黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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エリドゥで過ごす夜①

『了解しました。サキにもテマは戻らないことを伝えておきます。お気をつけて』

「はい、よろしくお願いします」

 

 エリドゥの外で、FOX小隊の隊長であり、SRTの生徒達全体のリーダー的立場でもある七度ユキノに、二人が外泊する旨の連絡を行った。

 他にもいくつかの連絡をしたところで、近くのエレベーターが動く音がした。

 

「あー、先生! こんなところで何してるの!?」

 

 気さくな、そしてまだ聞き慣れない声を掛けられる。振り向くと、一ノ瀬アスナがこちらに接近してきているのが分かった。

 彼女は距離感が掴めていない、という予感がし、一歩下がる。案の定、駆け寄ってきた彼女が止まったのは、たった今まで私が立っていた場所だった。

 

「あれ? うーん……」

 

 一ノ瀬アスナが首を傾げる。

 

「アスナ、いきなり走るなって。あ? おう、先生がいたのか」

 

 後から追いかけて来た美甘ネルもこちらに気付いた。

 

「……こんばんは、先生」

 

 そして、もう一人、2人と同じくメイド服に身を包んだ彼女達の後輩がそう言って、丁寧に頭を下げた。

 

「おや、こんばんは。皆さんお出かけですか」

 

 挨拶を返し、尋ねる。

 

「買い出しだよ、買い出し。リオが備蓄はあるとか言ってたから確認したら案の定インスタント食品ばっかだったからさ。別にそれでも良いんだけど、折角のこんなイベントだからまともなモン食べたいだろ?」

 

 美甘ネルがそれに答えてくれる。それを聞いて飛鳥馬トキは殆ど無表情ながら、思うところがあったのか、口を開いた。

 

「……補足しますとリオ様が食べる分は用意がありましたが、流石に保存食以外でこれだけの人数の食事を賄うことはできない、ということです」

 

「それでね、とりあえず、なんだっけ? そう、カレーを作ろうってことになったの! トキちゃんとも仲良くなりたかったから、一緒に作ろうってリーダーが言ったんだよ!」

 

 そして、一ノ瀬アスナも曖昧なところがありながら、経緯を説明した。

 

「そういえば、トキさんとは、お二人も初対面という話でしたか」

 

 調月リオの話を聞く限り、C&Cでありながら、飛鳥馬トキはその存在をそのリーダーにすら知らされていなかった。ということらしい。

 

「まあな。話だけはちょっと前にリオから話だけは聞いてたけどな、直接会うのは初めてだ。リオが言うには献身的で優秀な良い子だってことだったけどよ……」

 

 美甘ネルが横に立つ飛鳥馬トキを曖昧な表情で眺めた。

 

「……間違ってますか?」

 

 視線に気付いた話題の人物は、そう言って首を傾げた。

 

「……いや、想像よりク(・)セ(・)強(・)な奴だなと思っただけで、リオの言葉を否定するつもりはねえよ」

 

「そうですか、それならよかったです」

 

 美甘ネルが一瞬言葉に詰まり、結局頬を掻いてそう言ったのを見て、後輩は表情を変えずに頷いた。

 

「じゃあ、先生も一緒にお買い物行く!? 一緒に仲良くなろ!」

 

 笑顔で二人の事を見ていた一ノ瀬アスナから脈絡のない誘いを受ける。

 とはいえ、C&Cのメンバーとも繋がりを作っておきたいと考えていたところでもあり、

 

「そうですね……折角なので同行させてもらいましょうか。荷物持ちくらいにはなれるでしょう」

 

 とはいえ、C&Cのメンバーとも繋がりを作っておきたいと考えていたところでもあり、私はその誘いを受けた。

 

 ──

 

 エリドゥの近くにまともな商業施設は無いようであるため、ここに来るときにケイを乗せていたシャーレの乗用車を用いて移動することにした。目的地は車で行けばすぐに着くだろう。

 

「結局さ、今回の騒動って一体何だったんだ?」

 助手席に座った美甘ネルが呟く。

 

「私はリーダーに誘われたから遊びに行っただけだよ!」

「そりゃそうだろ。アスナには聞いてねえよ」

「えーっ」

 

 一ノ瀬アスナは相変わらず楽し気にしており、一方飛鳥馬トキは黙って窓の外を眺めていた。恐らく、話は聞いているのだろう。

 

「……ケイさんや、ネルさん達と交流を深めるという目的があったことは掛(・)け(・)値(・)な(・)し(・)の(・)事(・)実(・)ですよ」

「……掛け値なしの事実って表現、素直に使われてるとこ見たこと無いな」

 

 私の発言は全く信用されず、彼女はこちらを向いたまま一人考え始めた

 

「ハブが飛んできたのが偶然だとするだろ。で、そこにはあたしや、アスナがいた。それだけじゃなく、超エリートのSRTのポイントマンまでいて、偶然それに対処できた。アスナがいたのはあたしがいたからで、クルミは偶々先生と一緒に来ていて、巻き込まれただけ……ここに来たのはケイがゲームを提案したから、か」

 

 徐々に彼女の私を見る目が厳しくなっているような気配が感じられた。

 

「で、あたしやヒマリがここにいたのは、リオに呼ばれたから。理由は、先生がケイについて話すため、つまり、先生が呼んだ……」

 

 声にもやや剣呑さが混じり始めたように感じる。ここで暴れられてはかなり困るのだが。

 

「なあ、先生。あんた一体どこまで考えていやがったんだ?」

 

 何かにたどり着いたようなはっとした表情で、彼女は私に尋ねた。

 

「クックック……」

 

 その様子が可笑しく、私はつい笑ってしまった。

 

「やっぱり……!」

 

「いえ、本当にそれらは偶然ですよ。リオさんに、何かあったら行動する前に一度私に相談してください、と言っていた。彼女はそれを守って一昨日私に連絡をしてくれた。それで、アリスさんを連れ出して話をしようとなった。ただ、それだけです。何かを企んで行動していた訳では無く、今日の様々な出来事は、私にとっても想定外の連続でした」

 

 しかし、正直に話す。ミレニアムでは本当に想定外のことが起こり続ける。結果として何とかなっているのは、生徒たちの個々の状況解決能力が高い事と、それこそ偶然の積み重ねでしかなかった。

 

「……はぁっ!? んだよそれっ!? じゃあ今のあのうさん臭い笑い方は何だよ!?」

 

「ああ、全てが繋がった、という雰囲気のネルさんが微笑ましくて、つい」

「微笑ましいって笑い方か!? あれっ」

 

 笑い方に関しては何度も言われているが、意識的に行っているものではない。こちらも直そうとしていないわけではないのだ。

 

「リーダー、運転中の車内ではお静かに」

 

 そして、後部座席の後輩で新人の飛鳥馬トキから、正論が投げかけられ、美甘ネルは憤慨した表情でこちらを睨みつけながら黙りこくった。

 それからすぐ、車は目的地のスーパーマーケットにたどり着いた。

 

 ──

 

「おし、着いたな。アスナはあたしに着いてきて、料理の食材を一緒に選ぶ係な、今回はちゃんとついて来いよ?」

 

 自動車を降りる頃には、憮然としていた様子だった美甘ネルも機嫌を直していた。物事を殆ど引きずらないタイプであるようだ。

 

「はーい! 選ぶのは任せて!」

 一ノ瀬アスナはリーダーの指示には従うようで、笑顔で頷いた。

 

「新入りは菓子とかジュースとかを先生と一緒に適当に選ぶ係をやってくれ。合宿だって浮かれてたチビ共が要求してくるに決まってるからな」

「うんうん! ジュースとお菓子はパジャマパーティには必須だよね! あれ、パジャマパーティだっけ? 合宿?」

「別にどっちでも似たようなもんだろ。という訳で、よろしく頼むな」

 

 二人が他愛もないような会話をしながらその場を離れて歩き出す。 

 

「……あの」

 

 飛鳥馬トキが、それを呼び止めた。

 

「どした?」

 

「その……どのようなものを買えば?」

「だからそれを選ぶんだって……あー、まあ、自分の食べてみたいもので良いんじゃないか? あいつらの好みは先生に聞いても良いし、ま、それを決めるのもメイドとしての仕事ってやつだ……っておい! だから勝手に移動すんなアスナ! お前がカゴ持ってるんだろうが!」

 

 美甘ネルは、飛鳥馬トキにいくつかアドバイスをした後、一ノ瀬アスナを追いかけて行ってしまった。

 

「……では、行きましょうか、トキさん」

「……はい」

 

 そして私たちは、指示通りに菓子売り場へと足を運ぶことにした。

 

 ──

 

「…………」

 

 スーパーマーケットの菓子売り場にある色とりどりのパッケージを、飛鳥馬トキが無表情で眺める。

 この店は品揃え豊富なのだろう。いくつもの陳列棚に多種多様なスナック菓子類が並べられており、彼女はいくつかのパッケージを手に取り眺めては元に戻していたが、買い物カゴには未だ一切の商品が入っていなかった。

 

「なかなか決められませんか?」

「はい……申し訳ありません」

 

 私が尋ねると、飛鳥馬トキは謝って頭を下げた。

 

「謝るようなことではありませんよ。ネルさんはトキさんが食べたい物を選んで良いと仰っていましたが」

「……はい、そうですね」

 

 そう言っても、彼女は棚の様々な所に視線を動かすだけで、結局商品を選ぶ様子は無かった。

 

「あまり気に入る物はありませんでしたか?」

 

 私がもう一つ尋ねると、彼女は首を振った。

 

「いいえ……その逆で、多(・)す(・)ぎ(・)る(・)の(・)です」

「多すぎる?」

「はい。今まであまりこういったものを食べたことが無かったので、どれもこれも魅力的に思えてしまい、全然選べません。どうしたら良いでしょう? 食べたい物を全部買えばよいのでしょうか?」

 

 飛鳥馬トキは真顔でそう言った。彼女の視線はこのコーナーの殆ど全域を見渡しているように見える。これを全部買う、と言っているのだろうか。

 

「……成程。まあ、順番に試していけば良いと思いますが、とりあえず今日のところはモモイさん達がよく食べているものをいくつか、買っていきましょうか」

「…………はい」

 

 飛鳥馬トキは、心なしか少し残念そうに頷いた。

 

 結局、見覚えのあるいくつかと、飛鳥馬トキが視線を釘づけにしていた何かしらのキャラクターの絵柄がパッケージを飾るチョコレート菓子をかごに入れ、飲料コーナーでも同じようなやり取りを繰り返した後、元の場所で美甘ネルらと合流することになった。

 

 一食分とはいえ、20人近くの食料品と菓子、ジュース類はかなりの量となり、結局私は荷物持ちとしても大した役には立たないため、支払いだけ行って、スーパーマーケットを後にすることになった。

 

 ──

 

「じゃ、先生。あたしたちはこれからカレー作るから、先生はまたどこかで時間潰すなり、仕事するなりしといてくれ、出来上がったら呼ぶよ」

「先生、またお買い物しようね!」

「……アドバイス、ありがとうございました」

 

 

 エリドゥへと戻ったC&Cはすぐに夕食の準備に取り掛かるため、私は3人と別れた。

 さしあたってすることは無かったので、私たちが最初に話し合いをしていた部屋へと戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

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