黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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予約投稿ミスってました


vsヒエロニムス

 明かりの存在しない地下道を4人で進んでいくことしばらく、白洲アズサが再度立ち止まり、懐中電灯を消した。

 遠くに小さな明かりが見える。

「みんな、見て。あそこが道の合流点、少し広くなってて、空につながる隙間があって、そこから光が入ってきてるみたい」

 白洲アズサがそう説明する。そろそろカタコンベ側の入り口に近づいているのだろう。そして何かが待ち構えているとしたら、このあたりの可能性が最も高い。

「皆さん、気を引き締めてください」

「うん、広い場所だから、敵がいるかもしれない」

 私と白洲アズサの言葉に、残り二人も頷いて従った。

 そして、ついに合流点へと到着する。先ほどの予想に反して、そこには誰も待ち構えてはいなかった。息をつきかけたその時、奇妙な物音がする。一度ではなく繰り返し。一定のリズムで。

 

「何かが近づいてきてる……?」

 白洲アズサが、繰り返すその音を聞いて、そう判断したようだ。確かに彼女の言う通り、よく聞いていると、何かの足音が近づいてきているような音だ。しかし、人間の足音にしてはあまりにも大きく、金属の音のようにものも聞こえる。

 戦闘が起こる可能性を感じ、戦闘態勢になる。私もシッテムの箱の戦闘支援プラグラムを起動し、近づいてくる何かを待ち構える。

 そして、その巨大な存在は、ゆっくりとその場へ現れた。

 

「な、なにあの……怪物?」

 河駒風ラブが巨大なそれを畏れるように、呟く。

「私も知らないよ!? アズサちゃん知ってる!? マダムっていうやつ?」

 聖園ミカは大きく驚いているようで、アリウスの生徒なら知っているのかと尋ねる。

「いや……あれはマダムではないし、似てもいない。それはそれとして、私も見たことは無い」

 白洲アズサの答えもノーだった。

 

 しかし、私はその存在を知っている。それは巨大な人間をかたどった顔のない異形。四本の腕を持ち司祭服を身に纏った人工の天使。そして聖人とは程遠い紛い物の怪物だ。

「……()()()()()()

「え? 先生知ってるの!? 何か変なのにやたら詳しいよね先生」

 聖園ミカが何かを言っているが、耳にはあまり入ってこなかった。ユスティナ聖徒会の複製、いや、その利用に失敗している以上、彼の傑作たるヒエロニムスも、少なくとも今この場で作り出される可能性は低いのではないかと甘い希望を抱いていたが、そううまくはいかないようだ。

「っていうか、あれ、敵って事でいいの!? さっきのお化けと一緒で実は無害とかは無いの!?」

 今度はすぐ隣にいた、河駒風ラブが希望的観測を述べたのを聞き、我に返る。確かにその可能性もあった、今この瞬間まではだが。ヒエロニムスの杖が赤く光ったのが確認できた次の瞬間、

「……!!」

 先頭にいた白洲アズサが立っていた場所が爆発する。

 

「アズサちゃん!?」

「……っ! 平気!」

 直前に狙われていたことに気付いて回避していたアズサが、自らの無事を伝えながら、ヒエロニムスに対し反撃として射撃する。しかし、

「……効いてない?」

 銃弾は確かに命中したが、余り効果は感じられない。再び、杖が光り、今度は聖園ミカがそれを避ける。

「あっぶないなぁ! もう!」

 聖園ミカが怒っているが、間近で私の護衛として立っていた河駒風ラブは

「いや、アンタたち何でそれ避けられるのよ……」

 と呆れた表情だった。

 

 どうやら積極的に前に出て攻撃を仕掛ける聖園ミカと白洲アズサへの攻撃がヒエロニムスの行動パターンらしく、高度な考えで行動しているようではなさそうだ。しかし、こちらの攻撃もあまり有効打にはなっていない。銃弾を無効化しているというよりは、単純に頑丈でダメージをあまり与えられていないように見える。

「先生、あいつのこと知ってるんでしょ!? 何か弱点とか知らない!?」

 聖園ミカが叫ぶ。

 ヒエロニムスの弱点。何か言っていただろうか、咄嗟に考える。弱点ではないが、彼との会話で一つ思い出したことがあり、それを伝えようとしたその時、聖園ミカの足元に魔法陣らしきものが突然広がった。

「な、何これ!?」

「離れてください!」

 咄嗟に叫んだが、間に合わず、地面が爆発する。

 

「え!? きゃぁっ!? 熱っつ!?」

「ちょっとミカ!? 大丈夫?」

「う、うん。とりあえず何とか! でもあんなの避けられないってば!」

 殆ど直撃だった気がするが、彼女にとってはそこまで致命的なダメージという訳でもないようだ。ひとまず、最悪の事態は避けられた。

 

「ミカさん! ヒエロニムスの傍らには聖遺物があり、それに祈りを捧げるとヒエロニムスの加護が薄れるはずです」

 先ほど言いかけていた、ヒエロニムスの特徴を通信機で彼女に伝える。

「聖遺物!? な、なんでそんなゲーム風なの!? でもありがと! 聖遺物ね、聖遺物。それに祈りを……ってどういうこと!?」

「先生、まず、聖遺物って何? 傍らに何かが置いてあるようには見えない」

 

 通信機を使わず聞こえてくる聖園ミカの叫び声と、通信機越しに伝わる白洲アズサの冷静な指摘が、同時に耳の中に飛び込んでくる。

 聖遺物が見当たらない、そう言われ、ヒエロニムスの周囲を探す。確かに、そういったものは見当たらない。そういえば、彼がヒエロニムスを完成させたのはこの時ではなかったはずだ。つまり、白洲アズサの言う通り、聖遺物はまだ再現できていない可能性がある。

「確かに、聖遺物は見当たりませんね」

「ええ!? ダメじゃん!

 聖園ミカから駄目出しを受ける。甘んじて受け入れるしかない。

 

 聖遺物という突破口も空振りに終わり、膠着状態になる。白洲アズサと聖園ミカが前衛として耐えているが、決め手の無い状況となってしまっていた。

「あんたたち、前に出すぎよ! フラッシュ投げるからいったん下がって! 効くかわかんないけど!」

 河駒風ラブはそう言って、一歩前に出て手りゅう弾を投擲する。フラッシュ・グレネードだ。

 それに従い、聖園ミカと白洲アズサもこちらに少し戻ることが出来たが、結果的に、それはあまり良い結果にならなかった。

 

 閃光には一定の効果があったようで、一時、攻撃が止まったが、すぐに再開してしまう。そして悪いことに、その手りゅう弾を使った者までが攻撃目標になってしまったようだ。

 それに気づいたのは、河駒風ラブの足元に魔法陣が浮かび上がった時だ。

「!!」

「っ! せんせっ!」

 彼女は咄嗟に私を魔法陣の外から出すために私を突き飛ばそうとしたが、逆に私は彼女を庇うように抱え込んでしまう。

 身体が縺れる感覚と共に大きな爆発音がした。そして、一つの予想通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。久しぶりのやけどしそうな感覚だ。

 そして私と河駒風ラブは二人で転がるように倒れた。

 

「先生!?」

 白洲アズサの叫び声がする。咄嗟に大した外傷は無いことを伝えようとするが、すぐには声が出なかった。そしてシッテムの箱が()()()()()を立てたその時、新たな異変が発生したことに気付く。

 

 その異変は、聖園ミカを中心に起こっていた。

()()()()()

 聖園ミカが明確に怒りの声色で話し始めるとともに、彼女に光が差すような錯覚を覚える。

()()()()()()()()()()()

 聖園ミカがが銃口に手をかける。ヒエロニムスが危険を察知したのか、彼女に向かって攻撃を行うが、彼女は微動だにすることは無かった。

()()()()()()()()()()()()

 そして銃口が火を噴く直前、彼女の周りに流星が降り注ぐかのような光を幻視し、

 その口径からは到底考えられないような威力の弾丸が、ヒエロニムスの上半身を貫いた。

 

 直後、ヒエロニムスが金属音と人間の叫び声を掛け合わせたかのような唸り声をあげ、前のめりに崩れ落ちた。そしてそのまま完全に停止する。

 私は純粋に、その光景に驚愕していた。アビドスでカイザーと戦った小鳥遊ホシノのように強大な戦闘力を持つ生徒が戦略級の活躍を見せる姿を見たことが無いわけではない。しかしそれでも、通常の生徒一人が弾丸一発でここまでの威力を出しているのを見たのは初めてだった。

「……え? 今の私がやったの?」

 当の聖園ミカも呆然としている。彼女にとっても想定を遥かに超えた威力だったようだ。間近で見ていた白洲アズサは、聖園ミカとヒエロニムスを見比べて目を輝かせながら頷いた。

「間違いない、ミカ。今の、どうやってやったの?」

 

「ごめん、分かんない……あ、先生とラブちゃんは!?」

「そうだ、確か爆発をもろに受けてた……」

 私たちの事を思い出した二人が、駆け寄ってくる。衝撃はあったが痛みや外傷は無い。どうにか起き上がる。シッテムの箱はまだ少し熱を持っていたが、シャットダウンしているようだった。

「私は無事です。ラブさんが庇ってくれたのと、打ち所が良かったようです」

「……あの爆発で打ち所とかある? はぁ……何にしても、無事みたいで良かった。ラブちゃんは?」

「……うん、ラブも気絶はしているみたいだけど、大きな怪我はないみたい。とりあえず、大丈夫だと思う」

 起き上がった私を見て安堵の表情を浮かべた後、河駒風ラブの身体を確認していた白洲アズサがそう言った。

 先ほど起きた現象については聖園ミカ自身と共に後で確認する必要はあるだろうが、一旦の危機は乗り越えたようだ。

 

 そこに、数人が駆けてくる足音が聞こえる。先ほどの大音響を聞いて、誰かが近づいてきているようだ。




あけましておめでとうございます。
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