黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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日常回です。


調印式前日のひととき① 生徒の集まる場所

 エデン条約の調印式を翌日に控え、今日は遠出はせず、最後の準備をシャーレで行う予定にしている。

 本日は調印式に直接のかかわりが薄い何人かの来客が予定されており、そのうちの二人が今、まさにカフェスペースのテーブルで向かい合って座っていた。

 

「……」

「……」

 殆ど同時に入ってきたときから、何故か緊張した様子で言葉を発しない二人は、ゲヘナの愛清フウカと、トリニティの聖園ミカだった。愛清フウカの方は初対面の時の方が平然としていた気がするが、相手がトリニティの、しかも生徒会長だったと今は知っているので、緊張してしまうのも分からないでもない。

 一方の聖園ミカの方に関しては、彼女がなぜ固まっているかはよくわからなかった。

 

「ええっと、フウカ、ちゃん。あの、この前はお菓子、ありがとう。とっても美味しかった!」

「はいっ! それは良かったです」

「……」

「……」

 漸く一言会話が成立したかと思えば、またそこでお互いに黙って見つめ合ってしまう。

 会話が始まれば緊張が解けるものかと思っていたが、そういうものでもないらしい。

 

「何あれ? こんな場所でお見合いしてんの?」

「あ、後は若いお二人で~ってやつ?」

「大体同世代でしょウチもあんたも……」

 私と同じテーブルについていた河駒風ラブと小鳥遊ホシノが、固まっている様子の二人に遠目から茶々を入れた。彼女たちは、それぞれシャーレからの依頼という形で任せる予定である()()について打ち合わせをするべく、来てもらっていた形だ。固まっていた二人が勢いよくこちらを見る。

 

「え、誰かいたの!? いつから!?」

「せ、先生もいらっしゃったんですね……」

 どうやら奥の方にいた我々には二人とも一切気づいていなかったらしい。

 

「いや、あんたらの前からずっといたわよ……」

 河駒風ラブが呆れた顔でそういった後、何かに気づいて私と小鳥遊ホシノにのみ聞こえる声で

「っていうかあれ()()()()じゃん。なんで()()()()()とお見合いしてるの……?」

 と言った。

「んー? ラブちゃんあの子のこと知ってるの?」

「むしろ知らないの? トリニティの生徒会長よ」

 河駒風ラブが呆れたように言う。小鳥遊ホシノは生徒会長ではあるが政治家としての才能は殆どないと思われる。交渉力云々以前に、基本的に世間に興味が無さすぎる。

「うーん? セイアちゃんとナギサさんって人は知ってるけど」

 小鳥遊ホシノにとって百合園セイアは直接の知り合いであり秘密を共有する友人だ。桐藤ナギサは同じく友人である阿慈谷ヒフミの知り合いの偉い人、というイメージだろう。

「逆に何でその二人は分かるのよ……」

 河駒風ラブの指摘は、トリニティのことを知っているものからすれば当然のものだった。

 

「何こそこそ話してるの、先生!」

 私は何も話していないが、聖園ミカが私たちのテーブルに近づいてきて文句を言う。

 愛清フウカも所在なさげにこちらに近づいてきた。ぎこちない空気を誤魔化そうとする狙いだろう。

「落ち着いてください、ミカさん。()()()()()()()()()()()()を差し上げたのですから、上手く活用してください」

「しーっ! な、何でそう言うこと言っちゃうの!? というかそれ! てっきり先生も一緒だと思ってたのに、何で二人きりなの!?」

 私も時間があればそうするつもりだったが、生憎仕事の打ち合わせがあったのでそれを優先しただけだ。

 

「な、なんかごめんなさい……」

 声が大きい聖園ミカの発言だけが聞こえたらしい。愛清フウカがショックを受けた表情で聖園ミカへ謝罪した。

わーっ!? ち、違うの!? 二人きりが嫌だったとかじゃなくて」

 聖園ミカのことは以前から知っているが、こんなにコミュニケーションに難のある性格ではなかったように思える。トリニティでは付き合いの浅い補習授業部の生徒たちとも普通に話していたし、アリウスの立木マイアとも普通に話していたと聞いていたが……

「これはあれね、修羅場ってやつ?」

 河駒風ラブが面白そうに私に尋ねる。

「どっちかというと、青春ドラマじゃない? 素直になれない女の子ー、みたいな」

 小鳥遊ホシノの感想で、私にもようやく何となく聖園ミカのおかしな態度に察しがついた。普段大きな学校の生徒会長という立場である彼女にとって、自分から仲良くなりたい相手、しかも自らの勢力圏外の相手ということで、過剰に意識してしまっているのだろう。逆に愛清フウカの方は相手が目上の立場であるような認識でいるために、二人の感覚にズレが起きており、このような噛み合わない事態となっているのだろう。

 このように考察できたからと言って、この件については別に彼女らに助言をするつもりはないのだが。自分達で解決することを願う。

 

「んー、ちょっとお腹すいてきたなー、ね、先生。この辺で安くて美味しいご飯食べれるお店ある?」

「あんた、これ眺めてるの飽きたんでしょ。本当、自由ね……アビドスってみんなそうなの?」

 河駒風ラブは呆れた顔で言うが、大体その通りだ。そのため、アビドスはおおよそ1年生の奥空アヤネにしわ寄せが行く構造になっている。

「そんなことないよ~。みんなしっかりしてるもん」

 と、小鳥遊ホシノは自分のことは棚に上げつつ知れっと否定していた。

 

そうだ! ごはん!

 聖園ミカが突然叫ぶ。

はい!? え、えっと、()()()()()()()?」

「じゃなくて、フウカちゃん! 給食部の部長とかで、ご飯作るの上手なんでしょ!? 良かったら教えてほしいなー、とか……」

 言い始めてから、さっきまでお見合い状態だった相手に言う言葉じゃないと気付いたのか、言葉が徐々に弱弱しくなっていく。

「へー、そうなの? それはちょっと気になるわね」

 何故か河駒風ラブが急に興味を惹かれたように話に加わる。料理が好きなのだろうか。

「おじさんは食べる専門なんだけど……、そんなに上手いなら確かに気になるねー」

「……じゃ、じゃあ折角なので、皆さんで、料理……作りますか?」

 そしてそれらの発言を受け、愛清フウカも乗り気になったようで、聖園ミカの方を向き、そう言った。

「……うん! じゃあ、今からみんなで突発、お料理教室をしよう! ってことでいい?」

 聖園ミカは思わぬ流れになった展開に、喜んで乗っかっていた。

 

「こんにちは、先生。カフェにこんなに人がいるなんて、珍しいですね」

 そこに、いつの間にかカフェに入ってきていた者がいた。ミレニアムの早瀬ユウカだ。彼女は売店の店員と私を除けば最もシャーレにいる確率の高い人物なので今更なぜここにいるのかと問う必要もない。

 

「ところで、その料理教室って、今から飛び入りでも参加できるんです?」

「うん! 誰だかわかんないけど良いんじゃないかな!? あ、ごめんねフウカちゃん勝手に決めて」

 先ほどからずっと聖園ミカに全く落ち着きがない。恐らく今日はそういう日なのだろう。

「ああ、すみません。私、ミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカといいます。珍しくカフェで話し声が聞こえたので、顔を出してみたんです。何だか面白そうな話をされていたので。すみません、図々しかったですね」

「あ、もしかしてアリスちゃんと仲良しのユウカってあなたのこと?」

 小鳥遊ホシノが天童アリスから良く名前が出てくる人物の内の一人が同じ名前であることに気付く。

「え? あ、はい、アリスちゃんの知り合いなんですね? 恐らく間違いないと思います。貴女は……アビドスの生徒会長の小鳥遊ホシノさんですね? 会報で見ました。連邦生徒会の」

「おー。だいせいかーい」

 小鳥遊ホシノが手を挙げ、早瀬ユウカとハイタッチを交わす。ミレニアムで才羽姉妹辺りとやっていそうな光景だが、こちらは小鳥遊ホシノの方が年上だ。

「じゃあ、ユウカさん? も含めて皆さんでやってみましょうか。先生、シャーレで料理が出来る場所って借りられますか?」

 愛清フウカは別段人が増えても困らないようだ。

 

「ええ、大丈夫ですよ。場所や使い方はラブさんが分かると思います」

 久しぶりに口を開いた私の言葉に、河駒風ラブが頷いた。

「じゃあ、最初は買い出しですね。この辺り、スーパーとかあるんでしょうか」

「それもうちが教えたげるよ」

 愛清フウカと河駒風ラブが率先して外に出ていく。河駒風ラブは節約のため自炊をしているので、そう言った部分で波長があうのかもしれない。

「誰か、作ってみたいものありますか?」

 そして、愛清フウカのその言葉に、聖園ミカへ注目が集まる。河駒風ラブを筆頭に、先ほどの()()()()の空気を読んだというものだろう。早瀬ユウカはやや困惑していたが。

「え、えーっと、じゃあ……オムライスで!」

「はい、じゃあ、そうしましょう」

 愛清フウカは笑顔で了承した。

 そうして、5人の生徒たちは買い出しへと向かい、シャーレの外へと出ていく。集団のほとんどが初対面のはずだが、それを感じさせないほど、その姿は仲良さげな様子だった。 女生徒というものはそういうものなのだろうか。

 

 様々な学校の生徒たちが集まる場所。珍しく、今日のシャーレは正しくそのような場所になっていた。




余談
ユウカは最近アリスが『おじさん』と仲が良いと聞いて心配していました。
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