エリドゥがいかに要塞然とした巨大建造物であると言っても、直線距離にすると、ハブへ到達するまで、そこまで遠くは離れていなかい。
しかし、到達までは簡単な道のりではなかった。
『こちらFOX……じゃない、クルミ。攻撃が激しすぎて全然進めないわ!』
高倉クルミが叫ぶのを聞くまでもなく、最前線に立つ彼女達に調月リオが用意した設置兵器や余剰ドローンが集中攻撃を行っていた。
戦闘慣れしている彼女達で無いと、一瞬で戦線が崩れ一歩も近づけない状態になっていただろう。
「敵が多すぎるよー!?」
「こ、これ元はリオ会長が用意してたんだよね!? な、何するつもりだったんだろう」
「……はぁっ……はぁっ」
「うわぁっ!? ユズが今にも死んじゃいそう!?」
「だ、大丈夫……頑張ろう」
一歩引き、私たち後ろで援護しているゲーム開発部の生徒たちの攻撃も、前線にまとわりつくドローンを減らすのに貢献はしているが、状況を覆すには至りそうもない。
戦い慣れしているわけでもない上に美甘ネルとの戦いからの連戦状態で、花岡ユズは既に足元がふらついていたが、気力だけで前を向いて戦っていて、3人の中では最も貢献していた。
さて、何か打開策は、と考えた時に、初めから想定していたことがある。そもそも、何故、ハブはこれほどまでに過大な攻撃を行うことができているのか。A.R.O.N.A.が言っていたことが事実であれば、あれもまた、ハッキングへの対策にリソースをかなり割いているはずだ。
しかし、シッテムの箱を通じて表示される進捗率はさして変化が無い。
恐らく、攻撃は本体のCPUのリソースを消費することなく、ある程度自動化されていると見ていいだろう。
見覚えの無い何本かの柱が、経路上に存在していた。元からエリドゥに備わっていた機能なのかは調月リオがいないため分からないが、少なくともハブが飛来してくるまでは無かったものだ。
一か八か、破壊してみる、というのを試してみるしかないだろう。
『ネルさん、前方右側に機械の柱があるのが見えますか?』
『あ? ああ、でもあそこはダメだ。射線が通りまくってて隠れ場所としては微妙だな』
美甘ネルが直に反応する。
『いえ、あれを破壊できますか?』
『破壊? ……たってなあ、そもそもあそこまで行くのが大変だって話だが、まあ、やってやるよ』
『援護します、ネル先輩』
『おう、頼むぜ新入り!』
高倉クルミと殆ど接触するような位置で銃弾の雨を逃れていた美甘ネルが前に踏み出す。
最も前にいる敵を集中的に狙うような動きを見せていたハブは、当然美甘ネルを狙い始めるが、銃弾の隙間を縫うように……本当にそんなことが出来るのであればキヴォトスの生徒としてもまさに理外の存在という事になるが、ともかく彼女は銃弾を避けながら前進していった。
当然、ドローン兵器は立ちはだかるが、彼女の背後についていた飛鳥馬トキがそれらを受けもつように、飛び込んだ。
『進んでください!』
『ありがとよ!』
美甘ネルは後輩に一言礼を言うと、ドローン兵器を一つ蹴り壊しながら前への推進力にし、一足飛びに、柱の前へと近づいた。
そして、
『オラオラオラァァァァァ!!!!!!』
雄叫びのような彼女の声と共に、彼女の持つ銃からはあり得ないような打撃音と爆発音がして、目標である柱が破壊された。
これはEXスキルでは無いので、彼女が素でこれを成し遂げた、という事だ。
『私たちと戦ってるとき、あれ手加減してたんだ……』
柱の破壊後に、流石に隙の生まれた美甘ネルを支援するように前へ進みながら呟く和泉元エイミの声が通信越しに届いた。
──
「あれ……攻撃が収まった?」
「うん、ドローンも増えなくなった?」
「はぁっ……はぁっ……えっ?」
才羽姉妹が気付いた通り、柱を破壊した直後から、ハブの攻撃は明らかに弱まっていた。肩から息をしている花岡ユズは全く気付いていないようだったが。
『ようやく進めそうね……やっぱり、柱を壊した事が関係あるのかしら?』
「そう考えるのが妥当でしょう」
攻撃が弱まっているのは前線も同様のようで、殆ど進めていなかった彼女たちがハブ本体へと前進し始めた。
我々も後を追いながら、状況を確認する。
『じゃあ、どんどん破壊していけばいいわけか?』
柱から一定範囲にある兵器に自動命令を発しているのか、一つ目の柱を破壊したことによる効果は限定的なもので、彼女達が少し進むと、奥にある兵器が彼女達に射線を向け始めた。
彼女達が後数歩進むと、先ほどのように過激な攻撃を仕掛けてくるようになるだろう。先程のように美甘ネルの暴力が上手くはまれば、破壊することは出来るだろう。しかし、
『でも、次のあれだよ? どうやって破壊するの? あっちもだけど……』
次に破壊するべきと思われる2本の柱は、いずれも今私たちのいる場所からは直接行くことの出来ない、別棟と思われる場所に取り付けられていた。
しかも、その傍らには、それぞれに小型ミサイルの発射装置のようなものが存在し、美甘ネルがその膂力で飛び移ろう、等と考えた場合、撃ち落とされる可能性が相当高いように感じられた。
そして、それら二つの柱より奥にはなるが、ここから真っ直ぐ進んだ先にも一際大きな柱と『アバンギャルド君』という名前だったか。自動戦闘ロボットが控えているのが確認できた。
『……まあ、あれは確かにキツいな』
しかし、美甘ネルは言葉とは裏腹に、焦った様子は見られなかった。
姿は後方から見ることの出来るだけだったが、彼女は次に壊すべき2本の柱も見てもおらず、ただ地続きに存在する大きな柱、それだけを見ているようにも見えた。
『何か余裕じゃない? 何か策があるの?』
高倉クルミが尋ねる。
『んなのあるわけねーだろ? だけどクルミ、あんたもさっき体験しただろ? こういう時は何かが起こるんだって。あたしたちはそれを、ただ待って準備しておけば良いって』
『は? え、いや、まさか』
高倉クルミがそう訝しげな声を上げた直後
『先生! リーダー! 何か面白そうなの見つけたよ!』
『にはははっ、アスナ先輩! 凄いです! じゃあ、ここからは私の番ですね!』
『ちょっと、2人とも先に行きすぎ! 罠でも仕掛けてあったら……え? この部屋は……』
『何かの制御室のようですね……こういったものは既に使えなくなっていると思いましたが……』
一ノ瀬アスナと黒崎コユキの楽しそうな様子、そして、2人の近くにいる早瀬ユウカと生塩ノアの声が入ってきた。
そして、その直後、柱の近くにあったミサイル砲、2基が同時に火を噴いた。目標は……
それは、明らかに反対側の柱を狙って発射されていた。
当然、ほぼ間を置くことの無く、それらのミサイルが着弾し、爆風と衝撃波、そして大音量の爆発音と砂煙が周囲を包んだ。
『な、言っただろ?』
何かが起こると信じていた美甘ネルの自慢話でもするような声が耳に届いた。徐々に視界が晴れていく。
『だから、準備してりゃいいってな』
そう言った彼女は、4本目の柱が『あった』場所まで詰めていた。すでにその柱は破壊されており、アバンギャルド君は動く様子すら見せることは無く、無傷のままそこにあった。
「嘘でしょ、すご──!!?」
「ユズ、よくネル先輩に勝てたね……」
「あ、あれは……アスナ先輩が……はぁっ、はぁっ」
「うん……話しかけちゃってごめんね、ミドリ」
隣の生徒たちも、すっかり攻撃が届かなくなったことで安心して美甘ネルの早業に驚いていた。花岡ユズはそこまで疲労しているのであれば少し休んでいけばいいとも思うのだが、彼女の部長としての矜持だろうか、どんなに息を荒げながらでも先に進むことを諦めはしなかった。
『本体まであと少しだな、そろそろケリ付けるぞ』
それらの驚きや称賛をどう思っているのかは分からないが、美甘ネルは強く自信を感じさせる口調で、そう言った。