「すみません。現場の状況を確認していました。入口は私も把握していますが、アズサさん、すみませんが、地下通路に入った後は案内をお願いします。詳しい経緯は歩きながら話します」
「うん、よろしく」
待ち合わせ場所で待っていた3人と合流して、白洲アズサに案内人を頼む。元々はアリウスへの移動経路の聞き取りを行う事のみを予定していたのだが、彼女自身が同行を申し出てくれたのだ。歩き出した彼女の後に続く。
「ちょっと、ミカとはこの間一緒に料理作ったからわかるけど、その子とは初対面よ。トリニティの生徒? 見たことないけど1年生?」
河駒風ラブが歩きながら、白洲アズサに尋ねる。
「ううん。私は白洲アズサ。最近トリニティに転校して入った2年生。もとはアリウスにいた。あなたもトリニティ生?」
「元、ね。……今は中退してフリーターやりながらヘルメット団のリーダーやってるわ」
「……そうなんだ」
白洲アズサが一瞬、言葉に詰まった。中退と言う選択肢は、アリウスには無かっただろうし、転校後も自らの意志でやめたいからやめる、というのは選択肢には無かったのかもしれない。
「その結果がシャーレの職員でしょ? 私も退学になったらラブちゃんの部下になっちゃおっかな」
河駒風ラブが腕に着けている、シャーレのロゴを指し、聖園ミカが言う。
「『臨時職員』ね。ただのアルバイトよ。ヘルメット団に入りたいってなら止めはしないけど……」
彼女はそう言って
「あー……やっぱオススメはしないわ。うちはトリニティにいた頃からせいぜい一般庶民くらいだったけど、ミカはお嬢様って感じだし、駄目ね」
そう言って首を振った。
「えー、私これでも結構力持ちだし、野宿は……やったことないけど、役には立てると思うよ?」
聖園ミカが不満そうに言う。
「そういうこと言ってんじゃないのよ。髪とか肌とかすごくキレイだし、オシャレだし、勿体な
いって言ってるの。あんたみたいなのはちゃんと学校いって普通に卒業しなさい」
「……え、今私褒められた?」
「……」
河駒風ラブはそっぽを向いて無視する。
「ねえ、アズサちゃん! 今のって褒められたのかな!?」
「……それは分からないが、私もミカの髪や羽は綺麗だと思う。ラブの赤い髪もキレイだし、カッコいいと思う」
「……今凄くキュンとした。アズサちゃん、破壊力高いよ」
「破壊力……? トラップの話?」
白洲アズサの直球で天然な様子には、聖園ミカも劣勢なようだ。河駒風ラブと二人で赤面している。
「先生は何か言うことないの?」
「……三人とも、良くお似合いの髪をしていると思いますよ。職員についても、もし正式になっていただけるのであれば私としては歓迎しますよ。ラブさんも、ミカさんも」
「あっ、うん……」
「それはそれとして、そろそろこの後のことについて話しても良いですか?」
それぞれの自己紹介とアイスブレイクは十分だろう。移動しながらなのでトリニティ流の紅茶は無いが仕方ないだろう。
「先ほど、現場で作戦行動中の協力者であるユキノさんから、秤アツコという生徒を地下通路側に、その他のスクワッド……アリウスの指揮官級の部隊のメンバーを地上側に分断するという連絡がありました。地下通路の入り口を封鎖するのは予定通りですが、分断自体はその限りではありません。そのため、ユキノさんは今、地下通路内に一人潜入してそのアツコさんの『保護』に向け、単独行動中です」
「アツコが……?」
白洲アズサが思わずと言った様子で聞き返す。私は頷いて話を続ける。
「はい、アリウスから姫、と言われている生徒ですね。ミカさんもご存じですか?」
「うん、いちおうね。話したことはないけど……」
聖園ミカも頷く。
「彼女はアリウスの生徒たちから特別扱いをされています。そして、特別扱いをされる理由は、支配者が特別扱いをするように言っている、あるいはそのような扱いを受けているために自然とそうなっている、という感じでしょうか。私の知っている話と、アリウスの生徒たち……アズサさんとマイアさんから聞いた印象の合算ですが」
「あ、そういえばマイアちゃんと会ったんだっけ? 元気だった?」
マイアという名前に、聖園ミカが反応する。気にかけていたらしかったので、その反応も当然だった。
「そうですね、身体は順調に回復しているようです。心のケアは今後も必要でしょうが……そこで彼女が生きているのは、ミカさんのおかげと聞きました。彼女も感謝していましたよ」
「そっか……死にそうになったのも、私のせいみたいなものなのに」
聖園ミカが複雑な表情を浮かべる。
「それに関しては、私がミカさんに話したことを実践いただいただけで、私にこそ責任があるでしょう。……ともかく、秤アツコと言う生徒は他のアリウス生だけでなく、寧ろ支配者であり本件の黒幕、ベアトリーチェにこそ特別扱いをされている生徒です。ただしそれは、『生け贄のため』という理由からですが」
秤アツコ。ベアトリーチェがロイヤルブラッドと呼んでいた彼女は、ベアトリーチェにとって唯一アリウスで大事にすべきものであり、彼女自身が崇高に至るための、
彼女のことを倫理的に許せないというような感情に陥ることは私にとってお門違いもいいところだろう。しかし、敵対することに躊躇は無い。
「そのアツコさんをアリウスに通じる側に分断してしまったのは完全に想定外、と言うほどではありませんが、理想的な状況とはいいがたいです。既に状況は動き出してしまっており、黒幕……ベアトリーチェもそろそろ失敗に気付いているでしょう。アツコさんが地上に出ていれば保護するか……最低でも他の仲間がいる状況で逃避行に臨むくらいで済んだでしょう」
「え、逃げられても良いの?」
アリウスの現状に最も疎い河駒風ラブが尋ねる。
「安全に逃げてくれるのであればそれでも構いません。彼女たちは事実上敵対しており、ミサイル攻撃や聖堂襲撃に関しては実行犯ですが、しかし勘違いしてはいけません。
私がそう宣言すると、3人の生徒たちは真剣な顔で頷いた。
地下通路への入り口が近づいてくる。通路に入ると、外との連絡は取りづらくなるだろう。シッテムの箱に関してはその限りでない可能性もあるが、確証はない。
「連絡が必要な相手には今のうちに連絡しておきましょう。例えばアズサさんは、補習授業部の方のような仲の良い友人に今日のことを伝えていますか?」
「ううん、言ってない。でも調印式に行ったって思われてるかもしれない」
「であれば、ある程度情報は伝えておいた方が良いかもしれませんね」
「分かった。そうする」
白洲アズサは素直にうなずいて、最近入手したらしい真新しい端末で連絡を始めた。
「お二方は?」
「うちは先生の護衛についてるって言ってるし、大丈夫よ」
「私もナギちゃんやセイアちゃんはもちろん知ってるし、特にいないかな」
残る二人は特に連絡する相手もいなかったらしい。私も現在の状況と、七度ユキノと合流を目指すことをFOX小隊の生徒たちに連絡する。すぐに返事が返ってきた。スクワッドのメンバーと思われる生徒1名を含めた、多数のアリウス生を保護した、とのことだ。FOX小隊は十分な実力を発揮して見せた。私も不甲斐ないところは見せられない。
地下通路への入り口が見えるところまで来た。中にはアリウス生や、「それ以外の何か」が敵として襲い掛かってくる可能性もある。十分に注意して取り掛かるとしよう。