ある平日の夕方、シャーレの会議室に、数人の生徒達が集まっていた。
目的はとあるイベントの準備のためであり、ひとしきり揃ったメンバーの中で、進行を務めようと一人の生徒が口を開いた。
「えー、……という訳で、今回皆に集まってもらったのは。なんと私たち『
トリニティの生徒会長の1人であり、シャーレ内の
「あの……二つほど質問いいですか?」
ゲヘナ給食部部長の愛清フウカが挙手する。今日も給食部の活動を終えてきた彼女は、非常に疲れた表情をしていた。
「う、うん。どうぞ」
「まず、えっと、この集まりをその呼称のままで続けるの、流石に恥ずかしすぎるというか、え、本当にこの名前になっちゃったんですか……?」
本人の名前がついているサークル名に対しては、流石に思うところがあったらしい。彼女は赤面してその確認をした。
「あ、ごめんね!? 分かりやすいかなと思ってグループ名のままで呼んじゃったけど、まだサークル名は仮のままだから! ね、先生!?」
「はい、そうですね。そのように聞いています。」
慌てる聖園ミカに、私は頷いて事実を答えた。
「よ、良かった……あれ、でもそしたらまだ公認サークルにはなっていないってことですよね?」
愛清フウカはほっとしたように溜息をついたあと、首を傾げる。
「そうなりますね。」
「やっぱり、だとしたら何で万魔殿の議長がこのサークルのこと知ってるんですか!? 私、後輩以外には誰にもみんなの事話してないですよ!?」
愛清フウカがそう言っているのは、つまり、この案件が
さて、彼女の言葉に、生徒たちの視線がある別の生徒へと集まっていた。
「え!? 私ですか!? いやいや、違いますって! あれは取材じゃないんで、外には何も言ってないですよ?」
視線の先、クロノススクールの川流シノンがオーバーリアクションで首を振って否定した。
「でもさ、マスコミちゃん。プライベートのアカウントの方で料理教室参加してきた~! とか言ってなかった?」
「え、何で知ってるんですか? 後、マスコミちゃんじゃなくてシノンでお願いします!」
聖園ミカの指摘に川流シノンが目を丸くする。
「それは当然、見たからだよ。
「それ、前ウチがミカに同じようなこと言った覚えあるわね」
ジャブジャブヘルメット団の河駒風ラブが得意げな聖園ミカに、呆れたように指摘を入れる。
「で、でも、私はただ
川流シノンが必死に弁解する。トリニティの生徒会長に嫌われでもしたら彼女のキャリアに大いに響くことだろう。
「まあ、犯人捜しは辞めにしましょうか。私も含めて、このことに関しては特に口止めをしていたわけでも無いのですから、友人に伝えたりSNSで話題に出したりはあるでしょう。万魔殿の情報網は馬鹿になりませんから、そう言った些細な情報で、フウカさんにたどり着いてもおかしくはありません。フウカさん、申し訳ないですが、ご納得いただけますか?」
愛清フウカ自身も、後輩に話していると言った。それだけでなく、彼女がシャーレに来たことを他のゲヘナ生が見ていた、といった可能性も十分ある。そもそも、万魔殿に対して知られないようにしよう、などとは手を打っていなかったのだ。
「あ……そ、そうですね。私は全然大丈夫です。ちょっと気になっただけだから……それに、どちらにしても給食部が動員されることになるのは明らかだったので、またこうして皆と一緒に料理出来るのは嬉しいです」
「フウカちゃん……!」
愛清フウカが少し顔を赤くして言った言葉に、聖園ミカが感極まった表情をしている。相変わらずこの二人の関係はよくわからない。
「気持ちはありがたいんだけど、うちからも質問良い? メンバーはこれで全員なの? 前の時もう何人かいなかったっけ。後、前の時いなかったのもいるみたいなんだけど……」
「あ、はい。それは私が説明しますね。」
河駒風ラブの続いての質問に答えたのは、SRTの月雪ミヤコだった。
「ユキノ先輩は別のお仕事があって、今日は参加できないとのことです。カヤ支部長は今回の件について連邦生徒会と話をしてくるそうで、不在にしてます。お二人とも、協力はしてくれるとのことですので、今日決まった内容については責任をもって二人に伝えます。ホシノさんとユウカさんは……グループチャットで連絡のあった通り、忙しくて参加できないみたいですね。」
月雪ミヤコが優等生らしく的確な説明を行う。真面目な時は真面目が出来る生徒だ。
「うん、それは分かったけど、あんたのとなりでずっと泣きそうな顔してるのはなんなのよ」
前回参加していなかった人物が一人、月雪ミヤコに連行されて来ていた。
「あ、ヒヨリさんはカフェでリラックスしていたので連れてきました。アリウスの方の意見も聞いたほうが良いと、先生が仰っていましたので」
他のアリウス生達はカフェに居つくことはあまり無いが、槌永ヒヨリだけは雑誌のバックナンバーなどがそれなりに揃っているこの場所が好きなのか、よく一人で読書をしている。それを月雪ミヤコが連れて来たのだろう。
「うわぁぁん!? ……え、そうだったんですか?」
「……え、2回くらい説明しましたよね?」
「え、えへへ……そうでしたっけ?」
槌永ヒヨリが誤魔化すように笑った。恐らく連れて来られている間にまた自分の世界に入って世を儚んでいたのだろう。
「ふーん。ま、良いわ。シャーレにはお世話になってるし、
河駒風ラブが質問を続ける。そこですぐ「協力しても良い」と言えるところが、彼女の不良生徒らしくないところだ。
「合わせて私からも質問よろしいですか? そもそも、このパーティーはどういう経緯で開かれることになって、どのくらいの規模で行われる予定なんですか? 『フウカちゃん先輩』からの謝罪のようなお願いのようなチャットでもってこうして集まったわけですけど……」
「フウカちゃん先輩!?」
月雪ミヤコも便乗して質問した。彼女のは質問というより詳しい経緯を話してほしいという要望だろう。
「経緯については、私から説明しましょぅ。元々、新エデン条約の締結がうまく行った暁には、関係者を招いてパーティーをしようという話自体はあったのです。実際は当日まであまりにもバタバタしすぎていてそちらは見送られたのですが、落ち着いてきたタイミングで話が復活した、ということです。まあ、ですのでそれ自体は問題なかったのですが……」
「そこに、マコト議長が何か絡んでくるわけですか」
「そうですね。料理に関して、心当たりがある、と言っていたそうです。私も直接聞いたわけでは無いですが、やや不安に思っているとフウカさんからの連絡があった、という事になります。後に万魔殿からトリニティに来た通達では要約すると『毎日数千食の食事を少人数で用意する逸材を派遣するため、その他の予算については優遇しろ』というような内容が書かれていたようです。」
「はぁっ!? ……な、なんかごめんなさい」
愛清フウカは驚きの声を上げた後、気まずそうに謝った。裏でそのようなことになっていたことは思っていなかったらしい。
「いえ、能力的には、万魔殿の言っていることは事実ですし、フウカさんには一切の非が無いので謝る必要はありません。ただ、恐らくは小さな嫌がらせをしているつもりなのだとは思いますけどね」
人材派遣という意味では、羽沼マコトが巻き込んだ結果トリニティの生徒会長が引っ張り出されている、といえなくもない、というのがまた皮肉なものだった。
「……成程、つまりは偉い人同士の政治的な攻防に巻き込まれてしまったような感じですね。」
「まあ、その
月雪ミヤコが少し不満げに頷き、それに対し河駒風ラブが聖園ミカの方を見ながらそう言った。当の本人はわざとらしく首を傾げた後、
「まあ、一番大変なフウカちゃんがやるって言っているんだし、皆もそれに協力するのは嫌じゃないんでしょ? そしたら、前向きにやっていこうよ!」
と言った。それに反論する者は、室内には一人もいなかった。
「うん! という訳で、具体的な話に入っていきたいんだけど……フウカちゃん、ここからはお願いできるかな?」
「うん。ミカさん、進行ありがとう。えっと、詳しいことはまだ何も決まって無いんですけど、一応の計画とか、皆にやってほしい事とかを考えて来たので、聞いてください」
そして、本題であるパーティの準備について、愛清フウカが話し始めた。