「こんにちはー! 先生の求めに応じて元宮チアキが馳せ参じましたよ~! 写真のことでアドバイスが欲しいって聞きましたけど、どなたからの要望……」
元宮チアキからの返信から10分も経たない内に、シャーレの事務室に彼女が威勢よく現れた。彼女はしゃべりながら室内を確認し、私たちの座るテーブルにいる二人の生徒に気が付いた。
「あれっ!? 先生! そこに座っていらっしゃるのは
「う、うわぁ!?」
いきなりの大騒ぎ(喋っているのは1人だが)に伊草ハルカが混乱し、血走った目で元宮チアキにショットガンを向けていた。
「ハルカさん、落ち着いてください。万魔殿の役員を攻撃したとなると問題になるかもしれませんよ」
「あ……ご、ごめんなさい! て、敵襲かと……」
伊草ハルカが大人しく銃を下ろす。
「……美味しい」
そして、秤アツコは斯様な混乱はアリウスで良く経験していたのか、特に動揺することなく、彼女が選択した紅茶を堪能しながら二人の様子を眺めていた。
──
「ふぅ……」
元宮チアキがコーヒーを飲んで一息ついた。
「落ち着きましたか?」
「はい! 色々な意味で落ち着きました! カメラの話とか聞かれることがあんまりないのでウキウキしてました!」
小声には程遠いが、入室時よりは僅かに声量を落とし、元宮チアキが釈明した。
「それで、結局どなたがカメラを……?」
「あ、それは私だよ。学校紹介用の写真を撮りたいんだけど、ちょっと微妙で……とりあえず見てもらっても良い?」
秤アツコがそう言い、先ほど私たちに見せた写真を元宮チアキへと渡した。伊草ハルカと意見の合っていた花の写真は、今回は意図して含めているようだ。
「ありがとうございます~。どれどれ…… ふんふん。……お、これは……」
元宮チアキは楽し気に写真を1枚1枚確認し、花の写真で一瞬手を止めた後、一つ一つにコメントはせずに最後の写真まで眺めていった。
「ありがとうございます! アツコちゃん!」
「うん。どうだった?」
笑顔で写真を返却した元宮チアキが、秤アツコに当然感想を聞かれる。いつの間にか『アツコちゃん』と呼んでいるが、彼女の中では既に友達判定なのだろう。秤アツコもまったく気にしている様子は無かった。
「うーん、そうですね……そもそも、私もカメラや写真にそこまで詳しいという訳じゃないんですが……よく撮れてると思います! 手振れが激しいとか、ピンボケしてるとかはなくて、ちゃんと被写体もキレイに収まってますし、普通に問題ないと思います! 逆にアツコさんは、どういうところが良くないとおもったんですか?」
彼女も私と同じことに疑問を感じたのか、秤アツコに問いかける。
「うん、その……チアキさんの新聞の写真を見て、迫力とか……臨場感が違うような気がして。はっきりとは言えないんだけど……」
結局答えが出てこなかったことに、秤アツコが落ち込み気味で答える。
「へ? 私のですか!? そ、そう言えば先生がそんなことをちょっと書いてましたね!? だとするとちょっと責任重大ですね、下手なことは言えません! うーん……強いて言えば、構図が似てるのがちょっと気になりましたね」
実際のところは、彼女の中で答えが無いわけでは無かったようだ。悩むそぶりは少しだけ見せたが殆ど時間を使うことも無く、指摘箇所を上げた。
「構図?」
「はい。勿論全く同じ、では無いですけど。建物とか、大きな構造物は真正面から全部収まる写真、人の写真はその人を真っすぐ正面から撮った写真! って感じで、勿論それが悪いという訳じゃないんですけど、どういう写真が撮りたいか、というので少しずつ変わってくると思うんですよね」
「そうなんだ……」
「はい! あ、ちょっと待ってくださいね」
元宮チアキはそう言って、鞄の中を探り出した。そして取り出したのは、彼女が書いている週刊万魔殿のバックナンバーだった。
「アツコちゃんが見てくれたのってこれですか?」
新エデン条約の特集が載っている新聞を取り出し、元宮チアキが尋ねた。
「うん、いつもより写真が多めで、私も関係することだったから気になって」
「あれだけのイベントに参加できる機会、万魔殿でも中々無いですからね! それで例えば、このポルタパシスの写真です! アツコちゃんの写真は出来る限り全体を撮ろうとしてるんだと思うんだけど……」
「うん」
「私は修復されたモニュメントが目立つような角度で、少し下から見上げるような構図で撮りました!」
「あー、確かにそんな感じだね。角度とかが大事なのかな?」
「他にも幾つか同じものを撮りましたけど、見ますか?」
「見せてくれるなら、勿論」
「勿論ですよ!」
元宮チアキが彼女のスマートフォンをテーブルに置き、写真を表示させる。
「編集用にデータをスマホに写しておいて良かったです!」
そう言いながら、いくつかの画像をスライドさせていく。同じポルタパシスを撮影した画像が、10枚以上保存されていた。
「良さげな奴もあれば微妙な奴もあるでしょ? だから、動かないものならいろんな角度やタイミングで何枚も同じものを撮って、一番良いのを選ぶっていうのもアリだと思います! まあ、私の趣味程度だと、ってことでもありますけど」
「なるほど……勉強になる」
「なら良かったです! えーと……後は……すぐには思いつかないですね。でも、一番良いのは実際に
アドバイスはもう終わりか、という空気になったところで、元宮チアキが秤アツコに提案した。
「え、そこまでしてもらって良いの?」
「はい! どうせこの辺りをぶらついて記事のネタ考えようとしていたので、寧ろ是非って感じですね!」
「じゃあ、お願いしようかな。ハルカはどうする? あれ、ハルカ?」
秤アツコは隣に座っていた伊草ハルカに話しかけるが、しかし彼女は自分が蚊帳の外に置かれていることに安心していたようだ。彼女が一番気に入っていたという花が写っている写真をじっと眺めていた。話しかけられていることに気付かず、彼女にしてはかなり穏やかな表情をしている。
「良いですね~」
その様子に何かを感じ取ったのか、元宮チアキが彼女のデジタルカメラで伊草ハルカを撮影した。
「わわ! 凄い良い感じの写真が撮れましたよ! 見てください。題して、写真の花を愛でる少女!」
「ほんとだ。……これも角度とか、光の入り方とかが良いのかな。すごく絵になってる気がする」
「という訳で!
「うあ!? え、な、なんですか? びしょ?」
元宮チアキの感嘆符付きの声で漸く伊草ハルカは自分が呼ばれていること気付いた。それを見て笑顔で元宮チアキが勧誘する。
「折角なので一緒に写真を撮りに行きませんか? その写真みたいな良い物が撮れるかもしれませんし、好きな物を写真で残すのも、結構楽しいですよ!」
「え、えーっと……わ、私は」
伊草ハルカはちらと私の方を見た。陸八魔アルがシャーレで待っているよう言ったことを気にしているのか、或いは単に行きたくないかのどちらかだろう。
「先生も行ってくれるんだよね?」
それに気づいた秤アツコが、いきなり私の予定を確定させた。しかし……
「そうですね。そうすると事務室は一旦締めることになりますので、ハルカさんも行きませんか? カフェで待っていても良いとは思いますが、アル社長には私からも連絡できますので」
と言い、それに乗ることにした。伊草ハルカは写真に興味が無いわけでは無いようだったし、陸八魔アルが彼女をここに来させたのも、あるいは誰か他の生徒との交流を期待しているのかもしれない、と思ったからだ。
「は……はは、はい。そういうことであれば、ご一緒させてもらいます……」
伊草ハルカは先ほどの穏やかな表情とは一変、いつものやや引き攣った表情を浮かべながら、一緒に来ることに同意した。
そして、全員の同意を得て、見慣れないグループによる突発的なシャーレ周辺撮影スポット巡りが始まったのだ。
尚、元宮チアキが撮っていた『