赤司ジュンコに連れられて件のフルーツパーラーに、予約時間丁度に到着した。
近隣の学校の生徒なのだろう、アルバイトスタッフに『スイーツ探索クラブ』という予約名を告げると、すぐに予約席へと案内された。
店内は満席。席にいるのは女生徒ばかりであり、場違い感しかなかったが、案内されるままに席につく。
「マイア、あんまキョロキョロしてないで、飲み物選びなさい」
「ご、ごめんなさい! 緊張してしまって!」
「謝るのはいいから選んで。そんでトキは何でメニュー睨みつけてるの?」
「いえ……何にしようかと悩んでいました」
「そ、そう……」
席について早々、対象的な行動を取る二人へ、赤司ジュンコがそれぞれに口を出した。意外、というほどでも無いが、この3人の中では、彼女が三姉妹の姉のような振る舞いを見せていた。
飲料だけ選んでいるのは、目玉であるスイーツに関しては予約しているからだろう。
3人に共通しているのは、これから来る目当てに、やや浮足立っている、というところだろう。
――
「これはこれは! よくいらっしゃってくださいました! 予約名からもしやと思っていたのですが、やはり先生も来られていたのですね」
席で待っていると、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。すわお目当てが来たかと一斉に声のする方を見た生徒たちの殺気立った視線にやや戸惑った様子のその人物は、前回のスイーツ探索クラブでの集まりで招待された、私がよく利用している店のオーナーだった。
「おや、あなたは…… この店もあなたがやっているのですか?」
「はい。お陰様で好評いただいておりまして、本店とは違ったコンセプトのこの店を開くことができたのです。私自身は普段本店にいますが、本日は、一言ご挨拶を、と思いまして」
「成程……わざわざありがとうございます。しかし実のところ、今日私がここにいるのは完全に偶然でして、生徒たちの付き添いというか……数合わせですね」
「は、はぁ……左様でございましたか」
「それと、生徒たちが
「こ、これは失礼しました。では、ごゆっくりお過ごしください」
オーナーは私の提案で場の雰囲気に気づき、そそくさと去っていった。
「そんなにイライラしてなかったわよ、私は」
「はい、心外です」
「あ、あの……私、そんなに怒っているように見えたでしょうか」
3人がそれぞれ抗議らしき言葉を述べた。最も殺気とは程遠い人物である立木マイアだけが殺気立っていた可能性を考慮しているが、少なくとも赤司ジュンコと飛鳥馬トキはオーナーのことを睨みつけているように見えた。
「勿論、理解していますよ。ああいった社交辞令のやり取りをこの場でしても仕方ないと思ったので、言っただけです。気を悪くしたのであれば、申し訳ありません」
「いや、別に謝られるほどのことじゃないけど……」
「……今回は大目に見ましょう」
私としてはどちらでも良かったので一応謝罪すると、思い当たる節があっただろう二人はそれで矛を収めた。立木マイアは喧嘩でもするものと思っていたのか、あからさまにほっとしていた。
「まあ、予約してたとはいえ、着いてから作り始めるらしいから、多少時間はかかるわよね。マイアはパフェとか好きなの? 強引に誘っちゃったけどさ」
「はいっ! 食べたことありません! ごめんなさい!」
「そうなの!? あと、
勢いの良い謝罪に驚きついでに謝罪を禁止されている。
「えぇっ!? ……えっと、その、今まであんまり甘いもの……お菓子自体をあんまり食べたことがなくて……パフェも……食べたことのある友達から話を聞いたことがあるだけなんです」
「あー……マイア、アリウスだって言ってたもんね。全然詳しくないんだけど、やっぱり大変だったのよね、きっと……」
赤司ジュンコが何かを察したように頷いた。私の印象でしか無いが、既にアリウスが復旧しつつあり、新エデン条約が締結した今であってさえ、ゲヘナの生徒のほとんどは、今の赤司ジュンコ以下の認識でしか無いだろう。
「い、いえ、あの……」
「じゃあ、やっぱり誘って良かったわ! いっぱい食べるわよ!」
「……!!! はいっ!」
そして、それに気づいた上で、彼女の前向きな発言は、立木マイアにもポジティブな影響を与えているようだ。
「ちなみに、トキは食べたことあるの?」
「専門店のものを食べたことは無いですね。……作ったことはありますので、食べたことがないわけではありません」
「それも珍しいわね。ミレニアムのメイドさんはパフェも作れるわけね」
「当然です」
気に入っているらしい、本日何度目かのピースサインをしながら飛鳥馬トキは薄い表情で答えた。
――
「お待たせいたしました。限定ジャンボパフェです」
満を持して、店員がパフェを持ってきた。
事前に説明書きで読んだ通り、イチゴや桃を中心とした様々なフルーツと、アイスクリームなどが大胆に盛り付けられたものだ。オーナーがやっていた本店は、どちらかというと繊細な緻密な設計で作られた洋菓子、という印象だったのだが、こちらは逆にこういった目を引く豪華さを売りにしているのだろう。それにしても……
「す、すごいわね……」
「以前作ったものよりも、ボリュームはありそうですね」
「ぱ……パフェってこんなにすごいものなんですね……」
商品画像で想像したものよりもかなり大きいものだった。一日数組限定、ということもあり、周囲で同じメニューを食べているグループはなく、サイズの想像ができていなかったが、
そもそも果物の量が写真と比べると明らかに多く、使っている容器が違っているのだろう。
「とにかく、残すわけには行かないから食べるわよ! それでハルナに自慢するんだから!」
「アイスが溶けてしまう前に食べ進めるのが良いと思います」
驚愕を乗り越え、赤司ジュンコが手を付け始める。それに飛鳥馬トキが続き、立木マイアが恐る恐る加わった。
そして一口食べた3人目とも、その表情を緩める。
どうやら、その味は紛れもなく良好なものだったようだ。その量から目を逸らしさえすれば。
――
「か……完食」
「…………」
「か、体の中が全部パフェになってしまったみたいです……」
テーブルに3人が突っ伏した。あの量の甘味を3人でほとんどを食べきったのだから、それも当然だろう。
私はそもそも、甘味があまり得意ではない。全く食べられないわけではないが、好きな者が食べたほうが良い。そう言ったのだが、最終的に「先生も味見しない? するよね? ほら、オーナーさんにも感想言えたほうがいいわよ」
という押しの強い言葉により使われていなかった私の取り皿にもいくらかパフェが盛り付けられた。
味自体は人気店だけあり、確かに良いものなのだろうと思えるものであった。
ともあれ、彼女たち3人にとっては、満足を超えるものであったことは間違いない。
3人に立ち上がる気力が出るまで、私はゆっくりと追加のコーヒーを飲むことにした。
――
「先生、ごちそうさまでした!」
「またの機会をお待ちしております」
「ほ、本当にごちそうになってよかったんでしょうか?」
会計を済ませて、店の外に出る。
「毎回のこと、と期待されても困りますが、問題ありません」
当然毎回でも構わないのだが、一応そう答えておく。妙な常識がついてしまっても困るだろう。
「さて、マイアさん。鉄道も復旧したようですよ。駅に行きますか?」
「あ……はい! 良かったです」
私の言葉に立木マイアが頷いた。
赤司ジュンコと飛鳥馬トキもそれぞれ、自分たちの学区に戻ると言い、私は3人を駅まで送り、シャーレへと戻った。
後日、蒼森ミネから感謝のメッセージとともに、一枚の画像が添えられてきた。
それは、緊張した表情で購入したばかりの私服を着込んだ立木マイアと、同じく私服姿で笑顔の、少し赤面した朝顔ハナエの二人が写ったものだった。
何故この画像が添付されていたのか。それはつまり、蒼森ミネにも仲睦まじい後輩の姿を自慢したい、という先輩らしい側面があった、ということなのだろう。
私は詮無き事を考えながら、彼女に一言だけ返信した。