黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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救護の現場

 ティーパーティーに訪問した後、その足でアリウスの生徒達が保護されている病棟へと向かった。

 見舞という意味も無くはないが、その前に蒼森ミネと会うためだ。

 

「おや、先生。こんにちは、お久しぶりですね」

 入り口から入ると、偶然にも氷室セナと出くわした。補習授業部の顧問をしていた時に少しだけ顔を合わせて以来だ。

「こんにちは。トリニティに救援で行かれているとは聞いていましたが、まさかお会いできるとは」

「はい。私も驚いています」

 彼女は淡々とそう返事をする。彼女のパーソナリティについてはあまり詳細を知らないが、以前あったときはどういった様子だっただろうか。

 

「救護騎士団はどうですか? やり方が異なって困っていることなどはありませんか?

「いえ、特には。むしろ傷病者への手厚い看護やメンタルケアなど、見習うべきことは多くありますね」

 彼女はあまり感情を感じさせないトーンでそのまま話しながら、一つ思い当たることがあったように言葉を切る。

 

「何かありましたか?」

「いえ、ミサイルが落ちたという話を聞いたので、()()()()()が見られるのかと思ったのですが、結局一つも見られませんでした」

 そういえば、以前会った時もしも確か死体がどうこうという話をしたような気がする。

「……良いことではないですか?」

「……確かに。そうですね。良かったです」

「……」

 独特なペースに巻き込まれてしまいそうになるが、いつまでもここで話していても仕方ない。

「あっ、すみません。引き留めてしまって。先生はどうしてここに?」

「ミネさんと約束をしていまして、呼びつけたり学校に来てもらうのも悪いので、こちらに伺ったのです」

「ああ、ミネ団長が来客があると言っていましたね。ご案内します」

 用件を伝えると、氷室セナはそう言って。打ち合わせ室のような場所へ私を案内し、「少々お待ちください」と言って、どこかへと蒼森ミネを呼びに行った。

 

 暫くすると、少し慌てた様子で蒼森ミネが現れた。

「すみません、先生。お待たせしてしまい。何故かセナ部長が私を呼びに来たときは何事かと思いましたが、もう、来られる時間になっていたんですね。それにしても、受付を担当している子がいたはずなのですが……」

「いえ、お気になさらず。忙しい時にわざわざ訪問した私が悪いのですから。やはり、とても慌ただしくされているようですね」

 私の返事に、蒼森ミネが頷いた。

 

「そうですね。前の事件の時でさえ、一度にあれだけの救護対象が現れることは稀だったのですし、今回はそれ以上の人数です。救急医学部の方たちの手が無ければ、完全にパンクしていましたね。大変感謝しています」

「そうですか。先程、セナさんが救護騎士団の生徒たちの事を褒めていましたよ。メンタルケアや看護の質の高さについて」

「そうなのですか? 私たちにとっても助かっています。純粋に手が足りていなかったという点もそうですが、救急医学部の方たちの外科治療の効率の高さと的確さは素晴らしいものでした。そう言う意味でも、いい刺激になったと思います」

 蒼森ミネがそう言って微笑んだ。氷室セナもそうだったが、蒼森ミネもお互いに対して、負の感情は持っていないようだった。

「そうですか。それは良かったです。……アリウスの生徒たちの様子はどうですか?」

 

「前の時と似たような状況です。全体的に栄養失調の子が多く、今回の事件で受けたものではない怪我を抱えている子もたくさんいました。それ以上に、精神の救護が必要な子が多くいます。トリニティやゲヘナへの嫌悪が強く沁みついていて暴れる、という程度ならまだ可愛いもので……」

 蒼森ミネが目を伏せる。実際に診てきたその生徒たちを思い出しているのだろう。

 

「中には、自分自身の事を傷つけてしまうので常に傍に人をつける必要のある子や、『普通の食事 』がうまくとれずに点滴での栄養補給を余儀なくされている子もいます。逆に、元気な子は騎士団の子や救急医学部の方たちとお話ししたり、()()()()の時に保護した子達との再会を喜んだりしているんですが……」

 蒼森ミネがそれぞれの生徒を思い浮かべながら話しているのが伝わってくる。

「成程……。大変だとは思いますが、ミネさんも決して、無理はなさらないようお願いしますね。前にお会いした時よりも……やはり、少しお疲れのように見えます」

「お気遣いありがとうございます。大丈夫です、今こうして先生とお話して、想いを吐き出せただけでも気分転換になりました。どちらにしても私たちで根気強く時間をかけて取り組まなければならないことです。無理をして倒れたりしたら本末転倒だというのも分かっています」

 彼女はそう言って、小さく微笑んだ。

 

「どうしても人手が足りない場合は、シャーレへの相談もご検討ください。何らかの支援ができるかもしれません」

「はい。ありがとうございます。その言葉だけでも嬉しいです」

「社交辞令ではないので、本当に相談してくださいね。さて、せっかくここまで来たので、私はまたマイアさんのところに顔を出してこようかと思います。話すこともありますので」

「是非、会ってあげてください。ちょうど今、アズサさんたちがいらっしゃったので、まだそこにいると思いますよ」

 

 蒼森ミネに別れを告げ、立木マイアの病室へ向かう。話す内容というのは勿論、梯スバルのことだ。良い報告はできないが、約束した以上、経過の報告も必要だろう。

 

 ―

 

「どうですか、マイアちゃん!? ペロロ様の素晴らしさが分かりましたか?」

「は、はい! ぺ、ペロロ様最高!」

 立木マイアの病室に辿り着き、扉を開くと、そこには何やらプレゼンを行っている阿慈谷ヒフミがいた。白洲アズサはぬいぐるみを抱えて拍手をしており、立木マイアは感激した様子で叫んでいた。

 その様子は怪しげな宗教勧誘と哀れな洗脳の被害者にも見える。相手が本当に洗脳の被害者なので冗談でもないが。

 よく見ると、室内に妙なキャラクターが大量に並べられている。大きなキャスター付きのバッグがあるので、恐らく阿慈谷ヒフミが持ってきたのだろう。

「病院で悪質な勧誘活動はあまり褒められたものではないですよ、ヒフミさん」

 私が入ってきたことにもまだ気づいていないようなので、とりあえず一言苦言を呈す。

えっ!?  せ、先生? い、いつからそこにいたんですか!?」

「ひぃっ!?」

「む、先生。こんにちは」

 

 阿慈谷ヒフミがぎょっとした様子でこちらを見る。

 立木マイアは突然の私の言葉と阿慈谷ヒフミの大声に驚いて縮こまってしまった。

 白洲アズサはいつも通りだ。

 

「ヒフミさんがペロロ様最高と叫ばせているからあたりですが……」

「ご、誤解です!? 私はただモモフレとペロロ様の魅力を普通に解説してただけです」

「そうなんですか? アズサさん」

「大体あってるけど。熱の入り方は全然普通じゃなかったと思う」

 

 私の質問に白洲アズサは的確に返事をした。

「アズサちゃん!? あうぅ……、ひょっとして、ご迷惑でしたでしょうか……」

 阿慈谷ヒフミがしゅんと俯いた。悪気はないという点では彼女の行動は常に一貫している。迷惑に感じていたかどうかは……本人が一番詳しいだろう。

「まあ、冗談はさておき。こんにちは、マイアさん。お久しぶりです」

 

 こちらの様子をうかがっていた立木マイアに話しかける。用件は手短に終わらせてしまおう。

「は……はい! こんにちは、先生。あ、あの……」

「はい?」

「め、迷惑じゃなかったです。モモフレを知らないって私なんかのために、わざわざ色々持ってきてくれて、嬉しかった、です。ちょっと勢いに押されて叫んじゃいましたけど……」

 立木マイアのその言葉に、阿慈谷ヒフミの顔に明るさが戻る。

「ふむ……悪質な勧誘と言うのは勘違いだったようですね、申し訳ありません」

「いえっ、大丈夫です! えっと、押しが強かったのと絵面があんまりよくなかったのは確かだと思うので……」

 私が一応謝罪すると、阿慈谷ヒフミも反省点があったと、それに返した。

 

「マイア、スカルマンも可愛いぞ」

 白洲アズサが抱いていた人形を立木マイアに見せる。

「はいっ、みんなかわいいと思います!」

 立木マイアも笑顔で同意した。

 

「すみません、マイアさん。キャラクター談義を続けるのはとても良いかと思いますが、先にお伝えしたいことがあるので、良いですか? 梯スバルさんのことです」

 話を切ってしまうことになるが、私が余り長居しても彼女も居心地が悪いだろうと思い、本題に入る。

「は、はい……。も、もしかして見つかったんですか?」

 立木マイアは期待するような目を向けるが、当然、そうではない。

「いえ、その逆です。今回、多くのアリウスの生徒たちが保護されましたが、その中に梯スバルさんと思われる方はいませんでした。詳しい作戦内容を知っている方にも聞きましたが、彼女はあの日アリウスに残っていたようです」

「……そ、そうなんですね。……あ、あの、教えてくれてありがとうございます……」

 立木マイアはお礼を述べたが、残念そうな様子は隠せていなかった。

 

「少なくとも、まだアリウスにいるということは分かったので、今後も継続して探します。申し訳ありませんが、もう少しお待ちください」

「はい、ありがとうございます」

 それでも、彼女は私の言葉を信じた様子で、まっすぐに頷いた。

 

「さて、話の腰を折ってしまい、申し訳ありません。用件が済みましたので、私は失礼しようと思います」

 空気が少し重くなってしまったが、私には改善できそうもないので、撤収することにする。

「ヒフミさん、後はよろしくお願いします」

 あえてはっきりと、阿慈谷ヒフミにフォローを押し付けて外に出る。

 

「ええっ!? え、えっと、何が何だか分かりませんが! 先生が動いてくれているということは、きっと大丈夫だと思います!」

「うん。だから、今は楽しいことを考えよう、マイア。モモフレではどれが一番良かった?」

「え? えっと……このウェーブキャットさんでしょうか……」

 

 病室の外で少しだけ話を聞いていたが、何とかやってくれているようだ。

 私は心置きなく、次の場所へ向かうことにした。

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