黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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敵の正体

 奇妙な沈黙

 

 医務室にいた私と百合園セイア、そこに現れた聖園ミカと桐藤ナギサ。そして、百合園セイアが起きたことを伝えに行き戻ってきた蒼森ミネとそれについてきた補習授業部の生徒たち。およそ今回の騒動に関わる全ての人物9人が一堂に介してしまった。全員が入るには少々狭い医務室内に収まる。

「……こほん、ミカさん、とりあえず、おろしていただけますか?」

「あっ、ごめんねナギちゃん! よいしょっ」

 沈黙を破ったのは何故か聖園ミカに抱えられていた桐藤ナギサだった。なんともいえない間の抜けた会話に、場の緊張感が緩む。

 

「……ナギサ様、ミカ様、お二人は、一体どういう……?」

 蒼森ミネが全く訳が分からない、と困惑した様子で質問する。

「そ、それは……お見舞い、でしょうか……?」

「私はナギちゃんがぱたぱた歩いてたから急いでるのかなって思って連れてきたの」

「いえ、あれは走っていたのですが……」

「えっ、あれで?」

 同じく少々混乱している桐藤ナギサが返事をし、聖園ミカは付き添いであると主張する。入ってきたときの様子からすると、聖園ミカの方も焦って現れたのは間違いないと思うが。

「ああ、ナギサさんが来られたのは私が連絡したからだと思います。こんなに早く直接来られるとは思っていなかったので、皆さんに伝えるのが遅くなってしまいました」

 ナギサの訪問経緯については、念のため、補足をしておく。

 

「……ミカ様と、ナギサ様……がわざわざお見舞いに駆け付けるって……本当に何者なのよ、リリ!? あと、目が覚めて良かったわ! 急に倒れて心配だったんだから!!」

 突然現れた学内トップの2人にフリーズしていた下江コハルが叫ぶ。

「ありがとう。心配かけてすまないね、コハル。それにみんなも」

 百合園セイアが返事をするが、聞いていた聖園ミカが目を丸くする。

「え? リリ……ってどういうことセイアちゃん」

 そういえば、百合園セイアがどういう体で補習授業部に入っていたのかを彼女に説明していなかった。元々彼女や、他の人たちに気付かれないように偽装していたので、問題は無いのだが。

 

「セイアちゃんって……、えっ、えっ!? まさかリリちゃんって」

 阿慈谷ヒフミが気付いたのか、私と百合園セイア、そして、桐藤ナギサの顔をきょろきょろと確認するように見比べる。下江コハルはまだ状況を理解しておらず、ぽかんとした様子だ。

「そういえば、久しぶり、ミカ。元気そうで良かった」

 白洲アズサはこの状況にはあまり動じていないようで、自分の順番が回ってきたとばかりに聖園ミカに挨拶をする。

「う、うん。アズサちゃんも、久しぶり……」

 聖園ミカが流石に少し気まずそうに曖昧に手を振る。二人の関係を考えればさもありというところだ。

「……セイアちゃん。流石に二人にも説明した方が良いのでは?」

 頭を抱えながら様子を見ていた、浦和ハナコが最後に声をあげる。

「ふむ、確かにそうだね。既にここにいる者の殆どは知っていることだし、改めて自己紹介しようか」

 説明を求められた百合園セイアがそう言って、起き上がらないまでも姿勢を少しただす。

「私は百合園セイア。()()()()()()()()()()()()()()()()()で、曲直瀬リリというのは偽名だよ。黙っていてすまないね、ヒフミ、コハル。ついでにこっちのメイドは本当は私のメイドではなく……」

「……はぁ。蒼森ミネです。御存じかもしれませんが、現在()()()()()()()()()()()()()()()()

 何も知らなかった二人の驚きの叫びが医務室内に響いた。

 

 ―

 

 病み上がり、ということで、蒼森ミネが強く主張し、その後は私と蒼森ミネ以外は少人数ずつ順番に面会することになる。

 初めは、流石にティーパーティーの生徒会長が優先であろうということで、聖園ミカと桐藤ナギサの番ということになる。

「ふぅ……。ようやく少し落ち着いたね。こんな体勢ですまないが……こうやって3人が揃って話す機会は、本当に久しぶりに感じるよ」

 百合園セイアが、人数が減った室内で話始める。

「そうですね……本当に。本当に……無事で良かったです」

 桐藤ナギサはそう言って、ベッドで安静にしている百合園セイアの手を握る。声が震えているのは、それだけ本気で言っているという事だろう。

「うん、本当に申し訳ない。こうしてまた会えてうれしいよ。ナギサ」

 百合園セイアは大人しくされるがままの状態で、そう返事した。

「……ごめんね、ナギちゃん。ごめんなさい。私のせいで、なんだ」

 2人の様子を見ていた聖園ミカが、そう言う。これまで桐藤ナギサに隠していたことを明かすつもりだろう。

「……ミカさん。……最近、お二人があっていたという話も先生から聞いています。隠し事をされていたのは少し寂しいですが、一体何があったのか、漸く教えてくれるということですね?」

 桐藤ナギサが聖園ミカに向き直る。そして、聖園ミカの、告白が始まった。

 

 ―

 

「……」

 事が起こった経緯と、それに至る感情の洗いざらいを話した聖園ミカを、桐藤ナギサはしばらくじっと見つめていた。

「……思ったよりも、複雑な話ですね。普通にミカさんがセイアさんに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、位を想像していたのですが……」

 桐藤ナギサが目を閉じてそう言い放つ。やはり、聖園ミカが関わっている可能性は承知していたようだ。

「いや、ナギサ。流石にそれは……」

「似たようなものでしょう」

「はい、ごめんなさい……」

 何故か被害者である百合園セイアが聖園ミカを庇おうとして桐藤ナギサに怒られている。

 

「……ミカさんがセイアさんを痛い目に合わせようとした、というところまででも、気持ちとしてはとても怒りたいですが、それはミカさんとセイアさんの間で解決できるのであれば、私からはもう言いません」

 桐藤ナギサが深く考えた後、まずはその部分から話し始めた。

「う、うん……」

「私が言ってほしかったのは、その前と、後の話です。アリウスの方たちとのことを黙っていたことと、自分では手に負えない事態になってからもそれを隠していたこと。どちらも本当に残念です。せめてどこかのタイミングで相談していただければ、それこそエデン条約の話より優先すべきだと判断することもあったかもしれません」

「それについては、私も悪いんだ、ナギサ。私もアリウスのことは知っていて黙っていた」

「セイアさんの秘密主義も承知していますが……いえ、秘密主義は私もですね。それについては、3人全員の問題と言えるでしょう。それにしても、せめてセイアさんを傷つけてしまったことを明かしていただければ、と思うところはあります」

 桐藤ナギサがそう言って聖園ミカを睨む。怒っているというよりは拗ねているような様子だ。

 

「……ごめんなさい。今度からはそうします」

 聖園ミカが素直に謝る。桐藤ナギサが頷いて話を続ける。

「はい。今のが()()()()()()のお説教です。こうしてセイアさんも無事だったので、これ以上は言いたくはありません。反省していただけるならそれで……ですが、()()()()()()()()()()()はそういう訳にはいきません」

「ナギちゃん。うん、そうだよね……どうすればいいかな?」

 聖園ミカが素直に受け入れる姿勢を見せる。桐藤ナギサは小さくため息をついた。

「……とはいえ、ミカさんを今すぐ処罰する、というようなことをやっている場合でもありません。……ミネさんは、どう思いますか?」

「私は……そういうことはよくわかりません。……ですが、これ以上、事態が大きくなるようなことがなければ、誰かに真相を明かそうなどと言うつもりはありません。巻き込まれた補習授業部の方たちや、シスターフッドへのフォローは必要でしょうが」

 話を振られた救護騎士団長は、政治のことはそっちでやってくれ、といった態度だ。気にしているのは百合園セイアの体調と、そしてアリウスの生徒たちの健康状態だろう。

「ありがとうございます、ミネ団長」

 これで一旦、聖園ミカの件に処遇については、一旦保留という結論となった。

 

 ―

 

「それで、アリウスの方々ですか。このまま進めばミカさんが部隊を引き連れてクーデターを起こす予定になっていたと。頭が痛くなりますね……」

「……」

 話題が変わり、アリウスのことへの検討になる。この機会がなければ一体どうするつもりだったのだろうか。聖園ミカの方を見る。

「まだ、アリウスの子達には言ってないけど、やっぱりそれは出来ないっていうつもりだよ」

「そんなことをすればミカさんの身が危ないでしょう? いくらミカさんが強いと言っても……それに困ったことにアリウスの方たちの主張には、ミカさんの話が確かであれば正当性があります。とはいえ、クーデターを成功させてもらうという訳にも当然いきませんし……」

 桐藤ナギサがそう言って頭を悩ませる。聖園ミカがここでアリウスを実質的に裏切ったことにより、『()()()()()()()()()()()()』という主導権は実質的にトリニティが握ってしまったことになる。アリウスがトリニティの強固な基盤を崩すには、保有戦力を考えると奇襲を成功させること以外にない。実際に以前の時間軸では、『聖園ミカのクーデター』、『エデン条約への襲撃』という2段階での奇襲でそれを為そうとしていた。

 もっともそれは裏で操っている別の存在(ベアトリーチェ)がいなければ、であり、かつ彼女は最初からその成功など目的としていなかったのだが。

「……どうにか、話し合いで解決する道を見つけられればいいのですが」

 桐藤ナギサは、穏健派らしくその方向に考えを巡らせている。しかし、今それをするわけにはいかない。

 

「少しよろしいですか。話し合いという手段を取るのは少し待ってほしいのです」

 途中で割り込んだ私の言葉に、ここにいる全員の視線が私に集まる。

「それは、どういうことですか? 先生」

「そうですね……ミカさんには以前お伝えしましたが、アリウスの生徒たちの動向には、裏で操っている大人の存在があると考えています。ミカさん、どうですか? あれからどなたかに会われましたか?」

 私はそう言って、聖園ミカに状況の確認をする。

「う、うん。あの後は一回だけアリウスの子達とお話する機会があったんだけどね。一応、人によるんだけど……確かに先生のいう通り、少しおかしなことが分かったの」

「おかしなこと、ですか」

「うん。一つは、基本的にみんな、なんだけどアリウスの子達は『アリウス』は『トリニティ』と『ゲヘナ』をって、常に言っていたの。それで、私も思うところがあって、私も前からゲヘナは嫌いだったんだけど、いつの間にか「アリウス」と「トリニティ」で結託して「ゲヘナ」を潰さなきゃってすごく考えちゃってたの。セイアちゃんと再会した後で自分でよく考えて、それに気づいたんだ」

 やはり、聖園ミカも一定の洗脳状態にあった可能性がある。もちろん本人は気づいていないだろうし、まるっきり本心が無かったという訳ではないだろう。しかし、ベアトリーチェがそういった心の隙に介入するのを最も得意とする人物であることに疑いは無かった。

「それと、一回だけ、私の知らない人のことがいるような話をした子がいて……その子は『マダム』って言ってた。すぐに他の子に止められちゃってたけど。マダムって普通大人に使う言葉でしょ?」

「ええ、そうですね。その『マダム』こそが、本件の黒幕でしょう。その人物がいる限り、話し合いの場を設けるのは悪手となりかねないと考えます。仮に作戦失敗をそれが悟れば、洗脳している生徒たちに何をしでかすのか分かったものではありません。相手は暴力的支配と洗脳を躊躇なく使用することが出来る人物です」

 私の発言に、先に理解していただろう百合園セイア以外の3人が青ざめる。慎重に事を進めなければならないことの重要性が分かったのだろう。

 

「ミカさん、危険を承知で、アリウスの生徒たちとの計画を続行できませんか? もちろん、自らの安全を最優先とするのは大前提ですが」

 桐藤ナギサと聖園ミカ、そして百合園セイアの全員との連携が可能という前提で、以前から考えていた方法を話す。

「怪しまれないように、ってことだよね……アリウスの子達を騙すのはちょっと気が引けるけど、先生の話だと、それがアリウスの子達を守ることにも、繋がるんだよね?」

 聖園ミカが私に同意を求めるように見つめる。私が頷くと、それに返すように小さくうなずいた。

「そして、これは可能であれば、と言う話で無理に、という訳ではないのですが、トリニティへの襲撃を行う人物について、その子達を保護するという想定で調整できませんか?」

「……どういうことかな?」

「先ほど『マダム』と言ってしまっていた生徒や、洗脳があまりかかっておらず、アリウスの外に憧れがありそうな人物がもしいれば。他には体調不良が著しく、一刻も早く保護しなければならない生徒がもしいれば、そのような人を連れていく、というような事です」

「……なるほど、うーん、少し難しいかもしれないけど、やれるだけやってみるね」

 聖園ミカには何かしら心当たりがあるのか、慎重にうなずいた。

 

「ナギサさんや、セイアさん、ミネさんはどうですか? この方法に反対であれば、遠慮なくおっしゃってください。ここで何かを抱えるようなことがあっては、今度こそいいようにされてしまうかもしれませんから」

 

「私は概ね先生と同意見だ。異論は無いよ。」

百合園セイアがまず、同意する。

「……アリウスの方たちの安全も考慮していただいて、ありがとうございます。私は、一人でも多くの方を救護できる道に従うだけですから」

続いて、蒼森ミネも話の内容を噛み砕いて考えたうえで、賛成の意志を見せる。

「そうですね……シスターフッドや、他の派閥への根回しを迅速に、かつ秘密裏に行う必要があるでしょうが、何とかしてみます。ミカさんは安心してクーデターを起こしてください。」

桐藤ナギサは最後に、済ました顔でそう言った。

対アリウス、否、対ベアトリーチェ計画の最初の大きな作戦は、こうして決定された。

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