「どういう関係って。え、えへへぇ~、ただのお友達だよ、ねぇ?」
ケイの質問に答える形で、小鳥遊ホシノがそう言って狐坂ワカモの方を見た。
「そんなに狼狽えてこちらを見られると、本当に意味深な何かがあるように思われるではありませんか!? ……それより、貴女は……」
小鳥遊ホシノに困ったように話を振られたことに元々少し赤かった顔をさらに赤面させ、その顔を隠すように黒い狐面を被りながら、狐坂ワカモはケイの映っている端末を見た。
「ワカモ……」
「……あら、わたくしのことをご存じなのですか? 先生の仰っていた紹介したい人が、あなたか、あるいはお隣の子なのかと思いましたが……」
表情を仮面に隠してしまったため、彼女がどのような顔でそう言っているのかは分からなかったが、少なくとも声色からは、何かを隠しているようには聞こえなかった。
「いいえ、『
ケイが含みのあるような言い方でそれに返す。彼女からすると、言いたいことはあるのだろう。
「狐坂ワカモ……七囚人。破壊工作を得意とする脱走犯……排除対象?」
そして、ハブはいつもの尊大で迂遠な発言をせず、警戒対象を見るような様子で彼女を見ていた。
「ケイ、ハブ。ワカモはとても優しい私たちのお友達ですよ。アリスの髪の毛を結ってくれたり、
少し剣呑な様子を察したのか、天童アリスが狐坂ワカモを庇うように割って入った。
「ハグ!? ワカモが、アリスをですか!?」
「はい!」
ケイが驚愕の声を上げ、天童アリスが満面の笑みで頷く。
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ! それは少し語弊が……」
狐坂ワカモが慌てて訂正しようとするが、それを許さない人物がいた。
「いやいや、君の『
「セイアちゃん!? それはセイアちゃんにだけの特別な……」
「えぇ~、でもおじさん達もハグしてもらったけどなぁ? ねぇ、スバルちゃん」
「え!? ま、まぁ……はい。そうですね、間違ってはいません」
「お二人まで!?」
百合園セイアと小鳥遊ホシノは狐坂ワカモを揶揄う体制に入っており、梯スバルは話についていけてはいないようだったが、突然自分に話を振られて正直に回答していた。
『……………………う、うーん……な、何となくわかりました。とりあえず、思ったよりも仲良くやっている、ということですね。アリスから仲間だ、という話は聞いていましたが、想像よりもずっと『
『我は判断保留……とする』
明らかに納得しきっていない様子で、ケイとハブはそう言った。
──
「さて、全員揃いましたしそろそろ本題に入りましょうか」
「そうだね、結局、2人して何をしていたんだい?」
軌道修正をしようとした私に被せるように、百合園セイアが言う。普段の意趣返しなのだろうか。
「本題って、それで良かったんですか?」
梯スバルが呆れたように言うが、私としてはどちらでも良かった。
「……ま、まあ! セイアちゃん♡ やっぱりわたくしのことが気になりますか!?」
「あ」
膝から崩れ落ちていた狐坂ワカモが立ち上がり、破れかぶれのように立ち上がり、そう言って百合園セイアに飛びついた。
引き際を誤ったことを悟った百合園セイアは、全てを諦めた表情でそれを受け入れていた。
『……何なんですか、これ』
「私、ケイとは仲良くなれそうな気がしてきましたよ」
ケイが呆れた様子で言葉を発し、梯スバルが仲間を見つけたかのようにそう言った。
「さて、それでホシノさん。結局、なにがあったんですか? いえ、言えないような話なら無理に言う必要は無いのですが」
話を振った人物がまともに話せない状況だが、そのまま続けることにする。
「あ~、うん。まあ、どうだろ。やっぱりおじさんの口からは言えないかなぁ。いや、変なことやってたわけじゃないんだけどね。でも、ワカモちゃんが説明をした方がいいかも」
小鳥遊ホシノは、言葉を選ぶようにそう言った。このように言う、という事は恐らく、彼女は狐坂ワカモから誘われた側、ということなのだろう。
「……まあ、そうですわね。大丈夫ですわ。元々、隠す必要があることでもありませんから」
百合園セイアに戯れ付いていた狐坂ワカモは、その体勢から姿勢を正して椅子に座り直し、そう言って説明を始める。
尚、当然のように
──
「端的に説明いたしますと、ホシノさんには、わたくしの訓練にお付き合いいただいていたのですわ」
彼女の簡素な説明は、意外なものだった。
「訓練ですか。それは戦闘の、ということですか?」
「ええ、その通りです」
私の質問に、狐坂ワカモは頷いた。全く様子が想像できない、という程ではない。ただ、戦いでの強さを追い求めるということと、彼女の在り方が余り結びつかなかった。それは以前の記憶だけでなく、直接彼女と関わった上で、彼女が誰かに協力を仰ぎ、より強さを追い求める、ということに意外さを感じていた。
「ちなみに、いつ頃からですか? 今回が初めて、という訳では無いようですが」
「わたくしが初めてこの集まりに参加させていただいた際に、少しお話をしまして、それから何度か……」
「私がシャーレの臨時職員になってから回数は増えたかなぁ。ここまでの定期券を作ってもらったから、会いやすくなったのもあるよね。それまではワカモちゃんにアビドスに来てもらったり、私がこっちに来たときに近くの演習場を借りたりしてやってたよ」
小鳥遊ホシノが補足するように説明する。初めて会った時以来、ということであればそこそこの期間である。確かに、彼女達はすぐに打ち解けているように見えたが、見える範囲以外で何度も交流していた、ということであれば納得できるものだった。
「成程、訓練の後だったから、2人してシャワーを浴びてきていたんだね」
百合園セイアが納得がいった様子で発言する。
「
「動けないんだから仕方ないだろう!?」
『…………』
梯スバルが口走ったその言葉に百合園セイアが怒る。その様子にケイが端末の音量を落として笑っているのが見えた。よく考えれば当然だが、ケイは今の状態で端末の操作を自由に行えるらしい。
結果として、そこで空気が緩んだ。特に重い話をしていた訳では無いが、真面目な空気が霧散された、というべきだろうか。
「申し訳ありません、あなた様。隠すつもりがあったわけでは無いのですが、余計なご心配をおかけしないか、と思い伝えておりませんでした」
狐坂ワカモがそう言って仮面を外し、頭を下げる。
「謝罪する必要は無いですよ。私に何もかも伝える必要があるわけでも無いですし、寧ろ自発的な活動は推奨されるべきです。ただ、何か目的があるのですか? ワカモさんはこれまででも十分な実力者でしたし、失礼ですがあまり……戦闘における強さを重視していると思っていなかったので」
「ええと、その。実は、何となくなのです。ホシノさんのお話を聞いて、わたくしも先生や……セイアちゃん、そしてこの同盟を守れるだけの力が欲しい、と。気の向くまま破壊するだけでは足りない何かが欲しいと、そう思ったのです」
「そんなこと言って、ワカモちゃん十分最初から強かったけどね」
小鳥遊ホシノが笑みを浮かべて言う。彼女も彼女で、狐坂ワカモに素直に協力したところを見ると思うところはあったのだろう。
「……ええ、わたくしも自分を弱いと思ったことは無かったのです。ただ……焦燥感があったのです。このままでは何かを失ってしまう、というような、あるいは既に何かを失ってしまった、かのような……申し訳ありません、ただの感覚の話なのですが」
狐坂ワカモはそう言って再度謝罪の言葉を口にした。言い知れない不安を抱えた上での行動だった、ということなのだろう。
「……つまり、ワカモはみんなのために強くなりたくて、訓練していた、ということですね? アリスは嬉しいです。アリスも、みんなのために強くなりたい、と思いました」
私が言葉を考えている間に、天童アリスが彼女に近づいて、そう言った。
「まあ、そう言う事だね。過剰なスキンシップは取るくせに、君は意外と……臆病な所があるようだね。君が強くなることで、私たちは誰も損しないのだから、堂々としていれば良いのだよ」
百合園セイアがそれに続く。相変わらず自らを抱えている人物に対してであったが、今度は誰もそれを指摘することは無かった。
「ワカモさん。ありがとうございます。私にとっても、このグループはとても重要で、そして貴重な物です。ワカモさんがそれを大切に思ってくれている、ということを、私はとれも嬉しく思います」
私はどう伝えるか悩んだ末、結局思ったままにそう言った。
「あ……あなた様♡♡」
感極まったような表情で狐坂ワカモが固まる。
「……君は、わたしに対してはスキンシップ過剰なのに、先生に対しては随分奥手だね。これからはその方向で攻めてみるとしようか」
狐坂ワカモが固まっている隙をついて彼女の手から逃れながら百合園セイアが言った。
「それは、辞めておいた方が良いと思いますけどね。デリカシーが無さすぎる」
それに梯スバルが苦言を呈し
『…………』
ケイは、複雑な表情で、狐坂ワカモの方を見ているように見えた。