「初めまして。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。シャーレへと初めて来られた方が大半だと思います」
不知火カヤを引き連れ、シャーレオフィス内の講義室に集まった現在休校中のSRT特殊学園の生徒たちにたちと言っても、集まったのは20名程度の少数だ。
ヴァルキューレ警察学校に編入されることに反対、あるいは悩んでいる生徒への案内であったので、意外と少ないとみるべきだろうか。わずか1週間足らずでこれだけの人数を集めた不知火カヤを褒めるべきか。
出席者の中でも目立っているのは、ある意味SRTという組織で最も有名ともいえるFOX小隊の4人、そして参加者の中で唯一の1年生チームである4人だ。FOX小隊とは違い、1年生の彼女らのことはあまり詳しくないが、確かあの『先生』と交流をしていた元SRTの生徒たちがいたはずだ。それが彼女達のことだろうか。
集まってきた生徒たちの表情は、あまり楽しそうなものではなかった。むしろ不信感がありありと顔に出ている。FOX小隊の一部のメンバーと、眼鏡をかけていた1年生だけが少々異なる表情をしていたが、それが本心なのか表情を隠すのが上手なのかは分からない。
「後で質疑の時間は設けますので、まずはこちらからの説明をお聞き下さい」
私が続けた言葉に、動く者はいなかった。とりあえずこちらの話を聞くつもりはあるようだ。
「皆さんが最も気にしていると思われます、SRT特殊学園の存続についてですが、これについては実際にその会議に参加されているカヤさんにご説明していただきましょう」
私がそう言って後方に座っていた不知火カヤの方を見る。彼女はあからさまな溜息をついて立ち上がり、私と交代する。態度はあまり良くないが、仕方ないだろう。
「えー……ご指名いただきました、連邦生徒会防衛室長の不知火カヤです。先生とは異なり、私の事を見たことのある人は多いでしょう。それで、SRT特殊学園の今後についてですか。……はっきりと申し上げますと、次の会議で閉校が決定される可能性が極めて高いです。そもそも次回に持ち越されたのが、具体的な方法と日時が決まっていないから、と言うレベルなのでほぼ間違いありません。これでよいですか? 先生」
語り口にやる気はあまり感じないが、それでも内容自体は打ち合わせ通りの物だった。SRTの生徒たちは、流石に少しざわついていた。これまでここまではっきりと閉校について明言されたことは無かっただろう。そして本来では経緯も明かされることが無いまま、まるで当然のように閉校が決まっていたのかもしれない。
「ありがとうございます。カヤさん」
再び、不知火カヤからマイクを交代して、話し始める。一段とこちらへの不信感が強まったようだ。閉校が決まっているのなら、何を話すつもりなのだ、と思っているのだろう。
「今聞いた通り、SRT特殊学園はこのままでは閉校となってしまいます。そしてその理由の最も大きいものとして、連邦生徒会長の失踪が挙げられます。私は彼女と直接お会いしたことはありませんが、皆さん方SRTが、彼女直属の部隊を養成して、彼女が直接運用するという仕組みだったという話は聞いています。彼女が不在の今、皆さんは実質的に作戦行動をとることはできない。ということになります」
連邦生徒会長のことを話題に挙げると、学年が上の物ほど目つきを鋭くさせ、一方で1年生の4人からはそれほどの反応が無い。連邦生徒会長との関わりの差だろうか。
「私はその連邦生徒会長と同等の権限を有すると、その本人から文面と人伝でのみ引継ぎを受けていますが、皆さんの扱いについては
生徒たちは早く本題に入れ、と言わんばかりの表情をしている。当然私は気にせず話を続けるのだが
「そんなSRT特殊学園が休校の継続となるのは、偏に過剰ともいえるその戦力を徒に維持しつづけることは、メリットが小さい一方でデメリットが大きいという判断でしょう。これについては連邦生徒会に尋ねても教えてもらえないので私の想像ですが。ともあれ、連邦生徒会にはそのような余裕が無いことは明らかです。何故か分かる方はいますか?」
私は生徒たちに話を振る。
聞いていた生徒たちは動くつもりの無さそうなFOX小隊の生徒たちを除き、顔を見合わせていたが、やがて一人の生徒が手を挙げた。例の一年生の一人だ。
「連邦生徒会長の捜索にリソースを割いているから、でしょうか」
その生徒は、一発で想定解答を引き出した。
「素晴らしい、まさしくその通りです。連邦生徒会長と言う柱を失ったのは、皆さん方だけでなく連邦生徒会そのものも、ということです。故に彼女らは膨大なリソースを連邦生徒会長の捜索に割いている……すみません、お名前を伺っても?」
「一年生の月雪ミヤコです」
「ありがとうございます、ミヤコさん。さて、折角なのでもう一つ質問です。連邦生徒会の行動には矛盾があると思いませんか?」
私の質問に、彼女はけげんな顔をして、考える。
「矛盾……すみません、今すぐには……」
「そうですか。何か意見のある方は?」
室内は静まり返った。FOX小隊の一人がリーダーらしき生徒に耳打ちをしているが、言われた方は首を振っていた。理解はしているが答えるつもりはないという事だろうか。
「……私が今言った矛盾とは連邦生徒会長捜索に最も意欲的で、かつリソースを余らせている皆さん方SRTをそれに使用していない、ということです。そしてその矛盾点とともに、私は連邦生徒会にあることを提案しました。それは
思惑通り、場の空気が一変する。訝し気な様子だった生徒が、こちらの言葉を真剣に聞く様子へと変わったのを確認し、私は説明を再開した。
「さて、代替案の概要を簡単に説明します。こちらの資料をご覧ください」
そう言って、スクリーンに資料を投影する。
「SRT特殊学園 シャーレ臨時支部設立について」と題されたその資料には、以下のことが書かれている。
①連邦生徒会長不在の間、SRTの校舎ではなく、シャーレオフィスを拠点とした支部を設立する
②主目的:連邦生徒会長の捜索
③従来のSRTと同等の任務についてはシャーレの先生とSRTのシャーレ支部長、双方の承認のもとに活動を可能とする
これを元に説明する。
「つまり、連邦生徒会長捜索にかける膨大なリソースを、
「もっとも、連邦生徒会からはいくつかの条件が取り付けられました。まず当然ですが、皆さんにはシャーレに所属してもらうことになります。仕組み的にこれは仕方ないものと思ってください。また、装備についてですが、SRTの標準兵装以外については一旦回収されることになります。また、予算についてもシャーレの範囲内で行うことになりますので、規模の縮小は避けられません。今までの予算感、規模間で作戦を行うことは少々難しいかもしれませんね。」
この内容に露骨にショックを受けている生徒がいるが、どうしようもない。シャーレもクリーンな資金だけでそこそこの規模の学校一校分よりも多くの予算を持っている。それで我慢してもらうしかないだろう。
「そして、もう一つ、作戦に関する同意に必要と説明した『SRTのシャーレ支部長』については、先ほど現状を説明していただいた防衛室長の不知火カヤさんがなること。これが連邦生徒会からの条件です」
厳密には不知火カヤ指名ではなく、「連邦生徒会所属の室長クラスの人物」だが、他に候補がいないので実質的な決定事項だ。私の後方からため息が聞こえる。
「概要は以上です。さて、これからは質疑の時間です。何かある方は仰ってください」
「あの……私は、っていうか私たちはヴァルキューレへの編入を受け入れようと思ってて、今日は一応来ただけなんです。もし支部ができる場合、その話はなくなるという事でしょうか」
2年生のSRT生が最初に質問した。横で頷いているのは同じチームの生徒たちだろう。
「いいえ、申し訳ありませんがそもそもSRT生全てを受け入れられる程のキャパシティは無いのです。なので、これはあくまで希望者を募って、と言う話になります」
「分かりました! ありがとうございます」
一件目の質問を皮切りにいくつかの質問が出てくる。
訓練の話や、シャーレの施設の話。具体的な予算感の話、変わった質問では爆発物の取り扱いや申請の方法についてと言ったものもあった。回答可能な範囲で一つずつ回答していく。そして、
「3年生の七度ユキノです。質問よろしいでしょうか」
大方質問が出終わったタイミングで、ついに、FOX小隊の隊長が言葉を発した。
「ええ、もちろんです」
SRTの中でも有力者である七度ユキノに、自然と視線が集中する。
「正直に言って、私は先生のような、見も知らない大人を信用していません。そちらの連邦生徒会の防衛室もです。もしあなた達が悪人であった場合、私たちが『行動』するのは許可されますか?」
成程、なかなか良い嗅覚をしている。しかし想定外と言うほどの質問ではない。
「あなた方は、
「はぁ?」
「いえ、まあ良いでしょう。ルールは先ほど伝えた通りです。SRTとしての作戦行動は私とカヤ室長、双方の承認が必須です。緊急事態においては別途考える必要があるでしょうが、基本的には変えられません。」
「……だとしたら」
七度ユキノが何かを言おうとしたが、私の発言はまだ終わっていない。
「ですが、我々が悪人であるとするなら、そんなもの勝手に暴けば良いのではないですか? そのようなこと、ルールとして明記する必要すらありません。まあ、そうですね……ヴァルキューレに行かれるよりは私たちの周囲を嗅ぎまわるには向いているかもしれませんが」
七度ユキノが目を見開く。私の後ろから睨むような視線を感じるが、不知火カヤのフォローは後回しだ。
「……承知しました。回答ありがとうございます」
七度ユキノはそう言って、席に着いた。
「他にはもうないでしょうか」
私はそう問いかけたが、それ以上、質問が出ることは無かった。
「生徒たちを休校状態の学校に長くおいておくのはよくありませんので、ヴァルキューレへの編入、および支部への移籍については予定通りにいけば来月早々に行われます。ですので、ご自身の希望については来週中にはご連絡ください。連絡の無い場合は、基本的にヴァルキューレへの編入希望ということになり、支部への移籍希望の方が1小隊、4名を下回った場合、この話は無しとなります。それでは皆さん、よく考えてご連絡ください」
最後に今後の流れを連絡して、説明会は解散となった。
―
解散後、不知火カヤと共にシャーレの事務所へと戻る。
「また勝手なことを約束して! あの方たちに周囲を探られるのは面倒ですよ!?」
「そう思うのであれば、不用意にそのような発言をしない方が良いですよ。盗聴の可能性も考えた方がよろしいかと」
「んな!? ……え、盗聴されてるんですか?」
「まあ、今は99%大丈夫だと思いますが」
「何なんですか、もう!?」
私が彼女の防衛室の資料を彼女に渡して以降、不知火カヤは随分と素の感情を出すようになった。性格を偽っていても仕方ないと判断したのだろう。
「まあ、その上でですが、一応安心してください。例の資料に書いてあるような内容であれば、現時点より前の事であれば、他の誰かに開示されるような危険はもうありません。今後については知りませんが、当分は守るつもりですよ、
私がそう言うと、不知火カヤは再度口を開き何かを言おうとしたが、結局何も話さず肩を落とした。ほかの誰かに利用される可能性のある他人の弱みは、持っていてもメリットが無い。
「まあ、カヤさんには色々とやってもらうことになると思いますが、この話がうまくいけば、連邦生徒会長への道が近づくかもしれませんよ」
「この話がうまく行くって……それ会長が戻ってくるってことじゃないですか? バカでも詭弁だとわかりますよ……」
彼女がそう言ってあまり似つかわしくない態度、事務机に突っ伏すように落ち込むが、そこは汚職などに関わり弱みを握られるほうが悪いのだ。それに、驕っている部分さえ直せば、彼女の理想や能力に共感、期待する者が現れてもおかしくない。私は別に詭弁を語っているつもりはなかった。
そして、翌週。説明会に来ていた生徒20名の内、1小隊を除いた16名から、支部への移籍希望の連絡があった。