聖園ミカを見送った直後から、曇り空だった空模様が急速に悪化し、激しい雷を伴う大雨となっていった。特に蒼森ミネは出て行った聖園ミカを心配していたが、後を追う訳にもいかない。そして、外に行ったものを心配している場合でもなかった。元々長期滞在を予定していて服装にも余裕があった百合園セイアと蒼森ミネ以外の、つまり従来の補習授業部の4名が洗濯中の服を汚してしまうというトラブルに見舞われ、着ていた体操服まで水に濡れ、さらに落雷により停電が起きたため、着れる服が無くなってしまうという事態になってしまっていた。
そういった状況で教室で補習、という訳にもいかないため、一同は体育館に集まることになった。阿慈谷ヒフミ、白洲アズサ、浦和ハナコ、下江コハルの4名は水着で、百合園セイアは蒼森ミネから気温変化へと対応するため、普段より厚着にさせられ、当の本人はやはりメイド服を着ていた。当然、私は黒いスーツのままだ。
水着4人に厚着1名、そしてメイド服とスーツ姿も1人ずつ。まとまりのない集団が誕生し、百合園セイアが持っていた電気不要のティーセットを使用した茶会が開かれた。
浦和ハナコの題すところによると「第一回水着ティーパーティ」と言う名前らしい。水着とティーパーティーが参加しているため、あながち間違いだとは言い切れないのが癪である。
「リリってやっぱりとんでもないお嬢様よね。なんでこんなの持ちこんできているのよ」
「元々は屋外でも気軽にお茶会を楽しめるように用意したものだよ。こういう状況ではありがたいだろう?」
下江コハルがいつものように
阿慈谷ヒフミや下江コハルに委縮されてしまうのが嫌なのだそうだ。そんなものだろうか。その状況で蒼森ミネが名乗れるはずもなく、本人は騙しているようで気が引けているらしいが、百合園セイアに追随している。
ゆっくりと時間をかけて作られた紅茶が全員に振舞われる。百合園セイアのいう通り雨に濡れ体温が下がった状態で水着で過ごす羽目になった彼女たちにとって、温かい飲物はありがたかったようだ。一様にほっとした表情を浮かべている。
「そういえば、先生とリリは今朝、何をしていたんだ? 姿が見えなかったが」
白洲アズサが思い出したように言う。
「あ、そうよ。アンタたち何してたの? いない間、こっちは大変だったんだけど!? ハナコは何か聞いてたみたいだけど」
下江コハルが同調し、阿慈谷ヒフミも口には出さないが気になっている様子で頷いていた。浦和ハナコは静観しているようだ。百合園セイアの方を向くと、彼女は暫く考え込んだ後、口を開いた。
「実は、来客対応していてね。」
その来客が聖園ミカであるという情報は伏せながら、ある程度は話すことに決めたようだ。
「来客、リリに?」
「ああ、ほら。私は病弱だからね。お見舞いに来てくれたようなものだよ」
「来客……」
下江コハルは、ふーんと納得したようだが、その正体を白洲アズサは誰が来たのかを考えているようだ。
「……前に会った時、ちょっとした行き違いがあってね。喧嘩別れではないけれど、会いづらい関係ではあったんだ。……ちょっと聞いてもらえるかい?」
先ほどの聖園ミカとのやり取りに、彼女自身も心残りがあるようで、相談するような様子だ。
「え? 何? 人生相談。良いわよ、そういうのちょっと好き」
「あはは、コハルちゃん? ……えーと、リリちゃんが私たちに話したいと思ってくれたなら、何でも話してください。いつもすごく頑張ってくれていますし」
興味を隠しきれない下江コハルをやんわりと制止しながらも阿慈谷ヒフミも話を促す。私は百合園セイアがどういう話をするのか黙って見ていた。
「ありがとう。その、行き違いをお互いに謝ったんだが……あまり、上手くいかなくてね。いや、一歩進んだとは思うんだが、向こうが思い詰めていて、思ったような仲直りには至らなかったというべきかな……」
そのように言い出した後、手違いで殺されかけたというような話は当然しなかったが、百合園セイアと聖園ミカの二人の状況を説明していた。
「……そういうことだったんですね。」
「まあ、リリってちょっと言い方が回りくどいところあるもんね。すれ違いとはそりゃあるわよ」
阿慈谷ヒフミと下江コハルが口々に感想を言う。後者の言葉は百合園セイアに突き刺さったようで、項垂れている。
「リリちゃん、あ、あのっ。一つ聞いても良いですか?」
暫く考えていた阿慈谷ヒフミが、意を決したように尋ねる。言いたいことがあるようだ
「何でも言ってくれ」
「あの、リリちゃんはその子と、仲直りしたいんですよね? お友達として仲良くしたいって、そう思ってるんですよね?」
阿慈谷ヒフミのその質問に百合園セイアは呆気にとられたような顔をする。
「あ、ああ。友達として、という考えはあまりなかったが。そうだね、間違っていない。……彼女の事を友人だと思っているし、仲良くしたい、って思っているよ。」
「そうですよね? では……その子に、それは伝えましたか? えっと、もしかしたら伝えているかもしれませんが、リリちゃんのお話からその話は無かったので。」
「……」
百合園セイアは黙って阿慈谷ヒフミの言葉に耳を傾けている。
「でも、もしかしたらリリちゃんからは謝るだけじゃなくて、仲直りしたい、仲良くしたいってそのお友達に伝えてあげることも、大事なのかなって思って……あうっ、あっている保証はないんですけど」
阿慈谷ヒフミが、彼女にしかできない、あるいは一般生徒であればだれもが持っている感覚でもって自信なさげに提案する。
「良いんじゃない? 怪我させそうになった相手からなんて、嫌われてるかもって私だって考えると思う。自分が悪いって謝ることはできても、仲良くしたいって、傷つけちゃった側からは言い出しにくいわよ」
聞いていた下江コハルも阿慈谷ヒフミの意見に同意する。彼女も素直なタイプとは言えないので、聖園ミカ側の気持ちがわかるのかもしれない。
「……成程、確かにそういうこともあるかもしれない。いや、そうだね。私はまた目的を見失っていたようだ。私も悪いというだけでない、彼女の罪悪感を取り除きたいという話でもない。ただ、友人としてやり直したいと思ったんだ」
2人の考えは、百合園セイアに間違いなく伝わったらしい。彼女と聖園ミカとの関係は、単なる友人関係という言葉では表せなかっただけに、そのような単純な解法にはたどり着けなかったのだろう。
「ありがとう、二人とも。今度あの子と会った時は、もっと自分の気持ちを伝えるよう心がけよう。コハルのいったように、回りくどいのもやめだ。」
百合園セイアは、二人にそう言って感謝の意を示した。
その後、電気が復旧し、第一回水着ティーパーティーは解散の運びとなった。ドライヤーや洗濯機の様子を見に浦和ハナコや下江コハル、阿慈谷ヒフミが出ていくなか、残った白洲アズサが百合園セイアに近づく。
「リリ……さっき言っていた来客って」
律儀にリリと呼んで、彼女が質問をする。
「ああ……君の想像している人物で間違いないと思うよ、アズサ」
「そっか……私が言うのもなんだけど、仲直り、できるといいな。人間関係も、虚しいものかもしれないけど、それでも繋がりは大事にした方が良いと思う」
「うん。肝に銘じるよ」
白洲アズサが頷いて3人を追いかける。私も後片付けは任せ、再開できそうな補習授業の準備を行うことにした。
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