「じゃあ、まずはメニューなんだけど、この中で実際にこういう立食パーティのようなものに参加した事ある人はいますか?」
愛清フウカが尋ねると、手を上げたのは聖園ミカと川流シノンの二人だった。
「一応ねー。あんまり好きじゃないんだけど、行ったことはあるよ。何かの記念パーティーみたいな奴」
「私はクロノスの記者として行った事があるだけですけど、一回ありますよ!」
二人の言葉に彼女は頷く。
「ありがとうございます。ちなみに、先生は……?」
「私ですか? ええ、ありますね。皆さんよりは多く参加したことがあるでしょう。外でもまあ、色々ありましたので」
キヴォトスにくる以前のことが多いが、人並みに経験したことはある。参加者や料理に興味はあまりなく、ただ付き合いで参加したことばかりだったが。
「成程……。ちなみに、皆さんはその時どんな料理が出たか、というのは覚えてますか?」
「うーん……? 多分サンドイッチみたいなのがあって、後はサラダとかお肉とか? あんまり覚えてないかも」
「そうですねぇ……私もノンジャンルというか、ローストビーフがあったり麻婆豆腐があったりと、今思えばあんまり統一感は無かったかもしれません! あ、でも確かに話しながらでも食べやすい物が多かった気はしますね。とはいえ、それだけという事もなく、何故かラーメンとかがあったりもしました。麺が置いてあって、それにスープをかけて具をのせる感じで! ただ、食べている人はあまり見かけませんでした!」
聖園ミカはうろ覚えのようで、曖昧な回答を残すのみだったが、川流シノンは取材のために行っただけあり、より具体的に覚えているようだ。
「成程、そういうのも無しではないのか……」
愛清フウカが何かを考える様子を見せる。そして、私の方を見る。
「先生はどうですか? 何か覚えているような事とかは……」
「そうですね……私が参加したのは大人が中心のものでしたから、アルコール類があることが前提でしたね。チーズなどのつまみになるようなものが多かったです。ただ今回は、そういうわけではないですからね。個人的な考えで言えば……
聖園ミカですからこういった形式のパーティーに参加した経験は多くない、ということだ。つまるところ、殆どの生徒たちにとっても同様だろう。
であれば、『それらしさ』をそこまで重視しても意味は薄いだろう。
「あくまでサークル活動の一環としてやるのであれば、自分たちの作りたい物を作る。その方がモチベーションに繋がる気がしますし、それに、他の物を真似するだけであれば、それこそ他に依頼すれば良い、という事にもなる気もしますね」
「あ……なるほど。確かに、そうかもしれません。じゃあ……うーん、ちょっと考えますね。」
愛清フウカは、私の言葉を聞いて何かを思いつきかけているようで、その場で悩み始めた。
――
「先生が、先生っぽいこと言ったね!」
愛清フウカが考えている間、手持ち無沙汰になったのか、聖園ミカがこちらを揶揄うようにそう言った。
「普段の振る舞いが教師らしくないというのは自覚していますよ」
そもそも今の私の立場は、客観的に見て何と表現すれば良いのか、未だに自分の中で結論がついていない。少なくとも教師ではない。しかし、他の所謂先生と呼ばれる職業のどれでもない。
そのような状態で、先生と呼ばれることにも慣れてしまった。
「そんなこと言ってないじゃん。先生は、ずっと先生だよ。さっきのも、先生らしいっていうのは、『
聖園ミカは私の言葉に心外そうに言った。言ってから、少し顔を赤くした。
河駒風ラブや川流シノンが含みのある笑いを私と聖園ミカに向ける。
「まあ、先生は
月雪ミヤコがそのように言うが、どちらも私に向いていると思ったことは無い。本分としては研究者のつもりではあるが、それも最近は時間が圧倒的に足りていない。
「確かに先生の仰ること……というか立ち回りは活躍というより、暗躍、という言葉が似合うこともありますね! 裏を探らせてももらえませんけど!」
「あ、それは分かる。含み過ぎて意味わかんなかったりするからとりあえず端的な指示だけ覚えとけばいいみたいなこともあるわよね」
黙って聞いていると、そのまま私の印象が決定づけられようとしていた。
――
「お待たせしました!」
雑談を続けていると、愛清フウカが考えをまとめ終わったようで、そう言って顔を上げた。
「……と言っても、結局今すぐ何か出来るという訳じゃないんですけどね。えっととりあえずメニューについては、先生の仰った通り、後で良いので一品ずつメニューを決めて欲しいんです。好きな料理でも、作りたい料理でも、誰かに食べて欲しい料理でも良いです」
そして、彼女は生徒たちにそう提案をした。
「その後、私がメニュー全体を組み立てるので、次回はその試食会と、練習会をしたいと思います。今すぐにメニューを一つ考えて、というのは大変だと思うので、1週間くらいで決めてくれたら嬉しいです」
「メニューって、何でも良いの?」
「はい、基本的には大丈夫です。あ、でもどうしても難しければ個別で相談させてもらうかもしれません。例えば臭いが強すぎる物とかは、ちょっと考えないといけないので」
「はーい、了解です。」
愛清フウカが質問に回答したところで、生徒たちは納得したように頷いた。
「あ、あの……もしかしてそれは私も含まれて……」
槌永ヒヨリが恐る恐る手を上げ、言い切る前に言葉に詰まった。
「勿論です。ヒヨリさんも、何か考えてくれると嬉しいです」
愛清フウカは微笑んでそう言った。
――
「えーっと、最後は例の万魔殿議長からの要望についてですね……」
メニューの打ち合わせが終わり、愛清フウカが次の話題に移りながら溜息をついた。
「それも結局考えるんだ?」
河駒風ラブが呆れたように言った。
「まあ、一応ね……とは言っても、何か案があるわけでは無いんだけど……」
愛清フウカがそう言って黙り込み、他の生徒たちも首を傾げていた。一つ、今まで話してはいなかったが、思い出したことが一つある。
「何と言ったんでしたか。確か……ライブキッチン、というものがありましたね。ビュッフェ形式のレストランやパーティーなどで、料理人が目の前で調理するパフォーマンスのようなものです」
「ああ、あれのことですか……なるほど」
愛清フウカが頷く。
「もっとも、ありきたりなものですから、マコト議長が満足するかまでは保証しませんが。」
念押しとして、私がそう言ったが、彼女は首を振った。
「いえ、でもかなり良いと思います。確かにそのままだとちょっとあれですけど、その方向で考えてみようと思います。」
そう言って、彼女は少し肩の荷が降りたのか、今度は笑顔で小さくため息をついた。
――
「という訳で、次の会議……試食、練習会は2週間後にしましょう。シャーレのキッチンを借りても良いんですよね?」
今日の打ち合わせが終わりとなった。夕方遅めから始め、話し合いが粗方終わった後にはしばらく雑談に興じていたため、時刻としては既に夜となっていた。
「そうですね。スケジュール上は問題ありません。」
「ありがとうございます。では、皆さんメニューだけ私かグループチャットに連絡するようお願いします。」
愛清フウカの締めの言葉に、生徒たちは一同頷いた。
続く
この話の続きは結構先になると思います。