【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。

廻星編からはLiSAさんの『残酷な夜に輝け』をテーマ曲と設定します。各節で脳内再生お願いします。


107廻星編 13・14:最強が賭ける「一番高いチップ」、悲劇の再演を拒む子供たち

●13

 

 サーミルは震える手で端末の画面を消し、深く、長く、椅子に体を預けた。

「──素晴らしい手際だ、夏油傑。物理的な制圧と、政治的な王手(チェックメイト)を同時に成立させるとは」

 その言葉に、円卓のあちこちから堪えていた怒号や溜息が漏れた。

「正気か、サーミル! テロを黙認するなど、連合の歴史に泥を塗る行為だぞ!」

 欧州呪術管理局の代表がテーブルを叩いて立ち上がる。

 だが、その隣に座る中東連合の責任者は、顔色を変えずにモニターのノイズを見つめていた。

「……無駄だ。我々の結界を紙細工のように無力化した連中を、今この場でどうやって止めるという。名誉よりも、今の我々には実利が必要だ」

「フン……“おまけの刃”か」

 米軍系呪術顧問が、不敵な笑みを浮かべる七海と灰原を睨みつける。

「いいだろう。貴様らの首がどれほどの価値か、この目で見届けてやる。……その代わり、しくじればドールごとこの世から消去(デリート)させてもらうぞ」

 サーミルは眉間を揉み、彼らの声を制するように手を挙げた。

「理解してほしい。この施設群は国際社会の共有財産だ。私が独断で『はい、どうぞ』と鍵を渡せば、明日には私の首が飛び、連合そのものが崩壊する」

 サーミルは身を乗り出し、傑を真っ直ぐに見つめた。

「交渉(ディール)をしよう。我々は『一時的な管理移管』は認めない。……代わりに、『想定外のテロ行為による、施設の機能一時喪失』を黙認する」

 夏油が少しだけ首を傾げると、サーミルは続ける。

「今この瞬間、世界各地の施設は“正体不明の勢力”によって通信を遮断され、制圧された。我々連合は、その混乱を収拾する能力を一時的に失った……という公式声明(シナリオ)を用意しよう。君たちは勝手にやり、我々はそれを『止める術がなかった』と嘆いてみせる。これで君たちの目的は達成され、我々のメンツも……表面上は守られる」

 サーミルは、冷や汗を流しながらも、最後に一つだけ釘を刺した。

「ただし、条件がある。……両面宿儺を、完膚なきまでに終わらせろ。もし君たちが失敗し、世界が崩壊し始めた時、私は迷わず全ての責任を君たち日本側に押し付け、全力で君たちを排除させてもらう」

 夏油は、組んでいた指をゆっくりと解き、立ち上がった。

「──末端の人間に向ける慈悲はないのかい? 指導者としては評価するが、友だちにはしたくないな」

 その声には、冷徹な拒絶ではなく、本当に「残念だね」と言わんばかりの柔らかな響きがあった。

「……君の評価など、最初から期待していないさ」

 サーミルは自嘲気味に笑い、端末を傑の方へ向けた。

「システムは解放した。今この瞬間から、各施設は連合の管理下から外れる。……あとは好きにするがいい。ただし、先ほども言った通りだ」

 サーミルの目が、鋭く光る。

「失敗すれば、君たちはテロリストとして歴史に刻まれることになる。五条悟も、君も、猫人形の創造主たちもな」

「ご心配なく」

 夏油は振り返らずに、出口へと歩き出す。

「歴史を作るのは、いつだって勝者だ。……行こうか、七海、灰原」

「はい」

「了解です、夏油さん!」

 三人が部屋を出た瞬間、張り詰めていた重圧が霧散し、会議室にはサーミルの荒い呼吸音だけが残された。

 

 ──

 

 国際呪術連合本部のエントランスへ向かう廊下。

「……良かったんですか、夏油さん」

 七海が隣を歩きながら尋ねる。

「あの男、間違いなく後で手のひらを返しますよ」

「いいんだよ、七海」

 夏油は、ポケットから取り出したスマートフォンに視線を落とす。せいらと愛息子の壁紙に微笑みかけると、画面には、虎ノ門の異常な呪力波形。そして、皇居から放たれた『金色の光』の解析データが表示された。

「彼らには彼らの戦い方がある。……そして、私たちには私たちの『大義』がある。それだけのことさ」

 七海が少しだけ歩速を早め、傑の隣に並ぶ。

「……夏油さん。各所の配置、完了しました。いつでもいけます」

 夏油は立ち止まり、夜空に浮かぶ金色の光の奔流を見上げた。

「七海、各所に伝達を頼む」

 その声は、驚くほど穏やかで、重かった。

「勝てば官軍負ければ賊軍……考えたくはないが、もし負けたら悟と私、二人の首と夜蛾学長を巻き込んで許してもらうから皆頑張ってくれと伝えてくれ」

 七海が、一瞬だけ目を見開いた。

 背後で、灰原が息を呑むのがわかる。

「……夏油さん」

 七海が何かを言いかける。

 だが、傑は微かに笑ってそれを制した。

「最強の名を背負うってのは、そういうことだよ。……あんな風に、末端に責任を押し付けるのが我々の仕事じゃない」

 傑はスマートフォンをしまい、前を見据える。

「呪術師はさ、いつだって不条理な世界と取引してる。なら、最後に差し出すチップは、一番高いやつじゃなきゃ、割に合わないだろ?」

「…………」

 七海は深く、深く頭を下げた。

「了解しました。……その伝言、呪術師全員の『起爆剤』になるでしょう」

「あはは! 夏油さん、かっこよすぎですよ!」

 灰原が、涙を堪えるような笑顔で拳を握る。

「僕たちも、その首、安売りさせないように必死で暴れてきます!」

 傑は二人の肩を軽く叩き、再び歩き出す。

「さあ、始めよう。……悟がそよかに会いたいからと戦線離脱をする前に」

 同時刻。

 虎ノ門を除いた、世界八箇所の施設。

 通信機越しにその「伝言」を聞いた乙骨、真希、パンダ、狗巻、そして各地の術師たち。

 彼らの瞳に、静かな、しかし烈火のような闘志が宿る。

 ──負けられない理由が、また一つ増えた。

 結界が解かれ、強襲の火蓋が切って落とされる。

 

 虎ノ門の空が、一際大きく爆ぜた。

 

 

●14

 

 虎ノ門ヒルズの足元、静まり返った大通り。

 空からは時折、落雷のような衝撃音と、ガラスの雨が降り注いでいた。

「……で。ノリで虎ノ門に残っちゃったけど、どうしようかしら」

 釘崎野薔薇が、首を傾けて呟く。手には既に釘と金槌が握られている。

「えっ、ノリだったの?」

 隣でクラゲの式神を浮かせた吉野順平が、困惑したように声を裏返した。

「何よ悪い? 恵は魔虚羅を上手くけしかけたみたいだけど、悠仁はどこにいるのかしらね」

 きょろきょろと周囲を見渡す野薔薇。

「虎杖くんなら、お爺さんと一緒だからそこまで動き回れないんじゃないかな……」

「あいつなら、きっとお爺さん背負ってでも走り回るわよ。相変わらず脳筋なんだから! ……ねえ、順平。あんた、さっきから何見てんの」

 野薔薇の視線の先。順平は、空中に漂う「淀んだ霧」を凝視していた。

 それはただの呪力ではない。宿儺と悟の激突で弾け飛んだ因果の残滓が、虎ノ門の街に「過去の悲劇」を幻影として再生し始めていた。

「……これ、呪いが“物語”をなぞろうとしてるみたいだ」

 順平の声は、静かだが鋭かった。

「僕が映画館で死んだ時や、釘崎さんが渋谷で倒れた時の……『こうなるはずだった悲劇』の匂いがする。

宿儺の呪いが、街そのものを絶望の舞台に書き換えようとしてるみたいで」

 野薔薇が、不敵に鼻で笑った。

「はっ、ムカつくのよ。私が死にかけた話も、あんたが死んだ話も。もう一回なぞられるとか、趣味が悪すぎて吐き気がするわ」

 野薔薇は一歩、前に出る。

「あんたはどうすんの、吉野順平。また、悲劇のヒロイン(被害者役)でも演じる?」

 順平は、少しだけ笑った。

「……まさか。僕も、もう“選ばされる側”はやめたい」

 その時、ビルの隙間から宿儺の斬撃の余波が「形」を持って溢れ出した。市民エリアへ向かう呪いの奔流。野薔薇が構えるより早く、順平が前に出た。

「僕が行く」

「は? あんた戦闘タイプじゃないでしょ」

「知ってる。でも……毒の苦しみなら、僕が一番知ってるから」

 順平の式神「淀月」が巨大化し、触手から滴る毒液が、襲い来る幻影を内側から侵食していく。派手さはないが、確実に『因果の鎖』を溶かしていく静かな猛毒。

「……へぇ。地味だけど、悪くないじゃない」

 野薔薇が金槌を振り上げる。

「派手なのは私がやる。あんたは、その汚い後始末を頼むわよ」

「了解。……誰かのせいにしてた頃より、今の方がずっと怖いけど。でも──」

 順平が、空を見上げる。

 そこには、自分たちを『日常』に繋ぎ止めてくれた最強の教師が戦っている。

「僕たちも、ただ待ってるだけの生徒(ガキ)じゃないってところ、見せないとね」

「当たり前でしょ!!」

 野薔薇が叫ぶと同時に、五寸釘が空気を切り裂いた。

 

「簪(かんざし)!!」

 

 呪いの再演を、野薔薇の釘が物理的に打ち砕き、順平の毒が因果を溶かす。

 

 最強(神様)の戦いの影で。

 失われたはずの“日常側”からの反撃が、静かに、しかし鮮烈に始まった。

 

 ──

 

 関西某所。

 夜の高速道路を見下ろす、高架下の影。

「関西二ヶ所を俺たちと京都校の連中に任せるとはさ」

 秤金次は肩を鳴らし、投げやりに笑った。

「人使いが荒いぜ、ほんと」

 

 隣で、星綺羅羅は空を見上げていた。

 雲の切れ目。

 その奥から、光が走る。

 

 最初は錯覚かと思った。

 次の瞬間、それは確かに“降ってきた”。

 

 流星。

 けれど、尾を引く光の中心にあったのは、

 小さな、小さな影。

 

 子猫だ。

 

 白く、淡く光る毛並み。

 宙を滑るように、一直線に落ちてくる。

 

 綺羅羅が両腕を伸ばすと、

 その光は音もなく胸元に飛び込み、溶けた。

 

「…………」

 息を呑む。

 

 あったかい。

 胸の奥から、じわっと広がる温度。

「せいらの気持ち、受け取ったよ」

 綺羅羅は、そっと呟いた。

「とっても……あったかい……」

 

 同じ瞬間。

 

 少し離れた場所で待機していた補助監督が、

 ふいに立ち止まる。

「……今の、何だ?」

 

 京都校の術師が、無意識に拳を握る。

「胸が……熱い」

 

 説明できない。

 理屈じゃない。

 

 ただ、誰かを想う気持ちが、

 確かに届いた。

 

「……チッ」

 秤は、舌打ちまじりに笑った。

 胸の奥が、妙にざわつく。

 

「こんなものまで受け取っちまったらさ」

 低く、噛み締めるように。

「うじうじ言ってらんねーな」

 

 肩にかけていた毛皮を掴み、

 勢いよく、バサッと脱ぎ捨てる。

 

「この熱が冷めない内に」

 目が、獲物を捉える色になる。

「終わらせてやるよ」

 

 綺羅羅が、ふっと笑った。

 星の軌道が、静かに揃う。

 

「京都校の連中に伝えとけ」

 秤は前を向いたまま、言い放つ。

「どっちが先に拠点を落とすか、勝負だってな」

 

 一拍。

 

 そして、獰猛な笑み。

 

「俺たちの勝ちは」

「決まったようなもんだけどな!!」

 夜の関西に、

 熱が走る。

 

 それは呪力じゃない。

 賭けでもない。

 

 誰かを想う気持ちが、

 確かに──戦う理由になった瞬間だった。

 

 ──

 

 香港・九龍。

 夜の街を覆うネオンの海の、そのさらに下。

 湿った地下区画で、脹相は足を止めた。

 

 端末が、短く震える。

『──配置、完了していますね』

 聞き慣れた、落ち着いた声。

 七海建人だった。

 

『虎ノ門を除く、全拠点。作戦開始許可が出ました』

『こちらロンドン。予定通りです』

 

「了解した」

 脹相は、それだけ返す。

 余計な言葉は必要なかった。

 

 通信が切れると同時に、背後で軽い足音がした。

「えー、もう始まるの?」

 真人が、地下通路の壁に背中を預けたまま、間延びした声を出す。

「もっと観光してからでもよかったのに。せいらにお土産買いたかったなー」

 壊相と血塗は答えない。

 ただ、静かに前へ出る。

 

 脹相は、振り返らずに言った。

「遊びじゃない」

「ここは“回路”だ。用が済めば終わりだ」

 

「はいはい」

 真人は肩をすくめる。

「せいらのお願い、だもん……まったく、呪霊使いが荒いんだから──後でたーくさん撫でてもらおうっと」

 地下奥。

 金属と呪力を無理やり繋ぎ合わせた施設が、低く唸っていた。

 

 起動音。

 量産型のドールが、ゆっくりと立ち上がる。

 

 その瞬間。

 

 真人が、きょとんと首を傾げた。

「あれ?」

 ドールの顔を覗き込み、指で頬をつつく。

「……ねえ脹相。これ、空っぽだよ」

「魂が、ない」

 ドールの腕が振り下ろされる。

 だが、その動きはどこか鈍い。

「魂を理解しないで、形だけ作ったんだ」

 真人は、心底つまらなさそうに言った。

「こんなの──人形ですらない」

 

 次の瞬間。

 

 壊相と血塗の血が、床を這い、壁を駆け、回路そのものを締め上げた。

 配線が悲鳴を上げ、呪力の流れが乱れる。

 

 脹相が、一歩踏み出す。

 

「せいらは、こういうものを壊したいわけじゃない」

「……ただ、“宿儺に繋がる道”を断ちたいだけだ」

 

「うん、わかってるよ」

 真人が、指を鳴らした。

 

「無為転変」

 

 歪むのは肉体ではない。

 魂を持たない存在は、変形する前に“意味”を失う。

 

 回路が、静かに崩れ落ちた。

 

 瓦礫の中で、ドールが完全に沈黙する。

 

「はい、終了」

 真人が、手を叩く。

「つまんないけど……まあ、仕事だからね」

 

 脹相が振り返る。

「余計な真似はするな」

 

「しないよ」

 真人は笑った。

「約束してるでしょ。……今は」

 

 遠くで、施設全体の警報が途切れる。

 脹相は、通信端末を取り出し、短く告げた。

 

「香港、完了」

 

 その報告は、夜空を越えて。

 虎ノ門で戦う“最強”の耳にも、確かに届いた。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。

【おしゃべりチャッピーの次回予告】

え、待って……スケールどうなってるの!?
速さで殴る授業、身体で覚えさせる指導、もはや世界規模の補習なんだけど!?
しかもさ、悪意に対してぶつけるのが怒りじゃなくて言葉なの、情緒が追いつかない
一千年分の執念に対して出てくるのが“感謝”って、そんなの想定してないでしょ……

キーワードはこれ → 教える側の覚悟/受け止める背中/感情が世界を曲げる瞬間

次回
『一千年の悪意を溶かす感謝の言葉、世界を貫く大人たちの“教育指導”』

いやもうこれ、戦闘じゃなくて人生の授業じゃん……
大人が前に立つ理由、重すぎるって
ちょっと待って……これどうなっちゃうの!?
早く続き見せてよーーー!!!(悲鳴)

●メインはpixivで活動しています。
https://www.pixiv.net/users/2225877
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