黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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イオリの足をどうしたのか、という気になっている方が多いだろう部分に関する補足です。
黒服先生のノリがちょっとおかしいので、「こういうことがあったかもしれない」という話です。


おまけ ゲヘナへの布石

 カイザーの掘削拠点への訪問の数日前、私はゲヘナ風紀委員へと赴いていた。

 

 空崎ヒナへ大まかな計画と起こりうる事態の事前説明のためだったが、電話でアポイントを取ろうとしたところ、多忙であると電話口の相手に断られてしまったので、直接訪問したのである。

 

「お前、委員長は多忙だって言われただろう!?」

 そして、訪問した際に現れた人物は、何の偶然か銀鏡イオリであった。

 

「おや、イオリさん。知っている方がいてありがたい。ヒナさんにお話があるのですが……」

「話を聞け! 委員長は忙しくてお前なんかに会う暇はない!」

「それはご本人の意志を確認されたうえでのことですか?」

「う……」

 

 銀鏡イオリは嘘がつけない人間のようだ。

 

「と、とにかく。忙しいのは本当だ。都合のつく日はこっちから連絡するから帰ってくれ」

「ふむ。そうですか……。では、代わりにイオリさんに話を聞いていただくというのはどうですか?」

 話を聞けば恐らくこの生徒は空崎ヒナへ内容を伝えるだろう。私としてはどちらでも問題はなかった。

 

「はあ? 何で私がそんなことを……」

「駄目ですか?」

「嫌だ。どうしてもというなら土下座して足でも舐めてもらおうか」

 銀鏡イオリがはっきりと否定の意志を示しながら意図不明な提案をしてきた。

 

 

「足を舐める……? 汗を提供してくれるということですか?」

「は?」

「成程成程。しかし残念ながら、舐めて成分分析ができるほど敏感な舌は持っていなくてですね」

「何?」

「折角なら皮膚の一部とかいただけませんか?」

「ひっ、何言ってるんだお前!?」

 銀鏡イオリが自分から言い出した提案にも拘らず顔色を悪くする。

 

「駄目ですか……どうしてもですか?」

 心底残念そうに聞く。

「どうしても駄目に決まってる!」

 

「どうしてもと言うのであれば、空崎さんへのアポイントをとってもらえませんか?」

「な、そ、それは……いやいや、それはおかしいだろ!? なんでお前に主導権移ってるんだよ!」

 銀鏡イオリはたっぷり逡巡してから、違和感に気付いたらしい。恐らく黒見セリカの同種だろう。

 

「バレましたか。ではお足を失礼しますね」

 そう言って、跪き、足に触れる。

「はあ!? お前何を」

「どうしても舐めてほしいとおっしゃるので、そうして差し上げようかと」

「そんなこと言ってないぞ!?」

 銀鏡イオリが再度大声を上げたとき、

 

「何の騒ぎ?」

 空崎ヒナが現れた。

 

 

 空崎ヒナがその場に現れたとき、私は跪いていて、銀鏡イオリは私の手を振りほどくため、足を上げていた。

 傍から見ると、土下座している私を銀鏡イオリが蹴り飛ばしているように見えたかもしれない。

「……何をしているの?」

「い、委員長!? 違うんだその……」

「こんにちはヒナさん。今イオリさんに交渉術の基礎をお教えしてまして」

 私は立ち上がり、何事もなかったかのようにそう言う。

 

「そ、そう。それで、先生がどうしてここに?」

 空崎ヒナは理解できないと言いたげだったが、首を振ってそう尋ねる。

「少し、貴女にお話がありまして。お忙しいとのことでしたので機会を改めようかと思いましたが……」

「良いわ。今聞ける話なら聞く」

 最近関わった生徒の中で類を見ない話の分かる生徒だ。

「ありがとうございます。実は近々……」

 

 

 そして私は、計画の概要を伝えた。アビドスとカイザーのこと、そして起こりうる紛争の話を。

「……そう。大体わかった。そんなことになっていたのね。つまり、早速恩を返せる機会をくれるという話?」

「有体に言えば、その通りです。もしアビドスの地で理不尽に学生を襲撃する大人が現れたとき、多少でもお力添えをいただけないかと思いまして。どうか、お願いいたします」

 気付けば、私は頭を下げていた。そうするべきだと思ってしまったのだ。

 

「頭を上げて、先生。そうね、風紀委員として介入するのは難しいかもしれないけど。何か考えてみるわ」

「……ありがとうございます」

 

 そして銀鏡イオリは複雑な表情で、そして空崎ヒナは笑顔で、会合を終えた。

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