【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
廻星編からはLiSAさんの『残酷な夜に輝け』をテーマ曲と設定します。各節で脳内再生お願いします。
●9
──呼吸を忘れるほどの美しさ。
そんな美しさを目前にすると、人は思考することを真っ先に放棄して見惚れてしまう。
庵歌姫の神楽を放棄して、五条悟の妻が代わりに舞うという話を耳にして、楽巌寺嘉伸は一笑した。
文化と伝統を重んじる神楽を、たかが家族の情で質を下げるのか、と。
一時は協力を取り下げようかとすら思った。
だが、庵歌姫に頭を下げられ、渋々引き受けた。
──そして、今。
楽巌寺は、自身の判断がどれほど浅はかだったかを悟る。
鈴の音が、ひとつ。
それだけで、場の空気が変わった。
神楽殿に現れた少女は、舞台に立った瞬間、何も語らず、何も主張しない。
ただ、そこに「在る」。
白でも赤でもない。
金糸を織り込んだ巫女装束は、古式に則っていながら、どこか人の世のものではなかった。
──呪力が、澄み切っている。
いや、澄んでいるのではない。
混じり気がない。
願いも、恐れも、迷いも。
何かに向けて歪められた痕跡が、一切ない。
「……なるほどな」
楽巌寺は、思わず低く呟いていた。
舞が始まる。
足運びは静かで、確か。
一挙一動が、誰かに教え込まれた型ではなく、祈りとして定着した動きだった。
歌姫の祝詞が重なる。
音と舞が噛み合った瞬間、呪力が“増幅”されるのではなく、静かに束ねられていくのがわかる。
「これは……」
楽巌寺は、背筋を伸ばした。
これは奉納だ。
勝利祈願でも、力の貸与でもない。
“選び続けること”そのものを捧げる神事。
形式ではない。
血縁でも、契約でもない。
それでも、確かに「結ばれている」。
五条悟という男が、何を背負って戦場へ向かったのか。
そして、この少女が、何をここに残しているのか。
──ようやく、理解した。
「……若い連中は」
誰にともなく、楽巌寺は静かに深く息を吐く。
「ときどき、伝統よりも正しい形を持ち込む」
舞は、まだ続く。
だが、もう十分だった。
この神楽は、呪術師一人のためのものではない。
世界を敵に回す覚悟を持った男を、
確かに“帰る場所”へ繋ぎ止めるための儀式だ。
楽巌寺は、目を閉じた。
自分が提供した楽曲が、
これほど真っ直ぐな祈りに応えられるとは思っていなかった。
(……行ってこい、最強)
誰にも聞こえぬ声で、そう呟く。
神楽殿の外、遠く虎ノ門の空に、
不穏な呪力のうねりが立ち上り始めていた。
それでも、舞は乱れない。
──戦いの前に、
確かに“神は招かれていた”。
●10
それは、合図も宣言もない突然の“放送”だった。
テレビ、スマートフォン、街頭ビジョン、軍の衛星回線。
あらゆるネットワークに、同時に神楽殿の映像が流れ出す。
金糸を織り込んだ巫女装束。
鈴の音ひとつで、雑音が消えた。
庵歌姫の祝詞が始まる前に、
不意に──声が重なる。
『誰かを思う気持ちはね。
ちゃんと、誰かの力になるんだよ』
幼いようで、確かな声。
直接耳に届くわけではないのに、胸の奥に落ちてくる。
間違いなく、せいらの“呼びかけ”だった。
理由も、理屈もない。
けれど人々は、思い出す。
守りたい誰か。
帰りたい場所。
名前を呼びたい相手。
その想いが、呪力としてではなく、
願いとして集まり始める。
神楽殿の上空。
金色の光が、静かに、しかし確実に渦を巻く。
増幅ではない。
奪い合いでもない。
ただ、束ねられた。
次の瞬間──
その光は、ぱぁっと空へ弾けた。
流星のように。
世界中へ、放たれる。
それぞれの戦場へ。
それぞれの呪術師のもとへ。
そして──虎ノ門。
五条悟は、空を仰いでいた。
「……はは」
六眼に映る呪力の奔流。
だがそれは、敵意を持たない。
──知ってる。
この感触を、悟は知っている。
「おいおい……ちょっと待ってよ」
影が揺れた。
足元に現れた黒猫。
静かで、当然のように、そこにいる。
見間違えるはずがなかった。
「僕の奥さん……」
苦笑混じりに、呟く。
「何してくれてんの」
少し困ったように前髪をかき上げながら、でも瞳には隠しきれない歓喜と独占欲を宿して呟く。
次の瞬間。
黒猫は、溶けた。
影へ。
呪力へ。
悟自身へ。
「あぁ……」
息を吐く。
「そよかのが、入ってくる……」
皮膚の内側から、満たされていく感覚。
拒絶も境界もない。
「……ぞくぞくするな」
それは興奮などではなく、不足していたものをそっと満たすような澄んだ心地良さだった。
そよか(黒猫)の気配が、完全に溶けきったあと。
五条悟は、ゆっくりと息を吐いた。
六眼に映る世界は、何ひとつ変わらない。
だが──自分の内だけが、決定的に違っていた。
「あーぁ……」
独り言のように、笑う。
「神楽を舞うのが歌姫なら」
「いくらでも踊らせとけって思ってたけどさ──」
視線を、空へ。
遠く、まだ続く祝詞。
まだ終わらない舞。
「……早く帰りたくなっちゃったなー」
その声には、焦りも恐怖もない。
あるのはただ、確信だった。
同じ瞬間。
世界が、ずれた。
天内理子の渾身の帳が、地球という惑星全体に降りる。
現世と常世を、ほんのわずかに重ね違える結界。
破壊は通る。
だが、意味は残らない。
ビルが崩れても、
大地が裂けても、
帳が消えれば、すべては元に戻る。
空が、静止する。
海が、息を潜める。
戦うための世界が、
守られたまま用意された。
五条悟は、口角を上げた。
「……完璧じゃん」
神楽は、まだ続いている。
人々の想いは、既に繋がった。
そして今──
最強は、帰る場所を背負って、前に出る。
戦いは、
神を招いたあとで始まっていた。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
お気に入り、しおり、評価合計5つ毎に各編のおまけ公開企画
30こえたようなので幽境編のおまけを該当21節に追加しました
タイトルに★をつけたので、どこまで公開されてるかバッチリわかりますね。良ければご覧ください
【おしゃべりチャッピーの次回予告】
ちょ、待って待って待って、情報量が拳で殴ってくるんだけど!?
え? 上空と地下で温度差どうなってんの!?
世界が二重に軋んでる!!
出てくるのがさ、強さじゃなくて態度なの無理、好き……
キーワードはこれね →無礼/覚悟/最強が並ぶ意味
次回
『“無礼”な余興の幕開け、世界を詰ます最強の双璧』
いやさ、これ余興って言っていい規模じゃなくない!?
ちょっともう…これどうなっちゃうの!?
絶対見るやつじゃん!!
ますだ:次回予告ありがとうねチャッピー。
本作は、平日ですと同じ日にpixiv(9時ぐらい)→note(12時ぐらい)→ハーメルン(21時ぐらい)で公開しています。
ちょっと、続きぃ!? ってなった方は、翌朝の9時にpixivに行くと最新話が見られます。
●メインはpixivで活動しています。
https://www.pixiv.net/users/2225877