黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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スクワッドとの面談① 秤アツコ

シャーレへと移送されてきたスクワッドのメンバーと面談を行うことになった。

 肉体的には他の生徒よりも健康、と判断された彼女たちには現在、シャーレの居住区の個室が与えられており、外部との通信方法と武装こそ奪われているものの、身体的拘束はされておらず、監視体制も外に警備員がいて脱走への備えは立てているが、そこまで厳しい物ではない。

 食事については今のところそれぞれの個室に届けられているが、ある程度の希望は出せるようになっている他、その他の娯楽、日用品に関しても要望を聞くようにしていた。

 

 それはただ要望をかなえるという目的だけではなく、彼女たちの精神状態などを推理する参考になれば、と思いそのような形にしている。

 

 最初に行うのは、既に面識もあり、会話も行ったことのある、秤アツコを選んだ。

 他のスクワッドメンバーに関する予備知識も可能であれば彼女から聞いておきたいという思いもあったのだ。

 

 面談場所として設定された居住区内の自習室で到着を待つ間に彼女について作成した資料を再確認する。

 秤アツコ、15歳。既知の情報としては、アリウスにおける最重要の生徒であり、ベアトリーチェにその身を利用されていた「ロイヤルブラッド」。

 

 ノックの音が聞こえ、扉が開く。

「失礼します。先生、秤アツコを連れてきました」

 秤アツコと、引率として連れてきた七度ユキノが入ってきた。

「ありがとうございます、ユキノさん。それと、おはようございます、アツコさん、ご協力ありがとうございます」

「うん、おはよう、先生」

 秤アツコがそう言って素直に席に着く。

 

「では、私はこれで」

 七度ユキノがそう言って退出しようとしたところ、秤アツコが引き留めた。

「あれ、行っちゃうの? ユキノちゃん」

「……私が聞いてはいけない話があるかもしれませんから」

 七度ユキノは改めてそういい、退室した。

 

「残念」

「……本題に入る前に、一つ良いですか? 気になっていたのですが、アツコさんとユキノさんはあの日が初対面なのですよね?」

「うん、そうだよ? どうして?」

 秤アツコは私の質問の意図が分からないようで、疑問が返ってくる。

 

「あの日合流した時点で、打ち解けていた……というより、アツコさんの方が彼女を信頼しているように見られたので」

「あー、えっと、何でだろう? 何となく、信用していい人だって気がして」

 秤アツコの返事は曖昧なものだったが、この件を掘り下げても仕方ないだろう。そろそろ彼女自身のことについて聞くべきだろう。

 

「そうですか、ありがとうございます。さて、アツコさん。こちらでの生活はどうですか? 何か」

「うーん……良くしてもらってると思う。ご飯がちゃんと食べれるし、お水はミネラルウォーターが飲み放題。柔らかい布団にテレビもあって……それに、お花まで持ってきてくれたし」

 彼女からの要望として、食事などについてはあまり無かったものの、その他の要望として「お花」と書かれていたのだ。まさか花束が欲しいわけではないだろうと思い、詳しい生徒に選んでもらい、観葉植物の栽培キットを差し入れとして手配したのだ。

「そうですか。逆に何か不満点はありますか?」

「うーん……強いて言うなら、皆と会えないことかな」

 強いて言うなら、と前置いたが、彼女はすぐにそれを述べた。やはりその点については気になっているのだろう。

「この面談が全員分終われば、食堂や休憩室などの共用スペースも利用いただけるようにする予定です。申し訳ありませんが、もう少し我慢していただけると」

「……良いの? 一応私も捕虜、っていうつもりでいたんだけど。少なくとも私たちスクワッドのメンバーは。だから、移送されたんだと思ってた」

 私の発言が意外だったようで、秤アツコが目を丸くする。

 

「捕虜というのは適切ではありません。そもそもアリウスとトリニティや、我々は戦争状態にある、と言う認識もありませんから。どちらかというと事件の『重要参考人』に過ぎません。よって、健康状態に問題もなく、精神的にも問題ないことが分かれば、自由に生活していただけると思います。ただ、安全性と言う意味ですぐに自由な外出、という風にはいきませんが」

 出来る限り彼女の立場を明確にするための説明を行う。秤アツコも頷いて

「分かった。ありがとう、先生」と礼を言った。

 

「他に生活で気になる点はありますか?」

「……うーん、そもそも、以前の、アリウスにいた頃の生活が、あまり満足できる部分がなかったからなぁ。スクワッドの皆や、他の子達と会えないことと、あとちょっと落ち着かないっていうのはあるけど、不満っていうほどじゃないよ」

 

「成程、わかりました。さて、次にお聞きしたいのは……そのアリウスにいた頃の話についてです。大丈夫ですか」

「……うん、何でも聞いて」

 秤アツコの素直な返事を聞き、間違いの無いよう先ほど確認した資料に改めて目を通す。

「まず、アツコさんも、他の方にもですが、救護騎士団で治療を受ける際、問診があったと思います。アンケートのような物にも回答していただいたはずですね」

「うん、あったね」

「その結果を分析しました。私は専門家ではないので、完全な物ではありませんが、アツコさんは、精神性に関して、最も正常に近い状態にある、という結果になりました。他の方は多かれ少なかれ洗脳の兆候が見られましたが、貴女はその中で、正常……言い換えると、常に冷静さを保ち、状況の分析ができていた。抑圧されていなかったとか、ストレスを感じていなかったという訳ではありませんが、それでも、言い方は悪いですが、正気を保っていた」

「……うん」

 秤アツコは私の発言に驚いた様子はなく、相槌を打った。

 

「ひとり冷静さを保ち、それでいてベアトリーチェの指示に従い、スクワッドのメンバーとして今回の襲撃に加わった。……そして、その先にあるものが、貴女の死であることも分かっていたのでは? もし聞けるのであれば、貴女の考えが知りたいのです」

 私の質問に、秤アツコは暫く考え込む。回答に拒否感があるという訳ではなく、ただ自分の中にある考えを、纏めているような様子だった。

 

 そして秤アツコは淡々と語り始めた。

「先生の言ってること、大体あっていると思う。私は別に、マダムの……ベアトリーチェの指示がが正しい物だなんて思っていなかったし、先生の言う通り、トリニティやゲヘナに対する憎しみは、あの人が洗脳のために植え付けているだけだってことも知っていた。ベアトリーチェも、私には隠すつもりが無かったんじゃないかな? でも、私にはアズサのように反抗することはしなかった。あの人は私が従順である限り、私の大切な人達を傷つけない、と私に思わせようとしていたから」

 そんなこと全然信じてなかったけどね、と秤アツコは笑った。そして話を続ける。

 

「今思えば、ベアトリーチェは私を正常な状態で自ら死を選ばせるという遊びをしていたのかも。事実、私にとってただ一日でも長くみんなと一緒にいられる選択を取り続けていたから。そしてその結果、あの日私はただ、勝ち馬に乗っただけ。作戦が成功しても失敗しても、そろそろあの人に従って得られる時間はほとんどないって分かっていたから。……大体、こんな感じかな」

「……思った以上の話ですね」

 やはり私は専門家ではないようだ。秤アツコはとても正常な精神とは言えない。強靭な精神力でもって今までベアトリーチェを騙していたということになる。力では及ばない状況をよく理解していて、反逆するタイミングを冷静に考えていたということだ。もしベアトリーチェの作戦がうまく行っていたとしても、このタイミングで彼女は反逆していたのではないだろうか、そんな気すらする。

 

「私も今、言葉にしてようやく自分のことが分かったかも。ありがと、先生」

 そう言って彼女は笑った。ベアトリーチェにとって最大の誤算は私の存在などではなく、秤アツコと白洲アズサ、二人の精神性によるものではないだろうか。

 

「……ありがとうございます。アツコさん自身についてお聞きしたいことは以上ですね」

「あれ? これだけでいいの?」

 私の言葉に、彼女は意外そうな顔をした。『これだけ』で済むような内容の質ではなかったが、確かに短いと思われるかもしれない。

「ええ。元々アツコさんが協力的であることは実際に会って分かっていたことですから」

「そっか。じゃあ、もうおしまい?」

「いえ、そんな協力的なアツコさんに、できれば他のスクワッドの方の話も聞ければと思いまして」

「あー……なるほどね。うん、いいよ。どんなことが聞きたいの? さすがに何でもは教えられないけど……」

 合点がいった顔で、秤アツコが頷いた。

 その後、私はこの後の面談に参考にしたい話をいくつか聞き秤アツコとの面談は終了になった。

 

 最後に、外で待機している七度ユキノを呼ぶ前に、秤アツコが口を開く。

「そういえば、さっき、ユキノちゃんのことを信用した理由が「何となく」だってお話したでしょ?」

「ええ、そうでしたね」

 それについては彼女の話を総合すると、信じたか信じていなかった、というよりはベアトリーチェを見限っていたことが理由ではないだろうか。私はそう考えていた。

「信用した理由は何となく、なんだけど、私がユキノちゃんを気に入った理由は、サッちゃんとちょっと似てたから、かも」

 

 そう言って、彼女は勝手に扉を開いた。

 

「お待たせ、ユキノちゃん」

「……アツコ。出る時は先生が私を呼んでから、と言っていたはずだが」

「そうだっけ? じゃあ、先生。また後でね」

 彼女はそう言って、私を一度振り返り、手を振る。

 

「ええ。また後で。ユキノさん、アツコさんをよろしくお願いいたします」

「……了解しました」

 七度ユキノは私にも分かるよう小さくため息をつき、扉を閉めた。

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