「ユウカ、右から敵が来てる!」
「任せて! シールド展開!」
花岡ユズの情報伝達を元に、早瀬ユウカが機敏に反応する。
メンバーを変更しての2回目の廃墟への挑戦は思いのほか順調に進んでいた。エンジニア部との模擬戦の際もうそうだったが、早瀬ユウカと花岡ユズ、前衛と後衛に状況判断力の高い人物が揃ったことで、より的確な判断が出来るようになったのだろう。
そして何より
「光よ!」
天童アリスという極めて突破力の高い人員が追加されたこともあるだろう。また、シッテムの箱の戦闘支援システムは、何故か指示している人数が多いほうが性能が上がるという理解不能な仕様となっており、単純に人数が一人増えたことも前回との違いだろう。昨日ここに乗り込んだ時に比べて、かなり安定して先に進めている。
とはいえ、流石に連戦に次ぐ連戦で生徒たち自体も武器も消耗している。それでも、限界が来る前に目的地として指定されていた「工場」へとたどり着くことが出来た。
「全員大丈夫? 怪我はないわよね?」
建物内に最後に入った早瀬ユウカが以前も行ったように安否確認を行う。
「大丈夫だよー! アリスちゃん凄かったね!」
「ふう、うん、私も大丈夫……。先生の指示も心強かった」
「あ、そういえばそれ、どうなってるの!?」
才羽モモイと花岡ユズが頷くが、天童アリスは黙って周囲を見渡している。まるで見覚えがある場所に来たかのような仕草だ。
「アリスさん、何かありましたか?」
「……あ、先生。いえ、分かりません。でも何だか見覚えがあるような、こちらです」
そう言って天童アリスが何かに導かれるように歩き始める。他のメンバーもそれに気づき、慌てて後を追い始める。
「何があるのか、記憶しているわけではありません。ですが、体が記憶してるみたいです。ここに、大事な何かがあったような……」
歩きながら、天童アリスが自分の行動の意味を説明するように語る。誰かに聞かれたわけでもなく、独り言のように呟きながら先へと進んでいく。
「そういえば、アリスって初めて会った時も不思議なこと言ってたよね。私たちのこと知ってるみたいな」
「そうなの?」
才羽モモイが思い出したように言う。花岡ユズはそのあたりの話を聞いていなかったらしい。説明不足にもほどがあると思うが、それだけ環境適応力が高いのだろう。流されやすいともいうが。
「あ、ユズには言ってなかったっけ。私とミドリとユウカの名前を言って、私はゲーム開発部の天童アリスだって自己紹介されたの!」
「そ、そうなんだ? 不思議な話……」
廃墟にいた少女が自分たちの名前を知っていたらもう少し気にならないだろうか。不思議な話で終わらせる部長も大概のものではあるが。
―
「……これです」
導かれた先には、周囲で唯一動作しているコンピュータがあった。天童アリスが近づくと電子音が鳴り、自動で画面が切り替わる。
[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください。]
画面上に、文章が表示された。
「おお、親切設計! G.Bibleについて聞いてみる?」
「待ちなさい、モモイ。怪しいわよこれ。ようこそお越しくださいましたなんて、監視されてるみたいじゃない」
才羽モモイの発言を早瀬ユウカが止めるが、その会話の最中、天童アリスが入力を始めてしまう。
「ちょ、アリスちゃん!?」
そして、今度はアリスが止められようとするも、本人が打ち終わる前に再び画面が切り替わる。
始めは意味不明な文字記号の羅列に、そして
[覚えていますか?]
という、過去を問う質問へと。これもまた、天童アリスと同じく、時間軸のズレが影響を与えている可能性がある質問だろう。
「……ごめんなさい、みんなの名前しか覚えてないのです」
意味深な言葉に、他の者が言葉に詰まっていると、天童アリスが申し訳なさそうな声で返事をした。その回答に、画面は再び意味不明な文字記号の羅列へと切り替わり、
[音声を認識、資格が確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S]
先ほどとは違い、具体的な内容へと変化した。実際のところ、内容はどうでもよく、天童アリスの言葉を認証するための質問だったのだろうか。それにしては、聞きたい内容があるかのような質問だった。
「AL-1S?」
花岡ユズは何のことか分かっていない様子だ。そのあたりの事についても、聞かされていないのだろうから当然だろう。
「それって、アリスちゃんに書かれていた文字よね。そういえばアリスちゃんが名乗る前に、モモイがアレをアリスって読んだのよね」
「そうだっけ? でも、アリスは自分でアリスだーって言ってたよ!」
早瀬ユウカが思い出したように言う。本来であれば、天童アリスはAL-1Sであり、恐らく以前の時間軸では才羽モモイが彼女をそう名付けたのだろう。
「AL-1Sって、私のことですか? 私は天童アリスです。ですがあなたは、私のことを知っているのですか?」
音声認識があるとわかり、AL-1Sであった少女はそう問いかける。
[よく……"%! %\%$#!! $!!!! ……やはり……緊急事態発生。電力限界に達しました、電源が落ちると同時に消失します。残り時間51秒]
一部しか判別しかできないメッセージの後、画面表示は突然警告を現した。
直感的に、この緊急事態というのは嘘であると感じた。こちらを慌てさせ、目的を達成するための何かをさせたいのだ。
そして都合よく、才羽モモイが慌てている。急いでG.Bibleについて聞こうと画面とやりとりを始めている。
しかし、私は敢えてこの状況に口を挟まないことにした。この画面の向こうにいる存在は、私に起きている現象について、事情を共有している可能性が高いと感じたからだ。故に、その目的を阻止せず、何が起こるかを実際に確認すべきだろう。
「保存媒体なんて『ゲームガールズアドバンスSP』のメモリーカードしかないよ!?」
[……どうしてもそうなるんですね……まあ、可能です]
「何かすっごく不服そう!?」
騒ぎながら、才羽モモイと花岡ユズでどうにか接続を完了させる。
保存容量が足らず、元々のデータがすべて削除されるという事故があったようだが、些細なことだろう。
「あ。G.Bible.exeだって! ってパスワードかかってるじゃん!?」
「そ、それくらいならヴェリタスでなんとかならないかな?」
「わざわざヴェリタスに頼らなくてもコユキのセキュリティ突破能力はヴェリタス以上よ。頼めばやってくれるんじゃないかしら」
早瀬ユウカの発言に驚く2人。騒がしい3人をよそに、再び黙っている天童アリスに目を向ける。
「ケイ……?」
彼女が落ち着かないように小さくそう呟いたのを聞いていたのは、私しかいなかっただろう。
そのすぐ後、騒ぎを聞きつけたのか警備ロボットたちが現れて、戦いとなった。上手く連携を取り、その場を脱する。それが終わるころには天童アリスも朗らかな様子へと戻っていた。
そして、成果を持ち帰るため、工場から外に出たとき、自分の携帯端末を持たない天童アリス以外の4人に同時に通知がくる。今更ながら、工場内は通信圏外となっていたらしい。
妙な予感がして通知内容を確認する。
「急いで戻れますか!? コユキちゃんが誰かに誘拐されちゃったみたいなんです!」
どうやらパスワードの突破をしている場合ではないようだ。
才羽ミドリからの通知であったそれは、私たちに新たな事件が起こっていることを知らせるものであった。