黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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スクワッドとの面談③ 戒野ミサキ

 戒野ミサキ。槌永ヒヨリと同じく実際に話したことの無い相手だ。

 彼女は槌永ヒヨリが確保された後、地上に残っていたFOX小隊の3名と地上で交戦。率いていた他のアリウス生徒と同様に確保された。

 

 そして彼女はシャーレへの移送に際し、救護騎士団の蒼森ミネから最も懸念を伝えられた人物でもあった。

 

「失礼します。先生、ミサキちゃんを連れてきました」

 今回、戒野ミサキを連れてきたのは、七度ユキノではなく、同じくFOX小隊の吉野ニコだった。

 彼女は保護されて以降自発的な行動を取ることがあまりない戒野ミサキの事を気にかけており、

 特に移送後は個室への出入りも積極的に行い、殆ど世話役になっていた。

 というより、そうしなければいけない程に戒野ミサキは危うい存在であったということでもある。

 

「ありがとうございます、ニコさん。ミサキさん、初めまして。そちらにおかけください」

「……」

 戒野ミサキは私の事を見はしたが返事をすることは無かった。しかし指示には従って、席に着いた。

「では、先生。何かあったら呼んでくださいね」

 吉野ニコはそう言って、退室した。室内には二人となる。

 

「さて、面談を始めますね。戒野ミサキさん。こちらでの生活はどうですか? 何か不満点やお困りのことはありますか?」

「……別に」

 

 先の二人と同様の質問を戒野ミサキに行うが、彼女からの返事は非常に素っ気ない物だった。聞いていた通りだ。

 彼女は肉体的にはかなり衰弱した状態で保護されていたことが分かっている。そして他のアリウス生にもみられる諦念感情と虚無感が一際大きく根付いている。という精神分析がされていた。生きる活力のようなものが希薄で、自傷行為の痕跡もあったという報告を受けている。

 要望の聞き取りにおいても特に何かを要望されることは無く、差し入れに関しては、白洲アズサからの聞き取りや吉野ニコによる裁量で行われていた。

 

「そうですか、不満が無いということであれば、何よりです。それでは、何か欲しい物や、したいことはありませんか?」

「……無い」

 再びシンプルな回答。しかし、そのまま質問を続ける。

 

「今までの食事で、これが美味しかったとか、また食べたいといったものはありましたか」

「……特には」

「個室は殺風景でしょう。何かインテリアなど欲しくはありませんか?」

「……別に、いらない」

「読書などはどうでしょう。雑誌を希望された方もいますが」

「……興味ない」

 

「成程、そうですか」

 予想通りの回答が連続するが、質問を続けていく。そうしていくとようやく

「ねえ……」

 戒野ミサキから、異なった反応があった。

 

「なんでしょう」

「こんなことをしても、何の意味も無いと思う」

 初めて彼女が自発的に発した言葉は、こちらの対応に対する、消極的な拒絶だった。

「そうですか? では、次の質問は……」

「意味ないって言ってるでしょ」

 次に彼女は、表情を変えた。今までは俯き視線を合わせず、無表情に近かったが、顔を顰めた、拒絶の反応を示したのだ。私の発言を遮ったのも初めてだ。

 

「では……どういう質問であれば建設的なものになるでしょうか」

「知らない……私は別に何も興味ないし、何かすることに意味があるとも思わない」

「……成程」

「先生も私なんかと関わっても仕方ないでしょ。……もし、私から何かしらの情報を引き出そうとしているのなら……それこそ無駄なこと」

 戒野ミサキは、この部屋に来て初めて自己主張を行った。ようやく会話が成立しそうだ。

 

「ふむ……ミサキさんは初対面の私の事を()()と呼ぶんですね」

「はあ?」

 私が彼女への回答として選んだ言葉に、彼女は怪訝な表情を浮かべた。

「ミサキさんから情報が得られない、と言われましたので、今私がミサキさんから得た情報をお話しました」

「な……そんな屁理屈みたいなことっ……別に、()()()も先生って呼んでたし、他の呼び方も聞いてなかったから、言っただけ」

 

 それが情報でないという理由にはならないと思うが、戒野ミサキは言い訳をするようにそう言った。

「そうですね、これは失礼しました。私のことは先生、あるいは黒服とでもお呼びください」

「黒服……?」

「ええ」

「……変な名前」

 

 自己を表現する名前を失って久しい私にとっては、この名前はそこそこ気に入っているが、変な名前と言うのもまた事実だろう。否定するつもりはない。さて、戒野ミサキは気づいていないかもしれないが、彼女と私は今会話が成立している状態になっている。

「さて、改めて自己紹介も済んだことですし、次の質問をしましょう」

「だから……」

「稲荷寿司は美味しかったですか?」

「……え?」

 

 再び私の質問を止めようとした戒野ミサキが固まる。何か思い当たることがあるという表情だ。

「それから、ニコさんが差し入れとして持って行っていた熊のぬいぐるみはアズサさんが選んだものです。お気に召したなら、アズサさんも喜ぶでしょう」

「……な、何で」

 更に思い当たる節があるだろうことを告げると、彼女は明確に動揺した。

「ニコさんから報告があったのです。普段最小限しか食事をとらないミサキさんが、彼女の作った稲荷寿司は完食してくれたと。ぬいぐるみについても吉野ニコさんからの情報ですね、気に入ったようだと」

「……違うから! 別に、気に入ったとかじゃないから」

 何かに気に入るという事は悪いことではないが、彼女はそれを否定した。彼女のこういった反応自体が、彼女が洗脳的思考に染まり切っている訳ではないことを示していた。少し、安堵する。

「そうですか?」

「そうだから」

 

「……分かりました。一応言っておきますが、美味しいものを食べてそれを気に入ることや、気に入った人形やぬいぐるみを愛でることは決して悪いことではありませんよ?」

「だから……え、愛で……な、なんでそこまでっ……見てたの?」

「見てた? 何をですか?」

「とぼけないで、せんせ……()()が愛でてたとか言って」

 先生ではなく黒服と言うことにしたらしい。これは反抗期のような態度というべきだろうか。それにしても、少し誤解をされているようだ。

 

「ふむ……成程。今私が言ったのは一般論なので、ミサキさんの様子を観察して言ったわけではありませんが、つまり、ミサキさんはあのぬいぐるみを愛でていたんですね?」

「…………してない」

「成程、分かりました」

 完全に語るに落ちた状態だったが、それを指摘してまた会話ができない状態になってしまっても困る。

「つまり、ミサキさんは、何も気に入っていないし、何も興味が無い。そして何もしたいことが無い、ということですね?」

「だから、そう言ってるでしょ」

 彼女は主張を変えるつもりはないようだ。

 別に私は、彼女の主張自体を否定するつもりはない。彼女に食の好みや可愛いものを愛でる趣味があることと、何にも興味が無いと主張し、虚無をうったえることは必ずしも彼女の中で、少なくとも指摘されるまでは矛盾していなかったのだろう。

 

 彼女が撤退が指示されている中で、錠前サオリを庇うように時間稼ぎに動いていたという情報もあったが、それをわざわざ指摘することも無いだろう。

「分かりました。では、この話はここまでにしましょう。何か思いついたら後からでも教えてください」

「……無駄だと思うけど」

 戒野ミサキは少々不貞腐れた様子を見せた。自分でもらしくない様子を見せたことが気に入らないのかもしれない。今は、それでも良いだろう。

 

「それでは、今後の話をしましょう。と言っても、そこまで決めることは多くはありません」

「……何の話?」

「この面談が……まだサオリさんが残っていますが……スクワッドの皆さんには、もしかすると何かをお願いする機会が出来るかもしれません。いつまでも個室に閉じ込めておくというのもナンセンスですからね。その時、ミサキさんにも協力をお願いするかもしれませんが、よろしいですか?」

 私の質問に、戒野ミサキは私の顔を見た。目的を図ろうとしいるのだろうか。

「それは……命令? それとも脅し?」

「どちらでもありません。気晴らしとでも思っていただければ結構ですし、嫌なら拒否していただくことは可能です」

「…………命令の方が、良かったけど。……まあ、リーダーがやるなら」

 最終的に、彼女はそう言って条件付きで同意した。

 

 その後、吉野ニコを呼び、槌永ヒヨリと秤アツコが待っている食堂へと連れて行ってもらう。

 最後は、スクワッドのリーダー、錠前サオリとの面談だ。

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