「そういえば自己紹介がまだだったわね。赤司ジュンコよ。赤い
目論見通り4人を集めることができて満足していた赤司ジュンコは、そこで思い出したように名乗り、それから立木マイアの方を見た。
「!? わ、私は立木マイアです。アリウス……えっと、アリウス高等学校の1年生で、今は研修でトリニティの救護騎士団にいさせてもらっています……よ、よろしくお願いします!」
立木マイアはようやく自己紹介と共に先程からの誤解を解く試みを済ませることができていた。
「アリウス? トリニティの生徒じゃなかったのね。まあ、よろしく。それで、あんたは?」
赤司ジュンコは続いて最後の一人に話を振る。
「はい。ミレニアム所属の一年生、飛鳥馬トキです。これと言った趣味がなかったので、今はそれを探している最中です」
飛鳥馬トキは素直に自己紹介を済ませ、頭を下げた。
「そんな丁寧な礼とかはいらないわよ? トキね。ちなみに何年生なの?」
「1年生です」
「へえ。じゃあ私たちみんな同じじゃない! 他校の同級生ってあんまり知り合いいなかったのよね」
赤司ジュンコが偶然を喜ぶように笑顔になった。多少強引なところもあるが、含みのない真っ直ぐな人物ではあるようだ。
──
自己紹介が終わったところで、私たちはシャーレの外へと出た。なお、留守は丁度シャーレへと何処かから戻ってきた不知火カヤに頼んでおいた。正確には私の代わりに行かないか聞いたが、それくらいなら事務室で受付をやっておくと言われたからだが。
「とりあえず出てきたは良いけど、実は予約の時間までまだ結構あるのよね。何かしたいことある?」
目的であるフルーツパーラーはシャーレからも徒歩圏内にある、シラトリ区内の繁華街に店を構えている。そこに向かいながら、赤司ジュンコは今更そう言った。
問いかけられた二人はそれぞれ、少し考えて首を振った。
「無いの? ま、いいけど。あんたたちどっちもショッピングとか食べ歩きとか、あんまりしたことなさそうだもんね」
どこを見てそう思ったかは分からないが、彼女の指摘自体は的を射ていた。立木マイアは言うまでもないが、飛鳥馬トキも最近ようやく「普通の学生」としての立場を取り戻してきたところであり、学区外に遊びに出かける、というのは非常に珍しいことだろう。
そして飛鳥馬トキはあまり変わらなかったが、立木マイアはそう言われて申し訳なさそうな表情を浮かべて俯いていた。
「そんなことでしょげるんじゃないわよ。まあ、適当にぶらつくだけでも良いわ。この辺ならいくらでも時間潰せるところあるでしょ」
赤司ジュンコは少し呆れを含んだような表情をしながらも、そんな彼女をフォローするようにそう言った。
──
「うん。結構似合ってるけど、白のワンピースだと全体的に白すぎるかも?」
「し、白くてごめんなさい!」
「そんな謝罪聞いたこと無いわよ」
予約の時間まで適当に過ごす、という予定で決まっていたのが、それからすぐに立木マイアの私服を選ぶイベントに変わっていた。
赤司ジュンコがした「私服はどういうものが好みなのか」という何気ない質問に対し、飛鳥馬トキが卒なく回答した一方で、立木マイアから出されたものが「服を買ったことがない」という回答だった、というのがことの始まりだ。
これには、彼女がもともとアリウス生だった、というのが一因であるように思えなくも無い。
しかし、同じ元アリウス生で救護騎士団の手伝いをしていた生徒たちの中にも、支給された一時金を利用して私服を含めた身の回り品を買っている生徒もいるようなので、これは彼女自体の問題であるようだった。尚、その一時金に関して、彼女はほとんど手を付けずに残していることも分かっている。
つまり、彼女はそれだけ脇目も振らず活動に集中していたのだろう。蒼森ミネがシャーレに来させたこと、休むよう指示を出したことの理由の一端を理解した気がした。
「そもそも、普段部屋着や寝るときにどんな格好してるのよ」
飛鳥馬トキが立木マイアの服を選んで持ってくるまでの間、手持ち無沙汰になった赤司ジュンコが尋ねる。
「ハナエちゃん……あ、えっと、同室の方が、着れなくなったという寝間着や部屋着をくださったので、それを使わせてもらってます……」
「ふーん、優しい友達がいるのね。でも、その子もあんたがずっと同じ服着てたら気になっちゃうんじゃないの? まあ、そしたらまたお下がりくれるかもしれないけど」
「そ、そうなんですか!? そ、それは申し訳ないです……」
立木マイアが恐縮する。本人は見ていないし、あまり意味はない。
「いや、知らないけど。何にせよ私服の一着や二着は持っておいたほうが良いでしょ、絶対」
「は、はいぃ……」
立木マイアは悲鳴とも同意ともつかない声を上げた。
──
「お待たせしました、マイア。こちらを着てみてもらえますか」
飛鳥馬トキが服を手に戻ってきて、それを立木マイアへと手渡した。
「は、はい……」
それを恐る恐る受け取り、彼女はどういった服なのか確認するように畳まれた状態の服を見ていた。
「……やはり、私が手伝いましょう。着こなしなども分からないと思いますので」
「えぇっ!?」
その様子を見た飛鳥馬トキが、困惑する立木マイアを連れて試着室へと入っていった。私は場違い感を覚えながら、その前で赤司ジュンコと二人、待たされる事になった。
「……トキって、結構押しが強いところもあるのね。あんまり喋る方じゃないみたいだけど、別におとなしいってわけでもないのかな?」
「まあ、そうですね」
赤司ジュンコが感心したようにそういった。彼女の感想は概ね当たっているような気がした。
「見てください、いい感じに仕上がりました」
ややあって、芸術作品か、あるいは料理でも紹介するかのような口調の飛鳥馬トキの声とともに、試着室のカーテンが開かれた。
「おー……え、カッコいい系? なんというか、予想外ね……めちゃ似合ってるけど」
所在なさ気な顔で立っている立木マイアは、上は白いシャツにサイズの大きめの黒のジャケット、下は黒のカーゴパンツという、少年的、あるいは中性的な格好をしており、全体的に黒を基調にした、印象を大きく変える服装をしていた。
「救護騎士団の制服がピンクと白を基調にしているものだったので、印象をガラッと変えてみました」
赤司ジュンコの感想を聞いた飛鳥馬トキが、ピースサインを彼女に向けながらそう言った。
「そうなんだ。髪の毛をまとめたのもトキなの? 結構器用なのね」
赤司ジュンコの言う通り、腰下まであった長い髪が肩甲骨の上あたりまでで結われてまとめられている。
「普段はメイドをやっていますので」
飛鳥馬トキはピースサインのままそう答えた。赤司ジュンコはそれに対してはコメントに困ったようで、それ以上返すことはなかった。
「マイア的には、どうなのよ?」
代わりに彼女は、当の本人に感想を尋ねた。
「え、えっと……鏡を見てびっくりしました……これが私なのかと……で、でもあの……その、いい感じになれた気がします、自分でも……あの、先生は、どう思いましたか?」
言葉に困ったからか、彼女は突然私に投げかけてきた。ファッションの論評などやったことのない私は
「はい、いつものマイアさんとは印象が変わりますが、とても良く似合っていると思いますよ」
と、そのままのことしか言えなかった。
「そ、そうですか…… じゃあ、これを買おうと思います」
しかし結局、彼女はそれを買うことに決めたのだった。
──
「あ、そろそろ予約の時間じゃない! さっさと買って行かないと!」
「ええっ!? い、急いで着替えます!」
赤司ジュンコが時間を確認して驚き、立木マイアもそれを聞いて慌てだした。
飛鳥馬トキは再び自然にそれを手伝うように動き、先に購入する服を持って出てきて会計まで済ませてしまった。それはメイド、あるいは従者として非常に慣れている者の動きだった。
そして再び救護騎士団の制服に戻った立木マイアを待ち、私たちは本来の目的であるフルーツパーラーへと向かうのだった。