「おいおい、何だあいつは……リオが用意してたラスボス……って訳じゃねえよな?」
「聞いてた通り、あれはハブだね。まあ、あまり信じたくはなかったけど」
「おっきいロボだねー。リーダー、あれを壊すの?」
明星ヒマリとの連絡の後すぐに、エレベーターが作動しないためか階段で登ってきた3人が合流した。
階下に残っている明星ヒマリは、ハブに掌握されたエリドゥの管理権限を一部でも取り返すことが出来ないか、試すのだという。
「あ、あなたが先生!? 話は聞いてたけど、本当におっきいんだね!? あ! 私、一ノ瀬アスナ! よろしくね!」
この場で唯一の初対面である、一ノ瀬アスナが明るい様子でこちらに挨拶してくる。状況にはあまりそぐわないかもしれないが、彼女はそういう人物なのだろう。
「アスナさん、初めまして。ネルさんとウタハさんも。長々と挨拶をしている場合ではありませんので、聞いてください。あのハブは、現在リオさんとアリスさんを捕獲すると同時にハブを掌握し、あそこに佇んでいる状況です。」
「ああ、聞いてた通りだが、あいつ、何をしてるんだ? こっちに攻撃もせずただじっとしてるだけに見えるが」
状況を説明すると、美甘ネルに尋ねられる。
「今、エイミさんとトキさんがいる辺りですが。あそこから一歩でも先に進むと、エリドゥの兵器を利用して攻撃をしてきます。何らかの目的でここに留まっているようですね」
我々より少し前方で隠れている2人を指し示す。
「……何らかの目的、ねえ」
美甘ネルがハブを睨む。
ハブ、あるいはホドの目的について考える。調月リオあるいは天童アリス、ケイの身柄が目的、というのが第一に考えられるが、それだけであれば、ここに留まり続ける必要は無いだろう。既に目的を達成している、という事になる。
であれば、まだ目標としている人物がいる、ということも考えられ、その場合最有力候補は私ということになるだろう。
あれが飛来してきた際、ケイと調月リオと同様に、私にも同様にあれは接触しようとしてきていた。シッテムの箱によって弾かれたが。私の身柄が目的であれば、そこにまだとどまっている、というのも理由としてはありそうなものだ。
しかし、この3人を確保する目的は分からない。
全く別の目的、という事も考えられる。例えば、エリドゥの管理権限そのものが目的、ということもあるだろう。
こちらに積極的に攻撃を仕掛けてこないのも、我々に攻撃すること自体は本意ではない、という事であれば納得できないことも無い。つまり、あれはミレニアムの為の行動として何かを行っている、という可能性だ。
「おい、どうすんだ? この場で何かが起こるまでずっと待ち続けるのか?」
黙っている私に、美甘ネルが不満そうに尋ねる。それが得策ではない、という事は明らかだった。可能性としては、天童アリス、ケイを手中に収め、その力を悪用する目的で今あそこにいる、という事も考えられるのだから。
とはいえ、やるべきことは……
「すみません。後少しだけお待ちください」
私は美甘ネルにそう返事をして、シッテムの箱のAIに呼びかける。
――
「A.R.O.N.A. 質問です。」
-はい。待っていました。
このサポートAIは私の身を守る事以外は、聞くまでは何も答えない存在だ。しかし、周囲の状況は何時でも把握していた。
「この場所、エリドゥの管理権限を掌握することは可能ですか?」
-可能ですが、今のままだとすぐには難しいです。
「サンクトゥムタワーの権限を一瞬で取り戻した貴女でもですか?」
-あの時とは状況が異なります。あの子が中々やり手で、こちらの妨害を呼んで対策を立てているようです。
「あのことは、ハブのAIのことですか?」
-その通りです。先程の自動保護システムの作動により、私の状態が万全でないこともあり、状況が拮抗する可能性が高く、完全掌握まで半日はかかる見込みです」
「つまり、ハブに負担をかければ早く奪い返せる、ということでしょうか」
-ご名答です。
「ありがとうございます。戦闘支援アプリやEXスキルは使わない方がよさそうですね」
-戦闘支援は問題ありません。EXスキルは使わないことをオススメします。
――
A.R.O.N.A.からの返信を確認し、改めて戦闘支援アプリを立ち上げた。
「お待たせしました、皆さん。聞いてください。これから、リオさんとアリスさん、ケイさんの救出に向かいます。当面の目標は……」
脳内で優先すべきことを順序立て、考えながら説明する。行き当たりばったりの作戦は得意ではないが、今は私しかできないだろう。
「エリドゥの奪還です。そもそも元々の管理者であるリオさんが捕らわれていますので、こちらで勝手にやることになりますが……そのために、ハブに負担をかける必要があります。具体的には戦闘で追い込みます。」
「配置ですが、クルミさん、ネルさん、それからエイミさん、トキさんを中心に先陣を切ってもらいたいと思います。相手がどういった攻撃手段を持っているかは把握していないので、危険だと思いますが、よろしいですか?」
『ああ、さっきの戦いぶりをみたら十分だろ。あたしたちに任せとけ』
『了解』
『はーい』
『了解です』
美甘ネルの啖呵の後、3人がその後に続いた。
「もう一つのチームは……アスナさんを先頭に、ユウカさん、ノアさん、コユキさんの4人でお願いします。」
『わ、私もですかー!?』
『目的は同じですが、行動はアスナさんに従ってください』
黒崎コユキが悲鳴のような声を上げるが、彼女はサブプランの要だった。彼女がハブやエリドゥを直接動かすことの出来る装置に触ることが出来ればそれでこちらの目標は達成できるだろう。そこまでいかなくとも、一ノ瀬アスナの異常とも言える勘の良さ、豪運は大きな可能性になる。
『コユキ……怖い?』
『怖いですけど……やりますよ』
『そう。じゃあ、一緒に頑張りましょう。』
『じゃ、行くよ! アスナについてきて!』
『え、もうですか!? 』
一ノ瀬アスナはそう言って、あらぬ方向、具体的には、登ってきた階段を降りる方向に進んでいった。早瀬ユウカと黒崎コユキが慌てて付いて行く。私にも全く理解できないが、信じるしかないだろう。
『先生、私たちはどうすればいいの?』
『あまり、頼りにならないかもだけど、私たちも、アリスちゃんを助けたいです。』
『で、出来ることがあれば、何でも言ってください』
ゲーム開発部の才羽姉妹と花岡ユズに尋ねられる。彼女達にも役割はあった。
「最初はネルさん達のチームの背後から、取りこぼした設置兵器や、ドローンを確実に潰していきましょう。私も共にに行きます。いざ、というときには前線チームに加わって、支援を行いましょう」
『うん!』
『分かった』
『は、はい!』
3人から殆ど同時に返事がくる。残りは2人だが……
「ウタハさんと、テマさんはここで待機してください。後方から何か気付いたことがあれば伝えて欲しいのと……もし、こちらの状況が不味くなってしまった場合に、最後の手段として、他校への連絡をしてもらいます。テマさん、ミヤコさんとユキノさんの連絡先は分かりますね?」
『わ、わかりますよぉ……手前様、大丈夫ですよね?』
『で、あればその判断とテマへの壁に私はなればいいのかな?』
「その通りです。お願いしますね。」
不安そうなテマと、冷静な判断を期待できる白石ウタハの返事を聞き、私はそう言った。
「では、既にアスナさん達は動いていますが、作戦開始とします。2人を取り戻しましょう」
『『『了解!』』』
多くの生徒たちの返事が、耳に入ってくる。
本来の想定とは異なるが、この場での、真の最後の戦になるだろうと思われる決戦が始まった。