現在の状態
魔王軍 使用済攻撃ボタン ⑩ アバンギャルド君損傷率 20%
勇者の仲間 使用済み攻撃ボタン ⑤ アバンギャルド君損傷率 40%
③才羽ミドリ
『ウタハ先輩。よろしくお願いします』
ボタンの前に立った3人目のターンプレイヤー、どこか硬い表情の才羽ミドリが頭を下げた。
『やあ、ミドリ。緊張してる? それとも怒っているのかな』
白石ウタハが、彼女に微笑みかけながらそれに応える。一方の才羽ミドリは何かに緊張しているようで、一度勇気を出すためか大きめの深呼吸をした。
『……そのどっちでもないです。そうじゃなくて、提案があるんです』
『提案?』
『はい、時間ギリギリになるまで、お話しませんか? お姉ちゃんの言う通り、それが心理戦の醍醐味だと思うんです』
そして、彼女が持ち出したのは一つの提案だった。
『……なるほど、つまり
白石ウタハはそれを肯定し、一度ボタンから手を離した。
『じゃあ……ウタハ先輩は、どういう手を狙うつもりですか? 私は今、チームが負けている状態なので少しでも高い点数を狙いたいところです』
『そうだね……先ほども言った通り、最短での勝利というのは阻まれてしまっているからね、有利な状況をキープしつつ、堅実な点数稼ぎを目指していこうか』
――
相手の発言からどうにか情報を引き出そうと、彼女達は短い話し合いを行っていた。しかし実のところ、彼女達はどういう反応が出ればどういった結果を推測できるのか、という基本的な部分について分かっているのだろうか。
「変な事を考えていませんか、先生」
気付けばケイが、呆れたような視線を私に向けていた。
「ああいう駆け引きめいたことを楽しんでやっているだけです。皆も、多分ウタハも。先生や、リオやヒマリみたいに本気で相手の考えを特定できるような人はごく一部です。……まあ、あの場所にもそれが出来る人はいるんですが」
ケイは続けてそう言った。言った本人が私の考えを十分に把握しているのである。
「つまり、今この部屋にいる者はそれが出来る、ということになりますね」
「私を一緒にしないでください。あなたが分かりやすいだけです」
ケイが憤慨した表情でそう言った。表情が分かりやすいと言われたのは初めてかもしれない。
――
『決めました、ウタハ先輩』
『ああ。私も決めたよ』
制限時間直前になり、二人は殆ど同時にボタンを押した。白石ウタハが時間を多く使うのは3回目にして、初めてのことだ。
程なく、結果が表示される。
---
魔王軍(ターンプレイヤー 魔人ウタシロ) 攻撃 ⑤ 防御 ⑨ ⑩ 攻撃成立
勇者の仲間(ターンプレイヤー 才羽ミドリ) 攻撃 ⑥ 防御 ⑧ ⑨ 攻撃成立
Result 3秒後に、魔王軍が5秒間、勇者の仲間が6秒間攻撃を行います。
---
『……はぁ、残念、防御は失敗』
才羽ミドリが口ではそう言いながら、元の場所に戻ったがしかし、彼女はどこかほっとした様子だった。
そして、彼女がチームメイトに温かく迎えられているのを見て、白石ウタハも口を開いた。
「とはいえ、しっかり1点縮められてしまったね。こちらも安心できるような状況ではなくなってきたね」
こちらも同様に、言葉の内容とは裏腹に気にしている様子の無い笑顔だった。
魔王軍 損傷率 44%
勇者の仲間 損傷率 60%
④生塩ノア
4ターン目となり、白石ウタハの相手に立ったのは、生塩ノアだった。
彼女とは直接話す機会があまり無かったが、話によると観察力と記憶力に関しては早瀬ユウカよりも優れており、非常に頼りにしている、とのことだ。
『こんにちは、ウタハ先輩。先日の部長会議以来ですね』
『ああ、そうだね。今日はお手柔らかに頼むよ』
『そうしたい気持ちもあるのですが、ユウカちゃんやコユキちゃんに恥ずかしいところは見せられませんので、私も真剣に挑ませてもらいますね』
穏やかな微笑みを崩さずに、生塩ノアは話す。一方、白石ウタハは少々警戒している様子だった。それは普段の関係性を示しているのだろうか。
『できれば今回でリーチまではいきたいところだけど、ノアはどこをブロックするつもりだい?』
『そうですね……
生塩ノアは表情を変えずに答え、そして尋ねた。
『本当に怖いね……勿論、ノアの攻撃してくるところを止めるつもりだよ、気持ちの上ではね』
白石ウタハは、冷や汗をかきながら、それでもそう答えた。彼女達二人は、それ以上言葉を交わすことは無かった。
2人がボタンに手を触れ、そしてすぐに、画面に結果が映し出された。
---
魔王軍(ターンプレイヤー 魔人ウタシロ) 攻撃 ⑥ 防御 ④ ⑦ 攻撃不成立
勇者の仲間(ターンプレイヤー 生塩ノア) 攻撃 ⑦ 防御 ⑥ ⑨ 攻撃不成立
Result 両チーム攻撃不成立のため、攻撃は発生しません
---
『……ふぅ、やっぱり
白石ウタハは、ため息をついてそう言った。生塩ノアの攻撃を防いだにも拘らず、である。
『……やっぱりウタハ先輩は、自分でもどのボタンを押したか分かっていなかったんですね?』
黙って結果の画面を見ていた生塩ノアが、白石ウタハの言葉を受けて、尋ねる。
『うん、そうだね。ミドリが戻って、ノアがこちらに立つ直前、何か話していただろう? その時に、防御側のボタンだけ適当に押したよ。攻撃側も押してしまうとそれが相手にもわかってしまうからね』
白石ウタハが、生塩ノアの指摘を認める。
『君に読み合いで勝てる気はしなかったからね。25%の確率に賭けたって訳さ。一応本気で攻撃を通しに入ったし、ちゃんとどこを攻撃してくるかも本気で予想したよ。案の定、その予想は外れたけどね』
『……そういうことですか。……うーん、残念ですけど、引き分けですね。』
そう言った生塩ノアは、一切悔しいと言った表情は感じられなかった。
――
「……ノアもそっちの人でしたね、忘れていました」
ケイが、呆れ混じりの声でそう呟いた。その発言に私は違和感を持つ。
「おや、先ほどの件、ノアさんのことでは無かったのですか?」
「え? ああ、まあ、そうですね。確かにノアも含めてのことです」
しかし、それを尋ねても、彼女からは曖昧な言葉が返ってくるだけだった。
⑤黒崎コユキ
『にはっ、次は私ですよ!』
『やあ。うん、何というかコユキを見たら安心するよ』
『え!? そうですか?
『まあ、そうだね。そうとも言える。コユキも心理戦をご希望かい?』
白石ウタハの『安心する』という発言が、本音であることは明白だった。そして彼女の提案に黒崎コユキは少し首をひねったあと。
『心理戦も良いですけど、いっそ完全ギャンブルっていうのはどうですか? お互い、攻撃ボタンも防御ボタンも完全ランダムに押してみるっていう奴です! どうせどっちもリーチはまだですから! それで決まってしまうこともないですし』
と、運に全てを委ねる提案をした。
白石ウタハは少し驚いたように目を丸くした後
『面白そうだね。乗ろうじゃないか』
そう言って不敵に笑った。
『にはは、そう来なくっちゃです!』
ギャンブラーと化した二人が、目を閉じてボタンをランダムに押した。
ここでどちらかが裏切れば、かなりの確率で好スコアの攻撃が狙えるのだが、2人にはそのような真似を行うつもりは毛頭無いようだった。
そして、結果が画面に表示された。
---
魔王軍(ターンプレイヤー 魔人ウタシロ) 攻撃 ④ 防御 ② ⑨ 攻撃成立
勇者の仲間(ターンプレイヤー 黒崎コユキ) 攻撃 ④ 防御 ⑩ ⑤ 攻撃成立
Result 3秒後に、魔王軍が4秒間、勇者の仲間が4秒間攻撃を行います。
---
『……』
『……』
ギャンブラー二人が、黙って結果を眺めていた。その表情は虚無に近い物だ。
端的に言って、何とも締まらない結果だったと言えるだろう。単に二人とも4進めただけだ。
どちらかが大幅に勝った、負けたということもなく、黒崎コユキなど、相手の攻撃ボタンが存在しない防御ボタンを選択してしまっている。
『……何だか微妙な結果になってしまったが、とりあえずこれで私はリーチだね』
『はい。もう次からこのゲームでギャンブルとか言うのはやめときます……』
そして、黒崎コユキは釈然としない気持ちからか首を傾げながらチームメイトの元に戻っていた。
魔王軍 損傷率 60%
勇者の仲間 損傷率 76%
――
『まあ、ともかくお疲れコユキ! 私がやらかしたことに比べれば最高の成果だよ!』
『お姉ちゃんより酷い結果って本当に存在しないからね……それで、次残っているのは、テマちゃん?』
才羽姉妹が周囲を見るが、テマのことを即座に見つけることが出来なかった。
『テマちゃんなら、ここにいるわよ』
白石ウタハが移動させたのか、まばらに置かれている椅子に座っていた早瀬ユウカが声をあげ、才羽姉妹が振り向いた。
『あれ!? 寝てる!?』
才羽モモイが驚きで叫びそうになるの堪えた。彼女の言う通り、テマは早瀬ユウカの膝を枕にして気持ちよさそうに眠っていた。
『まあ、朝早くから遠くの学校に来て、色々あったから疲れちゃったのよね、きっと』
そして、早瀬ユウカがテマの髪を撫でながらそう言った。
『え、これ次どうするの?』
『さ、さあ……』
完全に母親か姉と化してしまった先輩に複雑な視線をぶつけながら、才羽姉妹は困惑の声を上げた。