イベントストーリー等の代わりのようなものです。
対策会議 アビドス生徒会について
「それでは、本日の廃校対策会議を始めます。今日はなんと、特別ゲストをお招きしています!」
奥空アヤネの司会で、会議が始まる。トリニティでの仕事がひと段落した私は今、久しぶりにアビドスへ訪問している。用件はもちろん、借金の借り換えについての報告である。
「わー、特別ゲストさんですか? 誰なんでしょう?」
「いや、そこにいるじゃん。先生が」
十六夜ノノミの天然なのか意図的なのか分からない発言に黒見セリカがすかさず指摘する。この常時茶番劇状態が通常進行の対策会議は、私自身そう何回も出席したわけではないが、妙に懐かしい。
「十六夜さん、黒見さん、静粛にお願いします。では、特別ゲストの先生、一言ご挨拶をお願いします」
奥空アヤネはまだ冷静に会議を進行しているが、これが繰り返されると司会を放棄し、会議が終了になる。それまでに自らの役目は終わらせておくべきだろう。
「特別ゲストなどといわれるのは恐縮ですが、久しぶりに参加させていただきます。本日は現状の報告をしに来たのですが、その前に皆さんの近況をご確認させていただけますか」
アビドスの生徒たちは知る由もないが、ともかく、借金の状況や、アビドスにおけるカイザーの動きについては把握している。というのもあの、元理事の後任にあたる人物とは今でもつながっており、多少の情報と引き換えに可能な限りの情報と、彼にとって取り返しのつかない弱みを得るという
もしジェネラルやプレジデントといったカイザーの重鎮と事を構えることになれば、彼に首を挿げ替えることも視野にする程度には良好な関係だ。
閑話休題。私の問いに砂狼シロコが真っ先に手を上げた。
「はい、砂狼さん」
「ん。ツーリング仲間を募集中。アビドス以外の生徒でも可」
当然借金の話のつもりだったが、砂狼シロコはいきなりプライベートの話を始める。ある意味予定調和だが、こちらも特に話題を限定していなかったので仕方ない。
「では、シャーレのカフェに掲示でもすればどうです?」
「そんなことできるの?」
そんなものは誰もやっていない。そもそも現状掲示板のようなものは設置していない。
「まあ、掲示板を設置するくらいであれば簡単なのでやってみましょうか。掲示物は念のため事前に確認させてください」
「うん、分かった。ありがとう」
砂狼シロコが満足して頷く。
「他の方は何かありますか?」
「はーい☆」
「なんでも良いの? じゃあおじさんもー」
「えっ、じゃ、じゃあ私も」
司会の奥空アヤネと既に言い終わった砂狼シロコ以外の3人が手を挙げる。
「念のためですが、プライベートのことや個人の要望以外で話がある方は?」
3人は顔を見合わせる。そして、示し合わせたかのように全員手を下げる。それと同時に、奥空アヤネの周囲の温度も下がる。あまり猶予は無いかもしれない。
「では、アヤネさん。最近の利息返済状況と、ヘルメット団からの襲撃などの困りごとがあれば教えていただけますか」
最初からこうすればよかったのだが、奥空アヤネへ直接確認することにする。もっとも、最初からこれをやると恐らく抗議されるのでそれはそれとして面倒なのだが。
「はっ、はい。えっと、利息の支払いは電子決済が可能になったので、手間自体は減りました。手数料負担も向こう持ちでよいとのことで、気は楽になりましたね。それと、襲撃や妨害工作はあれから起こっていません。先生のおかげですね」
奥空アヤネは悪ノリなどすることはなく、素直に答えてくれた。話が早くてありがたい。妨害が無いのは当然のことだろう。
債権者は今、新規機材購入のための現金を必要としており、また元理事とは違いアビドス高等学校とは関わり合いになりたくないという明確な意思を感じるのだ。まあ、前任者の末路を考えれば、それも当然のことではあるか。
「端的でわかりやすい説明ありがとうございます、アヤネさん」
「は、はい」
「では、私からの報告ですが……」
私がそう言いかけると全員の視線が集中する。わざわざ訪問してまで報告にしたのだから、当然か。
「結論から言いますと、
「……」
何も反応が無い。とりあえず補足をするために話を続ける。
「正確には内容の確認ですね。アビドスの皆さんの同意が得られれば承認される用意ができたということです。それといくつか条件が付いていますので、それについて同意いただければ、と言う話にはなっていますが」
「じゅうにおく!? 」
ここまで話したところで黒見セリカがようやく稼働し、叫び声をあげる。
「ええ、当初は15億円を想定した検討を行っていたのですが、意外と連邦生徒会の財布の紐は固いようで、8割にまで減らされてしまいました。ご不満ですか?」
やはり、12では少なかっただろうか。となると再検討となる。あまり時間をかけすぎてもここの生徒たちの負担が増すばかりなので、8割でもとりあえず持ってきたのだが。
「いや、不満というか……」
「あの、先生。そもそもこのお話は借金の借り換えをするというお話ではありませんでしたっけ。12億円の借金をすると、結局借金が増えてしまうのでは……」
十六夜ノノミが当たり前の質問をしてくる。どういう意図だろうか。
「ええ、増えますね」
「ええ……?」
どうも話が噛み合っていない。私が何か思い違いをしている可能性が出てきた。念のために確認しよう。
「すみません、ノノミさん。貴女の認識を改めてお聞かせいただけますか?」
「あ、はい。ええと、今カイザーから借りている借金をそのまま、連邦生徒会からの借金に変更するものだと……」
「成程」
つまり、恐らく私の説明不足だろう。当時はあまりその自覚がなかったが、トリニティで百合園セイアに散々説明が分かりづらい、誤解を招くと言われたから流石に理解した。
「確か、借り換えの話をした際に、その後の復興に必要な支援も行う予定と言ったと思いますが、借金を超える分は、その一環に当たります」
「でも、それでいきなり2億円も借金が増えることになるけど、大丈夫なの?」
私の説明に、砂狼シロコが今度は真面目な質問をする。
「それははっきりと問題ないと言えますね。まだ細かい条件を話していませんでしたが、あなたたちは現在、多少前後しているでしょうが毎月788万円の利息を支払っています。今回の融資では3年間の支払い猶予期間があり、その間の利息はゼロです。本来その間に支払う必要のある利息は2億8300万円を超えるわけですので、実質的にその時点での返済に必要な額は8000万円ほど減っているわけです。……今の説明は分かりましたか」
「……ん。多分。利息の分考えるとお得ということは分かった」
砂狼シロコはそういうが、感情としてはあまり納得していない様子だった。大人しくこちらを見ている小鳥遊ホシノを除く、他の生徒たちも同様だ。
「そうですね……では、借り換えに当たって借金を丁度返済できるだけの金額を受け取り、借金を返済したとしましょう。そこには無一文の学校が残るだけです」
マイナスが0になっただけでは、自由に使えるお金が増えるわけではない。結局今の生活を続けて、月800万円がせいぜいの金を稼いでやりくりするしかない。
「アビドスを復興させるには、それでは全く足りません。住民を増やすにも、砂嵐の問題を解決するためにも、お金は必ず必要です。勿論そのためには2億と言う金では少なすぎますが、今回以上の好条件で融資が受けられる可能性は殆どありませんから、借りられるだけ借りるべきだとは思いますよ。勿論融資額を減らす分には連邦生徒会も文句は言わないと思いますがね」
そうやって、ホワイトボードに要点を書きながら説明することで、ようやく、生徒たちの顔が納得したものに変わっていった。
「先生、ありがとう。みんなも、多分分かったと思うけど、おじさんはさっき言ってた条件って部分が気になるなぁ」
そしてそのタイミングで、黙って見ていた小鳥遊ホシノが次の質問をした。勿論条件については説明するつもりがあった。
「承知しました、ホシノさん。まず、この支援を受ける条件というのは簡単なものです。アビドス高等学校は今現在連邦生徒会の加盟学園に正常に加盟している状態となっていないため、それを正してほしいという内容ですね。つまり書類不備と言う話です」
小鳥遊ホシノの目が見開かれる。一方で、あまりわかっていない生徒もいた。
「書類不備って、どういうこと? 私たち、今一体どういう状態なの?」
分かっていない生徒を代表して、黒見セリカが質問する。
「つまり、今アビドス高等学校には統治する学内機関、一般的に
「アビドス生徒会? でもそれってもう誰もいないんじゃないの?」
黒見セリカが聞き覚えの無い組織名に首を傾げる。彼女が入学した時点では既に機能していない組織なので当然だ。しかし、実際にはまだ所属している生徒が存在している。
「……ううん、セリカちゃん。アビドス生徒会はあるよ。おじさんがそうなんだ。ごめんね、みんなも」
そしてその疑問には、小鳥遊ホシノが答えた。どこか落ち込んでいるように見える。黒見セリカはオロオロと私とホシノの顔を見比べた。
「ホシノ先輩……」
十六夜ノノミが心配そうに声をかける。奥空アヤネは深い事情は知らないまでも今の状況自体は把握していたようだ。砂狼シロコは無表情で小鳥遊ホシノの方を見つめていた。
「……まあ、どちらを残すかについては皆さんでよく話し合ってください。今月末までに決定してもらえれば処理の遅れはありませんので」
私はそう言って、融資自体の具体的な条件について説明を始めた。しかし、その後の会議はどこかぎこちない雰囲気の中進行していき、終了となった。
―
会議が終わった後、私は小鳥遊ホシノに呼び出されていた。
以前、二人で話をした空き教室だ。
「あ、来てくれたんだ。ありがとねー」
私が到着したことに気付いた小鳥遊ホシノが、そう言って微笑む。
「当然行きますよ。ホシノさんに呼ばれたのであれば」
「そうやって返されると照れちゃうよ。あ、条件の話、凄かったねぇ、3年間は無利息、その後も今の10分の1くらいになるんでしょ?」
「……裏を返せば、それだけアビドスが危機的状況にあると認められたということです。あえてあの場ではいいませんでしたが」
自力では復興不可能な学園に対する特別融資制度だ。誰でも、どんな学校でも同じ条件で借りられるわけではない。
「だよねぇ。言いづらいよね。ごめんね、先生。何か変な空気にしちゃって」
「謝る必要はありませんよ。気持ちがわかるとは言いませんが、事情があるのは一応知っていますから」
その私の言葉に、小鳥遊ホシノははっとしてこちらを向いた。そして少しうなだれて、
「あぁー、やっぱり知ってたんだ? ユメ先輩の事」
と言った。
梔子ユメ。現状アビドス高等学校における最後の生徒会長。以前の時間軸で彼女が存命であったときに見たこともあったし、その末路も当然知っている。私が頷くと、彼女は弱弱しく微笑み、再度口を開く
「やっぱり、良くなかったよね。生徒会の事、放置してたら。でも、当時の私は、生徒会長を引き継ぐなんてこと出来なかったんだ。ユメ先輩が、生徒会長でなくなるのを認められなかった」
彼女の口ぶりは、過去のことを話している。つまり、今は違うという事だ。
「今もまだ、引きずっていると思ってたんだけど……実際、さっきの話が出たとき、最初はどうしようもなく嫌な気分になっちゃったんだけど……」
自分の中の心の動きを思い出すように解説しながら、小鳥遊ホシノは話を続ける。
「でも、思ったほどじゃなかったんだ。そんなはずはないんだけど、何だか、以前ちゃんとお別れをしたような気がして……。うーん、思ったより自分の中で消化できてるのかも。ごめんね、なんだかいっつも先生には変な話ばっかりしてるね」
そう言って小鳥遊ホシノは改めて笑った。
心の傷を時間が解決した、そう言った話はよく聞くが、果たして小鳥遊ホシノのこれもそういうものなのだろうか。それとも別の時間軸の記憶の影響が及んでいるのだろうか。それは分からなかった。
その後、通常の空気に戻った対策委員会一同と共に、屋台での営業に変わった柴関ラーメンに赴き、私はアビドスを去った。数日後、小鳥遊ホシノが書類を持ってシャーレに現れ、少し興味深い同盟が結成されたのだが、それはまた別の話だ。
番外編では今回のように1話から、長くても5話くらいの話をいくつか投稿していきます。
本章でもよろしくお願いします。