
⑥次のターンプレイヤーはチームで相談して決めて構わないが、1度ターンプレイヤーになった人物は、チーム全員が1回ずつターンプレイヤーを行うまでは、2回目のターンプレイヤーになることは出来ない。3回目、4回目の場合も同様に、全員が2回ずつ、3回ずつターンプレイヤーになる必要がある。
⑦攻撃を受けた時間1秒につき、アバンギャルド君は損傷率が4%増加する。損傷率が100%を超えた場合、アバンギャルド君は破壊される。
──
『さあ、というわけでやってみようか。ルールについて分からないことがあればいつでも聞いてくれ。最初のターンプレイヤーは誰にする? と言っても私は一人だから、こっちはずっと私がターンプレイヤーをやることになるんだけどね』
『ちょ、ちょっと待ってください! 一度相談してもいいですか?』
説明を終え、すぐに本番に入ろうとする白石ウタハに、早瀬ユウカが慌てて尋ねた。
『ふむ……そうだね、構わないよ。準備が出来たら言ってくれ』
白石ウタハは、寛容に頷いた。それを聞き、『勇者の仲間チーム』の生徒たちは円になり、相談を始めた。
『まず、ルールについては大丈夫? 一応スマホで文字起こしもしたけど……』
『うん! 合計25秒攻撃できれば良いんだよね?』
早瀬ユウカが誰にともなく問いかけ、才羽モモイが即答した。
『……やっぱり確認しておいてよかったわ。正しくは26秒よ。ウタハ先輩は損傷率が100%を超えれば破壊される、と言っていたから、100%はセーフのはずよ』
白石ウタハにも聞こえていたのか、早瀬ユウカのその指摘に無言でうなずいていた。
『な、なるほど……え? 私だけ分かってなかった感じ?』
周囲の視線から何かを察したのか、才羽モモイが慌て始める。
『お姉ちゃん……』
『ま、まあ大丈夫ですよ! 誰だって勘違いはしちゃうものですから!』
『ありがとコユキ……そのフォローが胸に刺さるよ……』
そして、彼女は肩を落とした。
『ま、まあ事前に確認できたから良いのよ。それで……結局、どんな感じなのかは実際にやってみなければわからないわよね。誰からやる? それと、誰がやっても結果を責めたりするのは無し。って言うのは約束して』
いつの間にか、当然のように進行役になっている早瀬ユウカのその言葉に、誰も反論することは無いようだ。
──
「ウタハは、心理戦要素のあるゲームが得意なんですか?」
誰をターンプレイヤーにするか、という会議を眺めながら、ケイが誰にともなく尋ねた。私含めて、部屋にいる誰かが答えると思ったのだろう。
そしてその答えは、少なくとも私は知り得なかった。
「この手のゲームが得意というイメージは無いですね。普通ではないでしょうか」
答えたのは明星ヒマリだった。ケイが少し考える仕草をした後、
「そうなんですね……つまり、これは手加減のつもりという事でしょうか」
と、再度尋ねる。
「そういうのとも違うんでしょうけどね。あれはただ……」
明星ヒマリは何かしら言おうとしていた説明を途中で止めた、カメラに動きがあったのだ。どうやら、最初のターンプレイヤーが決まったらしい。
──
①才羽モモイ
『という訳で、私だよ! ウタハ先輩、よろしくね!』
『いや、私はウタハ先輩では……まあ、いいか。テストプレイはしていないから、バランスはよくわからないけどよろしく、モモイ』
『ゲーム開発部として、良いとこみせてやるんだから!』
最初のターンプレイヤーは才羽モモイになったらしい。会議の過程をよく見ていなかったが、どうやら彼女は自ら一番手に立候補したようだ。
『さあ、私の行動は決まったよ。後はモモイが押せば結果がそこの画面に表示されるはずだ』
画面には 魔王軍 準備完了 と表示されていた。
攻撃と防御、二種類のボタンを全て押し終わるとあのような表示が出るらしい。
『もう!? こういうのって、もうちょっとお喋りして相手から情報を引き出そうとしたりするのが定番でしょ?』
『そういうものかい? まあ、ただキャンセルはできないから。頑張って私から情報を引き出して見たらいいんじゃないかな?』
『むむむ……』
白石ウタハの行動が予想外だったようで、才羽モモイはうんうんと唸りながら、制限時間直前になって、彼女はどうにかボタンを押した。
先ほどの説明の通り、部屋に設置しているモニタに、結果が表示される。
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魔王軍(ターンプレイヤー 魔人ウタシロ) 攻撃 ⑩ 防御 ⑨ ⑩ 攻撃成立
勇者の仲間(ターンプレイヤー 才羽モモイ) 攻撃 ⑩ 防御 ⑧ ⑨ 攻撃不成立
Result 3秒後に、魔王軍が10秒間攻撃を行います。
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『うわぁ──────!?』
『お姉ちゃーん!!?』
才羽モモイが実際に攻撃でも食らったかのように後ろに大げさに倒れ、才羽ミドリが慌てて彼女を助け起こしに行った。
白石ウタハの側にいるカスタムアバンギャルド君が攻撃を開始し、才羽モモイの傍に立っていたアバンギャルド君が目に見えて傷ついていく。
考えうるパターンで最悪の負け方をしてしまった才羽モモイは、涙目で謝りながら、とぼとぼと元居た場所へと戻っていく。
『裏をかくつもりが、裏の裏をかかれちゃったよー!!?』
『いや、別にそんなつもりは無かったんだが……』
そして、圧倒的に有利になった白石ウタハもまた、やや気まずそうな表情をしていた。実際のところ彼女は、とりあえず最もシンプルな手を選択に過ぎなかったのだろう。
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②早瀬ユウカ
元の位置に戻ってきた才羽モモイを全員で慰めるという、妙な時間が割かれた後次にターンプレイヤーとして前に進んできたのは、早瀬ユウカだった。
『ユウカ……』
才羽モモイが不安交じりの表情で彼女を見ている。
『ウタハ先輩。聞いていると思いますけど、これの結果に関わらず後でお話させてもらいますからね』
早瀬ユウカは、あえてその視線について触れず、白石ウタハに、そう宣言した。
『……なかなか恐ろしい挨拶だね。でも、それはつまり、取引は通じないってことだね。これで、心置きなく戦えるよ』
白石ウタハに動揺は特に見られなかった。そして、彼女は先ほどと同様に、すぐにボタンを選択した。
『別にそういうつもりで言ったんじゃありませんから。やるからには、勿論本気です』
一方の早瀬ユウカはそう言って、目を閉じた。そして、残り時間が丁度10秒になった時、彼女は目を開いて落ち着いた様子でボタンを押した。
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魔王軍(ターンプレイヤー 魔人ウタシロ) 攻撃 ⑦ 防御 ⑨ ⑩ 攻撃不成立
勇者の仲間(ターンプレイヤー 早瀬ユウカ) 攻撃 ⑤ 防御 ⑦ ⑨ 攻撃成立
Result 3秒後に、勇者の仲間が5秒間攻撃を行います。
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『……ふぅ』
自チームのロボットが攻撃を開始した様子を見てほっとしたように早瀬ユウカが溜息をつく姿が映し出される。
『ユウカ────!!』
そして振り向いて元の場所に戻ろうとしたところ、才羽モモイが彼女に泣きながら絡みついていった。
『きゃっ!? もう、急に抱きつくのやめなさいよ』
早瀬ユウカはそれに文句を言ったが、表情は明るい物だった。
──
「ユウカ、すごいです! どうして7を止められたのでしょうか?」
天童アリスが、どうしても嬉しくなったようで、ケイに代わって表に出てきて賞賛した。
「ユウカさんがどういった計算のもとで防御の配置を決めたのかは直接聞かなければ分からないでしょうね。ですが、ウタハさんが7を取りたかったというのは心情的に理解できます」
「どうしてでしょう?」
「彼女が7以上を取れば一応リーチがかかりますから、その中で最も取れそうな数字を取りに行くこと自体はおかしくありません。最終的に彼女が選ぶ手を読み切って7を防いだユウカさんが凄いという事に変わりありませんが」
「はい!」
天童アリスが笑顔で同意する。
これで、2ターン終了。損傷率は20対40で依然勇者の仲間側が不利な状況に変わりはない。彼女達はこの試練を突破することが出来るのだろうか。