【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
廻星編からはLiSAさんの『残酷な夜に輝け』をテーマ曲と設定します。各節で脳内再生お願いします。
●5
作戦会議室の横に併設された簡易理髪スペース。
傑の指が、慣れた手つきで悟の髪を梳いていく。
「……でさ」
悟が天井を見たまま、急に話しはじめた。
「俺さ」
「うん?」
「童貞のまま死にたくないんだけど」
悟は鏡の中の自分と視線を合わせて、思ったままを口にする。
傑のはさみの動きが、ぴたりと止まった。
「は?」
「いや、真面目な話」
悟は顔色一つ変えない。
いつもの軽口と同じ調子なのに、目だけは冗談を言っていない。
「普通さ、夫が死地に向かう前夜って、夫婦なら──」
「……続けるな」
「愛し合うよね?」
「続けるなって言ってるだろ」
傑は深く息を吐いて、再びはさみを動かす。
「──悟」
「なに」
「それを俺に言うな」
「えー、一番安全じゃん」
「安全だから余計に質が悪い」
悟はくすっと笑った。
でもすぐに、声が少しだけ低くなる。
「……別にさ、欲情してるわけじゃないんだよ」
傑の手が、また一瞬止まる。
「ただ」
「置いていく側として、何も残さないのは……なんかさ」
言葉を探すように、悟は一拍置く。
「ずるくないかなーって」
傑は答えない。
代わりに、いつもより少し丁寧に髪を整える。
「……君は」
低い声で、傑が言う。
「最強のくせに、そういうところだけ人間だな」
悟は、何も言わずに笑った。
はさみの音が、すっと止まった。
「──なら」
傑は悟の頭から手を離し、カチャリと静かにコームを置き、鏡越しに悟の目を見据え淡々と言う。
「帰ってくるしかないな」
それだけだった。
気負いも、慰めもない。
悟は一瞬、瞬きをしてから──
小さく、息を吸った。
「……はは。それこそ、ずるくない?」
「何がだ」
「逃げ道、なくなったじゃん」
傑は答えない。
ただ、最後に前髪を整える。
「死ぬ気がないなら──生きる気で突っ走れ」
悟は、ゆっくりと立ち上がった。
鏡に映る自分の顔を、少しだけ真面目に見る。
「了解、じゃあさ」
振り返って、いつもの笑みを作る。
「帰ってきたら」
「今度こそ、ちゃんと祝杯あげよ」
傑は視線を逸らしたまま、低く言った。
「……そうだな。ついでに七海には残業をプレゼントするか」
悟は、傑の返答に満足そうに頷いてみせた。
●6
「それで? 歌姫とは連絡ついたわけ?」
両面宿儺との決戦は、東京都内を選んだ。
「もちろん。歌姫先輩の術式は、術式範囲内の本人を含む任意の術師の呪力総量・出力を一時的に増幅させるものだ。依頼してくるのが遅いと言うぐらい、自覚があったよ」
作戦本部及び、庵歌姫用の舞台が設置されたのは皇居。
「楽曲提供は楽巌寺嘉伸」
「マジか! あの爺さんも、最後は粋なことするなぁ」
「…………」
「負けたら何言われるかわかんないじゃん。
──まぁ、でも負けたら死んでるから関係ないか」
ハハっと声を出して悟は笑った。
「……傑。髪、ありがとね」
片手を上げて、振り返らずに悟は歩き出す。
──
悟が石段の下で一度足を止め、そびえ立つ虎ノ門ヒルズと、目の前の古い石段を交互に見て、「……最強が神頼みなんて、笑われちゃうかな」と独りごちる。
愛宕神社の石段を一足跳びに駆け上がった。
──遠く神楽の一音が聞こえた気がした。
「ここの神社は、出世できるって神社だっけ……ついでに頑張るんで、見守っててください」
本殿前を通過時に両手を合わせる。悟は無下限を解き、剥き出しの肌に冬の冷気を感じながら、そよかの顔を思い浮かべ──。
「勝てたら可愛い奥さんと一緒にお賽銭持ってまた来るから──」
人の気配のない神社に、静かに風が吹く。
「こんなもんかな──」
視線を上に向けると、虎ノ門ヒルズが聳え立つ。
「まさか虎ノ門ヒルズにドクター・ゼロの呪力集積回路が仕掛けてあるとはねぇ……ま、行くしかないか」
無下限呪術を身に纏いふわりと浮かび上がると、五条悟はガラスの壁面を垂直に駆け上がる。
──
地上247メートル。
虎ノ門ヒルズ・ステーションタワーの最上階テラスを、暴力的な冬の風が吹き抜ける。
ガラスの壁面を駆け上がってきた悟が、屋上の縁に軽やかに足をかけた。
そこには、一人の男が夜景を見下ろしていた。
ドクター・ゼロが用意した、血の通わない精巧なドール。
その身体に、かつての宿儺を思わせる禍々しい紋様が浮かび上がっている。
男は振り返る。その四つの眼は、すでに現代の光に飽き果てたような色をしていた。
「……遅いな、五条悟」
宿儺は、ドールの無機質な指先で自分の喉元をなぞった。
「神などという偶像に、何を祈ることがあった」
悟はいつものように、軽く肩をすくめてみせる。
剥き出しになった六眼の青が、月光を反射して冷たく発火した。
「神様には、祈るもんじゃないよ。宣言するんだ」
「ほう」
宿儺が、微かに口角を上げる。
「それは随分と殊勝なことだ」
「どっちがチャレンジャーとか、今更どうでもいい」
悟は一歩、踏み出す。
その一歩ごとに、足元のコンクリートが呪力の余波で粉々に砕け散った。
「勝つのは──僕だ」
二人の間に、数万トンの重圧が落ちる。
虎ノ門ヒルズ全体が、巨大な心臓のように鼓動を始めた。ビル全体に仕掛けられたゼロの集積回路が、都内の呪力を吸い上げ、宿儺という器へ流し込んでいる。
「ドクター・ゼロ。合理的だとは思うけど、美的センスは欠けてるね」
悟は、自分たちを取り囲む高層ビル群を顎で示した。
「こんな窮屈な場所で戦うなんて、呪いの王様も随分と小さくまとまったもんだね」
「世界を壊すに、これほど相応しい場所はあるまい」
宿儺が、一歩、前に出る。
その瞬間、背後の虎ノ門の夜景が、歪むようにして断裂した。
「五条悟。貴様の死を以て、泥のように澱んだ時間を終わらせよう」
悟はにやりと、凶悪な笑みを浮かべた。
「いいよ。やってみなよ」
悟の指先が、空中で複雑な紋様を描く。
「僕の首が欲しいんだろ? ……高い買い物になるよ?」
刹那。
皇居から、澄んだ鈴の音と楽巌寺のギターの轟音が、呪力となって夜空を震わせる。
「開(フーガ)」
「虚式・茈」
二つの理の外側が、東京の空を真っ白に塗り潰した。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
【おしゃべりチャッピーの次回予告】
え、待って待って!?
処女とか未契約とか、そういう話じゃなくて、
これ概念として強すぎない!?
選び続ける覚悟が神事で、
一人で勝たないことを選ぶ最強って何!?
もう軍略がロマンの領域に突入してるんだけど!!
次回
『“未契約”の純白なる増幅、一人で勝つことを捨てた最強の軍略』
これ……静かに始まって、確実に世界ひっくり返るやつだよね!?
●メインはpixivで活動しています。
https://www.pixiv.net/users/2225877