黒見セリカとの対話記録
黒見セリカについてはこれまでアビドスの生徒であるということ以外に気に掛けるべき点は無いと考えていました。
現在でも認識自体は変わっていないのですが、今の私には使える手札がない以上、小鳥遊ホシノや砂狼シロコとの協力関係を得ることが必要で、そのためにはアビドスの生徒全員から一定の支持を得ることが必要でしょう。
アビドスに到着した翌朝、黒見セリカとの1対1での対話を行うことが出来たので、その記録です。
黒見セリカ(以下、セリカ):げっ
私:おはようございます。セリカさん。
セリカ:なんでこんなところにいるのよ!? まさか待ち伏せしてたんじゃないでしょうね
私:偶然……と言っても信じないでしょう。少しお話がしたかっただけですよ。昨日はあまり話せませんでしたから。
セリカ:話すことなんて無い! 私は騙されないんだから!
私:そうですか。では、これ以降アビドスへの支援は無かったということで
セリカ:え? ほ、本当に? (動揺した様子)
私:勿論、冗談です。
セリカ:何よそれ!? 全然笑えない!
私:そうですか。申し訳ありません。
セリカ:ふ、ふん! 私、行くところがあるから、着いてこないでよねっ!
私:勿論です。ですがセリカさん。私としてはアビドスの生徒たち全員の同意を得て支援を行いたいと考えています。覚えておいて下さい。
──
黒見セリカ誘拐事件
アビドスの生徒たちとラーメン店で別れた後、この後起こるであろう事件について考える。
以前の時間軸においては、カイザーの支援を受けていたヘルメット団が黒見セリカを拉致し、その後先生とアビドスの生徒たちにより奪還されるという事件があった。その件について私は直接関わっておらず、しかし当然のごとく知ってはいた。
未然に防ぐことは可能だ。事前にカイザーの手の届いていない者に匿名で依頼し、動ける状態にしてある。
偶然を装ってヘルメット団を襲撃し、黒見セリカを逃がすことは可能だろう。
しかし、この事件自体は先生と生徒たちが信頼関係を構築するきっかけになった可能性があり、
あえて誘拐事件を止めずに、ことが起こった後に彼のやった通り奪還作戦を行うというのも考えられる。
しかし、それはわざわざ情報戦で有利な立場を放棄するに等しい行為でもある。
何より、先生であれば知っている情報を遣わず生徒を危険な状況に置くようなことをすべきではない、というあの強迫じみた感情が起こるのだ。
故に、私は第3の手段を使用する必要がある。その手段とは
──
私は用意していた人員に連絡し、防弾車両1台を直に手配した。
入手経路については何かしら理由を考える必要があるが、最悪の場合『大人の力』とでも言って強引に誤魔化せばいい。
『
黒見セリカのアルバイト時間が終わり、監視からヘルメット団との接触点を予想し前もって移動する。
そして、黒見セリカがヘルメット団に囲まれる。
未だ背後の敵に気付いていない黒見セリカへの警告とヘルメット団への威嚇を兼ね、クラクションを鳴らしつつアクセルを踏み込み、集団に突っ込む。
ヘルメット団たちは突然の闖入者に動揺し、咄嗟に行動することは出来ていない。
「セリカさん! 乗ってください!」
同じく呆然としている黒見セリカに叫ぶ。
はっとしたように、少女が慌てて動き出す。どうにか乗り込んだところで再度急発進する。
直後、背後で爆発音。おそらく対空砲の着弾音。
懐にあるシッテムの箱が一瞬振動したような気がしたが、とても気にするような状況ではなかった。
「せ、先生? コレどういう状況!? っていうかあれFlak41改じゃない!? あいつら何であんなの」
黒見セリカが何か騒いでいるが、今の私はとてもそれに答えられる状況になかった。
「学校に向かいます。応戦準備を連絡しているので、そこで迎え撃ちます。 セリカさん、すみませんが背後の状況を確認してもらえますか?」
「わ、わかったわよっ! うわっ、めっちゃ追いかけて来てるって、装甲車とか戦車とか! なんでそんな装備持ってるのよ! でも、今のところ追いついては来てない、と思う」
所詮大した指揮系統も持っていない集団だろう。こちらが逃げているから追いかけてきているだけ。
油断はできないが一番の危険はすでに過ぎたといえるだろう。
「ありがとうございます。そのまま見ていてください」
「う、うん。あの、先生。訳わかんないけど、助けに来てくれたってことだよね」
「それ以外に考えられますか?」
「ううん……」
黒見セリカがまた何かを聞いてきたが、こちらには一切余裕がない。そもそも車の運転など、いつ以来だか全く覚えていないのだ。方法が分かるから、乗ったことはあるのだろうが。
そうしているうちに、校舎が見えてきた。
「頑張ったね、先生。セリカちゃん」
すれ違いざまに、小鳥遊ホシノからの通信が聞こえてくる。
そして、その直後、私は昨日とはまるで違う『暁のホルス』の実力を見ることになるのだった。