黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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エピローグ① 日常への帰還

 エリドゥで過ごした夜が明け、翌朝早く。調月リオを除くセミナーの生徒たちと美甘ネル、一ノ瀬アスナが、エリドゥを後にした。それぞれに新たに増えた仕事や元からしなくてはならないはずの仕事が多くあるようだった。

 

 調月リオはエリドゥの管理者であるために残ったようだが、主に早瀬ユウカとのやり取りの末、音信不通状態については改善すると約(・)束(・)を(・)さ(・)せ(・)ら(・)れ(・)た(・)らしい。

 

 そして、シャーレから来ている私や、高倉クルミとテマもまた、同じように早朝にシャーレへと戻ることになっていた。

 私も予定外の外泊で仕事に遅れが発生しており、高倉クルミも今日には通常通りの隊に復帰したいと希望したためだ。

 

 明らかに寝不足の表情を浮かべた黒崎コユキが生塩ノアに引っ張られながらエリドゥを出ていくのを見送った後、その場で待っていると、2人と、そして彼女達と同室だったはずの、白石ウタハ、そして各務チヒロが連れ立って現れた。

 

「おはようございます、クルミさん、テマさんはお疲れのようですね。それと、お二人も帰られるんですか?」

 

 目を擦っているテマの手を引く高倉クルミと、3年生2人に話しかける。

 

「おはよう。2人は何かお見送りに来てくれたみたいよ」

 

「昨日やるべきことはやったし、早く行く必要はないんだけどね。折角仲良くなったから」

 

「ま、私一人残ってもね。コタマは勝手に明け方まで起きてたみたいで爆睡してるし、リオもヒマリも……何してるか知らないけど2人していなくなってたし」

 

 白石ウタハがいつものように穏やかに、そして各務チヒロは少し面倒そうな顔を見せながら、答える。いずれにしても、良好な関係を築けていそうで良い事ではあるだろう。

 

「ほらテマ、挨拶くらいしなさい」

 

「んあ……うん。手前は帰りますけど、なかなか楽しませてもらいましたよぉ……。ウタハちゃん、チヒロちゃん、またお会いしましょう……」

 

 クルミに促されて、テマが彼女らしい、独特な挨拶をした。

 

「うん、また会おう、テマ。今度はもっとウチの部活の紹介をしたいところだし、また遊びに来たら良い。歓迎するよ」

 

「はいはい。ヴェリタスに来ることは無いだろうけど、また会ったらよろしくね」

 

2人はそれぞれに手を差し出し、テマと高倉クルミとそれぞれ握手を行った。

 

「先生も、また近いうちに会うことになるかもしれないけどよろしく」

「シャーレにうちの子が何か迷惑かけたらすぐ連絡してね」

 

 そして、その流れで、私も二人と手を交わし、私たちは私の乗ってきた車でシャーレへと戻った。

 

――

 

 その日の夕方、七度ユキノと不知火カヤとの定例のSRT幹部会議の中で、私は2人に昨日の事の説明を行った。

 

 隊長に許可を得たものの、SRTの生徒に予定時間外の任務を任せてしまった事に関する説明は必要であった。勿論のこと、高倉クルミの見た範囲でのこと以上については、調月リオに許可を得た範囲でのみの説明に留めてはいるが

 

「……成程、ミレニアムが一層強固な防衛力……即ち軍(・)事(・)力(・)と、既存のあの学校のセキュリティを突破しうるレベルのAIを得た、ということですか」 

 

「連邦生徒会には説明しづらいですね。防衛室長の立場としては問題視すべきなんでしょうが、個人的にはまだミレニアムで良かった、と言う印象ですね。三大校にあって中立というか、勢力拡大の野心も紛争の危険も比較的少ないですし。最近はまあ、今までに見ないほど落ち着いていると言えますが」

 

 私の説明を受けて、2人がそれぞれ所感を述べた。

 

「お二人が気にするのはやはりそこですか。」

 

「先生のお仕事内容について、口出しすべきことは他に特に思いつきません」

 

「というか、さらっと言い過ぎなんですよね。キ(・)ヴ(・)ォ(・)ト(・)ス(・)全(・)体(・)が(・)危(・)機(・)を(・)迎(・)え(・)る(・)可(・)能(・)性(・)が(・)高(・)か(・)っ(・)た(・)というようなことを。トリニティとアリウスでの件もそうですが。結局各校と、連邦生徒会のパワーバランスを考える方がまだ理解しやすいから口に出しているだけとも言えます」

 

 2人の意見は、私のすることに関して信用している、と取れる表現だった。

 

「そうですか、ありがとうございます。ミレニアムに侵攻や武力による領地拡大の意図が無いのは個人的には間違いないと思っています。一番の問題はハブに影響を与えたAI……デカグラマトンの動向が分かっていないという事でしょうね」

 

 肝心のデカグラマトンについては、未だ殆ど分かっていなかった。ケイが何かを知っていて、手を打っている様子であったが、それについて詳細は不明のままだ。

 

「……H(・)A(・)M(・)S(・)T(・)E(・)R(・)小(・)隊(・)*1を使いますか?」

 

 七度ユキノが提案する。スカウトチームであるHAMSTER小隊は、現在は連邦生徒会長の捜索を中心とした任務にあたっている。彼女達を利用することを考えないこともなかったが……

 

「今のところ、そのつもりはありません。ミレニアムの専門チームが事に当たっていますから、そちらからの報告を待ちます。彼女達にも、今の任務がありますからね」

 

 加えて、この世界の連邦生徒会長が私の知る人物であるかも定かではない。そちらの捜索についても私にとって意義のあることには違いなかった。

 

「……そうですね。では、何かご協力出来ることがあったときは、仰ってください。あの子達も、協力は惜しまないと思います」

 

 七度ユキノは少し残念そうにそう言った。不知火カヤが彼女のそのような様子を見て、含みのある笑みを浮かべた。

 

「カヤ、何か言いたいことが?」

 

「いえ、ユキノが最初は先生や私の裏を暴いてやるとか息巻いていたのを懐かしく思っただけですよ」

 

「……今からでも暴いてやろうか?」

 

「おお、怖い怖い」

 

 2人は表面上剣呑な会話を交わし、その後おかしそうに笑った。

 幹部会議はそれで終了となった。

 

――

 

それから数日後、シャーレの事務室で遅れを取り戻すべく事務処理を進めていると、よく知る声が室内に響いた。

 

「先生! 今日もお手伝いに来たよ!」

 

 数日前からここ何日か、ゲーム開発部の生徒たちは、来ることのできない先輩の代わりにシャーレへと順番に訪れていた。

 

「今日はみんなも一緒に来たんだよ! あ、セミナーのお仕事から逃げて来てたコユキはユウカに連れてかれたけどねっ」

 

 彼女の言う通り、事務室には続々とゲーム開発部の部員たちが顔を見せた。彼女の妹である才羽ミドリ、部長の花岡ユズ。天童アリスも当然来ている。そして最後に、何故かメイド服姿の飛鳥馬トキも入室し、慇懃に礼をした。

 

「……トキさんもゲーム開発部に?」

 

「そうだよ! って言いたいところだけど」

「そ(・)う(・)で(・)す(・)」

才羽モモイが返事をしかけ、それを遮るように当の本人がそれに答えた。

 

「そうなの!?」

 

 才羽モモイが驚いている。他のメンバーも同様のようだが、一体、何だと言うのだろうか。

 

「はい。リオ様には許可をいただいています」

 

「でも、トキちゃん、メイド部はやめちゃったの?」

 

「いえ。ですが、ミレニアムでは兼部が認められていますので」

 

 才羽ミドリの質問にも彼女は淡々と答える。

 

「でも、どうして、いきなり?」

 

 花岡ユズがおずおずと尋ねる。

 

「……この前の夜にやったゲームが、楽しかったのです。それと、リーダーにもっと色々な経験を積んだ方が良いと言われたので、そうしようと思いまして。ですから、体験入部と言う形で入れてもらえませんか?」

 

「…………そっか、じゃあ、よろしくね」

 

 そして、飛鳥馬トキの言葉に彼女は笑顔で頷いた。

 

「トキが仲間になった! ですね! アリスも嬉しいです!」

「あはは、びっくりしたけど、歓迎だよ、トキ! よろしくね」

「一緒にいろんな経験できるといいね、トキちゃん」

 

 シャーレの事務室で、ゲーム開発部の生徒たちが新たな部員を歓迎している。それは結構なことではあるが、一つ疑問が残っていた。

 

「それで……結局のところ、トキさんはゲーム開発部の方たちとは別の用件でいらっしゃったのですよね? どういったご用件で?」

 

「あ、そうでした。リオ様からご伝言がありまして、それを伝えるついでに、一度シャーレに来てみようと思ったのです。」

 

 私の質問に飛鳥馬トキは答える。

 

「伝言ですか?」

 

「はい。……準備が出来たので、先生とケイの都合が良い時に、エリドゥへと来てほしいとのことです」

 

 飛鳥馬トキが私に伝言の内容を伝える。当然そこにはゲーム開発部の生徒たちもいるので、彼女達の視線が天童アリスへと注がれた。

 天童アリスは一瞬首を傾げると、瞬きを一つした。

 

「やはりその件ですか。承知しました、ケイさんも大丈夫ですか?」

 

「……はい」

 

「では、日程は後で相談して決めましょう。リオさんにはこちらから連絡するとお伝えください」

 

「承知しました」

 

 調月リオの用件。それは、天童アリスとケイの身体を分離させる準備が終わったという事を知らせるものだった。ゲーム開発部の生徒たちにも既に伝えているのだろう。どことなく寂しそうに感じている気配が彼女たちの間に漂っていた。

 

「さて、モモイも言った通り、私たちは先生のお手伝いに来たはずでしょう。さっさと始めますよ。先生、何をすればいいですか?」

 

 ケイがその空気を払拭するように言葉を発する。

 

「そうですね……では、カフェを少々模様替えしようと思っていたので、手伝ってもらえますか?」

 

 私もそれに合わせ、彼女達に頼みごとをする。大人数いた方が都合の良い仕事が丁度あったことがありがたかった。ゲーム開発部の生徒たちも沈んだ空気を弾き飛ばすようにそれに乗った。

 

 そして、そのようなことがあった3日後、私は再び、天童アリスとケイと共に、エリドゥへと足を運んだ。

 

 

*1:
SRT特殊学園シャーレ支部に所属する2年生の部隊。主に調査任務を担当する。

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