「さて、今度こそ本題です。既に結構話されていますが、ケイさんです。今の立ち位置としては、ミレニアムに属しているAI、という事になるのでしょうか?」
狐坂ワカモと小鳥遊ホシノの疑惑についての話が終わり、漸く、ケイの紹介へと移った。
『そうですね……生徒として入学したいところではあるのですが、現状だと難しい、というのは理解しています。アリスから、ある種の共通点を持った『仲間』の集まり、と聞いていますが、改めて見ると……リオが警戒するのも納得のメンバーですね』
ケイは、アリスからある程度この同盟(というのは名ばかりの雑談サークル)のことを聞いていたようだ。端末のカメラを通してメンバーの顔を見ながら、呆れたような声でそう言った
「警戒……?」
「何々、おじさん達、何かしちゃった感じ~?」
「そんなことは無いと思いますわ。きっと、心配性の方なのでしょう」
百合園セイア、小鳥遊ホシノ、狐坂ワカモが次々と、心外だというようにそう言った。
『「何で揃って自覚が無い感じなんですか?」』
呆れた声で突っ込みを入れる二人の声が重なる。ケイと梯スバルの息が加速度的に合ってきているようだ。
天童アリスは、それらの様子を見て、ただ嬉しそうに笑っていた。この集まりにおける真の強者と言えるだろう。
『はぁ……で、ついでに紹介しますと、こっちのぼうっとしているのはハブです。元々はミレニアムの通信ユニットを制御する特化型AIだったのですが、まあいろいろあって自我を獲得するに至り、今は社会勉強的な感じでアバターを作って活動しています。』
『我が名は『ホド』。ハブは役割を示す通名に過ぎぬ』
ケイの言う通り言葉を発さずこちらを薄く見ていたハブが、抗議の声を上げた。
『と、まあこんな感じで、ちょっとアレな感じですが、まあ割と赤ちゃんみたいなものなので多めに見てあげてください』
『不愉快』
ハブが分かりやすく頬を膨らませ、ケイに向かって手をかざす。背後から多数の小型ミサイルのようなものが発射され、それをケイが片手を振って消し去った。
「……今のは?」
梯スバルが呆然と尋ねる。
『? ああ、所詮作られた映像空間ですから。プログラムの処理速度で競うお遊びのようなものです』
「そ……そういうものですか?」
恐らくはこういった分野に強くないだろう彼女でさえ、何でもないかのように話すケイを信じていないようだった。
実際、今の光景をミレニアムのAI研究者や3Dクリエイター達が見ていたら正気でいられなかったのではないだろうか。あるいはそういった生徒たちは既にケイやハブと交流しているのかもしれないが。
――
「ケイがミレニアムのAIだという事は分かった。それで、この場に連れて来た、ということは何か意味があるんだろう? さっき言っていた、『共通点』に関することが」
自己紹介が済んだところで、百合園セイアが、核心に触れた。
「ええ、そうですね……ところで、ケイさん。ハブは貴女の状況をどのくらい理解しているのですか?」
つまり、ケイが別世界の記憶を持つことに関して、知っているか、ということだ。
『記憶自体は見せていませんが、記憶があること自体は理解していますよ。でなければこの場に来させていません。 情報が漏れる、ということはほぼないと思いますが、リオから聞かれたらいってしまいそうですね。』
「そうですか……リオさんに知られて困るわけではありませんし、良しとしましょうか」
私たちが別世界の記憶を持っている、あるいはそれが存在することを認識している、というのはこのグループが存在する上でのあやふやなルールのようなものではあるが、知られてどうなる、というものでもない。
そもそも今のところは虚言や妄想と区別がつくものではない。というより、エデン条約関連のことが終わった以上、私に関しては記憶を活かす余地すらも殆どなくなってきている、というのが現状だ。
「ではいつも通り、私から簡単に説明しましょう。ケイさんは昔……学校としてのミレニアムが誕生するよりも遥か以前に作られたAIだったわけですが……ある時、遠い未来で過ごした記憶同期しました。
私たちで言えば、別の世界の記憶を入手した、というようなことですね。ケイさんの場合に特徴的なのは、それが2回もあった、ということです。全く別の経験をしている別々の世界の記憶を2つ持ち、それでいて、この世界の自身の記憶も持っている。つまり3つの世界の記憶を持っている、というのがケイさんの特徴です」
『そんな感じで良いんですね。もっと詳しく来歴を話すのだと思ってました。まあ、大体合ってます』
私が説明し、ケイがそれを追認する。
「なるほどねぇー……、じゃあ、ケイちゃんがこの中で一番年上だ?」
小鳥遊ホシノの発言。狐坂ワカモの時もそうあったが彼女は何かと年齢を話題にする傾向がある。自分の一人称と関わっているのか、或いは別の何かが理由か。
『まあ、そうとも言えますね。こうやって誰かと話すようになってからはまだ一ヶ月も経っていないので、あまりそういう感覚は無いですが』
「ちなみに、差し支えなければ教えて欲しいんだが、ケイの持つ記憶では、ここにいる者たちと仲が良かったりしたのかい? 」
続いては百合園セイアからの質問だった。
『そうですね……アリスとはいずれも良く関わっていました。先生も……ですね。先生はそれぞれ別の存在でしたが。後は……そうですね、一番驚いたのが、やはり、ワカモです』
「あら、わたくしですか?」
『はい。片方の記憶では『それなりに』関わることがあったのですが、そのワカモは……あまり、他の生徒と積極的に関わろうとはしていませんでした。先生を除けば、ごく一部の人物としか話していなかったです』
「先生と、セイアちゃんが例外だったということですか? でしたら、それは先生のおかげ、ということになりますわ」
名前の挙がっていなかった百合園セイアのことを平然と追加して、狐坂ワカモがそう言った。しかし
『いえ、そのセイアとの関係が一番驚きだったのですが……いえ、実際には接点があったのかもしれませんが。』
「まあ、よく似た別の世界、という可能性も考えられますしね」
「……わたくしは逆に、あなたの姿に何か……何かうっすらと思い出せそうな予感がしたのですが、これも気のせいだったようですわ」
狐坂ワカモが、端末に近づきながらそう言い、中にいる、ケイの姿をじっと見てから、そう言った。
「あっ! 分かりました! きっとまだ条件を満たしていないんです! きっと、ケイが、新しい身体を手に入れてから、何かがあるんです」
「ああ、例の儀式もそうでないとできないでしょうしね」
『儀式って、先ほど言っていたハグのことですよね!? わ、私はやりませんからね!?』
天童アリスの言葉に、梯スバルが先日のことを思い出したのか少し顔を赤くし、ケイは察しよくそれが何なのかに気付く。
真面目な話らしい話はこれで終わり、その後は自由に雑談をする流れへと移っていった。
――
夏の計画の続き、という体で殆ど関係も益体もない話が行われている最中、私の端末に通知があった。その人物を確認し、私は部屋を出た。
その直後、ビデオ通話での着信が入る、発信者は不明。だが、心当たりは一つしかなかった。
「このようなことも出来るのですね、ケイさん」
そう、発信者はケイだった。今は雑案に興じているはずだが、同時に私との通話も行うことが可能のようだ。
『はい。今の内に、先生に打伝えたいことがありまして。……その、ワカモのことについてです』
「ワカモさんの?」
『……はい。先程はお茶を濁していただきましたが』
「ああ、別の世界かもしれない、という話にしましたね」
元々確かめる方法もない、そう思っていた。
『皆のいる場では言えなかったんですが、実は……私がワカモとセイアの繋がりを知らなくても元々矛盾なんて無いんです。私が知る由も無いタイミング、というものが存在します。……それは……』
ケイは、それを話すことをまだ躊躇しているようだった。しかしそれでも、彼女はそれを私に言った。
『
その言葉を聞いた時、何故か、いつか見た夢のことが脳裏に過った。
次回から、山海経編となります