黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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約束された結末

 作戦は順調に進んでいた。

 

 それもそのはずだ、敵の情報戦略において、最も重要、どころかそれ以外存在しないと言える2人のキーパーソン、白洲アズサと聖園ミカが二人とも裏切っているという状況は奇襲作戦を実行するうえであまりにも致命的である。直前までのアリウス側の部隊数や作戦参加人数、そして戦局を変える程のプレイヤーが存在するかどうかというところまで、すべての情報をこちら側は握っていた。

 一方で、こちらにも縛りは存在する。それは、「勝ちすぎてはいけない」という点だ。今回はあくまで防衛戦である。最終目標であるベアトリーチェにたどり着くことが出来るようになるまでは、彼女には『計画通りに進んでいる』と誤認させていなくてはならない。

 そして、そのためには、特に聖園ミカが裏切っているという状態はギリギリまで隠し通しておく必要がある。少なくとも裏切りを知る者を全員確保できる状況になるまでは明かさないことが前提の作戦を組むこととなった。

 

 そしてその結果として

『目標を確保した』

 白洲アズサからアリウスの襲撃メンバーへと連絡する通信がシッテムの箱から聞こえてくる。これにより相手方の状況はこちらに殆ど筒抜けであった。正義実現委員会は動けないという()()であり、聖園ミカは相手の作戦で後詰めとなっているため、実行部隊になっていた白洲アズサが主だった動きをすることとなった。

 この期間で、シャーレ経由でミレニアムの支援のもと、作戦ルートとなる予定地には隠蔽された監視カメラが多数設置されており、その状況はシッテムの箱のサポートAIによってまとめられ、白洲アズサへとリアルタイムで情報提供を行っていた。なお、この設備はティーパーティーがそのまま購入して利用することが検討されている。

 しかし、この先のアリウスの部隊とアリウスとの合流地点以降は、逃走しつつ今我々の待ち構えているこの体育館まで誘導する運びとなっているため、こちらの情報を確認することも難しくなるだろう。かなり危険な作戦となるため、補習授業部の他の部員たちも難色を示していたが、当の本人はかなりの自信を見せていた。

 最悪の場合でも、作戦を切り替えて正義実現委員会や、最終手段として聖園ミカを自発的に動かす方法も取ったうえで、彼女のお手並みを拝見させてもらうことになった。

 

「『スパイ』です、『スパイ』が裏切りました!」

 という音声が流れてから、銃声とトラップの作動音、そして偶に会話する声がシッテムの箱から流れてくる。現在地情報を確認すると、想定ルートで彼女が誘導できていることが理解できた。

「す、すごいですねアズサちゃん。たくさんの子達相手なのに」

 阿慈谷ヒフミがその様子と、状況の解説をしていた私の言葉を聞き、感嘆する。元の出会いが正義実現委員会相手に長時間戦い抜いた末の交流だったこと思えば、この実力は理解できた。

「先生、私はそろそろ、アズサちゃんを迎えに行ってきます」

 浦和ハナコがそう言って外に出ていく、今の通信を聞いてなお、心配が勝っているのだろう。それも理解できないことではなかった。それからほどなくして、シッテムの箱からではなく、実際の建物の外へ銃声や足音が聞こえるようになってきた。

「そろそろですね。ヒフミさん、コハルさん、正念場です。戦闘準備を」

 

 私の言葉に頷いた二人が戦闘準備を終え立て待ち構える。シッテムの箱からは、外での会話の様子が未だにはっきりと聞こえてきている。

「スクワッド」は来ない。つまり、戦局を変える程の敵はもう現れないことも分かった。

 それからすぐに、体育館の扉が開き、白洲アズサと浦和ハナコ、そしてアリウスの突入部隊が入ってきた。

 

「成程、逃げたのではなく、待ち伏せだったか。だが、たった4人でどれだけ耐えられると思っている?」

 アリウスの指揮官と思われる生徒がそう言う。

「耐える? 何を言っている、これは殲滅戦だ。それに、私たちは4人じゃない。そうだろう? 先生」

『ええ、その通りです。初めまして、アリウスの皆さん。アズサさんのいう通り、補習授業部の部員は5名いますし、この場にはサポートする私もいます。アズサさん一人に翻弄されていたあなた達には荷が重い。今すぐ投降することをお勧めしますよ』

 傍受にのみ使用していた無線通信を乗っ取って、アリウスの生徒たちを挑発する。非戦闘員たる私と流石に戦闘するわけにはいかない百合園セイアは、体育館奥にある小部屋からの支援を行うことになっていた。

「ちっ……『シャーレの先生』か。関係ない、もう一人の生徒は病弱な非戦闘員だと聞いている。そんなのが一人二人増えたところで何になる。総員、戦闘開始」

 そういった裏切った『スパイ』から齎された情報をいつまで信じているのだろうか。やはり今回の作戦に選ばれたメンバーは、そこまで有能な生徒たちではないのかもしれない。私は戦闘支援プログラムで指揮を始めながら、そう考えた。

 

 ―

 

 戦闘は問題なく終了した。今この場にいるアリウスの生徒たち全員が戦闘不能になったことを確認する。そしてシッテムの箱は、すぐに新たな敵部隊が接近していることを知らせる警告が鳴っていた。そしてこの警告音が()()()の始まりの合図だった。

「ぞ、増援がもう現れたんですか!?」

「どういうこと!? 正義実現委員会はどうして動かないのよっ」

 阿慈谷ヒフミと下江コハルが叫ぶ。実際に敵が現れる直前に言い始めてしまったので、ややタイミングがおかしかった気がするが。そして、大勢のアリウス生達が体育館内に押し寄せ、その最後に聖園ミカが現れる。彼女は自然に()()()()()()()()()、最前列まで歩いてくる。

「正義実現委員会なら、来ないよ。事前に邪魔になりそうなものは片づけておいたから」

 聖園ミカは威圧感すら与える笑顔でそう言う。しかし、最前列に出た後で、どうやって見つけたのかカメラ目線でウィンクをした。

 

「『ティーパーティー』のひとり……聖園、ミカさん……」

 そして、浦和ハナコは()()()であった。圧倒的な()()()。やや芝居がかった聖園ミカも迫真のものではあったが、彼女のものは知っていても到底演技とは思えない程真に迫った様子だった。

 その時、私のすぐそばで待機していた生徒が一人、倉庫の外へと動き出す。明らかにタイミングが早い気がするが、止めるタイミングを逃してしまった。始まる前から既に緊張していたようなので、致し方ない。もう作戦のほとんどは完了しているので多少間違っても問題はないだろう。

 

 体育館内では迫真の舞台が続いていたが、そこに、乱入者が現れる。

「まあ、ここにいる全員を消し飛ばして……あれ?」

 聖園ミカが現れた人物に気付き言葉を止める。予定とは違うタイミングでその生徒が現れたためだろう。

「久しぶりにこの服を着ましたが、どうやら、救護が必要な方がたくさんいらっしゃるようです。まずはミカ様……貴女です!!」

 そう言った()()()()()()()()()()()()は瞬時に聖園ミカに襲い掛かり、

「え、ちょっ、聞いてな」

救護!! 

「うぐぅ」

 聖園ミカは一撃で倒れ伏す迫真の演技をした。恐らく迫真の演技だ。そういうことにしておく。

 

「……は?」

 最も聖園ミカに近い位置にいたアリウス生が呆然と口を開く。彼女は恐らく聖園ミカの実力はある程度知っていたのだろう。目の前の状況を全く理解できていない様子だった。

「ふむ……少し手順を間違ったかもしれませんね。……しかし、救護が必要な方が多くいらっしゃるのは事実のようなので、ここからは速やかにさせていただきます」

 蒼森ミネが改めてそう宣言する。

「た、退却! 退却だ!!」

 誰かがそう叫んだが、それは既に機を逸しており、すぐに一方的な蹂躙劇が始まってしまった。聖園ミカが体育館の扉を閉めて入ってきたことにより、いつの間にか退路が断たれていたアリウスの生徒たちは逃げることもできず次々と倒されていく。

 どうにか応戦をしようと試みる者もいたが、多くは蒼森ミネに一撃で昏倒させられ、その他の者たちも慌てて援護に回った補習授業部の生徒たちによって戦闘不能にさせられた。

「ふむ……やはりこうなってしまったか」

 百合園セイアはその光景を私の隣で眺めながらそう呟いた。

 

 動きがあったのは体育館内部だけではなかった。包囲していた体育館外でもまた、アリウスの生徒たちへの攻撃が行われていた。主力はシスターフッドと、そしてそれに扮した格好をした正義実現委員会の実力者達。瞬く間に館内と屋外、双方で敵の残存兵力が減っていくことが確認できる。

 作戦は、ほとんど終了したと言っても良かった。

 

 そして真の殲滅戦と化した体育館内で立っているアリウス生が一人もいなくなったころ、

「いったぁぁ…… もうちょっと手心加えてくれても良かったんじゃない? タイミングも変だったし……」

 殴られた個所をさすり文句を言いながら、聖園ミカが起き上がる。

「やあ、お疲れミカ。災難だったね」

 そして、いつの間にかその聖園ミカに近づいていた百合園セイアの姿を見て、

「ははっ、私たちは一体どの時点で負けていたんだ?」

 何とか意識を保ったまま拘束されていたアリウスの生徒の一人は、状況を理解して乾いた笑みを漏らした。




トリニティ編は次がエピローグとなります。
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