黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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SRT再稼働① 不知火カヤの最悪な日

 エデン条約の準備期間において、やるべきことがいくつかある。

 一つはゲヘナの万魔殿との関係を構築し、議長の羽沼マコトによる妨害を牽制すること。これが不可能であれば、彼女がアリウスとつながっていることを風紀委員会の空崎ヒナに伝えて強制的に排除する必要があるが、これについては最終手段だ。いたずらに大規模な学校の行政機関と敵対するのは都合が良くない。

 しかしこれについては、羽沼マコト以外のメンバーとの連携ができたので、暫く、少なくともエデン条約の直前までは猶予が出来たと考えるべきだろう。

 

 もう一つ、考えるべきなのは現在休校状態になっているSRT特殊学園についてだ。私の記憶では、直近でこの学園でも顕著な実績のあった部隊、FOX小隊が連邦生徒会を襲撃する事件が起こり、それからほどなくして正式な廃校が決定していたはずだ。

 そのFOX小隊は、最終的にクーデターへの協力と爆弾テロ未遂事件に関わったと自ら出頭して、矯正局送りになったという覚えがある。彼女たちほどの有力な戦力を、矯正局などへ収容しておくのは勿体ないの一言に尽きるだろう。クーデターの動きを止めるのは勿論、彼女たちの連邦生徒会への襲撃なども可能であれば止めておきたい。とするとSRT特殊学園について、放置したり廃校へと舵を切らせるのは避けるべきだ。

 無論、私の存在を理由にSRT特殊学園をまるごと残すというのは不可能だろう。私は連邦生徒会にとっても外様であるし。SRT特殊学園の生徒たちにとって連邦生徒会長がどれほど大きな存在だったかを推し量ることもできない。

 逆に私の存在抜きにこの学園をそのまま存続させることも不可能だ。今休校状態にあるのも、これから襲撃事件を経て廃校となるのも、そもそもSRT特殊学園の持つ過剰な戦力が、連邦生徒会長という柱を失い、暴走した場合の脅威が大きすぎるためだからだ。

 閉校を望まない彼女達の思いを生かすには、どこかで妥協点を見出す必要があるだろう。

 

 ―

 

「なるほど、では次の会議でSRT特殊学園の進退が決定される可能性が高いと……」

「ええ、ほぼ間違いないでしょう。残念なことですが閉校になる可能性が高いでしょうね」

 連邦生徒会の防衛室内で、私はその室長、不知火カヤと1対1で面会していた。と言ってもこれが初めて、というわけではない。各室長や行政官を初め、連邦生徒会の主要メンバーとはすでに面通しをしており、中でもこの防衛室には最も多く足を運んでいる。

 

 理由は二つある。ひとつはこの防衛室がカイザーコーポレーションに癒着という形で利用されており、有体にいえばこちらの工作で動きを左右させやすい部署だからであった。

 

 そしてもう一つは、この防衛室長、不知火カヤの存在にあった。

 ゲマトリア解散後、身を潜めていた時期なので詳しい内容は分かっていないが、彼女がFOX小隊を手駒にし起こしたクーデターと、その失敗のことは知っている。もし彼女が名誉や権力にとりつかれているような人物であれば、私は彼女と積極的に関わろうなどとは思わなかっただろう。防衛室の汚職の情報をリークするなどの穏当な手段で影響力を下げ、放置していたかもしれない。

 しかし、実際に不知火カヤという生徒と会ってみて、気が変わった。

 勿論彼女の意見に賛同するつもりや、連邦生徒会長に相応しいというつもりは毛頭ない。ただ、不知火カヤと言う生徒は私から見て、とても人間らしく、普通の子どもだった。

 努力に裏打ちされた実力がありながら、それを過信して驕った自己認識。

 大人の真似事をして、単に利用されているということに気付かない経験の足りなさ。

 地位や権力を求めることも、高すぎる理想の実現のため、と言うのが根底にある。

 そしてライバルや政敵と言える存在が殆どいなかったのが、以前の時間軸で彼女を増長させる原因だったのではないだろうか。

 私は、彼女がくだらないクーデターを引き起こして矯正局に収容されるという結末は、些かつまらなく感じられた。彼女の状況は、転落するために敷かれたレールを走っているようなものに思えたのだ。

 それ故に、私はこれまで不知火カヤとコミュニケーションを取り、彼女を巻き込むための準備を進めていた。

 

「では、週明け早々に、SRTの生徒たちに案内を出しましょう」

「ああ、以前仰っていた、例の件ですか?」

 不知火カヤと話しているのは、SRT特殊学園の今後について「ヴァルキューレ警察学校に編入させる」以外の方向性を見出すための施策の話だ。

 事前に連邦生徒会に根回しをして、ある提案を通していたのだ。現SRTの戦力の大半を解体することは前提として、小さくとも形だけは学園を残すという、その方法を。

 

「来週末には説明会を行う予定です」

「それ、本当に人が集まるんです? 生徒たちの多くはヴァルキューレへの編入を了承していると聞いてますが」

「本当に承知しているかは分かりませんからね。その確認のために集めるのですよ」

 私の発言に、不知火カヤは笑顔を少々引きつらせる。

「先生もまあ物好きと言うか、お忙しい身でしょうに、わざわざ面倒ごとを背負いこもうとするとは、大変ですねぇ」

 呆れたように、そう言う彼女は、まさか自分がその面倒ごとに巻き込まれるとはまだ思ってもいないのだろう。

「まあ、それはお互い様というところでしょう、カヤ室長」

「はあ? どういうことですか?」

 不知火カヤが訝し気な顔をする。私の言っている意味を理解していないようだ。

「いえ、実は先ほどの案についてですが、連邦生徒会から一人責任者をつけろ、と言われていまして」

「まさか、それを私にやれ、と?」

 顔色が変わる。いきなりの私の発言に戸惑いと苛立ちを感じているようだ。

「やっていただけませんか?」

「いきなり仰られても、こちらも暇な身では無いものですから」

「そうですか……まあ、断られる前に、一度この資料を読んでいただけませんか?」

 私はそう言って懐から資料を手綿す。

「提案書か何かですか? こんなものを読まされたところで…………は?」

 資料を手に取り中を一瞥した不知火カヤの顔が蒼白になる。

 資料と言っても、その資料にはSRT特殊学園のことなど一切書いていない。その資料は防衛室が行ってきた()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

「ど、どうしてこんなものを!?」

「ふむ……経緯について明かすことはできませんが、安易にこうした不正行為に手を染めてはいけませんよ。悪い大人に利用されてしまうかもしれませんからね」

 我ながら説得力の無い言葉だと思いながら、諭すよう不知火カヤに伝える。

「きょ、脅迫する気ですか?」

「まさか。私はただ、この資料を持っているということをカヤさんに教えただけにすぎません。ただ、何か悲しいことがあると、そのショックでこの書類をどこかに()()()()()()()()かもしれませんが……」

「し、白々しい……」

 

 こういう時にいきなり暴力的な解決方法を取らないのも、不知火カヤの美徳かもしれない。

 彼女は暫く顔色と表情を様々に変えながら黙って何かを考えていたようだが

「分かりました……やればいいんでしょう?」

 と最終的にはそう言った。

「くれぐれも、真面目にお願いしますね。上手く事が進まないと、悲しい気持ちになってしまうかもしれません」

「ああもう! 分かっていますよ!? ……本当に最悪です」

 どうやら、不知火カヤからの心象は最低にまで落ちてしまったようだ。それも仕方のないことだろう、このような手段を取っているのだから。しかし、FOX小隊を始めとするSRTの生徒たちと不知火カヤ、両方の暴走を止めるためには、こういった強引な手法しか思いつかなかったというのが実情だ。

 

 そして翌週末、私は不知火カヤと共に、SRT特殊学園の生徒たちへの説明会へと赴いた。




黒服は今日も善意で脅迫しています
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