黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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古聖堂襲撃③ FOX小隊の任務

 FOX1 七度ユキノの作戦開始を告げる通信は、まだ爆発の衝撃すら収まっていない程のタイミングで行われていた。当初の想定では我々が今いて、安全が確保されているこの建物周辺から出発する予定だったのだが、彼女たち自身が、それでは突入が遅くなりすぎると主張したのだ。

 そこで選ばれたのが、古聖堂のすぐ近くに存在する建物の脇にあるマンホールの内側だった。

 爆心地付近のカタコンベの出入り口すら破壊されないという想定である以上、地下への影響は小さいだろう、と言う判断によるものだ。

 

 そしてそれが功を奏し、彼女たちが目標を捉えるまでには、殆ど時間がかからなった。

 

「こちらFOX3。ターゲットを目視できる位置まで到着したわ。崩壊を免れた壁の裏側にいる。うわー、混乱してるわね。同じとこぐるぐる回ったり、単独行動始めたりしてる」

 新たな人物からの通信が、専用の無線通信で聞こえてくる。FOX3、ポイントマンの高倉クルミが至近距離にまで近づくことに成功しているようだ。

 

「了解。FOX3、彼女達に紛れてポイントCまで行けるか?」

「うーん、流石にまだちょっと厳しいかも。何か連中の気を引くものがあればいいんだけど……」

 

 ポイントCとは、古聖堂のカタコンベへと通じる出入り口のことだ。ポイントCに到達して、出入り口を封鎖する。これが今回のFOX小隊に与えられた重要な目的の内一つであり、この方法を提案したのもまた、高倉クルミ自身だった。突入を想定している彼女と七度ユキノの二人は、前回の襲撃を行ったアリウス生から回収したマスクと制服一式に身を包んでいる。とはいえ、あらぬ方向から突然現れればアリウスの部隊でないことはすぐにバレてしまうだろう。

 

「こちらFOX4、何発か撃ってみようか?」

 FOX4 スナイパーの天神山オトギだ。遠方から状況を監視している彼女の狙撃は混乱しているかのアリウス生たちには十分な威圧として働くだろう、しかし……

 

「攻撃を受けると警戒して混乱が解けちゃうかもしれないから、それはよくないかも……」

 その行動にはポイントマンから待ったがかけられる。彼女の言う通り、敵も訓練された兵士である以上、「敵がいない」と言う状況から「敵がいる」状況に変化した場合混乱が収まる可能性がある。

 

 彼女たちの通信を聞きながら、私は内心舌を巻いていた。FOX小隊は場慣れしており、今回の作戦への協力を依頼したのも、彼女たちの実力を期待してのものだった。

 今回の作戦は『誰もいない』が作戦の根幹であるため、見つからないことが優先である。そのような中で彼女たちはその場の判断で作戦を進行している。彼女たちは全員、指揮官としても一流になれる人物だろう。ヴェリタスと同じく、彼女たちも私の想像を大きく超える実力の持ち主だったということだ。

 

「こちらFOX2。ヘリコプターを再浮上させて注目を集めるのはどうかな?」

 FOX2 オペレータ兼ヘリコプターでの支援を行う吉野ニコが提案する。

「……それでいこう。FOX2はヘリコプターで再浮上し、作戦エリアから離れるように移動し気を惹いてくれ。私はFOX3と合流し、ポイントCへと向かう」

「FOX3、りょうかーい」

 七度ユキノがリーダーとして素早く判断し、作戦を進めていくが、独断的でなくチームで作戦を遂行しているのがよくわかる。

 

「こちら、FOX3。 おー、釣られてる釣られてる。今なら移動できそう」

 という高倉クルミからの通信が入ったのは、それからすぐの事だった。

 

 万魔殿が去った調印式会場に視線を戻す。動揺が無いわけではないが、事前にある程度説明はしていたため、この会場内は比較的静かだった。しかし外はそうではなく、少なくない混乱がおきているようだ。直ちに風紀委員会や正義実現委員会の生徒たちが、それぞれの幹部によって冷静に組織され、混乱の解消に向け、動き始めた。

 そして、ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナを含むその一部が、アリウス生たちの捕縛、もとい保護に向け、古聖堂『跡地』へと向かった。

 私も動き始めることにしよう。そう思い、まずは既に現地入りしている河駒風ラブに連絡した。

 

 その直後、FOX1、七度ユキノから再び通信が入った。

「こちら、FOX1。FOX3と共に気付かれずにポイントCに到達した。……先生、確認があります。先ほど、すれ違った生徒が『姫はまだ地下にいる』と言っているのを聞きました。誰の事を言っているのか分かりますか?」

 姫……秤アツコのことだ。すぐにそれを伝える。

「なるほど……既にポイントCの爆破準備は完了していますが、私は地下墓地側に進み、秤アツコの『保護』に向かおうと思います」

 それ、本気? という高倉クルミの声が七度ユキノ側の通信から聞こえた。

「もちろん。彼女の保護がとても重要だと、ブリーフィングで先生も話されていた。聞いていただろ? FOX3にはこっち側で単身戦わなきゃいけなくなるから、大変だとは思うが」

 七度ユキノの意志は固いようだ。ブリーフィングの際、アリウス生たちの現状を伝えてしまったことで正義感を強めているのかもしれない。

 

「それは、別にいいけど……もう、勝手にしたら!?」

「こちら、FOX2……FOX1、無理はしないでね」

「ポイントマンのサポートはこっちで何とかするよ。行ってらっしゃい」

 

 FOX小隊のメンバーは慣れているのか、余り引き留めることは無かった。時間が無いというのもある。私も最小限に必要なことを伝える

「ユキノさん……一つだけ。アツコさんの保護の前後どちらの場合でも、地下で『異形の人物』を見つけたら可能な限り関わらず、逃げてください」

「異形の人物……?」

「まあ、つまり、私のような変わった姿の人物です。私たちも、別ルートを通ってアツコさんの保護へ向かいます」

「……承知しました。FOX3、1分後にポイントCを爆破しろ。地下に入ると通信は出来なくなるはずだ。それと、もし私が戻ってこなかったら、救助は頼んだ」

 七度ユキノはその宣言通り、以降通信を行うことは無くなった。

 

 ―

 

 私は七度ユキノの最後の通信と同時にシッテムの箱を利用してヴェリタスに作戦終了の連絡を送る。暫くすると、画面と爆破された古聖堂を交互に見ながら騒いでいた報道部の動きが一瞬止まり、次の瞬間

「あ、ああ!? 今配信出来てます!? 皆様、見えておりますでしょうか!? 謎のハッキングにより配信出来ていませんでしたが、もっと大変なことが起こりました。今映しているのは、信じられないでしょうが本来調印式が行われるはずだった古聖堂です。なんと、跡形もなく崩壊しています……」

 と、いきなりリポーターとしてのスタイルに切り替わり、古聖堂の様子を映し始める。

 ライブ配信を見ると、確かに映像が現在のものになっていた。ヴェリタスがアカウント権限を手放したのだろう。

 

 アリウススクワッドが、しかも秤アツコだけが分断されてしまうのは私としても想定外だった。しかし元々別の進入経路から、アリウスへと向かう予定は立てていたのだ。少々予定変更となるが、七度ユキノが秤アツコを直接確保できるのであれば、それに越したこともない。

 私も急いで合流ポイントに向かうとしよう。

 歌住サクラコや桐藤ナギサといった、トリニティ側の代表者に一言伝え、私も建物の外に出る。

 

「待っていたぞ、先生」

 私を待ち構えていたのは、直接会うのは曲直瀬リリの送別会以来となる、白洲アズサだった。

 そして、

「やっほー、先生。爆発凄かったね!」

「遅いわよ。っていうか、本当に護衛うちで良いの?」

 聖園ミカと河駒風ラブ、この3名と私が、アリウスへの侵入メンバーだった。




FOX小隊の隊員の苗字は公開されていないので、公開されたら直す予定です。
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