「うわ────!!?」
「おー! ってコユキどこ行くの!?」
エンジニア部とゲーム開発部の模擬戦は、実際のところ見どころのあるものだった。
最初に前線に配置された黒崎コユキは持っていた手りゅう弾を放り投げると一目散に後方に逃げ、才羽ミドリと立ち位置を交代した。
「さ、作戦通り?」
結果的にその動きは功を奏し、ドローンたちの統制を混乱させていた。才羽姉妹は息の合った動きを見せており、お互いを見ずとも状況を理解しているように動き回っていた。
「とうっ。チャージします!」
そして天童アリス。動きは完全に素人のそれだが、キヴォトスの生徒たちを基準にしても超人級の腕力に加え、高い学習能力でレールガンを持ちながらの戦い方をものにしていっているようだ。
直接戦闘は後輩に任せ私と同様観戦に回っていた白石ウタハも真剣な様子で天童アリスのことを観察している。エンジニアとして、何かに気付いたのだろう。
「アリスちゃん!」
「任せてください! 魔力充填70%!」
天童アリスの控えめな一撃が、十分な威力でエンジニア部の兵器たちを破壊しつくし、戦闘はゲーム開発部の勝利で終了した。
―
「何よこれ!?」
エンジニア部から正式に天童アリスへと武器が与えられ、ひとしきり喜んでいると、見知った声が聞こえてきた。
「天井に穴空いてるじゃない!? ウタハ先輩、これどういうことですか!? 説明してください!!」
爆発音を聞いて駆けつけたのだろう。怒りの形相の早瀬ユウカだ。予想より早い登場に、白石ウタハも苦笑いしている。
「ユウカ先輩!」
「あー、ユウカだ! もう来てくれたの?」
「ユウカ! アリスは光の剣を手に入れました!」
白石ウタハが返事をするより前に、才羽ミドリを除くゲーム開発部の3人が、嬉しそうに早瀬ユウカへと近づいていく。
「うわっ!? ……先生やみんなも来ていたのね。アリスちゃん、良かったわね。随分大きいけど大丈夫なの?」
「はい!」
近づいてきた生徒たちを見て驚きながらも、まずは天童アリスの武器に注目したようだ。入手したレールガンの大きさには目を丸くしていたようだが、武器の入手自体は良いこと、という認識のようだ。
「コユキ、良かったわ。ちゃんと仲良くやれてるみたいね」
「にはは! とうぜんですよ」
続いて、元の後輩である黒崎コユキに話しかける。その返事に、偉いと頭を撫でながら褒めている。
「先生からお仕事あるって聞いてたんだけど、大丈夫なの?」
「仕事は急いで終わらせたの。あなた達のことも気になったし、先生の護衛である以上、長時間不在はまずいでしょ」
「そっかそっか、そんなに早く私に会いたかったんだね!」
「まあ、みんなに、という意味ならそれもあるけど……」
才羽モモイとは付き合いの長い友人のような会話をする。いや、友人と言うより姉妹、または親子というような内容であるが。
「ミドリも、マイペースな子増えちゃって大変ね」
「! ううん、コユキちゃんもアリスちゃんも良い子だから大丈夫だよ」
行きそびれた、ということなのか、その様子をじっと見ていた才羽ミドリへ話しかけるのも忘れない。
そしてそれらの様子を、白石ウタハは呆気にとられたように観察していた。
「それで、ウタハ先輩、どういうことですか? ちゃんと説明してください」
怒りは他のうれしさで相殺されたようで、早瀬ユウカは暫く後輩と話した後、本題に戻り白石ウタハへと話しかけていた。
「これはちょっとした事故でね……まあ、すぐに直すさ」
「……自分たちで直すのは良いですけど、顛末書の提出と、修理費用についてはちゃんと報告してくださいね。それと……『元通り』にしてくださいね。ミレニアムでも、天井に変な機能は不要ですから」
「ああ、分かっているとも」
数々の前科があるのだろう、早瀬ユウカが念を押すように忠告をしたが、白石ウタハのしれっと回答した。セミナーの会計である少女はそれを疑わしい目つきでしばらく見ていたが
「なら、結構です。ケガ人もいないみたいですし」
と、それ以上の追求はしないことにしたようだ。私や、ゲーム開発部の生徒たちが見ているというのもあるかもしれない。
「それより、一ついいかい?」
話し合いがスムーズに終わったことに安堵の様子だった白石ウタハが、話を切り替えるように早瀬ユウカに問いかける。
「何ですか?」
「随分と仲がよくなったようだね、君たち。噂ではゲーム開発部に最後通牒を出したと聞いていたから、少し心配していたのだけどね」
確かに、部活動の財布を握っている、生徒会の会計は部活動をしている生徒たちと折り合いが悪くなることは多いだろう。実際、早瀬ユウカとゲーム開発部は対立してもおかしくはない状況だった。今のこの現状は偶然の結果ともいえる。
「……まあ、それは事実ですよ。でも、ちゃんと話し合って仲直りできた、というだけのことです。それは……先生のおかげでもありますけど」
「ふむ……それは、とても良いことだね」
白石ウタハはその言葉に、先輩らしく満足そうに微笑んだ。
早瀬ユウカの再度の念押しにも、
―
「本当に私が進行役で良いの? 私一応部外者なんだけど……」
ゲーム開発部に戻った私たちは、本来早瀬ユウカが参加できる午後から始めるつもりだったという、作戦会議を行うことになった。部活動存続に関するルールを確認するには、セミナーの実質ナンバー2である早瀬ユウカがいた方が都合が良いという判断のようだ。
「異議なーし!」
そもそも進行役に任命した才羽モモイが賛成を表明するが、部員たちは一同頷いているのでそれでいいらしいようだった。
「良いのね? じゃ、始めるわ。まず、コユキが部員になったことで、あなた達ゲーム開発部は部活動としての構成要件をようやく満たしたわけだけど、廃部の危機を免れたわけではありません」
早瀬ユウカは諦めて進行を始める。最初は状況の整理からだ。
「それがユウカの言ってた実績ってやつだよね?」
「お姉ちゃんがサボった部長会議で決まったってやつでしょ? 私たちの場合はミレニアムプライスでの受賞が条件……今更だけど、条件が厳しすぎない? ミレニアムプライスの受賞が条件ならほとんどの部活が実績を出せないことになると思うんだけど……」
「そうだよ! そこんとこどうなのさ!?」
才羽ミドリの疑問はもっともだ。ミレニアムのような巨大校で多く存在する部活動それぞれが顕著な実績を同時に残すことなど不可能に近い。実績が出るかどうかすら未知数な分野の学問もあるだろう。
ミレニアムプライスへの参加者数が多くなる見込みである、と言う話は耳にしたが、受賞枠はたった10個以下の狭き門だ。
「ええ、ミドリの言うとおりね。なので、もう少し正確に話すわ。実績を出す必要があるといったけど、実績として認められる条件がいくつか設定されているの」
条件は次の通りよ、と早瀬ユウカはどこかから持ってきた電子黒板に書き込んでいく。
実績として認められる条件
下記のいずれかを満たしていること
①セミナー主催、または一定の人数が参加する学内コンクールにて受賞すること。
②新しい特許の取得、論文の発表、新商品の販売、学外の何等かの賞への受賞など、学外活動における成果の報告
③所定の様式に則った定期的な活動報告書の提出。
「この間の部長会議により決定された内容を明文化したものがこんな感じの内容よ。元々は活動報告の提出は義務ということにでほとんどの部活動はちゃんと出していたんだけど、出していないところもまあ……結構あった。そして、ゲーム開発部はそのうちの一つでずっと出ていない状態が続いている」
電子黒板に書いた内容を読み上げ、改めて部活動の存続に必要なことを告げる早瀬ユウカ。こうして見ると、分かりやすい。つまるところ「
「ご、ごめんなさい」
その義務を怠っていた組織の代表たる花岡ユズが謝罪する。
「あ、べ、別にユズを非難しているわけじゃないのよ。出していないところも色々事情があるでしょうし」
「うん……」
早瀬ユウカが慌ててフォローするが、他の生徒との相手をするときと異なり、花岡ユズとの相手だけややぎこちない。色々とあるのだろう。そのまま彼女が説明を続ける。
「まあ、そうなるとちゃんと出しているところからは不満が出るわけで、それが今回の存続ルールに影響したって感じね。活動報告については任意ということになり、代わりに実績として評価可能になった。出していないところは部活存続のための別の実績を示す必要がある、そういう事なの」
成果らしい成果を出すことが出来ない場合でも活動報告さえ規定通り出していれば問題ない。出せない場合でも、顕著な実績を示せば問題ない。そうすることで「活動に忙しくて報告書など出している暇がない」というような主張を罷り通すことが可能でありつつ、主体的な活動を行っているすべての生徒たちの活動機会を与える制度ということだ。
困るのは実績もないのに活動報告を出していなかった生徒たちだけであり……
「じゃ、じゃあ結局G.Bibleが必要ってことじゃん!? また廃墟に行くの!?」
ゲーム開発部はまさしくそのような部活動であると言えるだろう。才羽モモイが悲鳴のような叫び声をあげた。
「ジーバイブルってなんですか?」
その説明を受けていなかった黒崎コユキが質問する。
「その名の通り、ゲーム開発における聖書のようなものだよ! それには最高のゲームの作り方があるんだって!」
「へー、なんだか夢のある話ですね! それで廃墟って?」
才羽モモイが嬉しそうに説明し、黒崎コユキが興味深そうにうなずいている。
「連邦生徒会長が立ち入りを制限していた廃墟地区で、G.Bibleはそこにあるって噂だよ!」
「アリスはそこで目覚めました!」
「ええ!? なんだか面白そうです」
黒崎コユキが目を輝かせる。天童アリスの爆弾発言はスルーするようだ。
「でも、警備ロボットがたくさんいてめちゃくちゃ攻撃してくるんだよね……」
「ええ!? じゃあ絶対行きたくないです!」
手をクロスさせて首を激しく振る新顔にやっぱりそうだよねー、と才羽モモイが頷く。黒崎コユキを連れて行けば何かしら便利な場面がありそうだが、本人の意志を無視することは出来ない。
「本当にあるかもわからないもののためにもう一回危険を冒すつもり? 今更止めはしないし、行くなら私はついていくけど……」
早瀬ユウカは心配そうな顔を隠そうともせずに言う。しかし乗り掛かった舟から降りるつもりはないらしい。
「私は……」
その時、今まで殆ど会話に参加していなかった花岡ユズが意を決したように顔を上げる。
「私は、廃墟に行くというなら、今度こそついていくよ。私の行動が原因でこれ以上みんなだけに危険を冒させるわけにはいかない」
彼女の言葉に、才羽姉妹と、早瀬ユウカが驚いた表情をし、大丈夫なのか確認をする。彼女は長いこと。この校舎の外から出ていなかったらしい。しかし結局、彼女の決意は変わらなかった。
「わ、私は……」
黒崎コユキが何か言おうとして止める。行きたくないと言いたかったのだろうが、それと同時に何かが不安であると訴えるように左右を伺う。彼女にも言いづらい気持ちがあるのだろう。
「じゃあ、コユキちゃんは私と一緒にお留守番しよ? 大勢で行ってもしょうがないと思うし、ほら、機材とかの説明まだしてなかったから。色々覚えてもらう必要があると思うし。ほら、研修ってやつ」
そこで才羽ミドリがすぐフォローに入り、黒崎コユキは嬉しそうにうなずいた。
方針が決まったようだ。廃墟にはゲーム開発部の才羽モモイと花岡ユズ。天童アリスの3人。それに早瀬ユウカと私を加えた5人で行き、才羽ミドリと黒崎コユキは研修という名目で居残りということになった。天童アリスは研修と廃墟、どちらに行くか悩んだ結果、冒険優先ということで廃墟に行くことを選んだ。
この2人を残した結果、後に私たちはとある事件に巻き込まれることとなるのであった
実績云々に関しては独自解釈です