「ぱんぱかぱーん! アリスは先生のお城に到着しました!」
とある日の朝、シャーレの事務所にて仕事中、想定外の人物の声が室内に響いた。
天童アリスだ。しかし、彼女がここに来る予定はなかったはずだ。逆に昨日、本来今頃事務作業の手伝い(アルバイト)に来てくれるはずだった早瀬ユウカから、セミナーの仕事が立て込んでおり来れないという連絡があったところであり、私は一人でここにいる予定だったのだ。
「おはようございます、アリスさん。今日はどうされたんですか?」
「ユウカが急にシャーレにいけなくなったという話を聞いたので、代わりにアリスが先生のお手伝いにきました!」
どうやら、そういうことらしい。早瀬ユウカがそのことを天童アリスに話してしまうことも、それを聞いて天童アリスがここに来ることを思いつくのも、とてもありそうな話だった。
「ちなみにそれ、ユウカさんには伝えましたか?」
「いいえ、言っていません! ……ご迷惑でしたか?」
なるほど、早瀬ユウカが知っていれば私に連絡があっただろうが、彼女は独断でこちらに来た、と言う話であればそれも納得だ。
「いえ、迷惑ではありませんよ。ゆっくりしていってください」
「では、アリスに何かお手伝いできることはありますか?」
期待のこもった目で見つめられるが、正直な話、特にない。いや、天童アリスの事務処理能力の高さは不明だが、少なくともすぐに任せられるような仕事は持ち合わせていなかった。
「そうですね……では、そちらの席で来客があったときの受付をお願いできますか? 誰も来ない間はゲームをしていても構いませんよ」
事務所入り口にある受付用の机を指し、そう伝える。特に来客の予定は無いが、絶対に誰も来ないとは言い切れないので、その時に対応してもらえば十分だろう。
「わかりました! 受付ミッションを開始します!」
天童アリスは自信満々にそう言って椅子に座り、暫く扉を見据えていたが、誰も来ないので言われた通り携帯ゲーム機でゲームを始めていた。それを見て、私はようやく安心して作業を続けることができた。
小一時間ほどたった頃、意外にも予定外の来客が現れた。
「うへー、やっとついたぁ。こんにちは、先生、いる?」
入ってきたのは、小鳥遊ホシノだった。ここに来るのは初めての、意外な人物だ。
「いらっしゃいませ! ここはシャーレの事務所です!」
天童アリスがそれはそうだろうという挨拶をして、入ってきた小鳥遊ホシノを見る。そして
「……あなたは、小鳥遊ホシノ、ですね?」
と言った。勿論、二人が知り合い同士、という可能性は少ないだろう。
「んー? うん。確かにそうだけど、あなたはだれ? 前に会ったことあったっけ?」
由来不明の天童アリスのデータベースには、小鳥遊ホシノの名前もあったらしい。それが以前の時間軸で起こったことだとすると、接触したのはあのウトナピシュティムの本船でのことだろうか。
「ううーん、ごめんなさい、アリスには分かりません……ただ、名前が浮かんだだけなのです」
天童アリスは自身も困惑した様子で、小鳥遊ホシノにそう返す。言われた方はますます困惑と警戒を強める。
「こんにちは、ホシノさん。こちらに来られるのは珍しいですね? 今日はどうされました?」
このまま聞いていてもらちが明かないと思い、割って入る。小鳥遊ホシノは少し警戒を緩め、こちらを見た。
「あ、先生。えーと、先生に会いに……じゃなくて、シロコちゃんが行ったって自慢してきたから……いやいや。……えと、この間の件で、書類を持ってきたんだ。それで、この子は? 受付のお手伝いさん?」
何故か色々と言い淀んて来たのは謎だったが、とにかく書類を持ってきたらしい。例の生徒会についての件だろう。
「ええ。その通りです。ミレニアムサイエンススクールの一年生、天童アリスさんです」
「はい、ゲーム開発部の天童アリスです! 今は受付ミッションを行っています!」
「ふーん? よくわかんないけど、よろしくね?」
天童アリスのあまりにも天真爛漫な様子に、警戒を保ち続けるのが馬鹿らしくなったのか小鳥遊ホシノは肩の力を少し抜いた。
私は小鳥遊ホシノからもらった書類を見る。そこには
「結局、アビドス生徒会を残すことにしたんですね」
「う、うん。あの後みんなと話したんだけど、結局その方が良いってことになったんだ。で、多数決で何故かおじさんが生徒会長に……あ、勿論対策委員会が無くなるわけじゃなくて、あくまで代表として、生徒会を残すって話だよ?」
小鳥遊ホシノはそう言って、少し照れ笑いをした。
「おじさん? アビドスの生徒会長はおじさんですか?」
横から話を聞いていた天童アリスが疑問を投げかける。
「おじさんというのはホシノさんのことですよ、アリスさん」
「?? ホシノはおじさんで、生徒会長ですか? それは……凄いです?」
疑問符交じりの天童アリスの賞賛に、小鳥遊ホシノもやや困った表情になる。もとはと言えば妙な一人称を使用している彼女が悪いので、自分で何とかしてもらおう。
そしてまた、そこに珍しい来客が現れた。大抵の場合新規の連絡はメールなどで十分であるため。普段はそこまで急な来客が多いわけではないが、今日に限っては違うようだ。
「お邪魔するよ、先生。エデン条約の件で……取り込み中だったかな?」
小鳥遊ホシノと天童アリスが妙なやり取りをしている間に現れたのは、百合園セイアだった。予知能力を失って以来(そもそも彼女がこの時間軸において
新たな来客に気付いたのは私だけではない。天童アリスもまた、入ってきた人物に気付く。
「いらっしゃいませ! あ……シーフ王! 百合園セイア……ですね?」
天童アリスがそう発言し、百合園セイアが目を見開く。その呼び名に心当たりがあるような様子だった。
「君は……いや、君も、私のことを知っているのかい?」
「うーん、ごめんなさい。分かりません……」
先ほど見たような会話を繰り返し、天童アリスと百合園セイアは互いに首を傾げる。
そしてその二人を見ていた小鳥遊ホシノもまた、一体何が起きているのかを考えているようだった。
そして私は、今ここで奇妙な状況が起こっていることに気付いていた。それはつまり、アビドス、ミレニアム、トリニティ、私が赴いた3つの学校において、私の時間遡行と同じような、何かの影響を受けていると思われる生徒が一堂に会している、ということだ。いや、私自身のことも考えると、今分かっている範囲でその全員が揃っている、ということになる。
そして私の中にもう一つ、奇妙な予感があった。彼女たちそれぞれには伝えることの出来なかった私の状況について、今この場では伝えることが出来るのではないだろうか。そう、これはただの偶然ではない、そう思わせるだけの何かが起きていた。
「こんにちは、セイアさん。エデン条約に関するお話ですか?」
ひとまず、彼女たちそれぞれの用件を終わらせるべく百合園セイアに声をかける。
「ああ、先生。こんにちは。そうだね、一応シャーレの先生への招待状と、少しお願いしたいことを書いたリストを持ってきた。メールでも良かったんだが、一度ここに来てみたいとおもってね」
そう言って渡された書類を眺める。トリニティらしく細かく色々と書かれているようなので、後でよく確認することとしよう。それよりも、と私は自分の思い付きを提案する。
「さて、皆さん。恐らく今、お互いに気になることがあると思います。どうも、今来ていただいた御三方には、私も含め共通点があるようですね、どうでしょう、折角ですので自己紹介もかねて少し皆さんでお話しませんか?」
私の提案に、三人は顔を見合わせた後、全員頷いた。
デカグラマトンの預言者たちとは関係ありません。