ミレニアムの倉庫区画。学校の倉庫とはいえ、実際に
「倉庫区画って初めてきたかも」
「まあ普通に生活してるだけなら校舎のある研究区画(スタディ・エリア)から出ることはあっても、倉庫の方にいくことは無いわね。私も殆ど来ることは無いわ。会計だから全くないということは無いけどね」
才羽モモイの発言に、早瀬ユウカが解説を加える。倉庫業務に関して、物流を担当する学校が存在するという話も聞いたことがある。よく見ると、ミレニアム以外の制服を着た生徒と思わしき人物が所々で休憩をしていたりするのが目につく。ミレニアムのように巨大な学校であれば、そこに関わる大小さまざまな学校・企業があるということがよくわかる場所だ。
「4番倉庫は、あそこに見える建物ね」
「なんか、ちょっと離れた場所にあるんだね」
率直な感想の通り、早瀬ユウカが指示した建物は、他の倉庫から少々離れた場所にあった。現在は使われていないというが、一応廃墟のようにはなっていない。使われなくなった理由については早瀬ユウカも完全には知らず、少なくとも立地の問題があるということだけは分かっているようだ。
入口まで到着する。やはり、使用していないというにはどうも整備が整っているような状態となっている。
「じゃあ、開けるわよ。中に何があるか分からないから、気を付けて」
早瀬ユウカのその言葉の後。倉庫のシャッターが開き始める。
「何が待ち受けているのでしょうか、ドキドキします」
「ちょ、ちょっと不気味だね」
天童アリスが目を輝かせて扉が開くのを待ち、その発言を受けて花岡ユズが恐々と見守っている。
シャッターが開き切り、うす暗い室内に恐る恐る入っていく。
「大体こういうとこって入ったと思ったら扉が閉まって大勢の敵に囲まれてるんだよねー」
「お姉ちゃん、変なこと言わない……で……」
才羽モモイの軽口に言い返そうとしていた才羽ミドリの言葉が一瞬止まる。シャッターが閉まる音がしたからだろう。そして、突如全ての照明がつく。開けた視界には、エンジニア部で戦ったものとは違うタイプの多量の戦闘ドローンが目に留まった。
「お姉ちゃん!?」
「わ、私のせいじゃないよー!?」
才羽ミドリの抗議の声と才羽モモイの弁解が倉庫内に響く。口は禍の元、余計なことを言うと知らず反感を買うことになる。私自身にも言えることだが。
「ふざけてないで! 戦闘態勢!」
「と、とりあえず先生は後ろへ!」
「まずは一発行きます! 光よ!」
流石はキヴォトスの生徒というところだろう。戦闘へ至るまでの切り替えの早さはかなりのものだ。私は大人しく花岡ユズの言葉に従い、最後列へ移動する。天童アリスは戦闘を予期して既にレールガンのチャージを開始していたようで、迅速に攻撃を開始した。
どうにか最初の混乱を乗り切り、周囲の状況を見る余裕が出来てきた。奥はまだ見えないが、周囲のドローンやオートマタ兵器は、すべてが稼働しているわけではないようだ。多くはそこにただ置かれているだけ。つまり、ここは倉庫として現在も利用されている可能性があるということだろう。
襲い掛かるドローン兵器を倒しながら、倉庫の奥の方へ進んでいく。そしてある程度進んだところで、不意に、ドローン兵器たちの攻勢が止まる。気付けば、棚などが一切なく少し広くなった場所まで来ていた。
「お待ちしておりました。ゲーム開発部の皆さん」
突然、正面から声が聞こえてきた。
周囲を警戒していた生徒たちが驚き、そちらに銃口を向ける。
そこには、いつの間にかメイド服を着た、仮面をつけた少女が立っていた。
「あ、あなたは! …………誰?」
「ボケてる場合じゃないでしょモモイ」
才羽モモイの悪ふざけに対し、律儀に指摘を入れる早瀬ユウカ。
「っていうかメイド服って、嫌な予感しかしないんだけど」
才羽ミドリは一人頭を抱えている。ミレニアムでメイド服といえば、すぐ思い浮かぶものがあるだろう。
「ここにいた、ってことは、あなたがコユキちゃんを攫ったんですか?」
花岡ユズが尋ねる。天童アリスは黙って武器をチャージしている。勇者らしいかは別として良い判断だ。
「いいえ、私が攫ったわけではありません。しかし、ここにあなた達が来たら戦うようにと指示されていますので、ここは私が相手です」
仮面メイド服の少女はそう宣うと、今まで戦ってきた機械たちとは明らかに格の違う、1台のロボットが現れる。
「黒崎コユキさんを返してほしければ、私たちを倒すことが条件とのことです。では、お覚悟を」
その言葉で再び、戦闘が始まった。
―
戦闘はゲーム開発部側が防戦一方の展開となっていた。
「無理無理無理無理!! ちょっと強すぎるよあのメイドさん!」
「それにあのロボ、顔はちょっとあれだけど今までのとはくらべものにならないくらい硬い!」
才羽姉妹の言う通り、仮面のメイドと戦闘ロボットの戦闘力はかなりのもので、数の差を物ともしない立ち回りでゲーム開発部の生徒たちは逃げ回りながらなんとか応戦していた。
「うわーん!? 動きが早くてうまく照準が合わせられません!?」
火力という意味で頼りの天童アリスも、相手の機動力に翻弄されている。
「……先生。ちょっといいですか?」
手詰まりを感じていたところに、壁際に遮蔽を作り、隠れていた花岡ユズから通信が入る。
「どういう方法か分からないですけど、先生って私たちの事を俯瞰視点のゲームみたいに状況確認しながら指示を出していますよね? ならこういう事ってできますか?」
シッテムの箱の戦闘支援システムのことを生徒に教えたことは無い。しかし、ゲーマーとしての勘が働いたのか、私がやっていることを把握していたらしい。そして、花岡ユズには紛れもなく最高の、ゲーマーとしての素質があるのだ。
「……成程、分かりました。何とかやってみましょう」
花岡ユズの提案を即座に試してみようと考えるくらいには、私はそう信じていた。
「防戦一方のようですね。黒崎コユキさんのことを諦めて帰るのであれば、追撃はしませんよ」
仮面のメイドがそう挑発する。実際のところ、状況としては追い詰められていると言っても良いものだった。
「諦めるわけないでしょ! コユキはもうゲーム開発部の仲間なんだから!」
才羽モモイが即答する。
「それに、新しい大事なお友達だよ」
才羽ミドリが頷いてそれに続く。
「その通りです。コユキは仲間で友達で、私たちのパーティの一員です!」
天童アリスが真剣な顔つきで同意する。
「返してください! ゲームを一緒に作りたいって言ってくれた、コユキちゃんを、返して!」
花岡ユズがどもらずはっきりと、そう口にする。
「……まあ、私からはなんとも。何となくあなたの後ろにいる人は見えましたし、どういった理由があるのかは後で問い詰めるとして、一つ言えることは、この子たちを本気にさせるととても面倒なことになる確率が極めて高いってことね。同情するわ」
そして早瀬ユウカは、微妙な表情で最後にそう付け加えた。
実際のところ、本気になって奮い立ったところで、戦力差がそうやすやすと覆るわけではないしかし、ゲームとしての視点に立った時限定かもしれないが、花岡ユズの観察能力は極めて高い。局所的には今まで出会った中で最高ともいえるだろう。
狙い目は、メイド服の少女ではなく、ロボットの方。自律移動しているそのロボットはそこまで高度なAIが使われているわけではないようで、一定のアルゴリズムに基づいて行動しているようだ。花岡ユズはその行動をほぼ完全に分析できており、ロボットを追い詰めていく。
そして、ついに、ロボットが壁際にある棚から出ていた何かの部品に突っかかり、一瞬足を止める。
「アリスちゃん!」
私の指示とほぼ同時に花岡ユズが叫ぶ。
「光よ!」
そして待ち構えていたように天童アリスの武器が唸りを上げる。初めてクリーンヒットした天童アリスの攻撃により、ついにそのロボットは完全に動きを止める。
「さあ、後はあなただけだよ!」
前線で仮面メイドの対応をしていた才羽モモイが叫ぶ。残りのゲーム開発部の生徒たちも武器を構えなおし、早瀬ユウカはシールドを展開する準備をする。
「性能の低いプロト版とはいえ、まさか彼が倒されるとは……なるほど、まだ続けたいところですが、十分に目的は果たせたようですのでこの辺りでお暇いたします」
それに対し、仮面の少女はそう言って何かを投げる。途端、周囲に煙幕のようなものが張られる。
「ケホッケホッ に、逃げたー!?」
才羽モモイが叫ぶ煙幕が晴れると、既に少女も壊れたロボットも消えていた。代わりに、またもや一枚の手紙が置かれていた。そこには
【おめでとう 黒崎コユキはここにいる】
と書かれており、その下にはミレニアムの部室棟の地図が描かれており、矢印がひとつつけられていた。
「え? ここって……」
才羽モモイが首を傾げる。見覚えがある場所だったようだ。
「モモイ、しっているのですか?」
天童アリスは知らないようで、首を傾げる。花岡ユズや才羽ミドリもピンとは来ていないようだ。
「そこは……ヴェリタスね。一応不法占拠なんだけど……」
ただ一人、早瀬ユウカはそう言ってため息をつくヴェリタス。今回の首謀者はその組織の者だったという事のようだ。
ミレニアムの運営や区画に関しても独自解釈です。
スケジュールの場所がスタディ・エリアとなっているのでそうでない場所もあるのだろうってだけです。