黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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黒崎コユキ誘拐事件③

 戦闘の影響で悲惨な状況になっている倉庫を放置して、ミレニアム校舎へと戻り、ヴェリタスの部室へと向かう。早瀬ユウカは非公認であることを強調したが、何故存続できているかについては上からの指示とだけ言った。上、というと実質的に一人しか存在しないはずだ。

 C&Cと違い、ヴェリタスという組織については高いセキュリティによって守られていて、以前の時間軸ではミレニアムに極めて能力の高いハッカー集団がいるという噂程度の情報でしか知らなかった。

 

 ヴェリタスの部室へと到着した。はっきりと緊張した面持ちで、花岡ユズが扉の前に立つ。

 私がミレニアムに来てから起こった一連の出来事によって、当事者意識か、あるいは責任感のようなものが生まれたのだろうか、自然に先頭に立つようになっていた。

 

「お、お邪魔します……ええっ、コユキちゃん!?」

 扉を開き、中の様子を確認した花岡ユズが叫ぶ。

 慌てて他のメンバーも中に入っていく。そして一番最後に入った私も同じものを見た。室内には、4人の生徒が神妙な顔で正座しており、もう一人、腕を組んだ女子生徒がいた。4人の生徒のうち一人は涙目になっている。その涙目の生徒こそが黒崎コユキだった。

 

「ユ、ユズ部長、みんな。ユ、ユウカせんぱい……うわ──ー、ごめんなさい──ー!!」

 黒崎コユキが入ってきた私たちを見て、激しく泣き出しながら花岡ユズへと突進する。

 それに対し、同行していた生徒たちは

 

「こ、コユキちゃん!? 無事でよかったけど……落ち着いて……」

「何々!? っていうかコレどういう状況!?」

 訳が分からない状況に混乱する者、

 

「これが敵のアジトですか? コユキを泣かせる悪いボスですね?」

「わー! アリスちゃんも落ち着いて!」

 別のことに翻弄される者、

 

「はぁ、まあ大体想像はつきますけど、説明してくださいますよね? チヒロ先輩」

 出来る限り冷静に努めようとするものに分かれた。

 

「うん、今回は本当に申し訳なかったよ。ウチの問題児たちのやらかしに巻き込んじゃって。私は各務チヒロ、一応ここの副部長をやってる。詳しい説明は……首謀者にさせるから」

 頭を抱えながら、謝罪と挨拶を済ませた各務チヒロは、首謀者、として正座していた内の一人、赤髪の少女を指指す。

 

「はい。この度は私の考えた悪戯でゲーム開発部の皆さんやユウカ先輩、先生を危険な目に合わせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」

「何か気持ち悪いから普通に話しなよ、マキ」

 神妙に頭を下げながら謝罪していた首謀者、マキと呼ばれた少女に、才羽モモイが軽く返す。気やすい間柄ではあるらしい。

 

「うん、わかった」

「それじゃ、事情を説明してちょうだい?」

俯いた顔を上げて、それでも申し訳ない顔をしたまマキと呼ばれた生徒――小塗マキは事の経緯の説明を始めた。

 

「うん……実はこの間友達に誘われてリアル脱出ゲームに行ってさ、それが楽しくて、実際に作ってみたいって話をしたんだ。そしたらみんな乗り気になってさ」

 予想通り、お遊びのつもりだったようだ。早瀬ユウカが後方でため息をついている。

 

「やっぱり、そんな感じだったんだ、謎は一つしかなかったけど。それが何でコユキちゃんを攫うなんてことになったの?」

 才羽ミドリの質問に、花岡ユズにあやされていた黒崎コユキがびくりと体を震わせる。

 

「う……いや、最初はゲーム開発部の人たちにプレイしてもらって、あわよくば感想聞いたりアドバイスなんかもらえないかなって思ったんだけど、部室にいったらコユキちゃんしかいなくてさ、何か魔が差したというか、コユキちゃんが攫われたことにしたら臨場感も増して面白いかなって思って……即席で文章をアレンジしたんだ」

 小塗マキが苦笑いをしながらコユキの方を示す。

 

「そういうの得意だよねー、マキ。それでコユキも乗っかっちゃったって感じかな?」

「そうなの、コユキちゃん?」

 才羽モモイの言葉に、花岡ユズは手元にいる黒崎コユキに語り掛ける。

 

「……はい……」

 泣き止んでじっとしていた少女が、返事をする。

「面白そうだなって思ったんです。それに、心配してくれたら嬉しいなって思っちゃって……」

「コユキ……」

 静観していた早瀬ユウカから言葉がこぼれる。本当に子を心配する親を見ているようだ。

 

「そっか……じゃあ、二つ目とか三つ目の試練もマキが考えたんだ?」

「うん、ハレ先輩やコタマ先輩にも準備の協力とか、カメラやマイクの設置に協力してもらったけど」

 横で正座していた残り2人の生徒が頭を下げる。共犯というところだろう。早瀬ユウカの言っていた通りのお騒がせ集団ではあるようだ。

 

「なるほどー……。じゃあ、感想欲しいっていうから感想言うね」

「え?」

 才羽モモイが怒ることもせず、与えられた試練に対する論評を始める。彼女の予想外の反応に、小塗マキはあっけにとられていた。

 

「まず……正直脱出ゲームとしては微妙だった! というか脱出ゲームと認めたくないレベルの低さだったよ!」

「うぐ……そ、それはまだ試作も良いところだったから……」

「いや、そういうレベルでもなかったと思う…」

 小塗マキは言い訳をするが才羽ミドリも姉の言葉に同意している。

 

「それと……一つ許せないことがあるんだけど」

「はい、ですよね」

才羽モモイが私は怒っていますとでも言いたげなわざとらしい表情に変わる。思い当たる節が犯人は姿勢を正す。

 

「2つ目の筋トレ! あれ、絶対おかしいよ!? リアル脱出ゲームであんな要素聞いたことないよ! しかもアリスいなかったらあそこで脱落してたし!」

「え、そこ!? 3つ目の試練は!?」

 才羽モモイはトレーニング部での恨みを忘れていなかったようで、そこを詰問する。言われた本人は当てが外れたようで驚いている。私自身も驚いているが。

 

「え、3つ目? まあ、最後の試練が戦闘になるっていうのは最近のキヴォトスのリアル脱出ゲームでは定番みたいだし、良いんじゃない?」

「いや、流石にアレはおかしいでしょお姉ちゃん。アレ本気すぎて下手したら大けがしてたよ」

「……確かに……ひどいじゃん! マキ!」

仮面メイドとの戦闘部分に関してはそういうアトラクションとして受け入れていたらしい。妹の指摘で一応怒って見せるが、実際には特に思うことはないようだ。

 

「え? それだけ?」

「うん? まあそうだね。私からはその位かな……あ、そういえば何でみんなはお説教中だったの? コユキなんか泣いてたし」

 

 その通りだ。才羽モモイの指摘する通り、今の説明では悪戯自体は思惑通りに出来ていて、説教されることではあるだろうが、4人が反省した様子を見せるのは少し違和感がある。

 

「そ、それがその3つ目の試練の件でさ。あそこにもカメラ設置したりして、様子を見てたんだけど、実際のところ、あそこを任せてたのはぶちょ……別の人の伝手でさ、あんなに本気の戦闘をさせるつもりなんてなくて……。正直思ってたよりはるかに危険な戦闘になってて、みんなのコユキを助ける決意みたいな発言とか聞いちゃって、もう申し訳なくて全然笑えなくてさ……」

 言いかけてやめたが、部長と言おうとしていた。道すがら早瀬ユウカが言っていた明星ヒマリという人物の事だろう。その生徒の何らかの伝手で用意した内容が、あのような戦闘が起こるきっかけとなった、ということか。

 

「あー……だから、コユキちゃん泣いてたんだ」

「あれ聞かれてたの!? は、恥ずかしい……」

「えー、なんかアレゲームの主人公になった気分がして結構楽しかったよ?」

「はい! アリスも同意します」

 ゲーム開発部のメンバーは厳しい戦闘をさせられたことよりも発言が本人に聞かれていたことの方が気になったようだ。黙って聞いていた早瀬ユウカも「あまり変なこと言わなくてよかった」とほっとしている。全体的に、あっけらかんとした雰囲気である。

 

「それでみんなが無事クリアして、ほっとしたところにチヒロ先輩が現れて、めちゃくちゃ怒られてたってところ。……本当にごめんね?」

「うん……まあ、大体分かったよ。うーん……。まあ、私個人的には別にこれ以上怒るつもりはない、かな? コユキみたいに、私が誘われても多分乗ってたと思うし……。みんなはどう?」

 才羽モモイは小塗マキの謝罪と反省を受け、謝罪を受け入れる姿勢を見せながら、仲間たちに振り返る。

 

「私もお姉ちゃんと同じかな。私もなんだかんだ乗っかっちゃいそうだし」

「私は多分、乗らないと思うけど……でも、ゲームを作ってやってもらいたいって気持ちは分かるから」

「アリスはとっても楽しかったです。本当の冒険をしているようでした」

 他の部員たちも三者三葉ではあるが、全員肯定的な意見を示す。

 

「あ、最後に一つ! 私、今めっちゃモチベ高いかも! こんなゲームやらされて、悔しいけど私たちならもっと良いゲーム作れる、作りたいってすっごく思っちゃった!」

 才羽モモイがそう言い、片手を上げてやる気を示す。何のために廃墟に二度突入したのかも覚えていないかもしれない。

 

「あら、じゃあG.Bibleはもういいの?」

「あ、そうじゃん忘れてた! コユキ、これ開けられる?」

 早瀬ユウカの指摘に、予想通り忘れていた才羽モモイが、何故かここまでずっと持ってきていたゲーム機を黒崎コユキに見せる。

 

「はい? まあプログラム制御のロックなら何でも開けられますよ」

 黒崎コユキがこともなげに言う。彼女にとってはそういうものなのだろう。

 

「え? 何それ。ヴェリタスに来ない?」

「ハレ。黙ってなさい」

 黒崎コユキの発言に今まで黙っていたハレと呼ばれた少女が反応するが、各務チヒロに窘められて再び黙る。ハレといえばその名前で取得された特許が多数あったはずだが、同一人物だろうか。

 

 そして、ゲーム機を手渡された黒崎コユキは何の感慨もなくG.Bibleにかけられたパスワードを解除する。ヴェリタスとゲーム開発部のメンバー、そして早瀬ユウカと私が見守る中、G.Bibleが起動する。そしてその内容は……

 

 ―

 

「何だよそれー!!?」

 才羽モモイの叫び声が室内にこだまする。

 

【ゲームを愛しなさい】それがG.Bibleの内容だった。何者かの悪ふざけなのか、それとも本当に真理に至ったものなのか。それは分からないが、少なくとも具体的な条件を提示されるような期待していたものではなかったということだ。

 

「モチベーション上がったんじゃなかったの?」

 早瀬ユウカが励ますように言うが、才羽モモイは首を振る。

 

「現実問題として、私たちに面白いゲームなんて……」

 才羽ミドリが後ろ向きな発言をし、花岡ユズは青ざめている。想像よりも、彼女たちがG.Bibleにかけていた希望は大きかったようだ。

 黒崎コユキはおろおろと首を振る。自分が何かまた悪いことをしてしまったのではないか、そのような不安が見られる。

 

 しかし、その状況下で、ただ一人、天童アリスは笑っていた。

「大丈夫です。ユズ、モモイ、ミドリ。面白いゲームは作れます。G.Bibleは言っていました、面白いゲームを作るには、ゲームを愛することが必要だと。私たちはその条件を十分に満たしていると思います。だから、私はゲーム開発部の天童アリスとして目覚めました」

 天童アリスの言っていることは前後関係がおかしい発言だったが、奇妙な説得力が感じられた。

 

「それは、テイルズ・サガ・クロニクルにも表れています。あのゲームは、面白くて、ゲームへの愛にあふれていました。だから。次はもっと多くの人にそれを伝えられるゲームを作りたいです」

 アリスがそう言い切ると、他のゲーム開発部の眼に光が戻ったような気がした。

「うん、作ろう。今度こそ。私たちの作ったゲームをみんなに楽しんでもらおう」

 花岡ユズが当初の目標を思い出し、うなずく。

 

「そうだね! どうせ後がないのは一緒なんだし、頑張って作ろう!」

才羽モモイは開き直ったようだ。

「デザインは、任せて! いまならより洗練されたものが描ける気がする」

才羽ミドリは自分のできることに自信を持っていることを思い出したようだ。

「にはは、私も、できることなら何でもお手伝いしますよ! まだまだ見習いですけど!」

そして黒崎コユキは、とりあえず周囲が持ち直したことを純粋に喜んでいるようだ。

 ともあれ、全員が改めて所信表明を行い、その勢いのまま自分たちの部室へと戻っていく。これで幕引きで良いだろう。

 

「何か、本当にゲームの主人公を見てるみたいな気分だ」

 きっかけを作った事件の首謀者、マキが感慨深そうにそう呟くのを耳にしながら、私もヴェリタスの部室を後にした。

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