⑥テマ
テマが早瀬ユウカの膝の上で気持ちよさそうに寝ている。
このままではゲームを予定している続行することは出来ない
『ウタハ先輩? この場合はどうするんですか?』
『いや、うん、そうだね……まあ、その子がゲームに参加できないのであれば5人で続行するしかないんじゃないかな?』
生塩ノアに尋ねられた白石ウタハは、歯切れ悪くそう言った。
『ん……ん、んん? あれ、手前の番ですかぁ……?』
それと同時に、タイミングよくテマが動き始めた。
『あ、テマが起きたよ!』
『テマちゃん、おはよう。大丈夫?』
才羽姉妹が喜び半分、心配半分で、起き上がったテマを覗き込む。
『んん……大丈夫ですよぉ』
テマが目を擦りながら、ボタンの方へと向かう。どうやらルールなどは頭に入っているようだったが、しかし疲労がたまっているのであれば少し気になった。
「大丈夫でしょうか……」
横からケイの呟きが聞こえてきた。彼女もテマを心配しているのだろうか。
「本人が大丈夫、と言っているので問題ないでしょう。もし負けたとしても、そこまで大きな問題があるわけではないですし」
私がそう答えると、ケイは首を振った。
「いえ、そういうことではなく……
そして、ケイは少し表情を険しくして、画面に映るテマの事を見つめた。
――
『んにゅあぁ……最後の順番なんて、手前、待ちくたびれて居眠りしてしまいそうでしたよぉ?』
『いや、君はしっかり寝ていたと思うけど……、まあ、君……テマ、というのかな? テマが参加できてよかったよ』
テマが欠伸をしながら言った言葉に、白石ウタハが何気ない言葉を返す。
その言葉を聞き、テマが白石ウタハの方を眺めた。
『……』
そして、今まで見たことの無い、悪意のこもった表情でニヤリと笑った。
『ん?』
『あはは。ええ、嬉しいでしょうねぇ、手前様は。』
テマが話し始め、白石ウタハはそれに困惑している様子だった。そして困惑しているのは彼女だけではなく、他の生徒たちもまた、怪訝な表情でテマの方を見ていた。
『なんせ、手前がいなければ手番が一周して、またノアちゃんやユウカちゃんと戦う羽目になるんですから。でも、ここで手前から7点以上を取りさえすればそれで終わりですもんねぇ?』
『……いや、別に私はそんなことは……』
『本当ですかぁ? あははっ、まあそれならそれで良いですけど、精々頑張ってくださいねぇ? 7,8,9の三択、もし外してしまえば、結局ノアちゃんやユウカちゃんと戦うことになりますよぉ? また運だけで乗り越えられると思ってるんですかぁ?』
一度、否定しかけた白石ウタハに、マウントするように畳みかける。
『ま、よく考えて決めてくださいねぇ、ウ・タ・ハちゃぁん! あはは、あはははははっ』
そして、最後に笑いながら、テマはボタンを押した。
『……』
そして、白石ウタハはそんな彼女に一言も返すことができないまま、どうにかボタンを押したようだ。
結果が画面に表示される。
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魔王軍(ターンプレイヤー 魔人ウタシロ) 攻撃 ⑥ 防御 ⑨ ⑩ 攻撃不成立
勇者の仲間(ターンプレイヤー テマ) 攻撃 ⑧ 防御 ③ ⑥ 攻撃成立
Result 3秒後に、勇者の仲間が8秒間攻撃を行います。
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『…………は?』
白石ウタハが画面を見て、目を見開いた。
結果は一目瞭然。
『うふふふっ、残念でしたねぇ、ウタハちゃあん…… 何か変な事がありましたかぁ?』
テマは楽しそうに笑いながら、白石ウタハを煽るようにそう言った。
『いやいや……攻撃を通したのは、まだ理解できる。でも、どうやって君は6を止められたんだい?』
『ああ、そんなこともわからないんですかぁ?』
『だって、君が言ったんじゃないか。7から9を通せば、勝ちだから、ちゃんと狙って通せって。
確かにその通りだと思ったんだ、だから……』
そこまで言って、白石ウタハが言葉を止める。完全に誘導されていた、ということに気付いていたのだろう。
『だから、ウタハちゃんは手前のことが怖くなったんですよねぇ? だから、
そして彼女は心底楽しそうに笑った。
「…………はぁ、参ったよ。本当に」
白石ウタハは肩を落とし、負けを認めた。
魔王軍 損傷率 92%
勇者の仲間 損傷率 76%
――
「成程、こういう事ですか。ケイさんが言っていたのは」
テマにこういった部分があることを、私は把握していなかった。ケイの知っている世界では、彼女はどういった役回りを演じていたのだろうか。
「……はい。寧ろ、先生は知らなかったんですね」
「そうですね。記憶を失っていることと特殊な本を持っていたこと以外は、普通の少女だと思っていましたから」
しかし考えてみると、彼女は保護されるまで一人で、他人を驚かしながら生きていた。相応に頭がよく、人の心理に長けているのは不思議では無い。とは言え、あのように振る舞うのは……
「ま、あの子が
ケイは未だ、画面を注視していた。どうやら、まだテマの舞台は終わっていないようだ。
⑦テマ
『さて、気持ちを切り替えないとね。こうなったら運ゲーでも心理戦でも、本気でやって勝って見せるさ』
白石ウタハは頭を上げて、どうにか笑みを浮かべながら気丈に言った。
『あはは、そうですかぁ? ですが、さっきと状況は変わっていますよぉ? 手前様はちゃぁんと、分かってますか?』
それすらも楽しそうに、テマが白石ウタハに尋ねる。
『……勿論。これで君たちのチームもリーチした。しかも、こっちの損傷率は92%。私が7以上の攻撃を通しても、そっちに3以上の攻撃を通されてしまったら、先にこちらの損傷率が100%を超えて破壊されてしまう。相当不利な状況だね』
『あはは、いいですねぇ。ちゃんと分かってるじゃないですかぁ? あ、そういえばこのゲームはウタハちゃんが考えたんでしたねぇ』
テマはそこまで言ってから一呼吸おいて、
『じゃあ、
と、今までで一番の笑みを浮かべてそう言った。
『……は? 君のターンは、今終わっただろう』
『そうですねぇ……つまり、一周したので、次の手番が手前でも問題ありませんよねぇ?』
そう言って、テマは後ろを振り向いた。どこか不安そうに見ている者もいたが、異を唱える者は誰もいなかった。
『……あ』
『じゃあ、これが最後になるかもしれませんが、よろしくお願いしますねぇ、ウタハちゃん?』
全てを理解して膝から崩れ落ちた白石ウタハを見て、テマは笑顔でボタンを押した。
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魔王軍(ターンプレイヤー 魔人ウタシロ) 攻撃 ⑦ 防御 ⑦ ⑩ 攻撃不成立
勇者の仲間(ターンプレイヤー テマ) 攻撃 ③ 防御 ⑦ ⑨ 攻撃成立
Result 3秒後に、勇者の仲間が3秒間攻撃を行います。
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魔王軍 損傷率 104%
勇者の仲間 損傷率 76%
魔王軍の損傷率が100%を超えたため、勇者の仲間の勝利です。
――
攻撃が終わり、白石ウタハの傍にいたアバンギャルド君が完全に破壊された。
一時、完全な静寂が室内を訪れた。
ゲーム開発部の生徒を始めとした、テマのチームメイトたちは、状況をよく呑み込めていないのかもしれなかった。
3年生の先輩を一方的に翻弄して完全な勝利を収めた少女のことを。
『……や……ヤッター!! 見てましたかぁ!? 完・全・勝・利・ですよぉ!!』
そして、その雰囲気を察している様子もなく、テマがチームメイトの方を振り向いて大喜びで戻っていった。既に彼女に感じていた
『て、テマー!! 凄かったよ! ユズとはちょっと違うタイプだけど、テマってあんなに心理戦得意なんだね!?』
『驚いたわ! あのウタハ先輩を一方的に追い詰めるんだもの。でも、ちょっと口が悪かったような気もするから、もう少し優しくしてあげたらいいかもしれないわね』
戻ってきたテマを最初に歓迎したのは才羽モモイで、早瀬ユウカがそれに続いた。
『あー……ちょっと楽しくなりすぎちゃいましたかもですねぇ……』
『でも、一応相手は魔王軍ですから、ボコボコにしても良いんじゃないんですかー?』
『いや、でもウタハ先輩はちょっと可哀そうだったような……』
黒崎コユキと、才羽ミドリも、テマの豹変についてはあまり気にしていないようだ。直接やられた白石ウタハの方を気にかけてはいるようだったが。
『まあ、でもこれで第3の試練はクリア、ということでしょうか』
生塩ノアがそう言って、白石ウタハの方を見た。
『…………ふぅ、本当に、言葉も出ない位の完敗だったよ。ユズもいないのに、本当によくやったね、君たち。ノアの言う通り、私としてはこれ以上は無いよ。君たちは見事、第3の試練をクリアした。ネルと戦っている方もクリアすれば、アリスの元に行けるよ』
2連続の敗北に打ちのめされていたように見えた彼女は、どうにか立ち直ることは出来たようで、元の解説役風のキャラクターに戻っていた。
そして、残る美甘ネルの方は、未だ戦いが続いているようだった。
偶には元ヴィランらしいところも見せないと。
黒服にも言えることですが。