本気の小鳥遊ホシノの戦いというものを間近で見たのは初めてだったが、圧巻の一言に尽きる。
建物内になだれ込んできた多数の敵をものともせず、ほぼ一方的に蹂躙している。
私の護衛に専念している鬼方カヨコもその戦いぶりには驚いたようだ。
「凄いね、ホシノ。戦いの様子は遠くから見たことはあったけど、その時とはまるで動きが違う。風紀委員長にも引けをとらないかも」
周囲の警戒は継続しながら、呆れながらそう呟いた。
歩兵中心の突入部隊は難なく突破し、小鳥遊ホシノの宣言通り建物の正面玄関へとたどり着く。
そこではわざわざ兵力を残していたのか、複数の戦車や2足歩行戦闘ロボットが待ち構えていた。
「まだこんなに残ってるんだ。めんどくさいな」
小鳥遊ホシノが溜息をついて銃を構える。表情は険しくなったが、勝てないと思っているわけでは全くなさそうだ。
「現れたな小鳥遊ホシノ、そしてシャーレの先生!! お前らアビドスだけは絶対に許さん!」
直に攻撃開始した方がまだ勝機はあるだろうに、一言いっておかないと敵は気が済まないらしい。
「熱烈な歓迎、感謝しますよ
「黙れ! お前が卑劣な手を回したからだろう!」
思わず鼻で笑いそうになる。まさかカイザーコーポレーションの幹部であったはずの大人ともあろう者が、まさか卑劣な手などと子供のようなことを言うとは。
「被害妄想も甚だしいですね。大方、背任行為の証拠でも見つかったのではないですか? 自らの迂闊さを人のせいにするのは大人のやることではありませんよ」
「……もういい。お前らはここで終わりだ。お前ら、やれ」
そして、反論できなくなると暴力に移行する。子供の喧嘩そのものだ。子供の喧嘩をお望みなのであれば、止むを得ない、子供に任せるとしよう。
既に起動していたシッテムの箱の戦闘支援システムに映っている、とある生徒へと指示を送る。
直後、こちらに攻撃を仕掛けようとしていた戦車が1台爆破された。
「良かった……社長、間に合ったんだ」
生徒数人が戦場を縫ってこちらに向かってきているのは気づいていたが、鬼方カヨコが事前に場所を連絡していたようだ。
「間に合ったようね! 黒服さん、カヨコ! ホシノも元気そうで何よりよ」
そして、元理事たちの陸八魔アルが姿を見せる。遠目からだが、安堵している様子だ。
「何だと!? お前は便利屋!? いつの間に!?」
今しがた戦闘の号令をかけた元理事が物語の間抜けな悪人のような発言をする。いや、『のような』ではない。間抜けな悪人そのものだ。
「ん。鬼方カヨコ。そしてそっちには浅黄ムツキ」
「シロコ先輩もうそれいいって。だとしたらアルさん2人いるじゃんこっち」
「えへへ~。私もいますよー☆」
そして、奥空アヤネ以外のアビドスの生徒たちも次々と姿を現す。砂狼シロコは先日の作戦を引きずっており、黒見セリカは律儀に指摘している。十六夜ノノミは暢気に手を振っている。どこか緊張感の足りない集団なのも、もはやおなじみと言っていいだろう。
現れた生徒たちの背後からは連続した爆発音と激しい銃声が聞こえてくる。
恐らく他にも戦っている生徒たちがいるのだろう。姿を見せない便利屋の2人と……
「ウチの社員がピンチみたいだから駆け付けたけど、案外大丈夫そうじゃない?」
「いや、社長どうやってここまで来たの……」
「そ、それはそのー……アレよ」
『ホシノ先輩。先生、聞こえていますか? ゲヘナ風紀委員長さんが相手戦力の多数を受けもってくれたおかげで、ここまで突破することが出来ました』
奥空アヤネの通信も聞こえてくる。やはり、空崎ヒナ本人が支援に入ってくれているらしい。陸八魔アルとアビドスの生徒たちを行かせたのも彼女の厚意あってのものだろう。
「ということはつまり、残りは……」
後輩の登場に驚いた様子を見せていた小鳥遊ホシノは、狙いを定める。
「ん、こいつらだけ。今回はホシノ先輩に一番大きいの譲ってあげる。だから……」
「後は任せて!」
アビドスの生徒たちが一斉に宣言し、最後の戦闘が始まった。
小鳥遊ホシノが二足歩行ロボットゴリアテへと突撃する。射撃して応戦するロボットの攻撃を回避し、盾で受け流し、
誰にも止められることなく足元までの接近を果たす。
「ふざけるな、お前らいつもいつも楽しそうに! 私が何をした!? 絶対に許さない!! 絶対に……」
その通信を最後に、元理事の声が聞こえなくなる。
小鳥遊ホシノの容赦のない連続攻撃により、元理事の乗機はあっという間に破壊されつくしてしまった。
カイザーコーポレーションという大人の権力争いの場ではうまくやれていたはずの彼は、結局最後まで大人であり続けることは出来なかったようだ。
間もなく、他の主要戦力も残りの人員によって撃破され、対カイザーPMCはある意味予想通り、あまりにもあっさりと終わってしまった。
カイザーだけでなく、私自身も、彼女たちの戦力分析を誤っていたようだ。