黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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日常回その2です。


調印式前日のひととき② 新たな拠点として

 5人の生徒が出て行き、そろそろ事務所に戻ろうかと考えたとき、またもカフェへと入ってきた生徒たちがいた。

 

「良いですか、ミヤコさん。本来私は……げっ、先生」

 その生徒はSRTシャーレ支部の支部長として正式に任命された不知火カヤだった。一応防衛室長を『兼任』となってはいるが、今後彼女は基本的にはシャーレに常駐することになる。

 そして、共に現れたのは月雪ミヤコ、そして七度ユキノがおり、その更に後ろにもう一人SRTの生徒がいた。確か……1年生で狙撃手の霞沢ミユだったはずだ。

 入ってくるなり私に気付いた不知火カヤはあからさまに顔を顰め、月雪も何故かむっとした表情でこちらを見てきた。

 

「ここにいらっしゃったんですね、先生。先ほど事務所に伺ったのですが、不在にされていましたので、探していました」

 そして七度ユキノは、あの説明会以降、こちらに対して丁寧な対応を取るようになり、シャーレにもよく訪れるようになっていた。現在休校中でそこまで忙しくないからかもしれないが、あるいは私が言った通り、私の裏を暴こうとするために嗅ぎまわっているのかもしれないが。

 霞沢ミユはおどおどとしていた。

 以前の印象通りではあるが彼女はこの支部を作るにあたって調べた資料によると、スナイパー適正が全校で最も高い、と特記されており、彼女もまた精鋭であることには間違いないようだ。

 

「おや、珍しい……訳でもないですが、いつもとは少し異なる4人ですね、どうされましたか?」

 SRTの生徒たちは大抵の場合小隊同士で一緒にいることが多く、不知火カヤに関してはそもそもSRTの生徒たちと一緒にいるところを見かけるケースがあまりなかった。

 

「ふん、この方たちが私をここの支部長だと認めない、というので、ちょっと分からせてあげようと思いまして、先生、この部屋にチェスとかありませんか?」

 よくわからないがSRTの生徒たちと言い争いをしていたらしい。争いが発生している、と言う意味では連邦生徒会で益体の無い超人アピールしていたころよりも健康的かもしれない。

「いえ、()()別にそんなことは言ってませんよ。先生が任命されたのだから何か深い理由でもあるのでしょうと言っただけです」

 七度ユキノは首を振って訂正する。責任をこちらに一部負担させているような言い方はやめてほしいが。

「そうは見えないとも言いましたよねユキノさん!? 確かに私は皆さんのように戦闘力が高いわけではありませんが知略に関しては十分に……」

「私は先生のことも信頼していませんし、カヤ先輩のことも信用していないだけです。実力でいえばユキノ先輩がそうなるべきだと思います」

 不知火カヤの怒りの反論を遮って月雪ミヤコが反感を示す。なるほど、主にこの2人が対立しているという話のようだ。不知火カヤは以前の反応からそもそもSRTの支部長になりたくもなかった様子だったはずだが、認められないのはそれで納得いかないということだろうか。

「わ、私は何も……ひぅぅっ」

 そして霞沢ミユはおどおどとしていた。彼女は基本的に常時そうしている。

 

「チェスですか……確か生徒が置いていったボードゲームがあったと思いますが……」

 先日ゲーム開発部の才羽モモイが持ち込んできた箱を指さす。それには『自由に遊んでいいよ!』、と書いてあり、部室からあふれたゲームを有効活用するために持ってきたという話だ。とりあえず害は無さそうなのでそのままにしてある。

 月雪ミヤコが取りに行き、持ち帰ったその箱を確認すると、才羽モモイの言っていた通り中にはいくつかのボードゲーム類が入っていた。

 具体的にはルールの分からないカードゲームらしきもの、TRPGと書かれたゲームのルールブック、見るからにルールが複雑そうな様々な駒やカードを利用するらしい大型のボードゲーム、そして、箱に「ペロロ様危機一髪!」と書かれているゲームだ。これは確か阿慈谷ヒフミが愛好しているキャラクターが樽に収まっていて、剣で突き刺して遊ぶゲームのようだ。

 不知火カヤの望んでいたチェスや将棋などの知略ゲームは入っていないようだった。どうするつもりだろうか。

 

「……成程、では、これで決着をつけましょう」

 暫く中身を吟味していた月雪ミヤコが「ペロロ様危機一髪!」の箱を指さしてそう言った。

「本気で言っているのですか!? これ、運ゲーじゃないですか?」

 不知火カヤは信じられないといった表情で指摘するが、月雪ミヤコは無視してゲームの箱を取り出した。

「ユキノ先輩もそれでいいですよね?」

()()()()()()。ミユ、代わりにあなたがやってあげなさい」

「ひゃぅっ!? わ、私ですか……!?」

 七度ユキノはこの諍い自体に興味がないようで適当にその権利を後輩へと譲る。霞沢ミユは大いに驚き、おどおどとしている。

「分かりました。ミユ、よろしく」

月雪ミヤコには七度ユキノに体よく断られたのは一切気にした様子はない。

「ミヤコちゃん!?」

驚く霞沢ミユは無視して、不知火カヤと月雪ミヤコはゲームのセッティングを始めた。不知火カヤもなんだかんだで勝負には乗るらしい。

 

 そうして何故か始まったボードゲーム大会を眺めていると、参加を辞退した七度ユキノが私に近づいてきた。

「改めまして、おはようございます、先生。いえ、もうお昼過ぎでしたね」

「はい、こんにちはユキノさん。随分と、打ち解けられたようですね」

「そうでしょうか? ……カヤさんにはミヤコが何故か突っかかるんです」

「それだけユキノさんが慕われているということではないですか? 先ほどの会話内容を聞くとそのように感じましたが」

 月雪ミヤコが不知火カヤや、()()()()()()、反抗的な姿勢を見せるのは、七度ユキノを尊敬しており、彼女より立場が上だったり、彼女が言うことを聞く存在だったり、という存在が気にくわないのだろう。

 

「ええ……だからこそ困っているんですけどね」

「それで、今日は……ああ、確かSRTの備品の一部や荷物類の引っ越しが今日でしたか。カヤさんに進行を任せていましたが、何か問題はありましたか?」

「いえ、そちらは恙なく終わりました。カヤさんも多少文句は言いながらでしたが、仕事に関してはスムーズにできる方、と言う印象ですね」

 不知火カヤは傲慢なところはあれど、無能という訳ではない。むしろ運動能力といった分野以外においては有能と言えた。七度ユキノのこの評価は正当な物だろう。

 

「それが終わったので、報告にと事務室へ伺ったのですが、いらっしゃらなかったという訳です」

「成程、それは申し訳ありません。別の生徒との打ち合わせの後、こちらに移動していたのです」

「いえ、特に連絡もいれていませんでしたから。それより、打ち合わせと言うと明日の?」

 流石に察しが良い。私が言った一言だけで、その内容を想像できたようだ。

「そうですね。皆さんも、明日はよろしくお願いします」

「ええ、久しぶりに動きますが、成功させます」

 七度ユキノは自信ある様子で返事をした。書類上は昨日からSRTのシャーレ支部は運用開始となっている。ギリギリだったが、明日の調印式に間に合わせた形だ。そしてその前提で、彼女たちにもある役割を依頼していたのだ。

 

「そういえば、ゲームはどうなっているのでしょう」

 七度ユキノとともにペロロ様危機一髪で遊んでいる3人の方を見る。

 既に殆どの剣が刺さっており、ゲームの終盤となっているようだ。

「……飛びませんね、次はミユです」

 丁度月雪ミヤコが自分の番を終わらせ、霞沢ミユの番になるところのようだ。彼女は剣を穴に持っていき、目を瞑った。よく見ると細かく震えていて、緊張しているようだ。

 そして、剣が差し込まれたそのとき

ひゃぅっ!!?

 大きな発破音と共に樽の中の人形が煙を吹いて飛び出し暫く室内を回った後、

……あうっ!!?

 混乱していた霞沢ミユの頭に直撃した。彼女は後方に吹き飛び、目を回してそのまま倒れ込んだ。どうやってあの推進力を出しているのか興味が尽きないが、想像の何十倍も危険なゲームのようだ。

 

「……終わりましたね」

 月雪ミヤコが霞沢ミユから視線を逸らして不知火カヤに言う。

「そうですね……ところでコレ、飛ばしたら勝ちなのか、負けなのか、どっちなんです?」

 顔を見合わせた二人は、箱の中にあった取扱説明書を今更確認する。月雪ミヤコがその中に書かれていた項目を読み上げる。

「……『遊んでいる人が決める』と書いてますね。つまり……」

 不知火カヤは無言で取扱説明書から目を離し、一瞬だけ倒れている少女を見た。それから眼を逸らして再び月雪ミヤコを見て、首を振った。二人の感情が一つになるのが分かった。

「今回は、ノーゲームってことにしましょう」

 月雪ミヤコがそう言うと、不知火カヤは頷き、二人は無言で『ペロロ様危機一髪!』を片付けた。

 

「……随分打ち解けられたようですね」

「そうですね……先輩としては、嬉しい限りです」

 それを見ていた私と七度ユキノもまた、少し打ち解けられたのかもしれなかった。

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