黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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トリニティ編のエピローグです


エピローグ 補習授業部

 アリウスの襲撃を一人も大きな怪我をすることなく終結させた後は、当初の予定通り、補習授業部の生徒たちは最後の追試験を受けた。

 

 結果は以下の通りだ。

 

  下江コハル 91点 合格

  白洲アズサ 94点 合格

  浦和ハナコ 100点 合格

  曲直瀬リリ 100点 合格

  阿慈谷ヒフミ 97点 合格

 

 

 これにより、補習授業部の生徒たちは無事、退学の危機を乗り越えたことになる。

 

 これに関しては最近の試験の様子から考えると当然の結果ではある。それ以外のことについての顛末については、以下のようなものだった。

 アリウスの多くの生徒たちはトリニティ内で保護、という形で拘留されることとなった。通常の学校が相手であればその学校と扱いについて協議するのが普通であり、生徒以外、あるいは学籍の無い者が相手であれば連邦生徒会矯正局送りにするのが筋だろう。しかし、今回の襲撃の実行犯たちは、非常に扱いに困る集団である。そして、交渉相手もいない。

 表面上何も無かった事として、アリウスとの交渉が可能になるまでは『保護』を続ける、という形になった。実際のところ、彼女たちの殆どは慢性的な栄養失調状態にあり、何らかの心的外傷を抱えている者も数多くいた。特に、最も状態の悪かった生徒は、今すぐ適切な治療を受けないと生命の危機に関わる状態だったという。

 そして、それらの生徒や、何らかの理由から直接的な暴力の被害を受け多く外傷が見られた生徒を、聖園ミカは突入部隊に紛れさせていた。以前に『可能であれば』と話していたことも、彼女は達成して見せた、ということだ。そうやって紛れ込んでいた生徒の内、一人とは回復後面会をすることになっている。聖園ミカに恩を感じており、アリウス内部がどういう状態になっているのか話したい、ということのようだ。

 

 その聖園ミカの処遇だが、真相を知っているのが補習授業部の生徒たちと生徒会長たち、そして救護騎士団の蒼森ミネ団長のみであり、その蒼森ミネも同意したため、大きな処分を下さないこととなった。但し、今回の防衛に協力したシスターフッドと正義実現委員会のトップ、即ち歌住サクラコと剣先ツルギの2名には内容が伝えられることとなった。この2人にも、近いうちに一度会っておく必要があるだろう。

 この結論に最も不満がありそうだったのが聖園ミカ本人であることは言うまでもないことだ。アリウスの襲撃についての事実を知っているその他の生徒たちに対しては、事件の後半部分、つまり『聖園ミカが2重スパイとしてアリウスに潜入し、トリニティを危機から守った』という内容が伝えられ、ティーパーティー内部や正義実現委員会の中の聖園ミカ派閥(それはパテル分派、という意味に留まらず)は寧ろ拡大したとさえいえるようだ。

 とはいえ、完全にお咎め無しとなったわけではない。そこに至る経緯で数々の校則違反を行っていたことは事実であり、これに対して「校内での奉仕活動」を行うという罰が与えられた。なお、これについては蒼森ミネが無断欠席を繰り返した自分も同様に罰せられるべきと主張し、生徒会長と救護騎士団長という2つの派閥のトップが同時に罰せられるという珍事となった。そして、対外的には聖園ミカと蒼森ミネが処罰されたことが報じられたのみで、その内容については公開しないこととなった。エデン条約前の微妙な時期における配慮、ということだろう。もちろん、情報統制という側面もある。

 百合園セイアは入院している()()()()()()()()()()()状態から、復学することが正式に決まった。体調面について大幅な改善が見られたことを明らかにしているらしく、彼女にもまた忙しい日々が始まる、という未来が迫っていた。

 

 そして今、補習授業部の合宿が終わって以来、久しぶりとなるトリニティの別館の食堂に補習授業部の部員たちが集まっていた。その題目は「曲直瀬リリの送別会」ということのようだ。

 補習授業部の部員たちと私が事件後に百合園セイアに呼ばれた際、彼女からはお礼と共に、曲直瀬リリという生徒についての今後も明かされた。つまるところ、百合園セイアと桐藤ナギサが捻じ込んだ架空の生徒曲直瀬リリは、本人の体調を鑑みて、一度学校をやめ、治療に専念することになったということらしい。

 という訳で、「では、リリちゃんの送別会をしましょう」浦和ハナコが言い出し、桐藤ナギサの厚意により再度この別館を使い、ささやかなパーティが行われることとなったのだ。

 

「でも、毎日一緒にいたから、やはり少し寂しくなっちゃいますね」

 安定したトリニティ式の茶会形式で行われた送別会は和気藹々と進行していたが、ふと阿慈谷ヒフミがそう呟く。

「そうだね。私もこの日々はとても貴重なものだった、と思うよ。ただ、別にもう会えない訳じゃない」

「でも……もうリリとしては会えないってことでしょ? 私も、寂しいよ……」

 百合園セイアの言葉に、下江コハルも反応する。彼女は今日も百合園セイア、いや、曲直瀬リリの横に陣取り、親し気に会話をしていた。実際の学年は離れているが、お互いの仲は傍目でもとても良好であることがよくわかった。

 そんな後輩の項垂れた様子を見て、百合園セイアは嬉しそうに微笑み、再度口を開いた。

「そんなこともないさ。みんなが集まるときは私も呼んでくれ。できる限り参加したいと思っているし、何ならティーパーティーの仕事も二の次で構わないかもしれないね。ここの皆しかいない場所であれば今まで通りに接してくれて構わない。……と、勿論いつでも今まで通りで構わないのだけどね」

「セイア様……?」

 曲直瀬リリのメイド、として本日も呼ばれた蒼森ミネが責任は果たせとばかりに百合園セイアを睨む。尚、メイド服は着ていない。コスプレのようで恥ずかしかったとのことだ。

 しかし、下江コハルと阿慈谷ヒフミの顔が明るくなったことで、それ以上の文句は言わないことにしたようだ。

 

 その時、廊下の方が爆発音のようなものが聞こえてくる。

「あ……」

 黙々と食事と紅茶を楽しんでいた白洲アズサが顔を上げる。

「誰かが来たみたいだ。そういえばトラップを片付けるを忘れていた」

 そういえば今日も自然と、癖になっていたトラップを避けるルートでここまで来ていたため、そのことには誰も気づいていなかったようだ。

「ええ!? だ、大丈夫なんですか?」

 阿慈谷ヒフミが驚いて白洲アズサに確認する。

「ああ、侵入者対策としては十分な量設置してある」

「そういう問題じゃないのですが……」

 白洲アズサもまた、相変わらずであった。

 

「というより、どなたが来たのでしょう。今日ここで送別会をやっているのを知ってそうなのは……」

 浦和ハナコが思案するが、その答えが出る前に、食堂に近づいてくる足音に気付く。そして勢いよく扉が開いた。

「あー、びっくりした。何でトラップがいっぱい仕掛けてあるの!? あっ、セイアちゃん、先生、それにみんなもこんにちは! 何かパーティやってるって聞いて差し入れ持ってきたよー!」

 現れたのは聖園ミカだった。服には物理的なトラップを強引に突破してきたと思われる痕跡が少し残っていた。

「ミカ! ごめんなさい、トラップを仕掛けたのは私」

「あ、アズサちゃん! やっぱりアズサちゃんだったんだ? もう、びっくりしたじゃん」

「ああ、私も今びっくりしている」

「え?」

 侵入者対策として十分と言っていたトラップを正面から強引に突破されたことに白洲アズサは驚いているようだったが、聖園ミカには伝わっていないようだ。

「あ、そうだ、はいコレ! ナギちゃんお手製のロールケーキ!」

 そう言って持っていた箱を白洲アズサに渡す。

 

「それで、何ちゃんだっけ……送別会だって聞いたんだけど」

 そして聖園ミカは百合園セイアの方を見る。

「ああ、曲直瀬リリのことかい?」

 すぐに何を聞かれているのか察し、百合園セイアが返事をする。

「そうそれ! リリちゃん! 前から気になってたんだけどさ、その偽名ってどういうこと? 何でその名前にしたのか気になってたんだよね」

「……え、今更かい、それ」

 聞かれた内容に困惑したように周りを見るが、補習授業部の生徒たちは多かれ少なかれ、以前から気になっていたようで、彼女をじっと見つめている。蒼森ミネは既に知っているのか、あまり興味は無いようだ。

 そして助けを求めるようにこちらを見てくるが、気になっていたのは私も同じだ。彼女は諦めたように溜息をついた、

 

「……そんなに気になるかい? まあ、言っても構わないが大した由来ではないよ。まず、リリは百合、つまりリリィからとっている。そして曲直瀬については……セイアを逆から読んで愛瀬(あいせ)そのままだと偽装が十分じゃないと思ったから愛を「まな」と読ませて、まなせ、にして、別の漢字を当てはめたのだよ。……改めて説明するのは少し恥ずかしいな」

 解説した百合園セイアは、照れくさそうに顔を赤らめた。

 

 続く




次話以降は、メインストーリーから外れてエデン条約の準備に入る前に色々行う話になります。
10話程度だと思います。
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