黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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作戦開始

 今日を逃せば、襲撃当日、最後の追試験の日まで直接会って話すことが出来ないことも多い。

 補習授業部やティーパーティーの生徒たちはそのつもりで、後悔の無いように話し合う。

 

「では、皆さん。私が言うのもなんですが、最後の追試験、頑張ってくださいね」

 一通りの話し合いが終わり、あらゆる用件を飛ばしてこちらに来ていた桐藤ナギサは最後にそう言い残して帰っていった。聖園ミカを連れ立って。

 1週間後に迫る襲撃の日までに、トリニティ側で対策を敵に悟らないように対策を取る必要がある。シスターフッドや、正義実現委員会など、蚊帳の外になっている組織への根回しも必要だ。さらに多忙になることは明らかだが、白洲アズサの話を聞き、桐藤ナギサのモチベーションはかなり高くなっているようだった。

 阿慈谷ヒフミは、途中で桐藤ナギサと十分に話す機会を得られたようだ。後から聞いた話によると、改めて補習授業部が生まれた理由と、その現在の目的を聞いたようだ。

「複雑な気持ちはありますけど、そもそもテストはきちんと受けるべきだったのは私の方ですから。ナギサ様が尊敬する先輩で大事なお友達であることは、変わりません」と言っていた。しかし、恐らくこの生徒は同じ状況に立たされた時、テストを選ぶことは無いのだろう。その生き方を否定するつもりはないが、せめて真っ当な言い訳を立てる位の、方便の使い方を覚えるべきなのかもしれない。

 

 そして、他にも関係性の改善、つまり『仲直り』を行っていた組み合わせがある。その場面には、私も偶然居合わせていた。桐藤ナギサが帰ることを私と聖園ミカが伝えに来た時だ。今思えば直接現れなかったのは桐藤ナギサが気を遣った可能性もある。

 

「あ、先生。セイアちゃん、ナギちゃんがもう帰らなきゃいけないみたいだから、私も一緒に帰るね。ナギちゃんが一人で歩いて帰ると何が起こるかわからないから」

 白洲アズサとの話が終わり、私が医務室に戻った後、次に入ってきたのが聖園ミカだった。彼女は桐藤ナギサからの伝言を私や百合園セイアに連絡する役割を持っていたようだ。

「……ああ、そうだね。ナギサのことを頼むよ、ミカ」

 百合園セイアはそう返事をした。少し緊張しているような様子もあった。

「う、うん。じゃあね、セイアちゃん……また」

 一方の聖園ミカは、誰もが分かるほどにぎこちない様子だった。先ほど桐藤ナギサや蒼森ミネを含めて話をしているときはそのような様子ではなかったが、それらの心の拠り所がいない状態だとまだ落ち着かないようだ。

「……ミカ、ちょっと良いかい?」

 そして、そのぎこちなく部屋から出ようとしていた聖園ミカを百合園セイアが呼び止める。

「どうしたの、セイアちゃん?」

 振り返り、そう聞いた聖園ミカを、彼女は手招きして呼び寄せている。

「ど、どうしたの? あ、寂しくなっちゃった? ……あはは、なんて……」

 聖園ミカはそれを拒否することは無く、いつもより勢いはない口調で冗談めかしたことを言いながら、医務室のベッドまで近づいてきた。百合園セイアはそんな所在なさげな彼女をじっと見上げ、想いを伝えるように話し始める。

「それもある。でも、どうしても伝えなくてはいけないことがあるんだ」

「な、何かな」

 聖園ミカがたじろぐ。

「……この前は、お互いにどちらが悪いとか許す、許さないとかの話をしただろう? でも、そんなことを話したかったわけじゃなかったんだ」

「え?」

 聖園ミカがようやく、百合園セイアの顔を見た。

 

「私はただ、ミカと仲直りがしたかっただけなんだ。君が君自身のことを許せなかったとしても、私のことをどう思っていたとしても、私はただ、君と……ミカと、もう一度、友としてやり直したいと思っている。それを伝えたかったんだ」

 百合園セイアは、彼女にしては極めてストレートに、自らの想いをぶつけた。そして、握手を求めるように手を伸ばす。聖園ミカは、恐る恐るその手を両手で取り、

「……良いの?」

 と、震える声で返事をした。

 

 その後2人が何を話したかはわからない。私も『桐藤ナギサへの挨拶を済ませるため』医務室を離れたためだ。

 桐藤ナギサへの挨拶や、今後のことについて改めて確認をしていること暫く、現れた聖園ミカはやたらとテンションが高く、そして目を真っ赤にさせていた。

 

 ―

 

 全ての経緯が明かされても、補習授業部の合宿は続いていた。結果的に様々な部分で結束を固め、そしてモチベーションも高まった補習授業部の部員たちは、残りの1週間を勉強と体調管理に努めながら、交流を深めていった。

 特に既に全員がその正体を知っている百合園セイアに(曲直瀬リリ)は今まで以上に他の部員たちとの交流することに積極的のように見えた。補習授業部の部員としての悔いが残らないようにするためか、あるいは、単純に質と効率の良い睡眠がとれるようになったことで、体調にかなりの改善が見られたことが理由かもしれない。

 そして、瞬く間に最後の追試験の前夜となった。

 

「いよいよですね、皆さん」

 毎日使用していた教室で、阿慈谷ヒフミがいつかのように教壇で話す。試験開始は翌朝9時から、トリニティ本館で行われる予定だが、その前に大立ち回りが予定されているため、作戦は前日深夜から開始することとなっている。今はもう、そろそろ移動を開始する時刻だ。

 既に補習授業部全員の間で作戦の共有はされているが、結局多くの人員が非戦闘員で構成されているこの部活動において、優先すべき事柄は2つだった。

「何度も言っていますが大切なことは2つです! コハルちゃん、何だったか覚えていますか?」

 阿慈谷ヒフミに問われた下江コハルが即答する。

「怪我をしないこと。それと落ち着いて試験に臨むこと、でしょ。あんまり何回も繰り返すと逆に緊張しちゃうわよ」

「ほぐしてあげましょうか? コハルちゃん♡」

「いきなりエッチなこと言うな! 死刑! 

()()言っていないんですが……」

 下江コハルと浦和ハナコは完全にいつも通りだ。過度な緊張をしていないという意味では全く問題ないだろう。落ち着きという意味ではやや不安が残るが。

「特に、アズサちゃん。私たちの中で、最も危険な立場なので、本当に気を付けてください」

 阿慈谷ヒフミももう慣れたもので、2人のことは放置して白洲アズサに話しかける。

「その通りです。アズサさん。計画通り、よりも身の安全を、ということを肝に銘じてください。勿論、分かっておられるとは思いますが」

 念のため、私からも改めて注意をしておく。二重スパイという立場を任せてしまっている以上、常に危険が伴っているのが彼女だ。

「分かってる。それに、入念な準備を行ってきた。勿論私だけじゃない、私も思いつかないような準備や根回しを、先生が色々とやっていたことも知ってる」

 白洲アズサは笑顔でそう言う。緊張は見られない。入念な準備と、最小限の武力行使で完全な勝利を収める。それが、私がこの作戦において自身に課した必達目標だった。

 そして完全な勝利とは、彼女たちが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを指す。

 

「そうですか。クックック……アズサさんがそういうのであれば、大丈夫でしょう。私は皆さんを信じています。では、作戦開始です」

「その笑い方、もう少し何とかならないのかい? 先生が笑っていると計画通り進んでいるのだという安心感を私たちは認識できるから悪くはないのだが……それでは完全にこちらが悪役に立った気分になってしまうよ。……ふふっ、まあ、偶にはそれも良いかもしれないね」

「人が悪いのはお互いさまでは?」

 百合園セイアによる余計な茶々が入った私の合図で、補習授業部の最後の作戦が始まった。

 

 

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