聖園ミカ、桐藤ナギサ、そして蒼森ミネとの話し合い、敵の正体を確認し、緊急の問題としてアリウスの襲撃をどうするかという方針決定が終わり、以後はそれぞれ交代で聞きたい事を聞いたり、話したいことを話すという流れとなった。ここに主要になるメンバーが集まった以上、それぞれに聞きたい話もあるだろう。
2人と入れ替わりに医務室入ってきたのは、下江コハルと阿慈谷ヒフミだった。蒼森ミネには何かあったら連絡すると伝え、ティーパーティー2人の案内へと出て行った。事情を知らなかった2人に気を使ったのだろう。
また、浦和ハナコと白洲アズサだけを残した状態では危険であるという共通認識もそこには存在していた。
「さて……改めて、正体を隠していた事、申し訳なかったね。ヒフミ、コハル」
百合園セイアが2人への謝罪を繰り返したところから会話が始まった。状況的に仕方がないといえなくもなかったが、騙したことの罪悪感が無い訳ではなかったのだろう。
「いえ、せ、セイア様にも色々御事情があったのでしょうし、謝罪なんて、とんでもありません」
「は、はい。それより、知らなかったとはいえ、私セイア様に色々失礼なこと……」
阿慈谷ヒフミと下江コハルはほとんど雲の上のような存在のように認識していた生徒会長の謝罪に恐縮しきっている。百合園セイアはその様子に少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「いや……親しみを持って話しかけてくれていたことは分かっているよ。ナギサやミカ以外からは、余りフランクに接してもらえる機会が無かったから、むしろ嬉しかったと言っても良い」
言い方がまるで謙遜しているようにも聞こえるが、これで恐らく本心だろう。以前私に本心が伝わりにくいと言っていたが、人のことを言えたものでもないのではなかろうか。彼女は話を続ける。
「聞きたいことは色々とあると思うが、まずは、何故補習授業部に名前を偽って入ってきたか、と言うことを話そうか。と言っても、何故補習授業部が出来たのか、と言うことに関してはナギサに聞いてくれたまえ」
百合園セイアの言葉に、二人は黙ってうなずく。
「そもそも、私が今、対外的には入院していることになっているという話は知っているかな?」
「は、はい。以前ナギサ様からお聞きしたことがあります」
「わ、私は……知りませんでした」
正義実現委員会に所属していたとはいえ、一般生徒だとそのような認識なのはおかしくは無い。学校が巨大で、顔であるホストの桐藤ナギサともあれば別かもしれないが、元々あまり表に立つことのない百合園セイアの、現在の状況など知る由もないと言うケースも多いだろう。
「実は、そのようなことになっていてね。それは一般生徒でも少し調べようとすれば分かるくらいのレベルで周知されていたかな。しかし、それは私が不在であることを隠すための嘘だった、という訳だ」
百合園セイアのその言葉に、2人は首をかしげる。嘘をつかなければならない状況が、咄嗟にはおもいつかなかったようだ。
「どうして、そんなことを?」
「それは身を隠すため、だね。まあ上層部での話で、少し複雑な事情はあるんだが、概ねそういうことだ。とある因縁で命を狙われた私は身を隠していて、その事実を一般生徒や
一部は不正確、というか意図的に暈しているようだが、嘘ではないというレベルの内容を百合園セイアは話す。
「な、なるほど……そんなことがあったんですね。怖い話ですね」
「あれ? ……じゃあ、補習授業部はそのために作られたってことですか? 成績がまずい生徒たちが集められたっていうのも嘘?」
阿慈谷ヒフミが身を震わせ、下江コハルがポジティブな思い付きをした。
「いや、残念ながら、補習授業部が出来たことに関しては私は関わっていないのだよ。私はただ、先生の傍にいたいという要望を出していて、補習授業部の一員として、合宿に参加しろ、というのがその答えだった、というところだね。この程度の簡単な連絡さえ私の状況をしている中で行うのは大変だった」
状況的に通信端末を使うことはできないだろうし、蒼森ミネが協力したのだろう。現在は曲直瀬リリとしての携帯端末を利用しているが、それの準備を含めて、桐藤ナギサと蒼森ミネは相当苦心したのは想像に難くない。
「先生の傍にいたいって……も、もしかしてそういうお話ですか?」
阿慈谷ヒフミが何か勘違いし、顔を赤くしている。
「あ、あんた……生徒に、……っていうかセイア様に手を出したの!? 最低!!」
そして下江コハルは阿慈谷ヒフミのそれを数段具体的にしたものを想像したらしく、私を糾弾するがとんだ言いがかりだ。まあ、二人ともそういう話が気になる年代だということか。
「お二人が想像しているような関係ではありません。セイアさん、紛らわしいことを言うのはやめてください」
「表現がお気に召さなかったかい? 嘘は言ったつもりはないが、まあそうだね。別に先生と深い仲という訳ではない。ただ、先生が何をしでかすのかを近くで見ていたと思っただけだよ」
百合園セイアの補足に、二人は曖昧にうなずいた。一応、納得はしたようだ。
「さて。これで私からの話は以上だが、何か聞きたいことはあるかい?」
そう尋ねられた2人は顔を見合わせる。そして、阿慈谷ヒフミがおずおずと質問をした。
「あの、セイア様、はこの後どうするんですか? やっぱり、補習授業部は辞められんでしょうか?」
「あ……」
阿慈谷ヒフミの質問に、その可能性に気付いた下江コハルがショックを受けている。
「ふむ……そうだね。急なことだから、考えていなかったな。……しかし、曲直瀬リリが補習授業部の一員だというのは変わらないからね。騙しておいて虫の良い話だが、もし君たちが良いと言ってくれるなら……もちろんアズサやハナコにも同意が得られたらだが……これからも、補習授業部として一緒にやっていけたらと思っているよ」
百合園セイアは、すこし不安そうに2人にそう告げた。
「本当ですか!? 嬉しいです! ね、コハルちゃん?」
「う、うん! 良かった……」
そんな彼女の不安をよそに、阿慈谷ヒフミと下江コハルは、嬉しそうに返事をした。
「ありがとう、二人がそう言ってくれて嬉しいよ。後の二人にも確認しなくてはね」
「ハナコもアズサも、きっと大丈夫です!」
下江コハルが無責任に保証するが、恐らく問題は無いだろう。
「そう言ってくれて嬉しいよ。……もう一つ、我儘を言っていいかい?」
「はい! 何ですか?」
「私が曲直瀬リリでいる間は……今まで通り、曲直瀬リリとして扱ってくれたら嬉しい」
「はい! ……え?」
百合園セイアのその言葉に、即答した下江コハルが、困惑の表情を浮かべる。言っている意味が分からないのだろう。
「つまり、セイアさんは今まで通り敬語なしでフランクに接してほしい、と言いたいのでしょう。後輩や、同級生に対して振舞うように。なかなか自分の正体を言い出せなかったのも、それが珍しくて、うれしかったのが一因でしょうからね」
仕方なく、本当に仕方なく私が補足する。百合園セイアが抗議するような視線を送ってくるが、知ったことではない。そして、その言葉を聞いた2人は、
「うん、分かった! リリ、これからもよろしくね!」
「そうですね、リリちゃん! 残り一週間ですが、一緒に頑張りましょう」
と、笑顔でそう言った。