ヘルメット団による黒見セリカ襲撃のあった日の深夜。
アビドスの生徒たちの監視や車の手配を依頼していた協力者に再度連絡を取る。報酬の受け渡しと追加の依頼のためだ。
電話をかける。1コール、2コール。
『もしもし!? 無事なの!?』
電話口の向こうから非常に慌てた様子で協力者が出る。
「ええ。おかげさまで大変助かりましたよ。その様子だと何があったかご覧になっていたのですか?」
『当然よ。大事なお客様だもの。手出しできないのは歯がゆかったくらいよ』
相変わらず感情豊かな少女だ。それでいてハプニングが起こらなければ高い作戦遂行力がある。
「ああ、そうでしょう。私に何かあれば報酬を受け取れなくなりますからね」
『え? え、ええ。そうね、報酬!! 報酬は大事! 分かってるわ!!』
何故か電話相手が動揺する。まさか純粋にこちらの身を心配していたのだろうか。
「それで、報酬の受け渡しと追加の依頼をしたいのですが、よろしいですか?」
『もちろんよ! こんな極秘任務みたいな依頼をもらえるなんて、カッコいいじゃない!』
何を言っているかよくわからないが、上機嫌のようなので指摘することはないだろう。
「その前にまず、車や装備の入手用にお渡ししていた一時金、あれは余っていますか? 足が出たのであれば言ってください。勿論報酬とは別でお渡ししますので」
『え? ええ、結構余ってるわよ。防弾車どころか戦車でも買えそうな金額だったじゃない』
予想通りの回答だ。こちらも予定通りの返答をする。
「そうですか。では残りはご自由に使っていただいて結構です」
『はぁっ!?』
余ったから返せなどというつもりは無かったし、渡したときに説明したような記憶があるが、向こうは予想外のことを言われたような反応を示す。
「それで、すみません。話を続けてもよいですか?」
『……はっ。 え、ええ。何かしら』
「急ぎの依頼が1件と、元の依頼の延長したいというお願いが1件です。急ぎの方はまだ元の依頼分の報酬もお渡ししていないのに頼むのは申し訳ないのですが……」
『とんでもないわ! あなたの依頼には優先すべき価値がある。私はそう思うわ』
電話口の奥で何やら騒がしいが、本人は乗り気のようだ。
「では、お伝えします。今回襲撃してきたヘルメット団の拠点を襲撃してほしいのです。戦車や対空砲などの装備についても破壊をお願いします。おそらく今回の襲撃で相当数を失っているはずですが、念のため」
『成程……。念入りに報復しておくということね。承知したわ』
「それと、これは可能性の話なのですが、もし同じようにヘルメット団を襲撃しているものがいたら、そちらも消耗させていただけると助かります」
カイザーが懲罰のために傭兵を雇ってヘルメット団を攻撃する可能性があり、当然それはアビドスの敵である。事前に戦力を削いでおいた方がいいだろう。
『え? まあ、分かったわ。何か考えがあるのでしょう?』
「勿論です。それが終われば、あとは暫くアビドス周辺の監視をまたお願いします」
電話相手が了承する。用件はこれでほぼ終わりだ。
「近日中にお会いしましょう。報酬は手渡しの方が都合が良いという話でしたよね。食事でもご馳走しますよ」
『ええ。こちらは構わないわ。会えるのを楽しみにしているわ『黒服』さん。これからも
終話前に、電話口から歓声のような声と複数人のざわついた声が聞こえたが、聞かなかったことにして電話を切る。
便利屋68。以前の時間軸ではカイザーに雇われていたはずだが、実力に見合わぬ依頼料で多岐にわたる依頼をこなしてくれる集団だ。
関係を強化しておくに越したことはないだろう。