事務所内にある小さなテーブルを4人で囲む。
天童アリスは全く気負った様子はなく笑っているが、小鳥遊ホシノと百合園セイアの二人はお互いにどのような人物なのか探るような様子だ。
「さて、皆さんそれぞれ私とは初めてではないですが、他の方と直接会うのは初めてだと思います。まずは自己紹介をしていただいてもよろしいでしょうか」
私の発言に最初に反応したのは天童アリスだった。
「はい、ゲーム開発部の天童アリスです! テストプレイと広報を担当しています!」
彼女はすでに二人に対して名乗っていたような気がするが、ゲーム開発部における役職まで伝えていた。
「ふむ、確かにゲーム開発部で調べるとSNSアカウントが出てくるね。これをやっているのかい?」
百合園セイアがすぐに自分の端末で調べたなゲーム開発部の公式アカウントを見せる。
「そうです。コユキと二人で運営しています!」
「なるほど、ゲームか。少し興味があるね」
「本当ですか? ではセイアも一緒にやりましょう!」
本当かどうかは分からない百合園セイアのコメントに天童アリスが素早くゲーム機を取り出した。
「いや、今すぐは遠慮しておこう。まずは私も自己紹介からかな? ……私は百合園セイア。トリニティ総合学園において、ティーパーティー・サンクトゥス派の代表を務めている。まあ、生徒会長の一人、という風に考えてくれれば良い」
天童アリスを制止して、百合園セイアが自らの紹介を終わらせる。
「生徒会長……? 確か、ヒフミちゃんが言っていたのはナギサ様とかいう人だったけど」
小鳥遊ホシノが、
「ヒフミを知っているのかい? ナギサというのは別の生徒会長だね。トリニティには3人の生徒会長がいて、ナギサは現在のホスト……つまり、その中でも最も強い権限を持つトップということになる」
「ふーん。だから、
小鳥遊ホシノが頷く。
「じゃあ、最後はおじさんかぁ。ええっと、アビドス高等学校の3年生。一応おじさんも生徒会長だね。なったのはついこの間だけど……」
「ホシノはおじさんで生徒会長ですか? あ、分かりました! メインクラス:おじさん サブクラス:生徒会長ですね!?」
小鳥遊ホシノの一人称に未だ慣れない天童アリスが、独特な解釈をして笑顔になる。
「ん、んー? ごめんねぇ、おじさんそう言うのは疎くて……」
一方、自称おじさんの方もまた、何でもゲームに例える天童アリスの話法に慣れていないようだった。
「さて、自己紹介も済んだところで、本題に入りますが……先ほども言ったように、皆さんはアリスさんが初対面の相手の名前を突然言ったように、あるいはセイアさんがその言い方に覚えがあったように、不思議なことが起きている、と感じませんでしたか?」
私の言葉に天童アリスと百合園セイアの二人は頷く。小鳥遊ホシノは首を傾げて
「ごめんね、おじさんはいまいち実感が湧かないんだけど」
と言ったが、これはそれぞれの知識の得方が、少々異なっているからだろう。
「確かにホシノさんはそうかもしれませんね。そして私にも、皆さんが揃った姿を見て、一つの予感がしたのです。それは、私の体験を皆さんに伝えることが出来るような気がする、という予感です。つまり……」
以前試した際には、私が時間遡行をした、という情報を直接誰かに伝えることはできなかった。それは小鳥遊ホシノや百合園セイアに対しても同じだった。しかし、いま、この3人に対して同時にであれば、それができるという確信めいた予感があったのだ。
「私は、未来から過去へと戻ってきたという自認があります。それも、私自身ではなく、『先生』という立場にいた、別の方に成り代わって戻ってきた、という状態です」
そしてあっさりと、その予感が正しかったことが判明した。私の発言に、3人の生徒たちは暫く黙り込んだ。言っていることの意味が分からなった、ということは無いと思うが、それぞれに考えることがあるのだろう。
最初に口を開いたのは天童アリスだった。
「……それは、先生は未来から来たということですか?」
「ええ、私自身はそのように認識しています。証明する術はないのですが……」
「凄いです! でも……アリスも……もしかしたらアリスもそうなのかもしれない、と考えたことがあります」
天童アリスがゲーム開発部の部員たちの名前を知っていたことや、自らをゲーム開発部の部員だと自認していたことも、未来から過去に遡っていたと考えれば一応辻褄は会う。彼女は自分で、その可能性については気づいていたようだ。
「ふむ……先生には以前伝えたが、私には予知夢のような力があった。既に夢はただの夢に戻ってしまったが、そうなるきっかけも先生に会ったことだ」
私と天童アリスの話を聞いていた百合園セイアが続いて口を開く。
「そしてその夢の中で、私がアリスにシーフ王と呼ばれる、と言うものがあったのも思い出した。だから、先生の話を頭から否定しようとは思わないが……」
そこまで言って、百合園セイアは言葉を切った。
「何か気になる点が?」
私は彼女へ問いかける。重要な情報になるかもしれない。
「いや、良い。先にホシノの話を聞こうか」
しかし彼女はそう言って、まだ何か考えていた小鳥遊ホシノへと話を向ける。
「私? うーん。ね、先生に確認したいんだけど、先生の言ってたのって、つまり私が見たあの記憶の中で敵対していた『黒服』と先生が同一人物っていう話で良いのかな? その時の記憶もあるってこと?」
小鳥遊ホシノは少し考えて、私にそう尋ねた。私は頷く。
「そうですね、少なくとも私の中ではそのように認識しています」
「そっか。うーん……前も考えたんだけど、やっぱり、違う記憶の中の私が私自身とはあまり思えないし、それが実際にあったことなんだって言われても実感があんまりないなぁ」
彼女は自分なりの答えを既に持っているようだ。さらに話を続ける
「それにもし先生が実際にそのことを経験していたとしても、やっぱり私にとって、
「……なるほど、そういうものですか」
小鳥遊ホシノにとっては殆ど別世界で起きたようなものなので、私の所業についても実感が湧かない、ということだろうか。
「私が言いかけたのも似たようなものだよ、先生」
そして、百合園セイアも、追撃するように小鳥遊ホシノの言説を補強する。
「私が夢の断片で見た、先生によく似た見た目の人物と、先生とが余り結びつかない。少なくとも私にとっては、だけどね。聞けば、私が倒れたとき、随分動揺して心配してくれたみたいじゃないか。ホシノ、君が見たその記憶の中の人物は、生徒一人が倒れたからと言って取り乱すような人間味のある人物だったかい?」
百合園セイアは再度、小鳥遊ホシノに話を振る。初対面とは思えない連携で小鳥遊ホシノは悪そうに笑い、言葉を引き継ぐ。
「え? ううん。よくわからないけど生徒のことを人間として見てるような感じじゃなかったなあ。アリスちゃんは、どう? この先生のことをどう思ってる?」
「はい! 先生はアリスに、アリスの未来を示してくれたとっても良い人だと思います!」
少々難しい内容だったためか、黙って話を聞いていた天童アリスにまで、そのようなことを言われ始める。
勿論私にも言い分はある。私は彼女たちの思うような善意で行動している訳ではない、と主張することはできる。しかし、今そう主張しても受け入れられることは無いだろう、そう思って反論するのは諦めて
「まあ、私についての解釈は皆さんにお任せします」
と言うにとどめておいた。