ハブから出て来たケイと調月リオは、どちらも顔に疲労こそ見られたが、外傷などを負っているわけでは無いようだった。
そして、ケイが言った『話し合いが終わった』という発言から察すると、彼女達は、ハブの中で誰かと会話していたのだろう。誰か、というより、恐らくハブそのものと。
「ケイさん、リオさん、アリスさん。ご無事なようで何よりです」
「……先生。そちらこそ、皆無事みたいですね。ええと、それで、ちょっと中途半端になってしまいましたが、色々と話したいことがあり……」
ケイはそう言って、まず、近くに集まっていたゲーム開発部の生徒たちを見た。
後方で待機していた白石ウタハが、恐らく熟睡しているテマを背負って近づいてきている。一ノ瀬アスナ達のチームもいつの間にか屋上まで戻ってきており、彼女達に合流していた。そしてエレベーターが復活したため、明星ヒマリも直にやってくるだろう。
「そうですね。こちらにチヒロさんも向かってきている、という事なので、顛末についてはその時に聞きましょう。まずは……ケイさん。あなた自身のことを、そろそろ話してあげるべきではないでしょうか」
何度も同じ話をさせても仕方ない。彼女が武器を降ろすよう言った、という事はもうハブが危険な行動を取る事は無いのだろう。
ゲーム開発部の生徒たちの視線が、ケイへと集中する。空気を察してか、一人走って近づいてきた黒崎コユキだけがやや、状況を確認するように周囲を見回していた。
──
多少の事情を知っている3年生達や、セミナーの生徒たちは、調月リオを除き各務チヒロが到着するまでエリドゥの破損などを確認する作業を行うことになった。
その場に残ったのは、ゲーム開発部の生徒たちと調月リオ、そして眠っているテマだけだった。
「……先ほども自己紹介した気がしますが、改めて、私はケイと言います。今は、アリスの身体を借りてこうして話しています」
そして、ケイが素性を明かし始めた。
「……えっと、確認だけど、アリスの演技とか、二重人格、ってことじゃないんだよね?」
ゲーム開発部の才羽モモイが尋ねる。
「はい。私とアリスはそれぞれ独立した意識を持っていますし、起源も異なりますので、それらとは異なります。 といっても、それを証明するのは
「いやいや、証明とかは大丈夫だよ!? そっか、教えてくれてありがと!」
「そうですか? ありがとうございます」
ケイが才羽モモイに微笑む。
「……あっ! そ、そうだっ! 自己紹介しないとだよねっ!? 私は才羽モモイ! 開発部ではシナリオ担当だよ!?」
「なんで顔赤らめてるの、お姉ちゃん……」
才羽ミドリの指摘通り、才羽モモイは赤面していた。ケイは首を傾げている。
「いや、えへへ……アリスの顔で
「はぁ……? まあ、アリスは確かに美少女ですよね」
ケイは何を言っているのか分からない、というような顔で曖昧に頷いた。
「お姉ちゃん……まあいいや。私は才羽ミドリ、見てわかるかもしれないけど、お姉ちゃんの双子の妹です。絵が好きで、デザインやグラフィック全般を担当してます」
才羽ミドリが姉に続いて自己紹介をする。ケイは当然、ゲーム開発部のメンバーのことは知っているだろうが、特に何も言うことはなく、にこやかにそれを聞いていた。
「次私ですね!? 私は黒崎コユキです! セミナーと兼部で、SNS運用とかやってますよ!」
「は、はい……よろしくお願いします」
「?」
黒崎コユキの挨拶に対しては、
「? えと、わ、私が花岡ユズ。一応部長で、メインプログラマーもやってます……」
「はい。モモイにミドリ、コユキと、ユズですね。よろしくお願いします」
そして全員の自己紹介を聞いたケイは、噛みしめるようにそう言った。
──
「それで、ケイさん……一つ、聞いても良いですか?」
「勿論です。それと、呼び捨てで良いですよ」
自己紹介の流れが終わったところで、才羽ミドリに尋ねられたケイが頷きながらそういった。彼女からすると、ゲーム開発部の生徒たちから他人行儀にされると落ち着かないのかもしれない。
「そう? じゃあ、ケイ。えっと、アリスは今、どうしてるの? 最初にアリスっぽいこと言ってたのはアリス本人なんだよね?」
「はい。そうですね、普通に今も話を聞いていますよ」
そう言ってケイは瞬きを一度した。切り替わるまでの速度は正に瞬時に行われている、というように見える。
「こんな感じです! アリスは、ケイと一緒のことを感じていました。モモイが、ケイの笑顔に照れていたのも見ていました。モモイ、ケイの笑顔はアリスのものと違いますか?」
天童アリスに切り替わった彼女は、彼女らしい天真爛漫な笑顔で才羽モモイに尋ねる。
「その話引っ張らないでよー!?」
才羽モモイが再び赤面して叫んだ。妹はそんな姉の姿を再び白い目で見ていたが、
「でも、本当にアリスだ。……ふぅ、何だかほっとしたよ」
といって、少し笑った。
「それで……結局、ケイ……とアリスはいつから一緒だったの? 何かきっかけがあったんだとは思うけど……」
「正確には少し異なりますが、今のような状態になったのは、一昨日からです。つまり……あの暴走のようなことを起こしてしまったのは私なんです」
再び天童アリスからケイに戻った彼女が説明する。その説明をする彼女の姿を見るのは三度目だったが、彼女はその件に関し、ずっと罪悪感を覚えているようだった。仕方のない話ではあるが。
「え……」
「すみません。色々と考えてはいたのですが、あの時の私は一種のパニック状態で……ずっと待ち望んでいたことで合ったはずなのに、色々と迷惑をかけてしまいました。特に、マキとあの子には……ごめんなさい」
彼女はそう言って頭を下げた。
「大丈夫だよ! アリスとそのお話もしてたんでしょ? もし、マキに謝りに行くなら私も一緒に行くよ!」
「ありがとうございます、モモイ。その……謝罪は1人で行きますが、そう言ってくれて、嬉しいです」
「そう? じゃあ、それは頑張れって応援するしかないね? でも、じゃあアリスは今朝の段階で、もうケイのことは知ってたんだ? じゃああのリオ先輩やネル先輩が来たのも全部今回のゲームの演出だったの?」
「それは……まあ、似たようなものです。あのゲーム自体は即興で考えたものですが。私は先生の思惑に従って先生に付いて行きましたし、その流れでリオやネルと先生が繋がっていることも理解していました」
ケイは黙って遠くに座ってこちらの方を眺めている調月リオの方を見て、それからそう答えた。
「あのゲームそのものは即興で考えたものですから、演出、という訳ではありませんけどね」
ケイの回答に、才羽モモイは暫く首を傾げて話の内容を理解しようとする仕草をした後、
「ふーん……? まあ、いっか!」
と、理解することを諦めたようにそう言った。
「後さ……思ったんだけど」
「はい?」
才羽モモイは他にも気になることがあったようで。そのまま話を続けた。
「ケイって、あれでしょ。なんて言ったらいいのかな……
才羽モモイが言った言葉に、ケイは目を見開いた。
「……どうして、そう思ったのですか?」
「何でだろ……? 話したり、お話しているのを聞いたりしたら、そう思ったのかな? で、どう? あってるでしょ?」
「……そうですね、あっていますよ」
才羽モモイが満面の笑みになる。それを見て、ケイは何故か少し悔しそうな表情をしていた。