「えっと、まずみんなに確認したいことなんだけど。改めて料理の経験を教えてもらえる? 前やった時何となく聞いた気もするけど、あの時は皆初心者という体でやっていたから」
発起人の聖園ミカから、講師役の愛清フウカに進行役が代わり、彼女が初めに確認したことは、それぞれの料理経験だった。
「私は、ちゃんと作ったのはスクワッドの子達と食べた時に作ったオムライス以来……あ、違うや。アリウスに行く作戦の前の日にカレーも作ったはず! っていうか私、シャーレでしか料理作ってないや、あはは」
最初に聖園ミカが答える。彼女はそもそも、普段から気軽に自炊を行える環境でも無ければ、そこまでの余裕もあまりなかっただろう。それでもやる気はあるようで、僅かな機会を見つけては料理に取り組もうとしているらしい。
「あ、チャットで書いていたやつですね。了解です」
愛清フウカも笑顔で頷いた。
「私は元々結構自炊してますよ! 偶にSNSにも載せたりするので、それなりにできると思います!」
一方2番目に答えた川流シノンはそこそこには料理に自信があるようだ。
「確かにシノンにはあんまり教えるところ無かった気がするわ。即戦力として期待して良いってことね」
愛清フウカが良い笑顔で川流シノンに返した。
「いや、それなり! ですからそれなり! そんなに期待されるほどではありませんよ!?!
「はい、じゃあ次の人~」
「聞いてますか!? 本当に大丈夫なんですよね!?」
川流シノンが必死になっているが、この集まりにおいての彼女の立ち位置が見えてくる。
――
「私はあれから料理、していますよ。 自炊というかSRTの皆の分をここのキッチンで作ることが結構多いので、少なくともテマの分と自分の分を作るので、2人分から、多くて10人分くらいです。」
次に声を上げた月雪ミヤコの回答に関しては予想通りの物だ。以前どうであったかは知らないが、彼女達は節約のため自炊を推奨しており、特にテマが来てからは料理のレシピに苦心している姿が散見されていた。
「へー、凄い。大人数の調理に慣れているっていうのは重要だと思う」
「それまでは適当だったので、料理もまだ勉強中です。フウカさん程ではないと思いますけど、料
理の上手い先輩もいるので、その人に教えてもらったりとか……」
料理の上手い先輩、というのは恐らく吉野ニコのことだろう。彼女は彼女で特定の料理を作っているイメージがあるが。
「そういう意味だとうちもやっていると言えばやってるわよ。最近、お陰様でキッチン共用の寮みたいなのが借りれるようになったから、交代で料理作ってる。食うに困るって程じゃなくなったけど結局カツカツなのよね、ウチも」
河駒風ラブ達ジャブジャブヘルメット団は無拠点状態を脱し、こちらで紹介した不動産会社から安いアパートを棟ごと借り切っていた。そうして一か所にまとめた方が全体としては節約になるのだろう。
「成程……じゃあ、みんなあれから結構料理を作っているんですね。思ったより、何とかなりそう……? あ、そういえば、えーと、ヒヨリさん、でしたっけ、あなたは……」
「え、えへへへ……あ、でも何もしていない私が呼ばれることなんてあるんでしょうか……うう、辛いです」
「ヒヨリさん、呼ばれていますよ」
自分の話題から離れると途端に自分の世界へと戻ってしまっていた槌永ヒヨリに声を掛ける。
「はいっ!? な、なんでしょうか……」
驚きと不安の入り混じった表情で、彼女は愛清フウカへと質問を返した。
「ヒヨリさんは、えっと……料理はやったことありますか?」
「りょ、料理ですか……缶詰を温めるのは料理に入るんでしょうか……えへへ……」
「そ、それは……どうでしょう」
槌永ヒヨリの反応で、愛清フウカは即座に聞いた事を後悔した顔をした。
「ご、ごめんなさい! 流石に違いますよね……じゃ、じゃあ草を食べられる部分と食べられない部分にちぎって選り分けるのは……」
質問者の表情の変化に焦ったように彼女は別の例を出すが、内容があまりに極貧時代の物となってしまっていた。
「あ、あの、な、何となく分かりましたから、大丈夫です。ごめんなさい……」
愛清フウカは誰が見ても明らかな程居た堪れなさに耐え切れない表情をして謝った。他の生徒たちも凡そ似たような表情をしていたが、河駒風ラブは何故か納得したようにうなずいていた。
彼女も雑草を食べる程に追い込まれていたことがあるのだろうか。
「お、終わった……」
そして、当の槌永ヒヨリ本人も自分の発言が部屋の空気を変えてしまったことに当然気付き、絶望の表情で涙を浮かべていた。
「ま、まあヒヨリさんは元々意見を聞くために来てもらったので、料理が出来るかどうかはあまり問題では無いんじゃないですか?」
月雪ミヤコがフォローするように口にする。
「あ……え、えへへ、そ、そうでしょうか……それなら、良かったです…………」
その言葉に、槌永ヒヨリはそう返したが、何故か彼女は余計に落ち込んでしまったように見えた。月雪ミヤコもそれを察し、戸惑った表情を浮かべている。
「あ、ごめんなさい。と、とりあえず話を続けますね。まず分かっている範囲で、全体の流れというか、概要を説明します。今決まっている、というか知らされているのは日時と大体の参加人数、参加者の概要です。その中で参加者は新エデン条約の調印式への各校参加者と、準備に携わった生徒たち、それからゲスト含めて100人~150人程度になります」
空気が重くなってしまったことを感じたのか、愛清フウカが慌てたように進行を再開した。
参加者として見込まれている生徒の中にはゲヘナの風紀委員やトリニティの正義実現委員会といった治安組織の一部メンバーや、白洲アズサとの繋がりで準備に協力していた阿慈谷ヒフミを始めとする補習授業部組も含まれている。
また、スクワッド以外のアリウスの生徒たちの一部も、ゲストとして招かれていた。
「それで、料理なんですけど、特に何も指定はありませんでしたが形としては立食パーティ以外考えられないので、ビュッフェ形式になります。作る側としてもコースとかじゃないだけマシかと思います。まあ、普段がギリギリすぎる予算で何千食も作ってる感じなので、比較することすら烏滸がましいんですけどね……」
今日も彼女は給食部の仕事を終わらせてからここに来ているらしい。私が言うのもなんだが、かなりの仕事人間である。
「それで、そもそも私もそう言ったものに参加した経験があまり無いので本当に困ったんですが、幸いなことに先生からその辺りに必要なものをレンタルできるところの紹介をいただいています。それと、トリニティからはパーティーで提供する用のスイーツをご準備いただけるそうなので、本当に助かります。」
そもそも、トリニティやシャーレから出てくる予算を駆使すれば、わざわざ自分たちで料理を用意することなく、パーティーを行うことは可能だろう。彼女がそれを選択しなかったのは、依頼された料理人としてのプライドがあるのだろうか。
「大枠はこんな感じです。色々調べてみたんですが、食べにくい物でなければどういうものが出てくるか、というのに決まったルールは無いみたいです。なので、今日はとりあえずメニューをどうするか、というのを決めたいのともう一つ、まあ無視しても良いんだけど、相談が有って」
愛清フウカはそこまで言って、改めて手元の資料を見てため息を吐いた。
「『3校の結びつきをアピールし、かつゲヘナの生徒が料理長であることに恥じない、ハイクオリティな料理を提供すること』となっているんで、まあ、思い付きで付け足されたような気もしますケド一応それも一緒に考えてもらっていいですか?」
苦い顔でそう言った彼女に、生徒たちは同情の視線を向けた。