黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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エリドゥで過ごす夜④ セミナー 前

「ご馳走様でした!」

 

 C&Cの3人が作った料理による夕食会も無事に終わった。見た目が違いすぎる3種類のカレーについて議論が起ったり、それぞれの学校の食文化の違いについて会話が交わされたりと、賑やかではあるものの平和な食事会となっていた。

 

 それが終わり、片付けも粗方済ませると、自由時間という事になった。

 

「エイミ、トキ! これからゲーム大会だよ! 今日は寝かせないからねー」

「はい。よろしくお願いします」

「ふわぁー……」

 

 

 ゲーム開発部の生徒たちは今まであまり交流の無かった飛鳥馬トキと和泉元エイミをターゲットにしたようで、いそいそと部屋へと連れていくのが見えた。寝かせない、と言われているが既に和泉元エイミは欠伸をしている。

 そして飛鳥馬トキはスーパーマーケットで彼女の視線を釘づけにしていた菓子袋を抱えながらそれに付いて行っていた。

 

 また、他の生徒たちも各々で好きに過ごすようだ。

 

 そして、私はと言えば当然のように早瀬ユウカに呼び出されていた。調月リオも同じく呼び出されているようなので、恐らくは今日の首謀者に対する事情聴取、といったところだろう。

 何をどれだけ話すべきなのか、という点についてケイや調月リオと事前に話をしておきたかったが、2人ともにそのような状況では無かった。

 

 ──

 

 指定された部屋に向かう途中、2人と同じくセミナー所属の生塩ノアが私とすれ違うように歩いてきた。

 

「こんばんは、先生。ユウカちゃんと会長とお話するんですよね?」

 

 私に気付いた生塩ノアが、にこやかに頭を下げた。

 

「ええ、ノアさんは同席されないのですか?」

 

 言われてはいなかったが、生塩ノアもセミナーの幹部であるため、今からの話に加わる可能性はあると思っていた。

 

「はい。さっき三人で、少しお話はしましたけど。ふふっ、この後はお説教みたいなので、私は退散させてもらいました。それに、ちょっと別の方に呼ばれていました」

 

 生塩ノアは、微笑んでそう言った。

 

「成程、そうなのですね」

「はい……」 

 

 そう言う事であれば、私も特に彼女に用事があるわけでは無い。しかし、ふと、彼女の視線が気になった。

 

「何か気になる事でも?」

 

 彼女は、私の顔を見て、何かを考えるような表情をしていたのだ。そういえば、最初に会った時も似たような事があった。

 

「あ、ごめんなさい。何でも……いえ、一つお聞きしても良いですか?」

 

 彼女は少し迷うようなそぶりを見せた後、そう言った。

 

「勿論です。どういった内容ですか?」

 

 私の返事に、生塩ノアは再度悩むような仕草をした。深い付き合いがあるわけでは無いが、あまりそのような様子になることが想像できなかった人物だった。

 

「その……雲を掴むような話なのですけど、先生は、前(・)世(・)の(・)記(・)憶(・)、というものを信じますか?」

 

 そして悩んだ末に彼女の口から出た言葉がそれだった。確かに聞くのに躊躇するような話だろう。そしてまた、彼女のイメージからは程遠いものだった。

 勿論、それは私にとって聞く価値の高い物であることも間違いなかった。

 

「前世の記憶、ですか? そういうものがあるという事を否定する材料はありませんが……そう聞かれるという事は、ノアさんは前世の記憶をお持ちなのですか?」

 

「…………正確には、それが前世の記憶、なのか分からないんです。今まで知らなかった事を知っているような気がしたり、何か事件があったときに、それについて前にも同じことを経験したことがあるようなことがあって」

 

 生塩ノアの語った内容は、これまでに何人かの生徒から聞いていた内容に似ている部分があった。最も近いのは狐坂ワカモのそれだろうか。

 

「それは、デジャヴのようなものですか?」

「はい、そうですね。感覚としてはそれに近いものだと思います」

 

 生塩ノアが頷く。ただ、それだけではないだろう。

 

「ふむ、それ自体は脳の働きとしておかしいことではありませんが、そのような勘違いではない、と感じているということでよろしいですか?」

 

「あ……はい、その通りです。実は、私今まで、一度見たことを殆ど忘れたことがありません。物心ついたころからの記憶がずっとあって、なので今まで『見たことある気がする』というような経験をしたことが無かったんです」

 

 物覚えが良い、というのは聞いていたが完全記憶能力、あるいはそれに類する能力を持っているのか。本人が『自分の勘違いである』ということそのものの存在を疑うレベルであるならいずれにせよかなりのものだ。

 

「それが、起こるようになったと。何かきっかけのようなものに心当たりのようなものはありますか?」

 

「それが……お気を悪くなさらないでくださいね。先生とお会いした時に初めて感じて、それ以降、頻繁に、というほどではありませんが、よく起こっているような気がします。それで……」

 

「私に心当たりがないか、聞きたかった、ということですか」

 

「……」

 

 彼女は不安そうに頷いた。つまり、彼女はこの件について真剣に悩んでいる。あるいは彼女にとって自身の記憶とは、他人以上に重要なアイデンティティである可能性もある。明確な回答は出せないが誤魔化すべきでもないだろう。

 

「心当たりはあります」

 

「え……」

 

 そして伝えた私の答えに、彼女は戸惑ったような声を上げた。予想外だったのか、あるいは私に心当たりがあったとしても、教えてくれはしないだろうと思っていたのか。

 

「ですが、単に仮説がある、というだけですし、ノアさんの話の何(・)倍(・)も(・)荒(・)唐(・)無(・)稽(・)な(・)話(・)をすることになりますので、今ここでそれを話す、ということは出来ません、ご理解いただけますか?」

 

「は、はい……そうですね、立ち話でするような話でもありませんでした、申し訳ありません」

 

 彼女はそう言って頷いたが、その様子は、更に落ち込んでしまったように見えた。突き放すような言い方になってしまったからだろう。

 

「ノアさんが謝ることはありません。上手く伝えられない私側の方に問題があるのですから。……そうですね、近いうちに何かある程度お話が出来るようになればとは思っています。それと、それまでの間、気休めを一つだけ」

 

「え?」

 

「そう言った既視感について、あまり気にしすぎないことです。私の仮説が正しければそれはノアさんが持つ今までの記憶以上に大切なものではありません」

 

 我ながら意味不明な言葉になってしまった。生塩ノアは私の言葉をどのように理解したのか、暫く沈黙したま思案顔をしていたが、不意に表情に笑みが戻った。

 

「ありがとうございます。直球でそういったことを言ってもらえるとは思っていなかったので、少し考えてしまいました」

 

「気休めに効果があったのであれば、幸いです。仮説についても、今度機会を見つけて必ずお話します。その際は他に何人か同席してもらうことになるかもしれませんが……」

 

 何人かの生徒の顔を思い出しながら、私はそう言った。彼女は私の様子に少し首を傾げたが、

 

「はい。お待ちしていますね」

 

 と、そう言って頭を下げた。

 

「……さて、そろそろ2人が待ちくたびれているかもしれません」

 

「そうですね、お引止めしてしまい、申し訳ありません」

 

「いえ、とてもいい機会でしたよ。ノアさんも何方かに呼ばれているところだったのでしたか」

 

 気になる話ではあるが、お互いに人を待たせている。続きはまたいずれにすべきだろう。

 

「はい、ウタハ先輩に呼ばれていて、理由は分かりませんが先輩の試練があった場所に」

 

「成程……では、後で少し私も覗いて見ることにしてみましょう」

 

「はい、ウタハ先輩にも伝えておきますね」

 

 最後に生塩ノアと別れの挨拶をして、調月リオと早瀬ユウカ、2人の待つ部屋へと向かった。

 

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