ゲーム開発部一行は二つの試練を無事にクリアした。
この後、二つに分かれていたチームは合流し、予めの想定通り、屋上へと進むだろう。
「では、ヒマリさん。私たちは屋上へと行きますので、何かあれば連絡してください」
「はい。私はここで観客として楽しんでいますので、お気をつけて」
私とケイ、そして調月リオは仕掛け人として屋上へと向かう。
先んじて役目を終えていた白石ウタハには休憩を取ることを促すなど、ある程度時間稼ぎを行うことを要求しておき、エレベーターで昇ってくるまでの最後の打ち合わせをする。
「その……本当にこの役回りで良いのかしら?」
今もなお、このゲームにいまいち乗り切れていない調月リオが、ケイに尋ねた。
「この期に及んで何を言ってるんですか。演技が不安ならそこで寝転がって『魔王に突然粛清されたボス』役でも良いですよ」
そもそも演技力など求められておらず、白石ウタハや美甘ネルもまともに演技しようなどと考えてはいなかっただろう。
「いえ、そうではなく……これは、私と先生があなたを一方的に巻き込んだ結果起こっていることでしょう? それなのに、あなたは自分が黒幕の1人だと、責任の一端を担おうとしてくれている。理屈に合っていない……と思うのよ」
調月リオが申し訳なさそうな声と態度でそういった。一方、ケイはそのことは気にしていない様子であり、
「アリスと、それから私の意志ですから、問題ありません。というか、リオは私のことを信じたわけではなく、ただの現状維持だとさっき言っていたじゃないですか。私もそれで良いと言った。だから、私に気を遣う必要なんてないのでは?」
ケイの言葉は、受け取り方によっては拒絶のようにも聞こえる言葉だった。しかし、それは伝わらなかったのか、あるいはそうと受け取らなかったのか
「それは別問題よ。私があなたをどう考えているか、という事と、あなたが現に巻き込まれたか、という事は無関係でしょう?」
と、すぐに返した。ケイは溜息をついて
「わたしはただ、リオが、責任を放棄してどこかに行ってしまわないようにそうしただけです」
と言った。
「…………
調月リオはそれに対し、返事に悩んだ後そう答えた。それに対し、ケイは返事をしなかった。調月リオは恐らく、また何か自分が失言したとでも思っているのだろう。
「つまり、ケイさんとアリスさんは、リオさんと同じ立場になることで、リオさんに伸し掛かる責任を、少しでも負担してあげたかった、ということでしょう」
故に、そうではないだろうと言う私の考えを彼女に伝えた。調月リオが呆気にとられた表情になる。ケイは私を鬼の形相で一瞬睨みつけた後、彼女の方を見て
「……別にそれだけが理由ではありません。アリスや皆と一緒に、楽しく遊びたかったという気持ちもありましたし、結局のところ、アリスと二人で相談したことですから」
と小声で言った。しかし、その言葉は私の耳にも、恐らく調月リオの耳にもはっきりと聞こえただろう。
──
「さて、リオも納得したところで、丁度いいタイミングです。エレベーターが上がってくるみたいですよ!」
先ほどよりはかなり大声で、ケイはエレベーターを指し示した。
この期に及んでは作戦変更は不可能だ。
「ええ、そうね。私も覚悟を決めるわ」
調月リオが返事をする。これをやるのに必要な覚悟というのは何だろうか。
そう考える間もなく、エレベーターが到着した音が鳴る。
そしてゆっくりと、その扉が開いた。
──
エレベーターから、ゲーム開発部の生徒とその協力者たち、10人の生徒たちが降りてくる。白石ウタハと美甘ネルは、別ルートから明星ヒマリと合流する予定となっている。
「うわぁ、もうすっかり暗くなってるね。アリスはどこだろう……うわぁっ!?」
いつものように無防備に前へ踏み出た才羽モモイを先頭に、10人の生徒が外に出てエレベーターの扉が閉まったタイミングで、ドローン兵器や設置式兵器が起動し、彼女達に狙いを定めた。
「や、やっぱり待ち伏せされてたんだ!?」
「ということは、2人の言っていた通り、来る場所は正しかったってことじゃない?」
彼女たちは冷静に持ち場を入れ替えている。出会ってまだ時間が経っていないはずの彼女達だが、ある程度動きには慣れが見られた。
「待っていたわ、あなたたちがここに来るのを。キヴォトスが生まれ変わる今日のこの日には、観客は必須だもの」
天童アリスや、他の3年生達の意見を元に作成した台本の通りの台詞を言いながら、調月リオが彼女たちの前へと姿を現した。
「り、リオ会長!?」
「キヴォトスが生まれ変わるってどういうこと!?」
「やっぱり、リオ先輩がアリスちゃんを攫ったんですか!?」
ゲーム開発部の生徒たちが口々に叫ぶ。なお、『
調月リオが指を鳴らす素振りをすると、ドローン兵器が彼女達に更に近づき、威嚇射撃をした。尚、
「え、今……」
「しっ、お姉ちゃん、空気読んで」
しかもそれを、才羽姉妹には確り気づかれていた。
「……一度に一斉に話されても、答えられないわ。聞くなら優先度が高い物から順番にお願い」
そして彼女は一つの指示を出したが、それも一つの正論であり、聞いている側に妙な空気を醸し出していた。
「じゃあ……リオ先輩は、アリスを攫って、何をしようとしているの? キヴォトスが生まれ変わるって、どういうこと?」
「また二つ聞かれているけれど、まあ、いいわ。何か勘違いをしているようだから、その疑問に答えてあげる」
結局一つに絞り切れなかった才羽モモイの質問に、調月リオはそう返した。
「親切ね……」と高倉クルミが小さく呟いた。
「そもそも、私はアリスを攫っていないわ。あの子は、自分の意思でここに来たのだもの。もっとも、アリスというより、先生とアリス、だけれど」
「え?」
「私がアリスを使って何かをしようという訳では無い。あの子こそが、自分の意思で世界を変えようとしているのだもの。……嘘だと思うなら、本人に聞いてみることね」
「ほ、本人……?」
ゲーム開発部の生徒たちが困惑の表情になる。ここでようやく、私と天童アリス、そしてケイの出番だった。
「あ、アリスちゃん!? それに先生も!」
天童アリスと並びゆっくりと歩いて、調月リオに近づいていく。
「みんな、アリスの暗号を解いて来てくれたんですね。アリス、嬉しいです!」
そして天童アリスがいつもの天真爛漫な様子で口を開いた。ここだけ見ると、彼女が演技をしているとは到底思えなかった。
ゲーム開発部の生徒たちにが、どこかほっとした表情になる。
「アリス、みんなには特等席で見て欲しかったんです。今日、この日、世界が変わるのを。そのための舞台装置を、アリスはここに完成させました」
「あ、アリス……?」
「クックック……今まで騙していたことは謝罪しましょう。しかし昨日、アリスさんの力を開放する最後の鍵が手に入りましてね」
敢えて『鍵』という言葉を使い、私も台本通りの言葉を放った。ゲーム開発部の生徒たちは何を言っているのか分からないようで、呆然としている。天童アリスが目を閉じた。それが何を意味するのか知っている者もまた、この場では私と調月リオだけだ。
『という訳で、
そして、最後に、天童アリスに代わって彼女達の前に初めて現れたケイが、自己紹介と共に、この茶番劇の最後の戦い、その開始を宣言した。